現在ではインターネットの普及により一気にメディアが増えたとはいえ、テレビは王道のメディアとして、今なお大きな影響力を持っています。子どものテレビの見過ぎを心配したり、子どもがこんな番組を見ていいのだろうかと不安になったりと、親であれば誰でも、子どもへのテレビの見せ方について敏感になってしまうもの。果たして、テレビと子どもの関わり方はどうすべきなのでしょうか。日本テレビのアナウンサーとして『NEWS ZERO』などで活躍し、現在は報道局政治部の記者となり国会を取材する日々を送る右松健太さんに伺いました。
構成/岩川悟 取材・文/渡邉裕美 写真/玉井美世子
子どもが一方的に情報を聞かないために親が介在すべき
いつの時代も、親視点からすると“子どもにあまり見てほしくない番組”が存在し、バラエティ番組のゲームが原因でいじめが増長することもあります。親世代は、子どもにテレビをどう見せるのかという問題に心を悩ませているもの。「テレビと子どもをどう関わらせていくべきか」という問いに対して、13年間アナウンサーとしてテレビに出演した後、現在は報道局政治部の記者となりニュース番組制作の最前線に立つ右松さんは、こんな考えを持っています。
「お子さんが小さいなら、テレビはリビングで親と一緒に観ることが大前提になると思います。痛ましい事件や、センセーショナルな内容のニュースを『見せたくない』と思う親の気持ちも理解できます。番組制作側としても、センセーショナルな事件ほど伝え方のバランスやさじ加減が難しいものですからね。しかも、テレビは視聴者にとって『受動メディア』という特性があります。テレビをつけているだけで、目と耳から勝手に情報が入ってくる。子どもが、情報を一方的に浴び、あらゆる事実を見聞きするのが適切なのかどうか。親はそれを考えたうえで、子どもと一緒にテレビを見て、笑って、悲しんで、ときに違和感があれば親子で語り合う。これが、子どもがテレビといい関係を築くカギになるのではないでしょうか。つまり、ひとつの教材としてテレビを活用すればいいということ。国会中継を一緒に見ていて、子どもが疑問を口にしたら親が答えてあげることもその一例でしょうね。子どもが一方的に情報を聞き続けないように親が介在することが、いい関わり方だと考えています」
右松さんが、テレビは「教材」であると考える理由。それは、将来の夢を与えてくれたきっかけも、さまざまな“世間”を学んだのも、テレビだったからでした。
「僕は活字の世界ではなく、テレビ業界で働きたいという思いで就職活動をしていました。なぜならば、もともとの夢だった報道記者に興味を持ったのが、ニュース番組の影響だったからです。僕、本当にテレビが好きなんですよね。テレビって、家にいながらたくさんの疑似体験ができるメディアだと思うんです。美しい海外の景色や美味しそうな現地の料理を紹介する番組では旅行気分を味わえて、過去のできごとを紹介する番組であればタイムスリップすることもできる。子どもにとって、世の中のことを教えてくれる最初の存在は親になりますが、さらに僕はテレビから世間の常識や善悪、さらに恋についても学ばせてもらったと捉えています。どのくらい好きなのかというと、子ども時代に見たバラエティ番組のみならず、ニュースの映像もいまだに克明に覚えているくらいですから(笑)」
テレビは子どもに世間を教える「窓」である
インターネットの普及によりメディアは多様化し、テレビもかつての勢いを失ったと言われる現在。右松さんは憂いながらも、ネットの利点をこう分析します。
「1日は24時間で、そのうち6時間寝て、テレビもネットもスマホもとなると、むかしのようにテレビだけを見る文化ではなくなったのは確かです。それに、『YouTube』や『ニコニコ動画』などのネットメディアにも、それぞれ魅力的なコンテンツがたくさんある。ネットメディアは、部分毎に自分が知りたいことを自分から手に入れにいく能動的なメディアです。情報をいつでも手にできたり、好きなときに番組を視聴できたりするなど、ネットの利便性を賢く使えば、自分の時間を有効活用できると思います」
そんな時代における、テレビという「王道のメディア」。ときに批判にさらされることもありますが、テレビが持つ魅力は放送開始からいまも変わらず「信頼関係」にあると右松さんは言います。
「テレビと視聴者は、キャッチボールでつながっていると僕は考えています。画面を通して情報というボールを投げて、視聴者が受け取るというキャッチボールです。バラエティ番組ならば、楽しい情報を受け取った視聴者は笑って嫌なことを忘れられる。ニュースならば、さまざまな視点で切り取られて取材された情報を受け取ることにより、視聴者はものごとを深く知ることができる。
こうして成り立っているテレビは、むかしも今も、視聴者との信頼関係が基盤となっているメディアであることは間違いありません。というのも、テレビ番組を制作する側がもっている矜持とは、専門的なノウハウがあるということだから。制作のあらゆる部分でプロフェッショナルが携わることにより、情報が精査されています。また、情報を受け取る誰かが傷つかないように配慮して伝え続けているのがテレビというメディアです」
このように、視聴者との信頼関係がベースとなっているテレビには、子どもの教育に関わる重要な役割があると右松さんは言います。
「テレビが誕生して60年あまり。もしかしたら、これから大きく発展して、伸びることはないのかもしれない。それでも、テレビには時代を映し続けてきたメディアだけに託された役割があると信じています。それは、子どもの情緒や道徳心を育てる大きなテキストになるということ。例えば、スポーツ番組でアスリートの活躍を取材し放送することで、感動や衝撃だけでなく、次世代の子どもたちに将来の夢のきっかけを与えるかもしれません。それこそ、世の中を一度はよく変えようとした老齢な政治家の、疑惑や不祥事で追われている姿が映されることで、そこから「人生とは」と考えさせられることもあるでしょう。こうした情報を見ていれば“やっていいことと悪いこと”がなにか、自然に身につきますよね。
さらに言うと、テレビには感動が溢れています。日本テレビが放送している『24時間テレビ』の24時間マラソンやドキュメンタリー、ドラマで勇気づけられたり、人々の熱い思いに気づくことがあったりもする。大人の嬉し涙や悔し涙も、子どもにとっていい影響を与えるのではないでしょうか。大人が泣いている場面を、日常の生活のなかで子どもが見る機会は少ないですよね。ところが、テレビではそれを見ることができる。
テレビは、存在そのものが家庭だけでは補いきれない役割をもっていて、それは子どもに世間を見せる『窓』なんですよね。ひとりのテレビマンとして、今後もテレビは社会への窓になる存在であってほしいと考えています」
■ 日本テレビ報道局政治部記者・右松健太さん インタビュー一覧
第1回:【夢のつかみ方】(前編)~評価を得るために仕事と向き合った13年間~
第2回:【夢のつかみ方】(後編)~報道記者として鍛えながら、なおも夢を追い続ける日々~
第3回:【テレビと子どものいい関係】~テレビは、子どもと社会をつなぐ「窓」の役割~
第4回:【学習における動機の大切さ】~偏差値40からの逆転!~
【プロフィール】
右松健太(みぎまつ・けんた)
1978年11月6日生まれ、東京都出身。2003年に日本テレビに入社し、アナウンサーとしてバラエティや情報番組やニュースなどを担当。2010年4月よりニュース番組『NEWS ZERO』のキャスターとして、政権交代や沖縄基地問題、東日本大震災などの現場を取材した。2016年6月より報道局に異動し、日本テレビの記者として日々取材を続けている。