「絵本を読むとき、文字より絵をじっと見ている」「地図を一度見ただけで道を覚えてしまう」「テレビの映像を集中して見ていて、話しかけても上の空……」——もしわが子にそんな様子が見られたら、視覚的な情報の方が理解しやすいという特性があるかもしれません。
「見て理解する方が得意」な子どもは、逆に言えば「聞いて理解する」ことが苦手な場合があります。そのため「言葉で説明しても伝わりにくい」「口で言っただけでは動かない」といった場面に遭遇することもあるでしょう。一生懸命説明してもなかなか響かないと、つい「この子は話を聞いていないのでは?」と感じてしまいがちです。
でもじつは、それは子どもの能力不足ではありません。子どもには生まれもった「認知特性」という情報処理の得意パターンがあるのです、認知特性には、大きく3つのタイプに分けられます。
- 視覚優位タイプ – 見て理解するのが得意
- 聴覚優位タイプ – 聞いて理解するのが得意
- 言語優位タイプ – 話したり読んだりして理解するのが得意
(関連記事)【認知特性タイプテスト】話が通じないのは能力の差ではなかった!――わが子のスタイルから得意を伸ばそう「視覚優位」「聴覚優位」「言語優位」
今回は、このなかでも「視覚優位タイプ」の子どもにフォーカスし、家庭でより伝わりやすくする工夫や、理解力をぐんと伸ばす学習の方法を紹介します。
監修者プロフィール
特別支援通級指導教員
特別支援通級指導教員歴8年の現役教師。情緒障害教育を専門とし、ADHDやASD、自閉症児など多くの子どもたちを担当する。家庭では、特性をもつ2児の父親。遊びや経験を通して、子どもたちが「安心できる場所」「自分らしくいられる瞬間」を感じられるよう日々模索中。趣味は家族旅行。
目次
こんな子どもは「視覚優位」かも
子どもにこんな様子が見られませんか?
👀視覚的情報の特徴:
- 人の顔や行った場所をよく覚えている
- 図鑑や写真をじっと見るのが好き
- レゴやブロックで複雑な作品を作る
- 工作やお絵描きに夢中になる
- 色や形の違いに敏感
- パズルやゲームのパターンを見つけるのが得意
- ものの配置や整理整頓にこだわる
- 動画や映像には集中するのに、口頭の説明は上の空
このような特性がある子は「見て」理解することを好みます。一方で「聞くだけ」の情報処理は苦手な傾向があるため、「話を聞いていない」「集中力がない」と誤解されがちです
でも実際は、視覚的な情報が得意な子は決して集中力がないわけではありません。情報が見える形で提示されると、驚くほど集中し、理解も早くなります。
そんな視覚優位の子には、どのような工夫をしてあげるとよいのでしょうか? まずは、家庭でできる具体的な『見える化』のコツを紹介します。
より伝わりやすく! 家庭でできる4つの「見える化」工夫
視覚的な理解が得意な子は、目で確認できる安心感があると行動がスムーズになります。家庭では次のような工夫が効果的です。
🧸片づけの「見える化」
おもちゃ箱に写真を貼ったり、文房具入れにえんぴつの絵を描いたりする。「赤いかごは本」「青いかごはおもちゃ」のように色分けすると、自分でも片づけやすくなります。ランドセルの中身も、教科書とノートを色分けしたファイルに入れると整理上手になれます。
🎒ルーティンの「見える化」
時間割やルールはホワイトボードや絵カードで見える形にする。毎日のルーティンも「歯磨き→パジャマ→絵本→寝る」といった流れを絵で示してあげましょう。また、宿題や習い事の予定をカレンダーに書いて見えるところに貼ると良いでしょう。明日の準備は前の日に済ませ、忘れ物チェックリストで確認する習慣をつけると安心です。
これらの見える化工夫は、子どもの日常生活をより円滑にしてくれます。次に、学習面でも視覚的なサポートを活用する方法を見てみましょう。
👟行動の「見える化」
玄関に靴の形のシールを貼って「ここに揃える」と示したり、手洗いの手順を絵で貼ったりする。「きちんとしなさい」ではなく、どうすればいいかを目で見てわかるようにします。食事のマナーや歯磨きの順番なども絵で示すと、自然に身につきます。
⏰時間の「見える化」
アナログ時計やタイマー、砂時計を活用し、残り時間を見える形で示す。針の動きで時間の流れを実感できるアナログ時計は時間感覚を育てるのにも役立ちます。宿題の時間も砂時計で測ると、ゲーム感覚で取り組めます。朝の支度時間を時計の絵で示したり、「短い針がここに来たらお出かけ」と具体的に教えることで、時間の概念が身につきやすくなります。
また、新しいことを教える際は、まず全体像を見せてから詳細に入ると、理解がスムーズになります。
理解力がぐんと伸びる! 学習面での視覚的工夫
勉強でも、見てわかる工夫を取り入れると、理解力がぐんと伸びます。
🗒️ノートは色と図で整理する
マインドマップや図解ノートで、情報を絵や線で整理しましょう。中心にテーマを書き、枝分かれさせて関連情報をつなげ、色分けペンでカテゴリー別に整理します。大切なところに色マーカーを引いたり、イラストを描いたりするだけで、後から見返したときにパッと内容が思い出せます。数学の公式なども、ただ暗記するのではなく、図形や絵と一緒に覚えると頭に残りやすくなります。
🧠暗記は色分けカードで効率アップ
フラッシュカードや単語カードで繰り返し確認しましょう。重要語句は色分けして記憶を助けます。「人物名は赤」「年代は青」「場所は緑」といったルールを作ると整理しやすくなります。漢字の練習でも、部首を色分けしたり、似ている字を同じ色でまとめたりすると覚えやすくなります。読み方が同じ漢字を視覚的にグループ化するのも効果的です。
🎥動画や図解教材をフル活用
写真やイラストつき教材、動画学習を積極的に活用しましょう。タブレット教材なども、文字だけの説明より理解が進みやすい場合があります。YouTubeの学習動画や、教科書会社が提供している映像教材なども効果的です。図書館には図解でわかりやすく説明した学習まんがもたくさんあるので、積極的に利用しましょう。
大切なのは「形や色で見た目を工夫する」こと。同じ「書く」でも、文字を並べるだけでなく、図や絵も交えて見た目にわかりやすいノートを作ることです。
同じ「書く」でも、文字を並べるだけでなく、図や絵も交えて見た目にわかりやすいノートをつくることがポイントです。形や色で情報を整理すると、視覚優位の子の記憶力と理解力を最大限に引き出せます。
視覚優位っ子のよくある困りごと
視覚的な理解が得意な子ならではの困りごともあります。よくある場面と工夫を紹介します。
- 文字だけの教科書に疲れてしまう → 図やイラストで補足。板書を写真に撮って復習するのも効果的
- テストの指示を読み飛ばす → 問題文にマーカーを引く習慣をつける
- 集中が続かない → 机の上をシンプルに。視覚情報を整理する
- 複数の指示で混乱する → チェックリスト形式で一つずつ確認
「注意力が足りない」と思われがちですが、じつは視覚情報が多すぎると混乱しているだけのことも多いのです。適度に情報を整理してあげることで、本来の集中力を発揮できます。
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視覚的な理解が得意な子は「目から入る情報の方が処理しやすい」特性をもっているので、口頭での説明だけでは伝わりにくいことも、図や色を添えるだけでスッと理解できることがあります。親が「見せ方」を変えることで、子どもの学びや生活は大きく変わり、自己肯定感もぐんと育っていきます。
「この子にはこの方法が合うんだ」と気づくことが、親子の関係をスムーズにし、子どもの得意を伸ばす第一歩になるでしょう。
(参考)
都築繁幸研究室/CiNii & AUEリポジトリ|認知特性から考える授業づくり ― 小学校・算数の指導を中心に
総合教育センター 宮城県|認知特性とは