日本テレビのアナウンサーとして『NEWS ZERO』などで活躍し、現在は政治部の記者となり国会を取材する日々を送る右松健太さん。高校時代はサッカーに明け暮れ、大学受験への挑戦はなんと偏差値40からだったそう。「勉強ができない」「勉強をしない」時代があったからわかること、そして自分なりに勉強に対するモチベーションを上げる心の持ち方。そして、娘さんから学んだ勉強する「目的」の大切さ――。いまも仕事のために勉強をし続ける、知的好奇心旺盛な右松さんの勉強方法をお伺いしました。
構成/岩川悟 取材・文/渡邉裕美 写真/玉井美世子
無勉強だった高校時代。今では報道記者として学び続ける日々
右松さんは國學院大學の出身。東大や慶応など六大学出身者が多いアナウンサー、またテレビ局ではあまり目にすることがない大学です。
「確かにそうですね(笑)。僕は高校3年生までサッカーに夢中でした。勉強は人生の二の次三の次で、勉強をするクセがまるでなかったのです。そんな感じの高校生活ですから、大学に行きたいと思ったのも遅かったどころか、偏差値40からの大学受験への挑戦……。そこから浪人をして、國學院大學文学部史学科に入学しました。そして、大学入学後に小学校5~6年生のころに描いた将来の夢だった報道記者になりたい気持ちに火がついたのですが、視野が狭かったので、報道記者に東大や早稲田、慶応出身者が多いなんて思わなかった。『大学より個性が大事だろう』くらいに思っていましたしね(笑)」
「僕が大学時代にやっていたことは、図書館での勉強、学習塾での講師アルバイト、写真部での活動、この3本柱。朝9時から夜10時まで、講義を受けるか図書館で自習するか、もしくは学習塾で授業をしているかというような生活を送っていました。高校時代は勉強しない生活でしたが、『大学に入ったからには、とことん勉強をしよう!』という気持ちでいましたから、勉強は頑張りましたよ。大学時代にどのような目的をもって時間をすごすかは大切なことかもしれません」
塾の講師アルバイトで教えていたのは、古典。浪人時代、通った予備校の講師の授業に魅了されたことが古典にハマったきっかけだったそうです。
「古典の面白さは、人の生き様をドラマティックに描いているところ。古典の作品には男女の恋愛を描いたものも数多くあります。人を愛する気持ちは1000年前だって変わらないし、古典のストーリーにあることは現在にも置き換えることができます。ですから、生徒にまずじっくり作品の解説をして古典の世界観を理解してもらえるようにしました」
「生徒たちに古典を好きになってもらうために、『暗記だけじゃなくて、宿題をしたくなる授業にしよう』と思って教えていたのですが、古典が好きな子は少ないのが現実ですよね(苦笑)。試験で国語の配点の一部を占めるからという理由で、外すことができずに仕方なく勉強をしている生徒も多いのが実情です。ただ、僕は勉強ができない人の気持ちがよくわかる。どこがわからなくてつまずくのかとか、ここがわかればあとは霧が晴れたように視界が広がる、といったことも、僕の経験から理解しているつもりです。僕なりの視点から、古典が苦手な人でも好きになれるようなポイントを重視して積極的に教えるようにしていましたね」
大学受験をすると決意し、大きく舵を切った18歳。そこで目覚めた、勉強してものごとを知り知識を蓄積していくよろこび。アナウンサーから報道記者になった現在は、国会のことを勉強する日々が続いています。
「2017年12月に警視庁記者クラブから国会担当に異動をしたのですが、覚えなければいけない政党のことや議員のことがとにかくたくさんある……(笑)。さらに、議員は党内で担う役職もさまざまですし、国会で起きていることを知るにはその国会における細かなルールも理解していなければいけません。国会の意思決定プロセス、与党と野党の歴史的な流れ、議員と官僚の繋がりなども知る必要があります。本を読んだりして勉強をしても、取材を進めていくうちにわからないことがあたりまえのように出てきます。同じネタでも、新聞によって内容が異なったり、取材する立場によって見え方がちがったりもするから、目を通さなければならない情報も無限です。とにかく、政治という分野は、記者として事実を伝えるために必要な知識が膨大にあるわけです。だからいまは、記者としてしっかり仕事をするために、国会や政治のことを24時間考えているような状況。古典を好きになったときも教える立場になったときもそうでしたが、僕にとっては、目的をもってとことん考えることが勉強し続けるモチベーションになるのかもしれません」
娘から教えられた学ぶための動機の重要性
「学習するには動機が大切だ」――。このことは、自らの経験だけでなく、現在小学校高学年になった娘さんのひとことであらためて気づいたそう。
「中学受験のために娘を塾に通わせていますが、あるときに娘が『目標がないなかで頑張れない』と言ったんですね。じつは、娘自身は友だちもたくさんいる近所の公立中学に通いたいと言っていて、中学受験をさせたいというのは単なる親のエゴだったんです。それなりの学歴をもつことは仕事を選ぶ際の最低限の優位性にも繋がりますし、僕自身が幼いころ勉強を優先してこなかったので、苦労することも知っていますしね(苦笑)。だけど、その娘の言葉を聞いて、『それはそうだよな』と、僕自身大いに納得しました。僕だって、急にアラビア語やタイ語を学べと言われてもモチベーションは上がりません。これが、そのような言語を使う国に特派員で行くことになりそうだという理由で学ぶのであれば、一生懸命に勉強するでしょう」
こうして、勉強に必要なことはモチベーションであると気づいた右松さんは、娘さんが目標を掲げられるようになるべくこんな行動を取りました。
「『目標を探しに行こう!』ということで、受験の勉強を継続しながら、中学校を見学しに行くなど、娘と会話を重ねて一緒に行動するようになりました。親ができることは、次へと進もうとしている子どもの背中を押すことだと思ったからです」
さらに、もうひとつ。自身の子育てに役立ったこんな経験が右松さんにはありました。
「大学時代にサッカーのコーチをしていました。子どもたちは小学校2~3年生なので、練習が終わって『この場所に5分後に集合ね』なんて言っても、片付けが終えられていなかったり、靴がはけていなかったりということがよくあった。子どもを相手にするということは、自分の心に余裕を持たなければなりません。子どもたちだって、一生懸命にやっているのだから、そのことを理解しなければならない。おかげでイライラすることなく、ニコニコしながら待てるようになれましたね(笑)。この経験は、自分自身の子育てでも役立っているような気がします。人のスピード感はそれぞれですし、個性だっていろいろ。すぐに結果が出ない行動であっても、見守ることの重要性をそこで知ることができました」
勉強すること、見守ることのすべてを実体験から得た右松さん。親がさまざまな世界を見て知って経験してきたことが生かされる試金石――それが、子育ての真髄なのかもしれません。
■ 日本テレビ報道局政治部記者・右松健太さん インタビュー一覧
第1回:【夢のつかみ方】(前編)~評価を得るために仕事と向き合った13年間~
第2回:【夢のつかみ方】(後編)~報道記者として鍛えながら、なおも夢を追い続ける日々~
第3回:【テレビと子どものいい関係】~テレビは、子どもと社会をつなぐ「窓」の役割~
第4回:【学習における動機の大切さ】~偏差値40からの逆転!~
【プロフィール】
右松健太(みぎまつ・けんた)
1978年11月6日生まれ、東京都出身。2003年に日本テレビに入社し、アナウンサーとしてバラエティや情報番組やニュースなどを担当。2010年4月よりニュース番組『NEWS ZERO』のキャスターとして、政権交代や沖縄基地問題、東日本大震災などの現場を取材した。2016年6月より報道局に異動し、日本テレビの記者として日々取材を続けている。