これからの時代に求められるのは、単なる知識の記憶ではなく、自ら問いを立て、探求し、創造する力です。そして、その原点となるのが「好奇心」。新しいことに出会ったとき、「おもしろそう!」と心が動く感覚が、すべての学びの出発点になります。
本記事では、「子どもの好奇心」がなぜ重要なのか、そしてその好奇心をどう育んでいけばよいのかを、教育イノベーターの本山勝寛氏を始めとする6名の専門家の声を交えながらご紹介します。
子どもの可能性を開くヒントとして、ご家庭での日々の関わりに役立ててくださいね。
目次
子どもにとって「好奇心」が必要な理由とは?
「好奇心」は、非認知能力のなかでもとりわけ重要な要素とされています。AI時代を生き抜くこれからの子どもたちには、答えを覚える力以上に「問いを立てる力」が求められるようになってきました。つまり、なにかに興味をもち、自ら深掘りしていく姿勢こそが、生きる力につながるのです。
教育イノベーターの本山勝寛氏は、「好奇心こそが、自分で学び、行動し、創造する“最初の一歩”」と語ります。さらに、探求型学習の重要性を説く宝槻泰伸氏も、「好奇心がなければ、学びも探求も始まらない」と指摘します。
好奇心は、単なる「好き」という感情ではありません。それは、世界を自らの手で切り開くためのエネルギー。だからこそ、いまあらためてその価値が見直されているのです。
好奇心がある子・ない子の決定的違いとは?
「なんで?」「やってみたい!」が口癖の子がいる一方で、「つまらない」「どうせムリ」とすぐに諦めてしまう子もいます。この差は一体どこから生まれるのでしょうか?
好奇心旺盛な子の特徴
- 質問が多い:「どうして?」「なんで?」を連発する
- 失敗を恐れない:うまくいかなくても「次はこうしてみよう」と前向き
- 集中力が持続する:好きなことには何時間でも没頭できる
- 新しいことに積極的:未知の体験を「おもしろそう!」と捉える
好奇心が低い子の特徴
- 「どうせムリ」が口癖:挑戦する前から諦めがち
- 新しいことを避ける:慣れ親しんだものばかり選ぶ
- すぐに飽きる:興味が長続きしない
- 質問をしない:疑問をもっても声に出さない
この差を生む決定的要因
最大の違いは「失敗への捉え方」と「親の反応」です。好奇心旺盛な子の親は、子どもの「やってみたい」を受け入れ、失敗しても「よく挑戦したね」と認めます。一方、好奇心が低い子は「失敗=ダメなこと」と学習し、挑戦そのものを避けるようになってしまうのです。
つまり、好奇心は生まれつきの才能ではなく、日々の関わり方で育てられる力。以下の6つの方法で、どの子も好奇心旺盛に変わっていけるのです。
子どもの好奇心を伸ばす6つの方法
1. 子どもの好奇心を伸ばすなら、「親が楽しむこと」が最重要【本山勝寛氏】
子どもは本来、好奇心のかたまりです。しかし、成長とともに「やってみたい!」という気持ちが薄れてしまうこともあります。その背景には、大人の関わり方が影響していることもあるかもしれません。
本山氏は、「好奇心は、自分で学び、行動し、創造していくための原動力」と話します。これからの時代に必要とされるのは、自ら問いをもち、自分の手で未来を切り開いていく力。その第一歩にあるのが、好奇心なのです。
子どもの好奇心を伸ばすために大切なのは、親自身がさまざまなことに興味をもち、それを楽しむ姿勢を見せること。たとえば、子どもが昆虫に夢中なら、一緒に図鑑を見たり、虫探しに出かけたりするだけで、探究心はどんどん引き出されていきます。
反対に、大人が興味を示さなかったり、否定的な態度だったりすると、子どもは自分の「好きな気持ち」に自信がもてなくなり、手放してしまうことも。だからこそ、まずは親が楽しむ姿を見せることが、好奇心の土台づくりには欠かせません。
【好奇心の伸ばし方】
- 一緒に博物館や図書館に出かけて、新しいことにワクワクする体験を共有する
- 親が普段から「なんでだろう?」「おもしろいね」と好奇心を言葉にする習慣をつける
- 子どもが「やってみたい!」と言ったことには、まず「いいね!」と応援の姿勢で応じる

2. 「子どもが夢中になれる」&「親が応援したくなる」が重なる体験をつくる【宝槻泰伸氏】
「どうして勉強してくれないの?」「もっと興味をもって取り組んでくれたらいいのに……」そんな悩みをもったことはありませんか?
子どもが何かに夢中になるには、「楽しい!」という感情が必要不可欠です。「探究学舎」代表の宝槻泰伸氏は、「好奇心がなければ、探究のスタートラインにすら立てない」と語ります。大人はどうしても “将来役に立つこと” に目を向けがちですが、子どもが本気になるのは「おもしろそう」と心が動いたときです。
そこで宝槻氏がすすめるのが、「ノンフィクションの世界」です。実在の人物や出来事に触れることで、リアルな驚きや感動が生まれます。宇宙の成り立ちや恐竜の進化、歴史の人物のエピソードなどは、子どもにとって学びのきっかけになるでしょう。
大切なのは、「子どもが夢中になれること」と「親が応援したくなること」が重なる体験をつくること。その交差点にこそ、学びの芽が自然と育っていくのです。
【好奇心の伸ばし方】
- 新しい体験(工場見学、動物とのふれあい体験など)を家族で計画する
- 「楽しい」と「ためになる」が両立するノンフィクション絵本や図鑑をリビングに置く
- 子どもが熱中している遊びや話題を、親も一緒になって楽しむ

3. 子どもの「どうして?」には “わざと間違える” 【田中博史氏】
「どうして空は青いの?」「雨ってどうして降るの?」など、子どもの何気ない質問に、思わず戸惑ってしまったことはありませんか? でも、完璧な答えを用意する必要はありません。
元・筑波大学附属小学校副校長の田中博氏は、「子どもの好奇心を伸ばすには、“問い” を大切にすることが何より大切」だと話します。たとえば、子どもから「どうして?」と聞かれたとき、「そんなこと考えたこともなかったよ!」と返すだけでも、「僕ってすごい発見をしたんだ」と子どもは自信をもてるのです。
さらに、親があえて間違った答えを言ってみるのもひとつの方法。子どもが「違うよ! 本当はね……」と説明するなかで、知的好奇心が自然と刺激されていきます。
大人が “教える側” になろうとせず、一緒に考える立場でいること。それが、子どもにの「もっと知りたい!」という気持ちを引き出す最高のサポートになります。
【好奇心の伸ばし方】
- 「どうして?」と聞かれたら、すぐ答えずに「一緒に考えようか」と返すようにする
- 日常会話のなかに、「なんでそうなると思う?」といった問いかけを自然に取り入れる
- わざと間違って説明してみせて、子どもが「違うよ!」と訂正する機会をつくる
4. 子どもの「好き!」に寄り添って、好奇心と学びをつなぐ【柳沢幸雄氏】
子どもの興味は、一見すると「勉強」とは無関係に思えることもあるでしょう。ですが、その “好き” を深めていく過程で、学びの芽は確実に育っているのです。
北鎌倉女子学園学園長の柳沢幸雄氏は、「子どもは本来、好奇心のかたまり。そこに丁寧に寄り添えば、自然と学力にもつながっていく」と語ります。たとえば昆虫が好きの子どもが、図鑑を調べたり観察日記をつけたりするなかで、読み書きや科学的な考え方が身についていきます。
大事なのは、子どもの関心に合わせて “ちょっとだけ” 勉強の要素をつなげてあげること。「この虫の名前って、どう書くのかな?」と問いかけるだけでも、好奇心と学びをつなぐ橋になるのです。
無理に「勉強しなさい」と言わなくても、子どもは自分の好奇心を原動力に、どんどん知識を吸収していきます。そのためにも、まずは親が「この子はどんなことにワクワクしているんだろう?」と気づく視点をもち続けたいですね。
【好奇心の伸ばし方】
- 子どもが好きなテーマ(恐竜、宇宙、虫など)に関連する学びのイベントに参加する
- 興味をもったことを深掘りできるように、自由研究やミニ発表を家庭で取り入れる
- 勉強への興味につなげるために、好きなものを題材にしたドリルやワークを活用する
5. 子どもの「ワクワク」&「遊びながら学ぶ体験」を大切に!【米村でんじろう氏】
「理科ってむずかしそう」「化学なんてチンプンカンプン」――そんな思いをもつ大人も少なくありません。でもじつは、そんな理科や科学の世界こそ、子どもの好奇心が大きく育つフィールドでもあるのです。
サイエンスプロデューサーの米村でんじろう氏は、「難しい原理がわからなくても、“楽しい体験” があれば好奇心は育つ」と強調します。たとえば、風船を使った実験や家庭でできる科学遊びなど、身近な素材で十分ワクワクを引き出せます。
こうした「遊びながら学ぶ」体験を重ねてくと、子どもは未知のものにも前向きに取り組めるようになります。逆に、興味をもたないまま大人になると、新しい技術や変化に対して拒否感が強くなりがちに。だからこそ、小さいうちに “楽しい科学” に出会うことは、未来への大きな財産になるのです。
理科や化学を「教える」のではなく「一緒に楽しむ」姿勢が、子どもの好奇心の芽を大きく育てるカギになるでしょう。
【好奇心の伸ばし方】
- 科学館や体験型の展示に出かけて、触って動かせる体験を楽しむ
- 理科や科学のテレビ番組を親子で観て、「これどうなってるの?」と話し合う
- お風呂やキッチンでできる簡単な科学遊び(重曹×酢の反応など)を一緒に試してみる
6. 集中力がない子ほど好奇心が眠っている【宍戸洲美氏】
「うちの子、集中力がなくて……」と悩む保護者の方は多いでしょう。でも、それは “好奇心を発揮できる場” にまだ出会っていないだけかもしれません。
養護教諭として長年子どもたちと向き合ってきた宍戸洲美氏は、「子どもは、好きなことに出会えたら、何時間でも集中できる」と語ります。ところが、大人が遊びをコントロールしたり、禁止事項が多すぎたりすると、子どもは「自分は何を好きなのか」がわからなくなってしまうこともあるのだそうです。
大切なのは、子どもが夢中になれるものに没頭できる時間と空間を保障すること。そして、それを「ただの遊び」と軽視せず、「この子の世界が広がっている時間」として見守る姿勢です。
こうした “遊びに集中した経験” は、やがて勉強への集中力にもつながっていきます。いまは「好き」に寄り添い、好奇心を育む時期だととらえることで、子どもとの関わり方も自然と変わっていくはずです。
【好奇心の伸ばし方】
- 子どもが「やってみたい」と感じる遊びや体験を、時間を気にせずとことんやらせてみる
- 子どもが夢中になっているときは口を出さず、じっと見守る
- 家のなかに「ダメ!」を減らして、自由に選べる時間や空間を用意する
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「好奇心」は、子どもが未来を切り拓くためのカギです。知識を詰め込むより、「なんでだろう?」「やってみたい!」という気持ちを大切にすることで、子どもは自ら学び、成長していきます。親が寄り添い、一緒に楽しむ姿勢をもつことで、子どもの好奇心はどこまでも広がっていくでしょう。まずは日常のなかで、子どもの「好き」に耳を傾けるところから始めてみませんか? その一歩が、未来へと続く学びの扉を開きます。
文/野口燈
(参考)
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