「もういい!」「あっち行って、ママきらい!」
ほんのちょっとしたことで激しく泣き叫んだり、些細なことでパニックになったり。最近そんな場面が増えていませんか? 「なんでこんなに怒るの?」「このまま感情をコントロールできない子になってしまうのでは」と不安を感じている親も多いのではないでしょうか。
じつは、子どもが「怒りっぽい子」や「キレやすい子」である背景には、子どもの成長である反抗期とはまったく別の原因がある場合があります。それは、親が気づかないうちにしているある行動。対処法を間違えたまま放置してしまうと、引きこもりなどの要因にもなりかねません。この記事では、アドラー心理学の考え方をもとに、その原因と明日からできる具体的な対処法をご紹介します。
「怒りっぽい子」「キレやすい子」の心にある不足
みなさんが「困った行動」や「困った性格」と感じる子どもの怒り。しかし、カウンセリング心理学博士であり、アンガーマネジメントの専門家でもある早稲田大学教育学部教授の本田恵子氏によると、子どもの怒りやすい性格は生まれつきのものではないといいます。
アドラー心理学ではこうした行動を「不適切な行動」と呼んでいます。株式会社子育て支援代表取締役員であり日本アドラー心理学会正会員の熊野英一氏は、「子どもの怒りには必ず理由がある」と指摘します。じつは、子どもの怒りの裏側には、「○○をもっとしてほしい」や「もっと注目されたい」という満たされない気持ちや不足が隠れているのです。その主な要因を以下にまとめました。
- 「もっと認めてほしい」「ほめられたい」
「できた!」「すごいね!」といった認めてもらえる体験が少ないと、子どもは怒りという形で注目を集めようとします。叱られてでも関心を向けてもらう方が、完全に無視されるよりもマシだと感じるのです。 - 「もっと安心したい」「もっと見てほしい」
「この人は味方」「ぼくは愛されている」という安心感が不足すると、子どもは不安を感じやすくなります。忙しい毎日のなかで、ゆっくり話す時間やスキンシップが減ると、その不安が怒りとなって表れます。 - 「もっと聞いてほしい」「自分のことをわかってほしい」
子どもの気持ちを十分に聞かないまま大人の価値観を押しつけると、子どもは「わかってもらえない」と感じ、怒りという形でしか自己表現できなくなってしまいます。
このように、子どもの怒りは「誰かに気持ちをわかってほしい」「自分の存在を認めてほしい」という切実な願いや満たされていない気持ちの表れなのです。
これらの不足が満たされないまま時間が過ぎると、子どもの行動は段階的にエスカレートしていきます。アドラー心理学では、子どもの「不適切な行動」には5段階あるといいます。
最初は「褒めてほしい」という純粋な願いだったものが「注目を集めたい」→「親に勝ちたい」と変化します。さらに適切な対応ができないと、最終的には「仕返ししたい」→「失望させたい」という深刻な段階にまで進み、その結果、ひきこもりなどの要因にもなるということです。
知らず知らずの悪循環:親の対応が怒りを助長するとき
子どもの怒りが激しくなる背景には、私たち親の対応も影響している場合があります。特に以下のような関わり方は、子どもの不安な気持ちを強めてしまう可能性があります。
- 感情を否定する言葉がけ
「そんなことで怒るの?」「もう泣かないの」という言葉は、子どもの気持ちを否定することになります。すると子どもは「自分の気持ちは受け入れてもらえない」と感じ、かえって感情的になりやすくなってしまいます。 - たくさんの「ダメ」が重なる
毎日の生活のなかで、つい「ダメ!」「こうしなさい」という言葉を繰り返していませんか? 子どもは自分の考えや行動が認められていないと感じ、反発心が強くなってしまいます。 - 親も感情的になってしまう
忙しい毎日のなかで、親も知らず知らずのうちに感情的になってしまいがちです。親が焦ったり怒ったりすると、子どもも同じように感情的になってしまいます。
前述の熊野氏は、親が子どもに対してイライラや怒りを感じるのは当然のことだと説明します。じつは、私たち親が感じる「イライラ」や「怒り」は、「心配」「不安」「悲しみ」といった本来の感情が高じた結果なのです。子どもへの深い愛情があるからこそ、これらの感情も強くなってしまうのです。
だからこそ、これらの感情との向き合い方を知り、適切な対応方法を身につけることが大切になります。では、具体的にどう対応すればいいのでしょうか。
アドラー式「怒りをほどく」3つの具体的な関わり方
では、これらの理解を踏まえて、具体的な対応方法を見ていきましょう。完璧を目指す必要はありません。以下の3つのポイントを意識して、できるところから少しずつ始めてみましょう。
1. まずは気持ちを受け止める
「そんなことで怒るの?」と否定するのではなく、「そんなに嫌だったんだね」「悔しかったんだね」と、まずは子どもの気持ちを受け止めましょう。
「ここで重要なのは、共感することと同意することは違うということです」と熊野氏は言います。たとえば友だちを叩いてしまった場合、その行動を認めるわけではありませんが、その裏にある気持ちには共感することができます。このように、行動と気持ちを分けて考えることで、子どもは「自分の気持ちをわかってもらえた」と感じ、少しずつ落ち着きを取り戻していけます。
2. 「ダメ」を減らし、子どもの願いを探る
子どもが怒りを見せるとき、その行動の裏には必ず伝えたいことがあります。「どうしてほしかったの?」「何があったの?」と、穏やかに尋ねてみると、子どもの本当の願いが見えてきます。「特に大切なのは、子どもの『やりたい』という気持ちを最初から否定しないこと」と熊野氏は指摘します。
たとえば、なかなか子どもがお絵かきを終えられなくても「もうおしまい!」と言う代わりに、「あと何を描きたいの?」と尋ねてみる。スマートフォンを触りたがる子どもに「ダメ!」と言う前に、「何を見たいの?」と興味を聞いてみる。このように子どもの願いに耳を傾けることで、対立ではなく、一緒に解決策を考えられるようになります。
3. 親自身の気持ちを整える
子育てのなかで、親が感情的になってしまうのは自然なことです。熊野氏は「完璧な親はいません。大切なのは、自分の感情に早めに気づき、コントロールする方法をもっていること」と説明します。
子どもに感情的になってしまった場合は、落ち着いてから「さっきはママ(パパ)の態度が強すぎたね」と素直に認めることも大切です。こうした親の姿勢は、子どもにとって感情との付き合い方を学ぶ大切なモデルにもなります。前述の本田氏も「特に3歳くらいになって感情が出そろってくると、子どもは親の感情や行動をまねしていく」と指摘しています。まずは、親自身が感情をコントロールする術を身につけていきましょう。
***
子どもの怒りっぽい態度に心を痛める親は少なくありません。でも、その怒りの裏側には、必ず子どもなりの伝えたい気持ちが隠れています。子どもの感情表現を「困った行動」として否定するのではなく、子どもからのメッセージとして受け止め、適切な対応を心がけることで、必ず改善の糸口は見つかるはずです。
(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「○○ファースト」がポイント! アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもが「キレやすい」人間に育ってしまう、“絶対にNG”な親の振る舞い方
弁護士法人山崎和代法律事務所|不適切な行動の5段階