2018.4.11

【Education Now 第4回】“テレビ視聴”は悪ではない!? 日本語力を伸ばす方法

吉本智子
【Education Now 第4回】“テレビ視聴”は悪ではない!? 日本語力を伸ばす方法

海外で生活する子の学校生活での言語は、主に英語です。英語メインで生活する子たちが、日本語教育を進めていくわけですから、並大抵のことではありません。

そういった子どもたちを指導する中で、子どもたちそれぞれに応じた課題や取り組みを行っていますが、全般的に効果があったなと思うことを今日はお話します。

日本語と関わる機会を持ち続ける

海外でレッスンをしていると、「先生、うちの子本当に言葉を知らなくてびっくりします。」「日本語がどんどん抜けているようで心配です」といったことをよく耳にします。海外で生活しているわけですからこれは仕方のないことです。まずは身近なところで、必ず日本語に触れる習慣をつくることが大切です。

学校では英語でも、家では日本語で会話しましょう。両親が日本人の家庭の場合は問題ないと思いますが、ハーフの子の場合、日本語を話すのは日本人であるお母さん(またはお父さん)だけになってしまうかもしれません。しかしどんな環境であっても、どうか日本語で話すことを続けてほしいと思います。また、両親が日本人家庭の場合は、日本語で話すだけでなく、日本語の本の読み聞かせ、読書、テレビ、雑誌、日本の学習、習い事など、日本語と関わる機会を作り継続して下さい。

このことは、日本で生活する子どもたちにも言えることではないでしょうか? 子どもの「日本語力」を伸ばすには、上述したように親が「日本語と関わる機会」を積極的に作ってあげるべきだと思います

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テレビの効用~枠にとらわれずに日本語力をのばそう~

家庭で日本語を使っていても、その内容は、朝の準備に始まり、学校での様子、お風呂、夕食、「おやすみなさい」まで、けっこう決まっています。言葉を増やすことの1つとして、家族の会話や読書は勿論のこと、「日本語のテレビの視聴」もぜひ加えてほしいことの1つです。

私のレッスンに来てくれる子に「その言葉どこで覚えての? よく知っているね」と尋ねると「日本のテレビでやっていたよ!」と答えたことが多々あり驚きました。テレビについてのよさを以下まとめてみます。

語彙の多さ

テレビは情報の発信源でもあり、私たちが生活上使わない語彙も多く使用されています。現在私は、年中夏のような気候の地で暮らしているため、こたつにみかん、ストーブ、マフラー、雪合戦などという単語は使いません。また、「つるつる・ざあざあ」などの擬音語・擬声語は日本語の中には非常に多く存在しますが、こちらではあまり耳にしません。こういった普段使わない言葉が、テレビでは映像とともに使用されているので、どんなシチュエーションで使うのかがよくわかります。敬語についても、言葉で説明するより映像で見た方がわかりやすいです

発音やリズム

これが読書との違いで、文字だけでなく、実際に耳も使って言葉を学ぶことができます。例えば、「昨日おかあさんがあのお店でパンを買ったの」という文は、文字を読むことはできても、実際に日本語を耳にした経験が少なければ、うまく発音できないことがあります。特に助詞や句読点については、変にアクセントがついていたり、うまく間が取れなかったりすることが多いです。そのため、いろいろな日本語をインプットするには、テレビは効果的な方法だと思います

楽しく学ぶことができる

テレビを見る一番の目的は、学習のためというより、「娯楽」のために見ることが多く、自然と日本語が入っていきやすいです。テレビは内容の面白さや親しみやすさから、楽しみながら日本語の語彙が増えたり、日本文化の様子がわかったりすることも魅力的です。このようなことから、海外で日本語を学ぶ子どもこそ、日本のテレビが効果的だと思います。

実は私自身、育児や生活を営むうえで、どちらかといえばテレビは「マイナスなイメージ」がありました。しかし、お茶の水女子大学の菅原ますみ教授は、テレビが子どもに与える影響について「テレビの視聴時間が乳幼児の発達に及ぼすという大きな影響は、今のところ認められていません」と話しています。

また、菅原教授は、子どもと一緒にテレビを見て親子の会話の道具にする「対話的共有視聴」も紹介しています。これは、日本で生活する親子にも言えることですが、テレビをただ子どもに見せておくだけでなく、家族のコミュニケーションのツールとして「子どもの考え、感想」を引き出していけるとよいです

それに、知的な番組であれば、子どもの知識につながることも期待できます。NHKが実施している「子どもに良い放送プロジェクト」でも、近年のテレビの視聴の影響研究において、番組内容では「子どもの年齢にふさわしい教育的内容であればポジティブな影響があり、暴力的だったり性的な内容であったりすればネガティブな影響がある」と報告されています。こういったことからも、子どもの年齢にふさわしいテレビ番組を選ぶことも大切です。

海外の教育事情と日本の教育文化第4回

負荷=成長のチャンス?

インターに通わせ、日本の勉強も継続……となると、どうしても子どもにはある程度の負荷がかかってしまいます。

「海外で生活すれば、子どもはすぐに英語を習得できていいね」という声を耳にしたことがありますが、努力なしでは十分な英語は身につきません。海外生活が長く、英語に不自由しない子は、逆に日本語の習得に苦労しています。彼らの様子をみていて感じたことは、2つの言語を習得するというのはこちらが思っている以上に大変で、また親の協力やフォローも必須なのです

時に「小さい頃から英語も日本語もやって大変。かわいそう」。と思われることがありますが、「大変=かわいそう」なのでしょうか?「子どもへの負荷=成長するチャンス」でもあると私は考えています。

言語習得に限らず、チャンスをかなえるには、何らかの苦労や困難が立ちはだかることがあるでしょう。そういった壁に向かって努力することは、その子にとっての財産にもなりますし、困難を乗り越えたからこそ得られる喜びも大きいのです。負荷をただネガティブなものとして捉えるのではなく、それを自分のチャンスとして活かそうとすることで、今後の取り組み方や結果につながると思います。勿論、負荷に対して子どもの許容量を超えてしまった場合は、いったん休憩したり、変更したりという選択肢を子どもと親は持ち合わせることも必要です

日本で生活する子も、負荷を抱えている子はたくさんいます。受験勉強に勤しむ子、習い事に夢中な子、部活に熱心に取り組む子など、何かに向かって一生懸命取り組むことで子どもは成長していきます。チャンスは誰にでも与えられるものではありません。今ある負荷を自分のチャンスと捉え、最大限に活かしてみる。という考え方も、英語と日本語を頑張っている子どもたちと接してみて私が感じたことの1つです。

(参考)
日経DUAL | 「テレビ子守」 子どもへの影響は小さい?
NHK放送文化研究所|“子どもに良い放送”プロジェクトとは