2019.12.23

本当の「頭のよさ」は学力ではない。脳科学者・心理学者・教育者の答え

[PR] 編集部
本当の「頭のよさ」は学力ではない。脳科学者・心理学者・教育者の答え

私たちはよく、優秀な人に対してひとくくりに「頭がいい」と言います。頭の良さとは一般的にテストの点数がいい」「偏差値が高い学校に通っているといった、目に見えるかたちで表されることが多いのではないでしょうか。

しかし、本当の意味で「頭がいい」とは、学校の成績だけでは判断できないものなのです。今回は専門家の見解をもとに、頭がいい子ってどんな子?というテーマでお送りします。

知能が高くても“頭がいい”とは限らない!?

私たちが考える「頭の良さ」は、勉強ができる=テストの点数が高い=良い学校に通っている、というイメージに集約されがちです。でも近頃は、少し違った視点で『頭がいい子』『賢い子』を見極めている専門家や教育関係者も増えてきています。

脳科学者の西剛志先生もそのひとり。西先生は、“ただ知能が高い”ことを「頭がいい」としてもてはやすことに疑問を呈しています。その理由として、次のことが挙げられます。

  • 小さいうちからもてはやされ続けることで、本人が努力することを怠ってしまう
  • 先々のことを予測しすぎて、リスクをともなうチャレンジをしないいわゆる「安定志向」になってしまう
  • 相手が考えていることが聞く前からわかってしまったり、自分の考えを伝えても理解してもらえないだろう、などと考えたりすることで、人とコミュニケーションを取らなくなる

 
いくら学校の成績が良いからといって、それだけで子どもの将来が明るくなるわけではないのです。むしろ、知能の高さだけを誇っていても、その他の能力を伸ばす努力をしなければ意味がありません。

東北大学加齢医学研究所の瀧靖之教授は、「単に成績が良い子というのは、必ずどこかで限界がくる」と述べています。そういった子は、ある程度まで伸びても、そこから先は伸びにくくなる傾向があるそう。「知りたい」「学びたい」という気持ちがともなっていないため、試験が終わったとたんに無気力になってしまうこともあるといいます。

このように、知能の高さだけで「頭がいい」と判断することは、何よりも子ども自身を苦しめることにもつながるのです。では、本当の意味で「頭がいい子」「賢い子」とは、いったいどのような子なのでしょうか?

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専門家に聞く! 頭がいい子・賢い子ってどんな子?

「頭がいい子・賢い子ってどんな子?」という疑問に対して、脳科学者や心理学者、教育のプロである専門家の見解をご紹介します。

■知的好奇心が旺盛である

前出の瀧靖之教授は、「賢い子とは?」との問いに、自分から『知りたい』と思える知的好奇心が旺盛な子どもですと答えています。瀧教授によると、企業のトップや仕事ができる優秀な人は、たいてい好奇心旺盛で多趣味という共通点があるそう。反対に、何事にも無関心な人は、たとえ学力が高くて地位のある役職についていても、自分で考えたり創造したりする力に欠けていることがわかっています。

瀧教授は、好きなことに一生懸命取り組んだ子は、自分で自分の力を伸ばしていくことができると断言します。つまり、興味があることに対して努力とも思わず夢中になることができる子は、たとえ学校の成績に反映されなくても、いずれ必ず大きく成長できるのです。

■物事を論理的に考えることができる

文教大学教育学部教授で小児科専門医の成田奈緒子先生は、「親はつい学校の成績だけで頭の良し悪しを判断しがちですが、日々の生活の中で前頭葉が活性化されているかなど、脳の成長を確認することが大事です」と指摘しています。ある論文では、本当の頭の良さを「前頭葉をうまく使って、もっている知識を統合したり、何通りもの場合を考えたりして、漏れのない推論をつくり上げる論理的思考力」と定義していることから、成田先生は『論理的思考力』こそが真の頭の良さにつながっているといいます。

同様に『論理的思考力』の重要性を説くのは、東進ハイスクールの現代文講師として活躍し、論理的な国語術に関する著書を多く執筆している出口汪先生。出口先生は「現代は世界中のありとあらゆる情報から、自分が本当に必要なものを選び、その真偽を確かめ、将来起こる事態を予想し、その対処法を考える力が求められる」ことから、論理的に考える力が必要不可欠だと断言しています。

■自分で課題を見つける粘り強さがある

マニュアル重視の時代から、急速に「創造の時代」へと変貌を遂げた現代社会。これからは自分で課題を見つけて、独自の解決策を編み出さないといけないと強く主張するのは、『東大物理学者が教える「考える力」の鍛え方』(PHP研究所)の著者・上田正仁先生です。自分で課題を見つけるには、ひとつのことをじっくり考える力が必要。つまり、粘り強く考えることができる子が、これからの「賢い子」だといえるでしょう。

ほとんどの人は、人から与えられた課題をこなすことに終始します。それは、課題をもらうほうがラクだと考えているから。子どもたちの中にもそういうタイプは多く、上田先生いわく「自分で考えない回路」ができてしまっているそうです。「考える回路」を強くするには、知的に興奮する経験が欠かせません。そのためにも、たくさんの挑戦と失敗を繰り返して、自分で課題を発見できるようになりましょう。

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■物事を多面的にとらえる柔らかい思考をもっている

心理学博士の榎本博明先生は、「本当の頭のよさって?」と聞かれて、自分なりに思考し、物事を様々な角度からとらえることができ、認知能力、非認知能力ともに高いことですと答えています。

榎本先生によると、IQに代表される認知能力を高めるためには、認知的複雑性を高めることが大事だそう。認知的複雑性の低い子は、矛盾した情報を前にして混乱したり、考え方の違う相手に反発したりと、ものの見方が単純です。一方、認知的複雑性の高い子は、物事を多面的にとらえられるので、総合的な判断ができ、考え方の違う相手のことも理解できます。

さらに、EQと呼ばれる非認知能力の高さも求められるとのこと。非認知能力とは、粘る力や自分の感情をコントロールする力、また人の気持ちや立場に対する共感性などを指し、この能力は勉強ではなく遊びや人間関係を通して身につくといわれています。

■生きるために必要な力がしっかりと身についている

脳科学者の茂木健一郎先生は、学力よりも大切なのは『地頭力』だと述べています。茂木先生いわく、地頭力とはなにかに挑戦したり、問題を解決したり、変化に対応したりという、いわば生きるために必要な力だそう。私たちを取り巻く環境など、変化の激しい時代だからこそ、新しいことにチャレンジしたり、柔軟な発想で変化に対応する力が求められるというわけです。

また茂木先生は、地頭力を育てずして学力だけを育てようとするのは、かなりリスクの高い戦略だということは、さまざまなデータでも明らかになっているとも述べています。地頭力を身につけるには、早いに越したことはないのです。地頭力は、好きなものをとことん突き詰める場を与えたり、探求学習をさせたりと、日常生活でも充分鍛えることができるので、ぜひ取り入れていきたいですね。

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本当の「頭のよさ」ってなんだろう?

最後にご紹介するのは、明治大学教授の齋藤孝先生による『本当の「頭のよさ」ってなんだろう?』(誠文堂新光社)という一冊。この本では、一生使えるものの考え方を身につけて、“頭のよさ” を磨いていく方法を子どもたちに伝授しています。

『本当の「頭のよさ」ってなんだろう?』
齋藤孝 著/誠文堂新光社(2019)
本当の「頭のよさ」ってなんだろう?

齋藤先生はこの本の中で、どんなに勉強ができても、人としてやっていいことといけないことの判断がつかないのは、本質的なところで頭がよくないと述べています。さらに、子どもたちが学校を出てからの人生で求められる “頭のよさ” とは「社会的適応性」であり、現実社会の中でどう適応していくかが重要だとも説いています。

そのためには、自分で考えて表現できる力や、自分の現状を把握して先を読む力、断片的な知識をつなげて考える力など、「生きるために必要な力」を身につける必要があります。本書ではより詳しく、今求められている「本当の頭のよさ」について解説しているので、ぜひお子さんと一緒に読んでみましょう。きっとこれまで思い描いてきた「頭がいい子・賢い子」のイメージが大きく変わるはずですよ。

***
学校の成績はもちろん大事です。しかし、テストで高得点をとることばかりに気を取られ、本当に身につけなければならない力をおろそかにすると、いずれ子ども自身が自分の道を見失ってしまうかもしれません。目先の点数や評価ではなく、もっと先の長い人生を見据えて子どもたちと向き合っていけたらいいですね。

(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|家の中に生活感を! 子どもの「創造力」を伸ばすために親ができること
瀧靖之(2016),『「賢い子」に育てる究極のコツ』,文響社.
ベネッセ教育情報サイト|世界最先端の脳研究が解き明かした!「賢い子」の育て方とは?
洋泉社MOOK(2017),『子どもの脳を伸ばす 最高の勉強法』,洋泉社.
出口汪(2015),『子どもの頭がグンと良くなる! 国語の力』,水王舎.
洋泉社MOOK(2018),『これからの未来を生き抜く できる子の育て方』,洋泉社.
PHPファミリー|頭のいい子、性格のいい子の土台は家庭がつくる
齋藤孝(2019),『本当の「頭のよさ」ってなんだろう?』,誠文堂新光社.