教育を考える 2025.3.16

【決定版】子どものレジリエンス育成法|6人の専門家が教える “折れない心” の育て方

編集部
【決定版】子どものレジリエンス育成法|6人の専門家が教える “折れない心” の育て方

最近よく耳にする「レジリエンス」と言う言葉。

まさにいまの時代に求められる「折れにくい心」「回復力」などを意味し、子どもの将来において備えておきたい重要な力として注目されています。その重要性については専門家によって見解が異なり、解釈も人それぞれですが、いずれにせよ身につけておいて損はありません。

「臆病なのは性格だからしょうがない」「繊細すぎるのは悪いことではない」と子どもが自分で立ち直る力を軽視してしまうと、社会に出てから厳しい現実に直面したときに、子ども自身が困ることになりかねません。

本記事では、玉川大学教授・大豆生田啓友氏や白梅学園大学教授の増田修治氏など6名の専門家が語る「レジリエンスの育て方」をまとめました。ぜひ最後までご覧ください。

レジリエンスとは?

そもそも「レジリエンス」とは具体的に何を指すのでしょうか。一般的には「回復力」や「復元力」など、失敗したり落ち込んだりしたときに発揮する力を意味し、大まかな定義として「精神的なしなやかさ」や「折れない心」などが当てはまります。

とはいえ、「わが子のレジリエンスを鍛えなければ!」と気合いを入れて身につけさせるのは、逆にプレッシャーになってしまいます。レジリエンスはむしろ、日常生活のちょっとした心がけで十分に育まれるものなのです。

「レジリエンスが発揮されるのは、何かで失敗したときなどストレスを感じたとき」と述べるのは、日本ストレスマネジメント学会事務局長の小関俊祐氏。小関氏は、「レジリエンスとは『絶対に負けないぞ!』というイメージではなく、『よーし、負けないぞ!』というイメージ」であり、むしろ「別に負けてもいい」くらいの心持ちで十分だと話します。

つまり、子どもが何かに失敗してストレスを受けたとき、真正面からぶつかってストレスを蹴散らすことだけが対処法ではないということ。そのストレスを発散する手段さえ身につけられていればOKなのです。

たとえば、友だちを誘って遊びに行く、親に話を聞いてもらう、大好きなお菓子を食べる……など、自分なりにストレスと付き合うことができる力が、レジリエンスです。

子どものレジリエンスを育む02

子供の防犯対策どうしてる? 防犯ブザーやGPSの使い方を詳しく解説!
PR

レジリエンスを身につける機会が失われつつある現代社会

現在、レジリエンスが注目されている理由として、TOKYO PLAY代表理事の嶋村仁志氏は、子どもたちの「遊ぶ機会」や「遊ぶ時間」が激減したからだと考えています。レジリエンスは、多様な遊びのなかで勝手に身についていく力。ですから、遊ぶ機会が激減した結果、身につけるきっかけが失われてしまった――ということなのです。

多様な遊びと同様に、自分が夢中になれることを見つけて思い切り楽しむという経験も、レジリエンスを育むことにつながります。「やりたいことを目いっぱいやって、結果失敗したとしても、やりたいことなら子どもはあきらめずに再び立ち上がって挑戦する」と嶋村氏が指摘するように、好きなことに思い切り取り組める環境こそが、挑戦力と回復力の両方を伸ばすのです。

このように、レジリエンスというのは決して特別な能力ではなく、日常生活で楽しみながら身につけられるもの。次項では、子どものレジリエンスを育むために親ができることについて、各専門家の意見をまとめています。

子どものレジリエンスを育む03

「好き!」がレジリエンスを育む。多様な体験が重要【大豆生田啓友氏】

玉川大学教育学部教授の大豆生田啓友(オオマメウダ ヒロトモ)氏は、レジリエンスを含む非認知能力を伸ばすために重要なのは「主体性」である、と述べています。

たとえば、大好きなアーティストのコンサートチケットを手に入れるためなら、多少の困難があっても必死で頑張ることができ、それは決して苦ではありませんよね。これも一種の「レジリエンスを発揮している状態」です。

つまり、自分の好きなものや夢中になれることを主体的に見つけ、それに取り組む過程でぶつかる困難に対しては、人は自然とレジリエンスを発揮できるのです。

大豆生田氏によると、レジリエンスは「普段の遊びやあたりまえの子育てのなかで勝手に育つもの」であり、遊びを通じてレジリエンスを含む非認知能力がぐんぐん伸びていくものだそうです。豊かな自然のなかでたくさん遊び、異年齢の子どもたちや異世代の大人たちと触れ合う機会のなかで、困難を乗り越えるために必要な意思力や忍耐力、やり抜く力を獲得することができます。

親がいまできることは、前述したような多様な経験ができる機会を与えること。また、友だち関係のトラブルを子ども自身で解決できるように見守るなど、あまり手や口を出しすぎないことも大切です。

【レジリエンスの伸ばし方】

  • 好きなことや夢中になれることが見つかるようにサポートする
  • いろいろな場所に連れて行き、多様な経験を積み重ねられる環境を与える
  • 友だち関係に介入しすぎない

もっと詳しく!
非認知能力は育っているか? 子どもが「目をキラキラさせる世界」があれば安心です

子どものレジリエンスを育む04

親のほめ方・叱り方がレジリエンスを左右する【浦谷裕樹氏】

子どもをほめるときや叱るときにも、少しの心がけでレジリエンスを育てることができます。EQWELチャイルドアカデミー主席研究員の浦谷裕樹氏は、子どもをほめるときには「『能力ほめ』ではなく『努力ほめ』を実践してほしい」と述べています。

ある実験によると、子どもに対して「頭がいいね」「賢いね」など能力をほめた場合と、「よく頑張ったね」「最後までやり抜いたね」と努力をほめた場合では、やり抜く力やもっと頑張ろうという向上心に違いが見られたのだそう。浦谷氏は、「能力ではなく努力をほめられた子どもは、テストの点数が下がっても『自分の努力が足りなかったんだ。もっと頑張ろう!』と前向きに課題に取り組むようになり、結果的に点数をとれるようになった」と分析しています。

また叱るときは、ついカッとなってしまっても頭ごなしに怒るのはNG。子どもがなんらかの問題を起こしたとき、つまりピンチのときや困難にぶつかったときには、子ども自身も「どうしたらいいんだろう……」と思っています。その瞬間こそが学びに最適なタイミングであり、親にとっても「子どもを教え諭すチャンス」です。

ここで親が「怒る」のではなく、起こしてしまった問題への対処法を「教え諭す」ことで、子どもはトラブルへの対処法を身をもって学びます。コツは、親自身が冷静になって「1分以内」くらいの短い時間で叱ること。お説教が長引くほど、叱られている内容よりも「早く終わらないかな……」という気持ちが強まるので、親自身も感情をコントロールすることを心がけましょう。

【レジリエンスの伸ばし方】

  • 能力ほめではなく「努力ほめ」を
  • 叱るときは「教え諭す」ことを心がける
  • 叱るときは「1分以内」くらいの短い時間で

もっと詳しく!
お説教は「◯分以内」で。子どものEQを高める”叱り方の正解”とは

子どものレジリエンスを育む05

レジリエンスを育むのは「失敗体験」【ボーク重子氏】

子どものレジリエンスを育てるにあたって「失敗経験の大切さ」を説くのはライフコーチのボーク重子氏です。それを最も効果的に伝えるには、親自身が挑戦して失敗する姿を子どもに見せること。大事なのは、「失敗か成功かという結果ではなく、なにがどうしてどうなったかというプロセスを子どもに見せること」だとボーク氏は指摘します。

それにより、子どもは「失敗は通過点であってやり直しができる」ということや、「方法はひとつではない。もしひとつの方法がダメでも、ほかの選択肢や可能性を試せばいい」ということを学べるのです。これぞまさに、レジリエンスそのものですね。

またボーク氏は、「失敗しないことよりも、何度失敗しても再起できることのほうがよほど大事」としたうえで、「回復力ををつける一番のチャンスは、子ども自身が失敗したとき」と断言します。そこで大事なのは、失敗のなかに隠れている「よかったこと」に気づかせること。

ポイントは、親の方から「ここがよかった」「あそこがよかった」と先回りして教えるのではなく、「失敗はしたけど、いいこともあったじゃない?」と問いかけることです。親の意見を押し付けるのではなく、子どもを主体としてポジティブな思考を促してあげましょう。

【レジリエンスの伸ばし方】

  • 親がなにかに挑戦し、失敗する姿をありのままに見せる
  • 失敗は通過点であり、選択肢はひとつではないことを学ばせる
  • 失敗のなかに隠れている「良かったこと」に気づかせる

もっと詳しく!
子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ
グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれるーー全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart2

子どものレジリエンスを育む06

レジリエンスは非認知能力の一部であり、幼少期に培うことが大切【増田修治氏】

子ども教育のプロフェッショナル育成に携わる白梅学園大学教授の増田修治氏は、「『やり抜く力』『自分で考える力』『対人関係力』など非認知能力の基盤となる力は、すべてレジリエンスにつながる」としたうえで、「幼少期の教育がレジリエンスの基礎をつくる」と指摘しています。

そのために親がすべきは「子どもの話をきちんと聞く」こと。「そんな簡単なこと?」と思う人も多いかもしれませんが、親の意見を一方的に押し付けたり、子どもを意のままに導こうとしたりと、無意識のうちに子どもの意見をないがしろにしてしまうことは珍しいことではありません。

増田氏は、「親と子ども、それぞれが納得する『一致点』をつくるコミュニケーションにより、子どもの非認知能力が育まれる」と述べています。たとえば、「5時になったら宿題をやりなさい!」ではなく、「何時になったら宿題に取り掛かれる?」と本人に選択権を渡すことで、子どもは「自分で決めたのだからやらなくちゃ」と、自発性や責任感が芽生えるのです。

良好なコミュニケーションのコツは、相互が話して聞く「応答性」が機能しているかを意識すること。応答によって互いを知り、感情を共有することで、親子のコミュニケーションがより深まるでしょう。その際に、親は子どもの「考える時間」を保証してあげる必要があります。子どもの頭が一番働いているのは悩んで考えているときなので、おおらかな気持ちで答えが出るのを待つことが大切です。

【レジリエンスの伸ばし方】

  • 子どもの意見と親の意見、それぞれが納得できる「一致点」ををつくるコミュニケーションをとる
  • 「応答性」を育むコミュニケーションをとるようにする
  • 子どもの「考える時間」を保証する

もっと詳しく!
非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆はーー?
子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」

子どものレジリエンスを育む07

異年齢での活動がレジリエンスを高める【野上美希氏】

一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事の野上美希氏は、自身が運営するアフタースクール(学童)の活動を通じて、年齢が異なる子どもがいる環境、コミュニティーに身を置くことのメリットについて次のように述べています。

「縦割り社会で過ごせば、年齢が違う相手とのコミュニケーションを学べて子どもの幅を大きく広げられる。またそういった友だちの影響を受けて、もっと頑張れたり、新しいことに対する意欲を持てたりする」
このように、異年齢の友だちとの関わりは、多様な価値観を知るきっかけになり、レジリエンスを含む非認知能力を高めることにもつながります。

さらに、年齢が違う集団に属することで、家とは違う立場に置かれたときの振る舞い方を学ぶこともできるでしょう。家では自分のわがままが言える環境にあっても、実際の社会では必ずしも自分の意見が通るわけではありません。こういった経験からも、ぐっと我慢したり気持ちを切り替えたりと、折れない心=レジリエンスは鍛えられるのです。

また、学童での活動には「プレゼンテーション」や「ディベート」があり、ひとつのテーマに対して議論を交わすことで、意見を述べる→反論される→自分で考えるというプロセスを経て、レジリエンスが鍛えられるというメリットもあるのだそう。自分の意見を述べる機会は、家庭でも積極的に取り入れたいですね。

【レジリエンスの伸ばし方】

  • 異年齢の友だちと積極的に関わることで多様な価値観に触れさせる
  • 自分のわがままが通らない環境に身を置くことで、折れない心を育てる
  • プレゼンやディベートを通じて、自分の意見を論理立てて述べたり、反対意見に柔軟に対応したりする力を鍛える

もっと詳しく!
子どもの順応性は親が思う以上に高い。「申し訳ない」という気持ちは不要です
放課後や長期休みに「非認知能力」を高めよう。学童でさまざまな経験を

子どものレジリエンスを育む08

「レジリエンス」にとらわれすぎないことが大切【沢井佳子氏】

レジリエンスを鍛えることを重視するあまり、親が焦ってあれこれ詰め込むのは逆効果になりかねません。「親のそういった言動は、子どもにプレッシャーを与えるだけでなく、逆効果にもなるので注意が必要」と警鐘を鳴らすのは、一般社団法人日本子ども成育協会理事の沢井佳子氏。

沢井氏は、「発達段階に合っていない知識や技能を詰め込むような教育は、効果がないばかりか自ら行動的に遊んで学ぶ『思考の機会』を奪うことにもなりかねない。つまり逆効果である」と指摘しています。

大事なのは、通常の学業などの「認知能力」と「非認知能力」をバランスよく育むこと。特にレジリエンスは、日常生活や遊びのなかで自然に育まれるものです。親が過度に介入する必要はないのです。

沢井氏は、「ハンガリーの教育現場を視察したときに、保育園で子どもたちが『考える遊び』を楽しむ姿が印象的だった」と話します。そこでは、異年齢同士で相談しながらおもちゃを選び、考えながら一緒に遊ぶ姿がありました。

「考える遊び」には、運動やコミュニケーションだけでなく、「答えを探すための忍耐」も含まれていたのです。このように、特別なスクールに通わなくても、たくさんの子どもたちと触れ合うことでレジリエンスは自然に身についていくのです。

【レジリエンスの伸ばし方】

  • 親が焦って子どものレジリエンスを鍛えようとするのはNG
  • 「認知能力」と「非認知能力」のバランスのよい教育がレジリエンスを育む
  • 「考える遊び」を通して忍耐力など心の柔軟性を育てる

もっと詳しく!
“◯歳だからこれができないとダメ!”その思い込みから親を解放する「発達心理学」入門
「非認知能力」という名称の流行が生んでしまった“誤解”と“困った副作用”

***
レジリエンスと聞くと、「難しそう」「特別な訓練が必要?」などと感じてしまいますが、親や友だちとの日常的な関わりのなかで自然に育まれる力のひとつに過ぎません。本記事で紹介したように、「失敗を恐れない姿勢」や「努力するプロセスの大切さ」を子どもに伝えたり、多様な価値観に触れる機会を提供したり――。無理のない範囲で、子どものレジリエンスを育てていきましょう。

文/野口燈

(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもの「レジリエンス」を高めるのは、親子の会話。結果ではなく“挑戦”を褒める!
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|やりたいことを目いっぱいやって失敗した。その経験が「折れない心」を育てる
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|非認知能力は育っているか? 子どもが「目をキラキラさせる世界」があれば安心です
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|お説教は「◯分以内」で。子どものEQを高める”叱り方の正解”とは
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもが親の失敗から学ぶもの。「やり抜く力」を育むなら“格好悪い親”であれ
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれるーー全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart2
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|非認知能力が高い子どもは、「認知能力」も伸びていく。ではその逆はーー?
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもの順応性は親が思う以上に高い。「申し訳ない」という気持ちは不要です
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|放課後や長期休みに「非認知能力」を高めよう。学童でさまざまな経験を
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|“◯歳だからこれができないとダメ!”その思い込みから親を解放する「発達心理学」入門
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「非認知能力」という名称の流行が生んでしまった“誤解”と“困った副作用”