教育を考える 2018.3.28

【Education Now 第3回】学習目的を理解し、子ども自身が目標を決めるということ

吉本智子
【Education Now 第3回】学習目的を理解し、子ども自身が目標を決めるということ

海外の学校に通う日本人の子は、何らかの方法で日本語教育を進めています。その目的は大きくわけて2つあると思います。

1つは、将来日本の学校に戻るため(親が日本人で、期間限定の海外駐在の場合が多い)、もう1つは、日本の学校には戻らないが日本語でコミュニケーションできるようにするため(海外永住者やハーフの子に多い)です。

この2つはゴールが異なるので、私は目的に合った指導を行っていますが、今回は、両者において共通なことをお話したいと思います。

学習を進めるときは、目的を理解し、目標を掲げて取り組もう

日本の学習を進めていくうえで、「なぜ日本の学習をするのか」その目的を、まずは子ども自身がしっかりと理解し納得することが重要です。特に、日本に戻る予定のない子であれば、どうして日本の学習をするのか不思議に思うかもしれません。きっとそこには、おうちの方の願いや想いもあると思います。すぐに理解はできなくとも、しっかりと子どもと向き合って話をしてあげてください。このことは、海外在住の子どもたちだけでなく、日本の子どもたちにも共通して言えることでしょう。

目的を理解した後は、「目標(=目的達成のための手段)」を掲げて取り組みましょう。目標は、やりがいのある大きなものから、すぐに取り組めそうなものまで、大切なことは子ども自身が考え、決めることです。例えば、漢検〇級の合格、音読を毎日行う、計算ドリルを1週間で〇ページ終わらせる、〇〇の時間は日本語を話すなど具体的でわかりやすいものがよいです。目標は、自分で紙に書いて貼ったり、言葉で言わせたり、生活の中で身近なものにして、すぐに振り返ることができるようにしましょう

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目標が達成されたときは、過程と結果を評価してあげましょう

目標(=目的達成のための手段)があることで、自分のやるべきことが明確になります。モチベーションが低下したときも、改めて日本の学習を行う意味を振り返ることができます。

大切なことは、その目標に取り組む過程を周りはしっかりと認めてあげ、伝えてください。時には進捗状況を見守ったり、声かけをしたりしましょう。子どもの頑張りを認めてあげることで、さらに頑張ろうという意欲につながります。そして、目標が達成されたときは、大いに褒めてあげてください。子どもは、褒められることが大好きで、大きな自信となります

あるハーフのお子さんで、日本のファーストフードに行ったときに「自分で料理の注文をする」という目標を持って学習に取組んでいる子がいました。控えめな彼女が実際、日本のお店で注文できたときは、ものすごく達成感があったようです。ただ単に注文できただけでなく、日頃の努力の積み重ねという過程があったからこそ、目標が達成できたことは大いに評価でき、彼女の自信になったと思います

海外の教育事情と日本の教育文化第3回2

日本のすばらしさを発見する、受け入れる、好きになる

1. 大好きな〇〇を見つけよう
日本の学習を継続するうえで、「日本に戻るから、親が日本人だから」という理由だけでなく、子ども自身が「日本」という国や日本の何かを好きになるとよいです。例えば、日本のアニメ、食べ物、人、言葉、ドラマ、バラエティなど、何でも構いません。そういったものがあるだけで、日本に行くときの「お楽しみ」ができるからです。

大好きな〇〇を見つけることの大切さは、日本で暮らす子どもたちにもいえることでしょう。電車や昆虫、動物など、大好きなことがあれば、それについて知識を得ようとするはずです

私は海外に来た最初の頃、現地の大学で日本語を教えていました。理系の大学で実験やテストも多く忙しい学生たちでしたが、単位に入らない日本語の授業を選択していました。指導していて一番印象的だったのは、「楽しみながら学んでいた」ことです。彼らは日本が好きということもあり、いつも目を輝かせていました。

学ぶきっかけとなったのが、「アニメ」という生徒が多く、アニメを見ながら日本語を覚えた生徒もいました。ひらがなが書けなくても難しい漢字が書けたり、日本人でも使わないようなマニアックなことわざを知っていたり、アニメで登場してくるフレーズを完璧に覚えていたり、日本語の入り方にルールはなく、夢中で取り組んでいました

「好きこそものの上手なれ」と言われるように、好きで夢中になれるもの、楽しみなことがあれば、また違った方向から学習を進めることができるのです

また、海外で日本の話をすると、身近なところでは、食べ物やテレビ番組は評判がよいです。私は日本育ちですので、母国の食べ物は大好きですが、日本に一度も行ったことのない人たちでも、食べ物の評判はよく、その美味しさ(味、見た目、食感)に感動したそうです。海外に来て改めて気づいた日本のよさの1つでした。

2. 日本の学校での発見

海外で生活する子どもたちが、日本を感じることのできる機会の1つとしておすすめなのが、日本の学校への体験入学です。短期でもよいので、ぜひ日本の学校へ体験入学してみてください。(詳しくは通う予定の学校またはその自治体の教育委員会学務課に問い合わせてみてください)

日本は義務教育の制度を設けており、教育を受ける権利が子どもたちにはあります。体験入学を経て子どもたちは学習だけでなく、学校生活全般を学んできます。何といっても、日本の学校は勉強だけでなく、掃除、給食当番、登下校、係……と、自分のことを子どもたち自身で行うことが多いです。ある教え子は、毎朝の縦割り(1年生~6年生まで)の集団登校が一番楽しかったと言っていました。

海外では治安のこともあり、スクールバスや親の送迎が多いですが、歩いて学校に通うのも道中の発見があり、新鮮だったようです。また、日本では自分の机や椅子が割り当てられることにも驚いていました(こういった辺り、現場の先生は大きさ調節、数の確保が大変です。日本の先生は教科指導以外の雑務が驚くほど多いです)。

日本の学校生活を送っていた私からすると、当たり前だったことが、彼らにとっては初めての貴重な経験になったようです。普段通っている学校とは異なることばかりだと思いますが、その違いを「新鮮、楽しい、面白い」とポジティブに捉えることができるのも、様々な文化が混ざり合うインターで生活している子どもたちならではだと思いました

私は、新学期の始まる9月に子どもたちから、日本の学校での様子を聞くのが毎年の楽しみになっています。日本の学校へ通うことは、教科の勉強をするだけでなく、日本文化を知るよい機会にもなるのです。

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次回は実際、特に効果のあった日本語教育の進め方についてお話していきます。