できることなら、我が子を有能な人物に育てたい――そう考える親は少なくないでしょう。しかし、「有能な」と一言でいっても、能力には様々な種類があります。最近は、学校や社会で評価される能力も多様化しています。
そんななか、とりわけ今注目されている能力の一つが、考える力=「思考力」です。この能力は、変化の激しい時代のなかで、新しい価値を創造するために欠かせない能力の一つといわれています。
そうなると、親としては、子どもの「思考力」を育むためにどうすればいいのか気になるところ。そこで今回は、「思考力」の必要性や意味を踏まえたうえで、家庭でできる育て方について考えていきたいと思います。
すでに、授業や入試に取り入れられている「思考力」
「思考力」が注目されるようになったきっかけの一つは、大学入試改革です。2020年度から、大学入試センター試験に替わり、「大学入学共通テスト」が実施されました。同テストでは、これまでの知識・技能に加え、「思考力・判断力・表現力」が評価されることにーー。
こうした改革を見据え、小学校や中学校、高校においても「思考力」を養う教育が導入され始めています。例えば、かえつ有明中・高等学校で行われている「サイエンス」という授業。思考力をトレーニングする科目として、中学校のカリキュラムに組み込まれています。授業のポイントについて、同校のホームページでは下記のように説明しています。
「答え」ではなく「答えを導き出すためのプロセス」を磨くことが“サイエンス”の授業のポイントです。答えのない問題では、自分なりの答えを導き出し、その答えに合う証拠や客観的なデータ、資料で自分の答えの論理性を訴求することが大切です。
(引用元:かえつ有明中・高等学校|かえつ有明の教育)
また、中学入試においても「思考力」が評価され始めています。ここ数年、「思考力」を問う入試として「適性検査型入試」を実施する首都圏の私立中学校が増えているのです。
「適性検査」とは、もともと公立中高一貫校ができたときに導入された、複数の教科を横断して出題されるのが特徴の入試です。知識を組み合わせて解答を導く思考力や、問題文を素早く的確に読み解く読解力などが求められます。
私立中学校では、「適性検査型入試」「総合型入試」「思考力入試」「自己アピール入試」など様々な名称で行われており、その数は2018年度入試で過去最高を記録しました。
首都圏の中学入試では、2014年から2017年にかけて、「適性検査型(総合型・思考力・自己アピール)入試」を実施した私立中学校は、38校→53校→86校→120校と、年々増加してきましたが、さらに今春2018年度入試では、計136校の私立中が、こうした「適性検査型(総合型・思考力・自己アピール)入試」を実施することが判明しました。
(引用元:首都圏模試センター|2018年入試では136校が「適性検査型入試」を実施!)
こうしたことから、「思考力」の注目度は今後ますます高まっていくことが予想されます。
「思考力」って何? どうやって評価されるのか
ところで、「思考力」とはどんな能力かご存知でしょうか。
通信教育をはじめとした教育事業で知られる株式会社ベネッセコーポレーション、および株式会社Z会は、それぞれが運営するサイトにて、「思考力」の定義について下記のように述べています。
『思考力』とは、問題そのものを見つけたり、問題を解決するためのヒント(情報)を探したり、自分が持っている知識を使って解決策を考えたりする力だ。
(引用元:Benesseマナビジョン“ミライ応援サイト”|大学入試はどう変わる?思考力・判断力・表現力編)
「思考力・判断力・表現力」とは、平たく言うと、世の中や身の回りの問題・課題を、まずは「自分ごと」として考え、さらには他の人の考えにも耳を傾けた上で、「じゃあこうしよう」と新しい解決策を見出していくことと言えます。
(引用元:Z-KAI|2021年度以降の新しい大学入試で問われる「思考力・判断力・表現力」とは?_2016.1)
これらを読むと、「思考力」はある事柄から問題を特定し、その解決策を見出すまでの過程において使われる能力であることがわかります。そこで、「思考力」を評価するために作成された入試問題の一例として、ある中学校で実施された「思考力テスト」の内容を見てみましょう。
【問題1】
海外の市場の写真を見て、写真から読み取れる情報をできるだけ多く書き出す。
【問題2】
- 日本と海外の生鮮食品売り場の写真を見比べて、気がついた点をできるだけ多く書き出す。
- また、自分が書き出した内容を見て、海外の市場が日本よりも優れている点はどこだと思うかを述べる。
【問題3】
もしこの国で暮らすことになり、この市場で買い物をする立場になったときに、必要なスキルはどんなことかを書き出す。
【問題4】
「【問題3】で答えたスキルはどうして必要なのか」、また「今回のテストで感じたこと」を200字以内で述べる。
こうして見てみると、「思考力」を評価するための入試問題は、必ずしも暗記した知識がないと解答できないものではないということがわかります。一方で、考えることに慣れていない人にとっては、解答するのが難しいと感じられるかもしれません。
このテストの評価ポイントは以下のようなことだと考えられます。
- 与えられた資料から情報を読み取る力
- 与えられた資料を比較し、共通点や相違点を見つける力
- 自らの考えを再構築し伝える力
- 自らの考えをまとめる力
こうしたポイントを日常的に意識し、子どもに働きかけることが、子どもの「思考力」を育んでいくことにつながっていきます。
「思考力」を育てるために親が子どもにできること
子どもの「思考力」を育てるために、親は普段からどのような働きかけをすればよいでしょうか。3つの例を挙げてみましょう。
1. 「与えられたものから情報を読み取る力」を養う
特定のものをよく観察できる機会をつくります。例えば、動物園に出かけ、動物を見ながら、「色は何色?」「どんな特徴がある?」「大きさはどれくらい?」「どんな声で鳴いている?」など様々な質問を投げかけます。子どもは目の前の動物から情報を読み取ろうとし、「思考力」を働かせます。
動物園でなくてもかまいません、水族館や植物園などの日常から離れた場所へ出かけてみましょう。初めて見るものであれば、上述したようによく観察し、テレビで観たことがあるものや絵本に出てきたものなどは、「頭の中のイメージ」との違いなどを言語化し、さらなる情報を読み取る練習をしてみてください。親子で一緒に楽しめる場所へ出かけ、たくさん質問を投げかけてみましょう。
2. 「比較をしながら共通点、相違点を見つける力」を養う
複数のものを見比べる機会をつくります。様々な種類の商品が陳列されたショッピングセンターなどに連れて行き、一緒に買い物しながら商品を比較させてみてください。
例えば、部屋に飾る花を選ぶとき、「これとこれ、どっちがいいかな?」と子どもに相談してみます。「色は同じだね。じゃあ、何が違う?」などと語りかけることで、子どもは目の前の2つの商品を見比べ、「思考力」を働かせます。
また「この油揚げは3枚で100円だけど、こっちは1枚100円だね。〇〇くんはどっちがいいと思う?」という質問もいいでしょう。お金の概念を理解している子であれば、「3枚で100円の方がお得だね!」なんて言うかもしれません。そのときは、「そうだね、お得だね(子どもの考えを認める)。でも、1枚100円の油揚げの方が味がいいかもしれないよ?」など、別の考え方もあるよ、と教えてあげましょう。色々な視点から物事を見てもいいんだ! ということに気がつくはずです。
3. 「自分の考えを再構築する力」を養う
一緒にテレビを観て、「自分ならどうするか」を考えさせます。身の回りに起きた出来事や、世の中のニュースについて自分に置き換えて考えさせるのです。また、「自らの考えを評価し、まとめる力」を養うために、考えた結果を意見としてまとめ、語らせます。
子どもと一緒にテレビを観ているときは、絶好のチャンスです。例えば、ニュースで誰かの行動が取り上げられたのを観て、「この人がした行動について、どう思う?」「自分が同じ立場だったら、どう行動する?」などと語りかけることで、子どもに自分事として考えさせることができます。
難しいニュースでなくたってOKです。「メガ盛り天丼!」などの柔らかいテーマであっても、「〇〇ちゃんは、この天丼をどう思う?」と聞いてあげてください。「こんなに大きかったら誰も食べられないと思う」「私がシェフなら、かわいいミニ天丼をたくさん作りたい。だって、女の子のお客さんが増えそうだから」など、親が思いつかないような「考え」を述べてくれるかもしれませんよ。
考えをまとめる力は、ペーパーテストだけでなく、プレゼン力やコミュニケーション力にもつながります。家庭で何度も「考えをまとめる」練習をすることで、知らず知らずのうちに「思考力」がアップするはずです。
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今回の3つの例には、子どもの「思考力」を育てると同時に、親子でコミュニケーションがとれるという共通点があります。「思考力」を育てると同時に、子どもとたくさんの会話を重ね、子どもの考えていることを知ったり、新たな一面に気づいたりできるといいですね。
(参考)
文部科学省|大学入学共通テストについて
かえつ有明中・高等学校|かえつ有明の教育
ビジネスジャーナル|中学入試が大変貌…「21世紀型能力」問う適性検査型が激増、知識だけでは合格困難
首都圏模試センター|2018年入試では136校が「適性検査型入試」を実施!
Benesseマナビジョン“ミライ応援サイト”|大学入試はどう変わる?思考力・判断力・表現力編
Z-KAI|2021年度以降の新しい大学入試で問われる「思考力・判断力・表現力」とは?_2016.1