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教育を考える

子どもを「勉強好き」にするための、たったひとつの大切なこと。

2018年5月より隔週10回にわたり執筆してまいりました本連載「親子でススメ! シカクロード」ですが、実は今回の記事をもちましていったん完結となります。

これまで「子育てに役立つ資格・検定」「子どもに挑戦させたい資格・検定」「子どもの勉強について考える」などさまざまなテーマで書かせていただいてきましたが、本連載の締めとして、私から読者の皆様にひとつのメッセージを送らせていただきたいと思います。

それは、お子さんにもっと「勉強を好きになってもらう、学びを習慣化・継続してもらう」ためには、「親御さん自身が勉強している姿を子どもに見せること」が一番だということです。

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親が動けば、子どもも行動する

親御さんご自身も、子ども時代に「お父さんはいつも『勉強しろ』って言うけど、お父さんもいつもゴロゴロしているだけじゃん」なんて思ったことはないでしょうか? お父さんお母さん自身が何もしない状態のまま、ただ子どもに「勉強しなさい」「勉強は大事だよ」「勉強しないと将来苦労するよ」とだけ言っていても、説得力がまったくありませんし、お子さんが「じゃあ勉強しようかな」なんて思えるはずがありませんよね。

ぜひ親御さんご自身が積極的に、仕事に役立つビジネススキルを高めるための勉強をしてみたり、家事に役立つ生活のノウハウ、家計に関わるお金の知識を勉強してみるなど、日々新しい学びや、何か新しいことへのチャレンジを日常の中に取り入れてみていただければなと思います。

また、そうした学びのきっかけのひとつとして、資格や検定をぜひ効果的に活用してみていただきたいなとも思います。そもそもどんなことを勉強したらいいのかの指針になったり、試験合格という目標が学びのモチベーションを高めてくれたりといった、さまざまなメリットが資格・検定にはあります。

子どもを「勉強好き」にするための、たったひとつの大切なこと。2

みんなで取り組めば、もっとうまくいく

以前、こどもまなび☆ラボの姉妹サイト「StudyHacker」での連載にて、「あえて “団体戦” に持ち込んで、本気度を高める! 」という記事を書かせていただきました。この記事で書いたことをざっとまとめると、以下のような内容になります。

  • 入試や資格試験の受験生がいる家庭において、家族が受験生にしてあげられるサポートとしては、「勉強しやすい環境を整えてあげる」「勉強に効果的な夜食を作ってあげる」などいろいろなことが言われているが、究極のサポートは「家族も一緒にその試験を受けてあげる」こと。
  • 【メリットその1】お互いに教え合いができる。受験生がわからない箇所を家族がサポートするというのももちろん有効だが、もっと効果的なのが、逆に「受験生が家族に対して教える」ということ。「他人に教える」ことは最上の勉強である。
  • 【メリットその2】家族も「受験勉強の大変さ」を身をもって理解してあげられる。大変さ・つらさを家族も実際に共有することによってはじめて、心から受験生に対して激励やねぎらいの言葉をかけてあげられる。家族の連帯感や絆も深まる。
  • 【メリットその3】受験生に凄まじいプレッシャーを与えることができる。本当に合格しなければならない本人が落ちて、一緒に受けた家族だけが受かってしまった……なんてことがあってはならないので、これ以上ない奮起の材料となる。
  • 勉強はぜひ周りの家族や友人などを巻き込んで、勉強への本気度を高めたり、自分の行動を勉強へと向かわせるための仕掛けとしてうまく利用しよう。

ちょっと極端な話だと感じる人もいるかもしれませんが、「子どもにもっと勉強してもらうために親御さん自身も勉強する」というのは、まさにこういうことです。勉強に限った話ではありませんが、近しい人と一緒に、共通の目標に向かって何かに取り組むことは、すさまじい力やエネルギーを生みます。一人だけでやろうとするよりも、効率・モチベーション・継続力・楽しさなど、さまざまな面でメリットがあるのです。

子どもを「勉強好き」にするための、たったひとつの大切なこと。3

親子で進もう!シカクロード

私は長年資格マニアとしてさまざまな分野の資格・検定を受験し続けてきて、常々感じていることですが、世の中には私たちの想像以上に「こんな世界があったのか!」と思えるものごとやジャンルがたくさんあります。また、実用性はいったん度外視していろんな雑多な分野の事物にふれてみることで、一見何の接点もないように思える事象や概念の間に意外なつながりや関連性が発見できることもあります。

大人になると、世の中のことをもうだいたいわかったようなつもりになってしまいがちですが、きっとまだまだ、あなたの視野をもっと広げてくれたり、新しい世界を見せてくれたりするものが世の中にはたくさんあるはずです。

ぜひこの機会にお子さんとご一緒に、親御さんご自身も何か新しい学びをはじめてみませんか? 本連載が、読者の皆様の新しい一歩を踏み出すためのひとつの道筋となりましたならば、嬉しく思います。

末筆となりますが、最後までお読みいただきまして誠にありがとうございました! またどこかでお会いしましょう!

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あたまを使う プログラミング

2020年度からプログラミング教育必修化! その内容と身につけるべきスキルとは

2020年から、小学校の授業へプログラミング教育が導入されます。プログラマーになりたい子もそうでない子も一緒に教室で学ぶことに、疑問を持っている親御さまもいるかもしれません。

ご自身にプログラミングの経験がないと、プログラミングを工学系出身者やコンピュータ好きたちが操るツールだと思いがちです。しかし、プログラミングとは何を指しているのか、本来の意味を理解することで疑問をクリアにする糸口が見つかるかもしれません。

今回は、そもそもプログラミングとは何を指しているのかを説明し、またプログラミングから得られるスキルが将来どのような場面で役立つのかを考えてみます

プログラミングとは、してほしいことを相手へ正確に伝えること

プログラミングというと、キーボードでひたすら文字を打ち込んで、圧倒的なボリュームの英語や数式がズラっとモニターに表示されるというイメージを持っている人も少なくないでしょう。しかし、こうしたイメージは「プログラミング言語」を用いた「コーディング」を意味するもので、「プログラミング」自体を表しているわけではありません。

また、プログラミングが必修化になったからといって、「プログラミング」という教科が新しくできるわけではないのです。理科や算数など、すでにある教科の授業内でプログラミング的思考を学びます

そもそもプログラミングの「プログラム」とは、テレビ番組やコンサートの進行を「プログラム」というように、予定や計画をその通りに進めること。コンピュータプログラムもそのひとつで、コンピュータにさまざまな命令を正確に伝えて、その通りに動かすことを意味します。その動きがシンプルであれ複雑であれ、プログラムなのです。

プログラミングと聞くだけで「私は文系だから、さっぱり分からない」と、腰が引けてしまう人もいることでしょう。しかし、繰り返しになりますが、プログラミング自体はコンピュータにしてほしい動作を正しく伝えるために命令を出すことであり、プログラミング言語を使って命令を書き記す「コーディング」に限定したものではありません

プログラミングやIT関連の書籍も多い中央大学の岡嶋裕史准教授も次のように話しています。

世の中に浸透している「プログラミング=理数系」というのは、特に現状においては、正確性を欠く理解かもしれません。プログラミングは言葉(言語)で世界を把握しますから、言葉の運用がきちんとできるかどうかが鍵になります。

(引用元:Gakken Tech Program|なぜ子どもにプログラミング教育が必要なのか 中央大学 岡嶋裕史先生に聞きました!

むしろ筋道を立てて分かりやすく伝える「言葉」だという点では、伝えたいことを相手に正しく届けるために、内容をまとめたりかみくだいたりして書いたり話したりしますから、文系も得意な分野ではないでしょうか。

プログラミングを学んでおくと、将来こんなことに役立つ

プログラミングの考え方を早い段階で学んでおくと、将来、さまざまな場面で役に立ちます。

身近な例では、家庭で食事を用意するときにもプログラミングの考え方を応用することができます。食事を始める時間に合わせて主食、主菜、副菜を仕上げるためには、材料の調達や下ごしらえ、調理の順番などにかかる手順や時間を想定して、立てたプランの通りに進める必要がありますね。このような「段取り力」とプログラミングの考え方はよく似ています

また、IT化やAIの発達によって、難しい知識や操作を知らなくても誰でも簡単に使えるようなスマートフォンやスマート家電などの機械が普及しています。例えば、声に反応するAIスピーカーの中身について、プログラミングの存在を知らなければ得体の知れない魔法でしかないものが、プログラミングという概念を知っていることで、何らかの仕組みによって音声を聞き取って適切に処理しているのだというイメージにつながることでしょう。

子どもたちが社会に出て、やがて核となるメンバーになったとき、プログラミングとは何かを知っていることが大きな強みとなるのです。

プログラミングで身につく9のスキル

プログラミングを学ぶことが、実際に何かのスキルに結びつくことが分かっていれば、親としても子どもを励まし、サポートしやすいですね。

一般的に、「論理的思考(ロジカルシンキング)」が身につくと言われるプログラミングですが、ほかにもたくさんのスキルが身につくようですよ。

文部科学省の小学校プログラミング教育の手引(第一版)には、「プログラミング的思考」についてコンピュータを動かすための手順に即して次のように記されています。

コンピュータを動作させるための手順(例)

  1. コンピュータにどのような動きをさせたいのかという自らの意図を明確にする
  2. コンピュータにどのような動きをどのような順序でさせればよいのかを考える
  3. 一つ一つの動きを対応する命令(記号)に置き換える
  4. これらの命令(記号)をどのように組み合わせれば自分が考える動作を実現できるかを考える
  5. その命令(記号)の組合せをどのように改善すれば自分が考える動作により近づいていくのかを試行錯誤しながら考える

(引用元:文部科学省|小学校プログラミング教育の手引(第一版)

それぞれの手順にそって、身につくスキルを考えてみると、以下のように実にさまざまな力が養われるでしょう。

  1. 「思考力」や「表現力」
  2. 「予測力」や「論理的思考」
  3. 「想像力」や「実務遂行力」
  4. 「論理的思考」や「集中力
  5. 「分析力」や「検証力」

 
これらのスキルは理数系の教科に限らず、国語や英語などすべての教科で応用できるものであるとともに、実社会へ出てからも求められるものです。

さらに、子どもたちの「やる気」もアップさせてくれます。(この例でいえば)プログラムを組んで思ったとおりにコンピュータが動いたときの「やった!」「できた!」という達成感や成功体験は、最近の子どもたちに足りないと言われる「自信」や「自己肯定感」にもつながるでしょう。

***
プログラミングは、プログラマーを養成するための素養というわけではなく、これからの社会で子どもたちが活躍するための素養といってよいでしょう。各地で子ども向けのプログラミング教室が開かれていますが、子どもを通わせたいと考えている方は、その教室がコーディングのテクニックを重視しているのか、それとも「プログラミング的思考」を大切にしているのかどうかを見極めることをおすすめします。

(参考)
EDUPEDIA|なぜ小学校でプログラミング教育が必修化?「プログラミング的思考」を文部科学省の資料から読み解く
文部科学省|小学校プログラミング教育の手引(第一版)
Gakken Tech Program|なぜ子どもにプログラミング教育が必要なのか 中央大学 岡嶋裕史先生に聞きました!
EdTechzine(翔泳社)|どうしてプログラミング教育を小学校でやるの?――文科省の資料から読み解く実態

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体験学習 教育を考える

失敗を成長の糧にするためのポイント。親は我が子の失敗とどう向き合えばよい?

子どもには失敗よりむしろ成功体験を積ませたほうがいい。いや、失敗こそが学びの機会だ――。どちらの考え方も、よく耳にしますよね。

人生には失敗はつきもの。ですが、幼い子どものうちからどんどん失敗経験をさせたほうがいいのかと問われると、少し考え込んでしまう親御さんは多いのではないでしょうか。

親は我が子に、失敗とどう向き合わせればよいのでしょう。子どもが失敗した時、あるいは失敗しそうになったとき、親はどう関わってあげればよいのでしょうか。子どもの成長につながる失敗との付き合い方について考えてみます。

「失敗よりむしろ成功させるべき」は本当?

「子どもには、積極的に成功体験を積ませるべきだ」ということが良く言われます。その理由は、成功体験が自己肯定感を育むことにつながるから。

自己肯定感とは「自分は大切な存在だ」と感じる感覚のこと。子どもの自己肯定感を育むには、乳幼児期のうちに大人がしっかりと子どもに向き合い安心感を与えたり、成功体験を積ませたりすることが大切だと言われています。

成功を重ねれば、自分はできるという自信が生まれます。これが自己肯定感です。自分を肯定する感情があると、さまざまなことにチャレンジする意欲が湧き、困難にも立ち向かえるようになるほか、いろいろな人と関わりながら多くの経験をすることができるのです。

このように、成功体験は子どもの自己肯定感につながるのですから、子どもに成功を経験させるのは当然大切であり必要なこと。しかしこれを聞いて、「ならば我が子には、失敗するようなことにはチャレンジさせず、成功できそうなことをどんどんやらせよう!」考えてしまうのはいささか短絡的です。なぜなら、「成功体験だけが重要であり、失敗させるべきではない」というわけではないからです。

失敗を成長の糧にするためのポイント。2

子どもの「失敗の機会」を奪っていませんか?

失敗は言うまでもなく、成長につながる学びを得る絶好のチャンスです。大人にとってそうであるように、子どもにとっても、失敗は大事な経験。失敗しない人生などありませんし、今は幼い子どもたちも、近い将来必ずどこかで失敗を味わう日が来るはず。そうなる前に失敗を経験しなかったら、本当に失敗してしまったときの対処の仕方を知らずに育つことになってしまいますよね。困難に直面した時にすぐ諦めるような子どもになってしまうかもしれません。

それなのに、成功体験を積ませたほうがいいからと、成功できそうなことばかりを選んだり、失敗してしまいそうなことを避けたりしている親御さんはいませんか? あるいは、まだ失敗してもいないのに、子どもが失敗しそうになっただけでつい声を荒げたり叱ったりしてしまってはいませんか?

もちろん、生命の安全に関わるような明らかな危険行為や、周囲の人や社会に迷惑をかけるような行為をしでかすことは避けるべき。しかし、「自分でチャレンジしてみた結果、失敗を経験する」ということは、長い目で見て必ず子どもの成長の糧になります。もし、子どもの成功を追い求めるあまり失敗を避けていることに気づいたのなら、成功体験だけでなく失敗経験も同じぐらい大事だということを、理解したほうがよさそうです。

失敗を成長の糧にするためのポイント。3

子どもの失敗とどう向き合うか

ではここからは、子どもにはどのように失敗を経験させればいいのかを考えてみましょう。

■ 「前向きな失敗」を経験させよう

子どもに、自分が夢中になれることにチャレンジする過程で失敗を経験させてみましょう。自分の好きな分野で何か目標を決め、「これを頑張る!」ということを宣言させます。宣言させたら、失敗を含めたチャレンジの過程を見守るのです。

好きなこと、興味があること、自分から進んで取り組めることなら、何でも構いません。自転車の練習、料理のお手伝い、習い事のダンスレッスン、新しい漢字を覚えること……。好きなことなら、失敗しても前向きにまた頑張れるはず。失敗してもチャレンジを続けることで、忍耐強く取り組む姿勢を養うことができるでしょう。

■ 子どもが失敗した時の対処法

自転車の練習をしていて何度も転ぶ。お母さんの料理を手伝ったらお皿を割ってしまった。先生のお手本通りにダンスが踊れない。なかなか書けるようにならない漢字がある……。そんな子どもの失敗に、親はどう対応するべきでしょう。ポイントを3つ紹介します。

1. 必要以上に叱らない

「だから言ったでしょう」「こんなに難しいこと、どうせできないのに」。子どもが、自分の身の丈に合わない無謀な挑戦をしている時や、親が困るような失敗をした時、つい子どもの失敗を叱責してしまうのはよくあることでしょう。できもしないことをやろうとして案の定失敗すると、否定的な言葉を言ってしまいたくなるものですよね。

そんな場合でも、すぐさま子どもの失敗を責めたり必要以上に否定したりしないようにしましょう。子どもは、失敗を恥だと感じ、チャレンジ精神を失ってしまいかねません

2. 失敗がすぐさま成長につながるわけではないと心得る

子どもが同じ失敗を繰り返すと、「何度同じことを言わせるの!」「昨日も同じ失敗したじゃない」などと言ってしまうことがあるでしょう。ですが、子どもにとってこの言葉はあまり意味がないかもしれません。

教育評論家の親野智可等氏は、「子どもは本質的に自己改造への強烈なモチベーションを持つことができない」のだと言います。大人なら、失敗したことを反省し、次からは気を付けて行動することができますよね。ですが子どもは、失敗をすぐに次につなげられるとは限りません。自分の将来や人生のことを真剣に考えられるような年齢でないと、失敗を糧に成長しようという意識を持つことができないのだそうです。

親にしてみれば、「失敗したのだから次は失敗しないように気を付けてほしい」と思うものですが、子どもはすぐに成長できるわけではありません。長い目で見れば、いつか失敗しなくなります。そのことを心得ておけば、子どもの失敗を必要以上に責めることもなくなるのではないでしょうか。

3. 具体的にアドバイス&努力とプロセスは評価する

失敗からすぐに学べないとはいっても、失敗したからといって放っておけばいいというわけではありません。失敗しなくなるような工夫をしてあげたり、的確なアドバイスをしてあげたりすることは大事です。「手に泡がついたままお皿を持つと、すべって割れちゃうよ」「先生のダンスと○○ちゃんのダンス、ビデオで見比べてみようか」など、どうしたら失敗しなくなるのか、どうすれば次はうまくいくのかを、具体的に伝えるのです。

子どもを励ますつもりで、「あなたならできるよ」「○○ちゃんは頭が良い子だから、次は間違えないで答えられるよ」などと声をかける親御さんもいるかもしれません。しかし、これらのような才能・人格を絡めたコメントをするのは避けるべき。また同じ失敗をしたときに、「自分にはやっぱり才能がない」と考え、挑戦するのを止めてしまう可能性があります。

その代わりに、「今日は1時間も集中したから、昨日に比べて上達したね」といったように、たとえ失敗したのだとしても努力したという事実は評価してあげましょう。そうすることで、時間と努力を重ねれば失敗を乗り越えられる、と信じることのできる子どもになります。困難にも粘り強く取り組める心を養うことができるでしょう。

■ 親が失敗談を話す

失敗に価値があることはわかっても、やはり失敗させたくないことはありますよね。学校に行くときは忘れ物をしてはいけない。お友達に乱暴なことを言ったら、人間関係が壊れてしまう――。そんな場合は、親が失敗談を話してあげることをお勧めします。

子どもの頃の失敗談でも、最近の失敗でもいいでしょう。「この間、買い物に行ったのにお財布を家に忘れちゃったの。あの時は、買い物しないまま帰るしかなくて困ったよ」「子どものころ、友達にひどいことを言っちゃって。相手を傷つけてしまったことを今でも後悔しているんだ」などと話せば、子どもにとって良い教訓になります。

親は子どもにとって、何でもできるスーパーマンのような存在。そんな親でも失敗することがあるんだと分かると、子どもも安心してチャレンジしてみようと思えるでしょう。子どもは親への親しみや信頼をより強く感じるようになり、素直に学ぼうとしたりもするはずです。

***
子どもに成功を味わわせたいからといって、失敗を避けていてはいけません。親と子どもが一緒になって失敗と上手に向き合うことが、失敗を恐れずチャレンジする子どもを育てるために大事なことなのです。

(参考)
ベネッセ教育情報サイト|大人になった時に影響が?!子どものうちに自己肯定感を高めよう!
PHPファミリー|子どもが失敗したときのお母さんの話し方
教育研究所ARCS|子どもにたくさんの失敗を経験させよう
ベネッセ教育情報サイト|子どもの成長の糧になる「失敗」とは? 専門家がアドバイス
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「あなたはそのままで素晴らしい!」子どもの社会的成功につながる “非認知能力” を育む4つのポイント
PRESIDENT Online|親が「言えばわかる」子どもなどいない
東洋経済ONLINE|「子どものうちなら短所は直せる」というウソ
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|今日から実践! 子どもの可能性をぐんぐん伸ばすための「言葉かけ」
東洋経済ONLINE|「親の失敗談」が子どもの”最高の栄養”になる

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からだを動かす スポーツ 教育を考える

子どもには「経験」から自主性を伸ばしてほしい――パラリンピック金メダリスト・土田和歌子さんインタビューpart4

車いすアスリートとして第一線で活躍する土田和歌子さん。高校2年生の時の交通事故によりその後の一生を車いすで過ごすことを余儀なくされたものの、今ではパラアスリートとして国内外の大会に出場し、活躍を続けています。そんな土田さんが持つもう一つの顔は、一人息子の母という顔。普段、練習や試合で一緒にいられないことも多いなか、現在11歳になる息子さんとどのように接しているのでしょう。また、土田さんの考える、子どもの自主性を伸ばすために大切なこととは何でしょうか。お話を伺ってきました。

構成/岩川悟 取材・文/田口久美子 写真/榎本壯三(メインカットのみ)

子どもの成長とともに親にも気づきがある

――土田さんには様々な挫折を乗り越えてきた経験がありますが、たとえば子どもにも挫折と向き合わなければいけない場面があると思います。そういうときに、親としてどのように接するべきだと思いますか?

土田さん:
わたしの母は非常に気丈な人。わたしの子どもの頃には父は闘病していましたので、母が生活を支えなければならない状況でした。そう考えると、母は父親の役割をも果たしていたと言えます。わたしが障害を抱えたときも、わたしの前では涙を見せたことはなく、こういうときはこうするべきという方向性を示し、わたしのために最善をつくしてくれました。その背中を見てきましたが、もちろんわたしもまだその頃は子どもでしたから母とぶつかることもありました。わたしの母はどちらかというと口うるさいほうで……(苦笑)、正直、そばにいて鬱陶しいと思ったこともあります。でも、すごく前向きで真面目な人でしたから、どんなときでもなにごとにも一生懸命に取り組む姿はわたしにとっても励みになったと思っています。

それから、わたしが怪我で挫折したときに「この人は自分の味方なんだ」ということをストレートに感じさせてくたことも大きかった。「いまは忙しいから」などといい加減な対応はせず、話を聞いて一緒に考えてくれたのです。

――子どもが落ち込んでいるとき、親は目標になる存在であったり、方向性を示してあげたりするのが大事になるということですね。

土田さん:
わたしもいま子育てしている最中で、子どもの年齢によって大変さは変わってきますね。まだ自立できていない幼児の頃は、まずどうやって次の成長に結びつけていくかを考え親がどう手助けをすればいいかを考えていました。それからある程度人間形成されてくる小学生くらいになってくると、自分の考えを子どもに伝えても、なかなかそれが反映されないことが増えてきます。そういったなかで、「人それぞれ性格もちがうのだから、子どもの人格を尊重してあげないといけない」という気づきをもらったのです。そう考えると、自分自身が子育てによって成長させてもらっている部分は多いと思います。もちろん、まだまだその過程にあるわけすが(苦笑)。

自分が想像し得ないところで、子どもが悩んでいたりすることもあります。わたしからすると、「どうしてそういうものの考えになるんだろう?」と思うくらいネガティブなときもあるし、そこから切り替えができない時間が長く続くことだってある。わたしには「こうしてきた」というわたし自身の経験がありますが、子どもにはわたしの経験がそのままはあてはまりません。これはどんな親子でも同じだと思いますし、どう対応していくのかを日々考えなければならない。結局は、お互いに寄り添わないといけないし、寄り添いながら答えを見つけていくしかありませんよね。

子どもには「経験」から自主性を伸ばしてほしい2

スポーツは心にストレスを抱えてまでやらなくていい

――アテネパラリンピック後に、元スピードスケートの選手だった高橋慶樹さんと結婚され、翌年に息子さんが誕生していらっしゃいますね。現在11歳になられたということですが、物心がついていろいろなことがわかってくると、お母さんが車いすに乗っていることに疑問を持ったりすることがあったのではないかと思います。そのあたりは、どのように対話されていったのでしょうか。

土田さん:
自分の障害について説明はしましたが、それ以上特別なことはしませんでした。単に、日常生活のなかでなにができてなにができないのかをそのまま見せるようにしたのです。日常のわたしを見て、できないものに対してのサポートが自然とできるようになってくれるといいなと思っていた程度です。

――お母さんができること、できないことを自然に学んでいったということですね。

土田さん:
息子が赤ちゃんの頃はまだ良かった。ちょこまか動き回らないので、車いすでも問題なく対応できていたからです(笑)。ただ、歩きはじめるようになってからは、「車いすでなければ」と思うことも多く、悔しい思いもありましたよね……。少し成長してくると、子どもながらにいろいろなことがわかってきて、「この作業は手伝ったほうがお母さんは楽なんだろうな」と思っても、あえて手伝わないということが子どもにもあるように思います。それは子ども心から生まれる親への甘えかもしれませんし、「お母さんできるでしょ!」ということなのかもしれません。

――息子さんは、おふたりのどちらの性格に似ているのですか?

土田さん:
完全に慎重派の主人のほうだと思います。ですから、とにかくポジティブで「ポジティブモンスター」であるわたしには理解不能(笑)。息子を見ていると非常に緊張しやすい子なのだと感じます。おそらく想像力が豊かなのだと思いますが、ポジティブな想像力ならいいのですが、どちらかというとネガティブな想像力が働くようですね。「失敗したらこうなる」とか、すごく深いところまで考えてしまうのでしょう。

――ポジティブモンスターであるお母さんとは、全然タイプがちがうわけですね。

土田さん:
びっくりするぐらいちがいますよ(笑)。

――息子さんはスポーツはなにかやっているのですか?

土田さん:
小学校1年生の頃、体があまり丈夫なほうではなかったので水泳を習わせました。それはいまでもずっと続いていますね。ただ、小さい頃からわたしの厳しい合宿に帯同させてその様子を見せてしまっていたので、その影響があるのかどうかわかりませんが……他の競技はあまりやりたがらなかったんです。わたしも、本人に「やりたい」という意思がなければ強制することはしませんでしたしね。ただ小学校5年生くらいになったときに、友だちの影響でサッカーに興味を持ちクラブチームに入りました。ですが、すでに小学校低学年からサッカーをやっていた子とは技術的な差がありましたし、怒るような厳しい指導が性格的に合わなかったようです。

わたし自身は、小学校のときからミニバスケットボールをやっていました。厳しい局面にあっても続けていくことでいろいろと吸収できるものもあるし、イヤだと思っても練習に行くことで克服できたり改善できたりすることもあったので、とにかく続けていくことが大事なのだと最初は思っていたのです。しかし、よくよく考えてみるとそれが間違いだと気づきました。スポーツは、心のストレスを抱えてまでやるものではないと思ったからです。結局いまは、サッカーはプレーしていません。それでもサッカーは大好きで、試合をよく観ていますし、選手のことを調べたりサッカーの情報収集をしたりしていますね。息子は、選手よりもサポーター向きだったのでしょう。

――子どもにスポーツをやらせたい親御さんは多いですが、子どもへの押しつけになってしまうのはよくありませんよね。得てして親のほうが夢中になってしまうことも多いですが、子どもがイヤな思いをしてスポーツを行うのでは、スポーツそのものが嫌いになってしまいます。スポーツへの関わり方は、選手でなくても興味を持ってファンとしての関わり方もありますね。

土田さん:
わたしもいまではそういうふうに思えるようになってきました。わたし自身もずっとスポーツをやってきていたので、最初はなぜその壁を越えられないのかわからなかったんです。厳しさも自分の気持ちで越えるものではないかと感じてしまう節があったのですが、やはり子どもにもひとりの人間としての人格があるし、人は誰もが同じではないのですよね。わたしができたからといって、子どもがアスリートになるわけではありませんし、それはどんな親子の関係でもあてはまるものだと思います。

子どもには「経験」から自主性を伸ばしてほしい3

子どもの自主性を伸ばすカギ

――土田さんは、子どもの自主性を伸ばすにはどのように対応されていますか?

土田さん:
わたしが尊重しようと思っているのは、息子の意見をちゃんと聞こうということ。子どもにだって言いづらいことはたくさんあると思いますし、特に息子はそういうことを自ら言い出せるタイプの子ではありません。逆にわたしはせっかちで早く回答がほしいタイプ(笑)。ですから、息子からの答えが出るまで我慢して待つことを意識してやっています。その段階を経たら、あとは子どもが自分で悩みや課題を克服できるように見守ってあげればいいと考えています。

恵まれていたことに、子育てに関しては夫婦ふたりだけでなく、多くの人のサポートを得ることができました。息子はわたしと合宿や遠征をともにするなかで、幼少期から誰よりも多くの大人と接して過ごしてきた時間があります。「三つ子の魂百まで」と言いますが、多くの人からたくさんのことを吸収させてもらい、そうした人たちにも育ててもらった。息子はすごく心優しい性格をしているのですが、おそらくそうした要因も彼の人格形成に役立ったのではないでしょうか。

――子育てをしながら海外遠征や合宿を両立されていたので、苦労もあったかと思います。そんななか、海外での英会話を使ったコミュニケーションはいかがでしたか?

土田さん:
英会話はもともと得意ではありませんでした。それこそ、最初に海外に行ったときはノルウェーのパラリンピックの大舞台でしたし、コミュニケーションには非常に苦労しましたよ。そのときは、身振り手振りでなんとか乗り切った記憶があります……(笑)。

――昨今、スポーツもジュニア世代から海外で活躍する子どもたちが増えました。海外で活躍するグローバルな人になるには、どういう資質が必要になると見ていますか?

土田さん:
わたしも言葉(外国語)ではとても苦労しているので、言葉でコミュニケーションがとれるようになることが一番の理想でしょうね。ただ、たとえ外国語が苦手でも「伝えたい」という気持ちがあれば、恥ずかしがらずに自分を表現していくことでコミュニケーションがとれることも多々あります。ですから、グローバルな人間として活躍するのは、まずは臆せずに前に進んでいくことが必要になってくると思います。その勇気があれば、世界はどんどん身近なものになっていくでしょう。

わたしはいまも英会話が得意ではありませんが、外国の選手たちと顔見知りになったし、たくさんの友人もできました。いろいろな経験を積むことによって対応できることが増えていくことは、わたしの経験が証明しています。これからの子どもたちには、好奇心をもってあらゆることにチャレンジしてほしいですよね。

もし将来的に海外でチャレンジしたいという夢があるのならば、小さい頃から英会話は学んでおいたほうがいいでしょう。息子もいま英会話を習っています。わたしのホノルルマラソン大会に帯同した際に、仲の良いアメリカの選手の子どもたちと遊ぶ機会があったのですが、自分の言いたいことが伝えられなかったということから、自分から「英会話を習いたい」と言い出しました。性格はシャイなところがありますが、自分がそういう経験をしたことで英会話スクールに通いたいという自主性が芽生えたのでしょう。そういう意味では、海外での経験は大事なことだと思いましたよね。なんのために、なにをしたいから海外に行くのかという目的ができれば、英会話だってなんだって、子どもはどんどん自主的にやりたいと言い出すものだと実感しました。

■ パラリンピック金メダリスト・土田和歌子さん インタビュー一覧
第1回:試練を乗り越えるための「ポジティブ・モンスター」という生き方
第2回:挫折を乗り越え夢を叶えた、私のアスリートとしてのトレーニング法
第3回:母から学び我が子に伝える、強い体をつくるバランスのいい食事
第4回:子どもには「経験」から自主性を伸ばしてほしい

【プロフィール】
土田和歌子(つちだ・わかこ)
1974年10月15日、東京都出身。高校2年時に交通事故で脊髄損傷を負い、車いす生活となる。翌年の秋にアイススレッジスピードスケートの講習会に参加し、約3カ月後のリレハンメルパラリンピック(1994年)に出場。4年後の長野大会では、1500メートル、1000メートルで金メダルに輝き、100メートルと500メートルでは銀メダルを獲得した。その後は陸上競技に転向し、2000年シドニー大会では車いすマラソンで銅メダル、2004年アテネ大会では5000メートルで金メダル、マラソンで銀メダルを獲得。2007年にはボストンマラソンで日本人では初めて優勝する。今年4月のボストンマラソンでは5連覇を達成。大分国際車いすマラソン大会では6度の優勝を誇る。現在は、競技を車いすマラソンからトライアスロンに変え、新たなチャレンジをしている。

【ライタープロフィール】
田口久美子(たぐち・くみこ)
1965年、東京都に生まれる。日本体育大学卒業後、横浜YMCAを経て、1989年、スポーツ医科学の専門出版社である(有)ブックハウス・エイチディに入社。『月刊トレーニング・ジャーナル』の編集・営業担当。その後、スポーツ医科学専門誌『月刊スポーツメディスン』の編集に携わる他、『スピードスケート指導教本[滑走技術初級編]』((財)日本スケート連盟スピードスケート強化部)などの競技団体の指導書の編集も行う。2011年10月「編集工房ソシエタス」設立に参加。『月刊スポーツメディスン』および『子どものからだと心白書』(子どものからだと心連絡会議)、『NPBアンチドーピング選手手帳』((一社)日本野球機構)の編集は継続して担当。その後、『スピードスケート育成ハンドブック』((公財)日本スケート連盟)の他、『イラストと写真でわかる武道のスポーツ医学シリーズ[柔道編・剣道編・少林寺拳法編]』(ベースボール・マガジン社)、『日体大ビブリオシリーズ』(全5巻)を編集。現在は、スポーツ医学専門のマルチメディアステーション『MMSSM』にて電子書籍および動画サイトの運営にも携わる。

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教育を考える

新・子育て習慣に! 子どもの自己肯定感が向上する「ほめ写プロジェクト」

海外のドラマや映画を見ていると、家に家族写真がたくさん飾られている場面がよく映し出されます。それらが家庭円満の象徴としてハッピーオーラを醸し出し、見た人は潜在的にその家庭の幸せを感じ取るのですが、実はそれは漠然とした感覚ではなく、家族に、特に子どもにもたらす影響が少なからずあることが最近注目され始めました。

今回は2018年夏に本格的に活動を開始した、子どもの自己肯定感を高める「ほめ写プロジェクト」についてご紹介します。

自己肯定感が低い日本の子どもたち

内閣府の満13~29歳の若者を対象にした意識調査(平成25年度)によると、調査対象世界7カ国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン、韓国、日本)の中で日本人の自己肯定感は圧倒的に低いことがわかりました。他国が軒並み7割以上なのに対して、「自分自身に満足している」日本人は45.8%に留まったのです(最高値はアメリカの86%)。ということは、半分以上の若者は自分に自信がない……。

謙虚な日本人とはいえ、グローバル社会で生き抜いて行くために自信を持って堂々と行動できる力がより必要とされるこれからの世の中、これは大きな問題と言えるでしょう。

自己肯定感の影響と親の役割

自己肯定感は行動意欲に直結しているため、それが高いということはチャレンジ精神に富んだプラス思考の努力できる子です。逆に自己肯定感が低い子は自信のなさからやる気を失い、忍耐力や持続力も減退しがちです。そのままでは将来にも大きく影響してしまう心配があります。

自己肯定感を育む環境は、家庭はもちろん学校や地域などの役割もとても重要です。また、自分の力を認めることができて、他人の価値観に必要以上にとらわれないようになるためには、乳幼児〜小学生までの間がとても大事。そして家族で過ごす時間が多いほど、親に理解してもらえているという“安心感”を得やすく、「自分は大切な存在」という意識が高まるのだそうです

しかし、子どもの自己肯定感について重要だと認識している親は95%もいるのに、その大切さをわかっていながらも約6割の人はそれを育むための具体的な行動をとっていないそうです。それは具体的対策がわからないからなのではないでしょうか。その一助になりそうなのが「ほめ写プロジェクト」なのです。

子どもの自己肯定感が向上する「ほめ写プロジェクト」2

「ほめ写プロジェクト」とは

「ほめ写」とは、子どもの写真プリントを家の中に飾り、それを見ながらほめてあげる新しい子育て習慣のこと。

(引用元:写真が子どもの自信をひきだす ほめ写プロジェクト|「ほめ写」とは?

<プロジェクトの経緯>

プロジェクト主導者である教育評論家・親野智可等(おやのちから)氏が注目したのが“写真の力”です。元々小学校教諭だった親野氏はたくさんの家庭を見てきて、自己肯定感が高い子の家庭には写真が貼られていることが多いことに気づきました。そこから脳科学者である篠原菊紀氏、臨床発達心理士の岩立京子氏とともに富士フィルムなどの賛同企業を得て、親子の意識調査や“写真でほめる”ことが脳に与える影響など、科学的検証と研究を続けました。

2018年1月末から約3週間、「ほめ写」体験者と非体験者を対象に行った調査では、脳科学の面からもその差が認められました。体験者の方が心地よさのバロメーターである脳の腹内側前頭前野が明らかに活性化していたのです。また、この部分は脳のメモ帳と言われる「空間認知的ワーキングメモリ」に関連していて、入ってきた情報を脳にインプットし、過去の記憶と照らし合わせて情報を整理しているのだそう。それはつまり、「自分により興味を持って写真を見る」「自分自身をイメージして心地よくなる」ということで、これが自己肯定感を育むのだそうです。

さあ、「ほめ写」に挑戦してみよう!

「ほめ写」は簡単です。子どもの写真を撮って、目立つところに飾るだけなのですが、気をつけるポイントが3つあります。

1. 愛されていることが実感できる写真を撮る

楽しそうな笑顔の写真、頑張っている姿、兄弟の仲良し写真などが最適です。

2. 子ども目線で飾る

子ども目線の高さに大きめの写真を飾るといいそうです。枚数は10枚くらいがいいとか。特にいい写真は大きめのA4サイズ程度を推奨されています。スペースが限られる場合は、複数の写真フレームが連結しているコラージュフレームなどを活用して楽しげに飾るのも良さそうですね。

3. 写真を見ながらほめる

飾るだけではなくて、最大のポイントはその写真を見ながら会話し、ほめてあげること「頑張ったね」などその時のことを話すだけではなく、「生まれてきてくれてありがとう」「あなたのことが大好きよ」などその子の存在を肯定するような言葉をかけてあげましょう。飾る写真も季節やイベントごとに入れ替えると、話題も増えていいですね。

楽しげな写真は子供だけでなく、イライラしがちな親への幸せのリマインドにもなりそうですね。

***
子どもの自己肯定感が下がるタイミングは小学校低学年なのだそうです。これは、ある程度ものごとがわかるようになる時期に入学して、運動能力や勉強などで人と自分を比較し始めるから。親を見ていて、謙遜を美德とし、強い自己主張を嫌う日本人気質を感じている側面もあるでしょう。その最良の対策が「ほめること」。ほめられた子は素直な気持ちになり、他人にも優しくなれます。オープンな心持ちでポジティブに頑張れる人へ成長できるはずです。その「ほめる」きっかけをくれるものとして、「ほめ写プロジェクト」はとても素晴らしいと思います。

思い出してみると、アメリカ人は本当にほめ上手。家庭に飾ってある多くの写真といい、このプロジェクトを知って、アメリカ人の自己肯定感の高さは理に適っていると腑に落ちました。簡単に誰でもすぐに始められるのが最大の魅力の子育て新習慣、これからたくさんの家庭に浸透していきそうです

(参考)
写真が子どもの自信をひきだす ほめ写プロジェクト
PRTIMES|写真を貼ると、子どもの“自己肯定感”が向上することが明らかに 「写真でほめる」という、子育て新習慣の啓発活動「ほめ写プロジェクト」本格始動!
内閣府|平成26年版 子ども・若者白書(概要版)|特集 今を生きる若者の意識〜国際比較からみえてくるもの〜
国立青少年教育振興機構|自己肯定感とは
ベネッセ教育情報サイト|大人になったときに影響が?!子どものうちに自己肯定感を高めよう!

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ケガをしにくい体に! 柔軟性が子どもにとって大切な理由

オリンピックやW杯などのテレビ中継を見ていると、一流のスポーツ選手がウォームアップしている動きは非常にしなやかで滑らかなことに気づきます。いっとき、「180度開脚」のような体の柔軟性を高めるストレッチが流行りましたが、大人は体を柔らかくするのに努力し続ける必要があるのに対して、小さな子どもはやり方を覚えれば簡単に開脚できるようになります。

しかし、成長とともに子どもの柔軟性は低くなり、気がつけば大人と同じように「いたたた」と悲鳴を上げ、こんなはずでは……となることも。体の柔軟性はアスリートだけに求められるものではなく、広く私たちの健康づくりにも必要な要素です。体が柔らかいことでどんなメリットがあるのか、体を柔らかくするための方法について紹介します。

体が柔らかいとこんなにメリットいっぱい!

「まっすぐに立ち、上体を前へ倒しながら膝を曲げずに手を床につけることができない」
「かかとを床につけたまま、しゃがむと後方へ倒れてしまう」

これらは体が硬い人におなじみのエピソードですが、最近では子どもたちの間にも多く見られるようになっているようです。そもそも「体の柔らかさ」とは、

体力の一要素であり、筋肉と腱が伸びる能力のこと。動きのしなやかさだけでなく、傷害の予防などにも関係する。

柔軟性は筋肉と腱が伸びる能力のことで、筋力・瞬発力・持久力・調整力とともに基本的な運動能力のひとつとされています。

(引用元:厚生労働省|柔軟性

とあります。筋肉や腱がよく伸びることは、力強さ、すばやさ、粘り強さ、バランスなどと同じスポーツに欠かせない能力のひとつで、「しなやかな動き」と「ケガの予防」に関係します。例えば、プロスポーツ選手の試合を観戦しているときに、以下のようなシーンを見たことはないでしょうか。

〇野球

内野ゴロを3塁が受けたものの1塁へ悪送球してしまい、1塁野手が片足をベースに乗せたままもう片方の足を大きく開いて球を受けたので、ランナーはアウトになった。

〇サッカー

敵のロングパスを途中で遮るために走り込んで来たDFの選手が足を振り上げて、ボールを止めた。

これらの動きがスムーズにいくのは、プロスポーツ選手の技能はもちろんですが、体の柔軟性が高いことも大きく関連しています。このほか、バドミントンやテニスでは、肩甲骨を柔らかく動かせることで威力あるスマッシュやサーブを繰り出すことができます。

また、クラシックバレエ講師の山口先生によると、体が硬いということは、筋肉がこわばって関節が動きにくくなっているので、ちょっとしたことで怪我をしやすい状態なのだそう。その上、肩こりや腰痛などの痛みも生じやすかったり、血流が滞ってしまい体が冷えやすくなったり、疲れが回復しづらかったりすると言います。

体が柔らかいということは、スポーツをするにも有利でケガをしにくいだけでなく、日常生活の健康に大切な血行や代謝の向上というメリットもあるのですね

柔軟性が子どもにとって大切な理由2

体を柔らかくするオススメの遊び5つ

実際に、子どもたちの体を柔らかくするための方法について、遊びを取り入れた運動をご紹介します。

大人のようにストレッチをすることが難しい幼児期の子どもには、遊びを取り入れた方法がおすすめです。ここでは、幼児向けの音楽教室や体育教室でおなじみのKAWAIで紹介している方法を取り上げます。

○くるくるまわり

保護者はしゃがみ、子どもは立ち、向い合って両手をつなぎます。そのまま手を離さないで、上体をそらしてくるくるまわります。
♪なべなべそこぬけ♪ の歌に合わせてまわります。
「なべなべそこぬけ」両手を横にゆらす
「そこがぬけたら」まわる準備
「かえりましょ」手を離さないようにぐるっと半回転して、背中を合わせそのまま、また歌にあわせて両手をゆらし
次の「かえりましょ」 元にもどる

○ボートこぎ

親子で向い合い、互いに開脚の長座姿勢になります。(子の足は親の膝につけます)互いに両手をつなぎ、膝を曲げないように交互に後方に倒れたり、前屈したりします。

○足でタッチ

親子で背を向け、互いに長座姿勢をとります。(背中合わせにならないように間隔をあけます)両腕を横に開きながら互いにゆっくり後ろに倒れて、足の裏でタッチします。

○ボール渡し

親子で向い合い、少し離れて互いに長座姿勢になります。子どもから、膝を曲げないようにしてボールを手でころがします。1周まわしたら、交代して保護者も行ないます。

○ナワまわし

ナワの端を結び、丸をつくります。親子で向い合い、ナワをとおして互いに両手をつなぎます。手を離さないようにナワをくぐり、1周させます。

(引用元:KAWAI|子どもの運動Q&A「親子であそぼっ」 柔軟性

体を柔らかくするストレッチ3選

小学校低学年くらいになると、大人と一緒にストレッチができるようになるでしょう。

鳥取県 健康政策課が作成した、家庭や職場でできる『日常生活ストレッチング解説冊子』には、ふくらはぎ、太ももの内側、股関節、胸、腕のストレッチが紹介されています。

【ふくらはぎを伸ばす】

  1. 向かい合って、手のひらを合わせ、足を前後に開きお互いを押し合います。
  2. つま先がまっすぐ正面を向くようにします。

  3. 一緒に数を数えながら、手のひらで軽く押し合います。
  4. 足を変えて反対側も同じように行います。

 

【太ももの内側、股関節を伸ばす】

  1. お互い向い合い長座姿勢で足を開き、手をつないだ状態で体を前後に倒します。
  2. *子どもの身長に合わせ、足をほどよいところに置き、体を前後に倒します。

  3. ギッタンバッコンと交互に倒します。

 

【胸、腕を伸ばす】

  1. お互い右手と右手を合わせ、手のひらで軽く押し合いながら、体を外側に引き、胸を伸ばします。
  2. 手をつないだまま、追いかけごっこで相手のおしりにタッチすれば終了です。
  3. 反対側も同じように行います。

 
子どもと一緒にストレッチをするときに注意する点は、「勢いをつけて、はずみで伸ばさないこと」です。子どもは体がまだ柔らかい上に、お父さんやお母さんに褒めてもらいたくて無理をしてしまいがち。呼吸をしながらゆっくりと伸ばすように声をかけながら行なうようにしましょう。

***
親子でストレッチを行なうと、子どもの運動能力アップやケガ予防だけでなく、代謝アップによるアンチエイジングなど、大人にもメリットが多そうです。今回、紹介した遊びやストレッチは時間や場所を選ばないものばかりですので、親子のスキンシップを図りながら楽しくトライしてみてはいかがでしょう。

(参考)
NHK|クローズアップ現代+「子どもの体に異変あり ~広がる“ロコモティブシンドローム”予備軍~」
厚生労働省|柔軟性
exciteニュース|大人も子どもも柔軟性を高めたい!体が柔らかいことのメリットとは?
KAWAI|子どもの運動Q&A「親子であそぼっ」 柔軟性
鳥取県|健康政策課 日常生活ストレッチング解説冊子
厚生労働省|ストレッチングの実際

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あたまを使う 国語

宿題の定番「日記」を家庭でグレードアップ。書く力・基礎学力が伸びる「親子日記」の魅力

学校から宿題に出されることが多い「日記」。1行日記や絵日記などは、長期休みの宿題の定番ですよね。子どもの書いた日記に親がチェックを入れて返す、そんなプロセスを日課にしている家庭もあるはず。ですが、子どもの書いた日記を一応確認だけはするものの、それっきりになっているケースは多いのではないでしょうか。

実は日記は、家庭学習のツールとしても大いに役立つものだ、ということをご存じですか? 親子で一緒に日記に取り組むことは、親子間のコミュニケーションを促進するだけでなく、子どもにとって良い学習効果をもたらします。

そこでぜひ実践したいのが、親子間で日記を交換し合う「親子日記」。親子日記のメリットと実践のコツを紹介します。

親子日記とは?

親子日記とは、親子間で行なう交換日記のこと。子どもが「きょうは○○ちゃんと××をしてあそんだよ」と日記に書いたら、親がそれに返事をするような形で「○○ちゃんとよくあそんでいるね」「××であそんで、たのしかった?」などと書いて返します。親からの返事を読んだ子どもは、また返事を楽しみにしながら日記を書きます。親子日記では、こうして文章によるコミュニケーションをとっていくのです。

親子日記は、ひらがなを覚え始める未就学児の頃から取り組めます。とはいえ、子どもが未就学児のうちは「うちの子には日記を書くなんてまだ早い」と思う親御さんもいるでしょう。親子日記で書く文章は、はじめはシンプルなことを伝える1行だけで大丈夫です。覚えたてのひらがなを一生懸命使って書くのですから、たくさん書けなくてもかまいません。そのうち徐々に慣れていき、出来事の様子や自分の気持ちなどを少しずつ詳しく書けるようになっていきます。

書く力・基礎学力が伸びる「親子日記」の魅力2

親子日記で子どもの「書く力」が伸びる

日記は、その日の出来事や感じたこと、考えたことなどを自分の言葉で文章に書き表すもの。子どもが日記を習慣にすると、子どもの「書く力」が養われます。なかでも親子日記は、子どもの書く力をぐんぐん伸ばすパワーを秘めているのです。

教育評論家の親野智可等氏が、親子日記を実践していたある子どものエピソードを紹介しています。

親野氏が小学校の教員をしていた頃に受け持った、小学校1年生の女の子。その子は、幼稚園の年長の頃、仕事で帰りが遅く日頃直接話ができないお父さんと親子日記を始めました。最初は、お母さんに文字を教わりながらたった1行書くだけでしたが、毎日続けるうちにどんどん書けるようになり、1年後には大学ノート1ページ分を楽に書けるほどにまで書く力を伸ばしたのだそう。親野氏は、この子の小学校入学後の様子を次のように述べています。

小学校に入学して私が担任したのですが、彼女の書く力は抜群でした。
日記、作文、感想文など、なんでもぐんぐん書けました。
お話作文という名前でスピーチもやっていましたが、これにおいてもすばらしい表現力を発揮して、みんなを楽しませてくれました。

彼女は、それほどの力をつけるために、ものすごくがんばったわけでも、また苦しい目にあったわけでもありません。
ただ、お父さんのお返事がうれしくて毎日楽しみながら書いていただけです。
しかも、お父さんとの心の絆を深めながら。

(引用元:親力講座|親子日記、いつ始めるか? 今でしょ!

親子日記の文章を書くには、自分の言いたいことを、適切な言葉を使ってうまく表現し、親御さんに伝える必要があります。親子日記には、子どもの文章力、表現力、語彙力を楽しく高める効果が期待できるのです。

書く力・基礎学力が伸びる「親子日記」の魅力3

親子日記は学力向上にもつながる

親子日記によって伸ばせる「書く力」は、これだけにとどまりません。ベストセラー『東大合格生のノートはかならず美しい』を持ち、東大合格生の子ども時代のノートを多数分析してきた太田あや氏は、親子日記によって子どもの「丁寧に文字を書く力」「ノートを書く力」を伸ばすことができると言います。

太田氏は、ノートを書く力のことを「ノート力」と呼び、次のように説明しています。

良い授業を、教科書の新しい知識を、参考書の解説を、自分が理解しやすい、自分の頭に沿った形に整理して記す。これこそが「ノート力」です。東大合格生は、「自分が覚えやすい形で情報を整理するためにノートを書いている」と、小学生のうちからはっきり目的意識を持っていた人が多かったです。

(引用元:現代ビジネス|『東大合格生が小学生だったときのノート』の著者に教わる、親子で「ノート力」アップする6つの約束

このように、学力の向上に直結しているノート力。そのノート力の基本を身につけるのは小学生期です。この時期に、丁寧に書くことの大切さや書く楽しさを知り、書くことをいとわない子どもに育てるには、親子で一緒にノートを書くことが大切なのだそう。そこで親子日記が有効に働きます。

親が丁寧な字、正しい文章で、適切に改行も入れながら書いた読みやすい日記。そんな親の日記を見れば、子どもは字や文章を丁寧に正しく書くことの大切さに気づき、親の日記をお手本にしてもっと日記を書きたくなります

文字を丁寧に書き、学力の礎ともいえるノート力を身につけた子どもに育てる。書くことを楽しみ、書くことをいとわない子どもに育てる。そのために、親子日記は効果的なのです。

書く力・基礎学力が伸びる「親子日記」の魅力4

親子日記でコミュニケーションがさらに深まる

親子日記は、忙しくて親子の会話があまりできない場合でも有効なコミュニケーションツールであることは、すでに紹介した通りです。そんな親子日記を通じたコミュニケーションをより良いものにするために、ぜひ押さえておきたいことがあります。それは、親子日記で親が子どもにどのような返事を書くかということ。

それを心得るうえで参考になることを、一般社団法人教育デザインラボ代表理事の石田勝紀氏が解説しています。石田氏は、子どもが手帳に日々の「やるべきこと」を書き込み、実践具合を記録しながら子どもの自発的な行動につなげていく「親子手帳」を提唱している人物です。親子手帳では最低でも1週間に1回、親が子どもの取り組みに対しコメントを入れてあげるのですが、石田氏によると親のコメントは次の3つのポイントをおさえると良いのだそう。

  1. プラスの言葉でコメントする
  2. 使用する漢字、語彙を徐々に増やす
  3. 具体的にワンポイントアドバイスをする

 
2.についてはわかりやすいですね。親子日記も親子手帳と同様、漢字や語彙を増やす良い機会になります。残りの1.と3.については、親子日記に当てはめながら少し解説を加えます。

1. 子どもの日記の中で、子どもがきちんとできていないことを発見した場合には、そのことを指摘するのではなくちゃんとできたことを取り出して、ポジティブな言葉でコメントしてあげましょう。

(例)
×「字をもっとていねいにかいたほうがいいんじゃない?」
→◎「『手』のかんじがじょうずにかけたね」

3. 子どもがやるべきことをやらなかったときや、子どもに何かの行動を促したいときは、否定や強制につながるコメントをするのではなく、具体的にどうすればよいかをアドバイスしてあげてください。

(例)
×「きょうはなわとびのれんしゅうをしなかったね」
→◎「学校からかえったらすぐになわとびを30かいやろう!」

子どもの行動を見るとついダメ出ししたくなる親御さんは多いでしょう。しかし、否定的な言葉をかけたり書くこと自体を強制したりするのは良くありません。本来は楽しめるはずの親子日記を嫌いになってしまう可能性もあります。そうなればコミュニケーションどころではないですよね。子どもが楽しんで取り組めるよう、日記に書く言葉の選び方には少しだけ気を付けるとよいでしょう。

***
ポイントをおさえれば、楽しみながら子どもの書く力を伸ばし、ひいては将来の学力向上までもが期待できる親子日記。親子間のコミュニケーションにもうってつけです。書くのが好きなお子さんに育つ親子日記に、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。

(参考)
NIKKEI STYLE|小学生の学力、伸ばすには 親子日記でノート上手
現代ビジネス|『東大合格生が小学生だったときのノート』の著者に教わる、親子で「ノート力」アップする6つの約束
親力講座|親子日記、いつ始めるか? 今でしょ!
親力講座|親子日記は、書く力を付けるのに効果抜群
東洋経済ONLINE|自発的に動く子に!「親子手帳」という仕掛け

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イギリスでは「演劇」を通して文学を学ぶ! 総合的な能力を伸ばす演劇教育と “共通通貨” シェークスピア

前回は簡単にシェークスピアが英語圏でどのような意味を持っているのかについてお話ししました。人気アニメ・ポケモンのセリフにも登場し、新聞の見出しにも使われるシェークスピア。そのブランド力は約6億ドルで、日本のトップ企業をもしのぐほどということをご紹介しました。

このようにシェークスピアは、極めて強い影響力を持ち、ポピュラーカルチャーからジャーナリズムに至るまで、「英語を使う以上どこかでぶつからないでいるのが難しい」ような存在感を放っています。

日本ではしばしば「役に立たない英語」の代名詞のように扱われることがあるのですが、「全く知らない」状態では、新聞や雑誌を読んでいても、思いがけないところでつまづくことになります。知っていて当然という前提で文章が書かれることが多いからです。

連載第5回でご紹介した「文化リテラシー」概念を提唱したE.D. ハーシュは、前提知識を「貨幣のようなもの」だと捉えていましたが、彼の思考回路に沿うのであれば、シェークスピアは「共通通貨」として使用できる範囲が非常に広い、と言い換えることもできるかもしれません。

ですから、子供向けにシェークスピアを与えたいという需要は、英語圏には根強くあります。とはいえ、言い回しが古く、そのまま与えても興味を持ってもらえるとは限らないのも事実です。これは日本の子供達に、日本の古典に親しんでもらおうとする時にも、おそらくぶつかる問題でしょう。

それでは、本場イギリスの子供達は、一体どのようにシェークスピアに親しんでいくのでしょうか。

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イギリスの子供×シェークスピア:総合的な能力を伸ばす演劇教育

総合的な能力を伸ばす演劇教育と “共通通貨” シェークスピア2

現在13歳の我が家の上の子供は、この年齢までにすでに小学校でロイヤル・シェークスピア・カンパニー(RSC)のワークショップを体験し、セカンダリー・スクールの授業で『ロミオとジュリエット』を学びました(セカンダリー・スクールは、年齢はやや異なりますが、日本の中学校のような感じをイメージしていただければと思います)。

さらに、この夏の学校単位の旅行では、ロンドンのグローブ座でリハーサルを見学しています。グローブ座は17世紀にシェークスピアが活躍した劇場ですが、もちろん17世紀の建物そのものは現存していません。しかし、1997年に、オリジナルのグローブ座を学術的な調査に基づいて再現した劇場が開館されました。今でもシェークスピア劇を上演する、非常に重要な劇場です。ここで、上の子供は現在の劇場とは異なる、かつての劇場の形を体験したことになります。

夏場には公園で無料のシェークスピア劇が上演されることもありますし、学校の休みに劇場で行われたシェークスピアの読み聞かせにも家族で出かけていますから、本人は意識していないようですが、かなりシェークスピアにふれているのではないかと思います。

興味深いのは、セカンダリースクールに入るまでの導入のほとんどが、文字ベースではなく、演劇ベースだということです。

イギリスでは、演劇は子供の習い事として非常にポピュラーなものです。少し考えてみればわかるのですが、演劇は様々な分野の能力を総合的に伸ばしてくれます。脚本という形で文章を読み、音楽や照明といった様々な芸術分野に総合的にふれ、なおかつ人前で話をすることに慣れる。一つの劇を成功させるためには他の人たちと交渉したり、指示に従ったり、チームワークを発揮したりすることも大切です。

日本で上の子供に演劇をさせようと劇団を探したときには、子役を目指す劇団が数多く検索にヒットしてびっくりしたものですが、イギリスの子供達が劇団に参加するのは芸能人を目指すからではなく、演劇が子供の様々な能力を総合的に伸ばしてくれるからです。

演劇はまた、上の子供のセカンダリースクールでは必修科目の一つです。国で決められた学習要項では English (日本で言えば国語に相当します)の一部で演劇を扱うように定められているのですが、他の科目との兼ね合いもあり、芸術科目として別に教えている学校が多いのではないでしょうか。それだけ子供達の成長にとって欠かせない科目だと認識されているのです。

もちろんセカンダリースクールの終わりに受ける全国統一試験GCSE(中学卒業試験——高校入試はありませんから、この試験の結果で次の学校に入れるかどうかが決まります)で演劇を選択することもできます。

さて、様々なやり方でシェークスピアにふれてきた上の子供ですが、小学校高学年で受けたロイヤル・シェークスピア・カンパニーのワークショップはよほど楽しかったらしく、今でも記憶に残っているようです。どうやら、有名な場面を実際にプロの役者さんが演じてくれたあと、「シェークスピアに出てくるけんか」「シェークスピアに出てくる悪い言葉」を題材にして、子供達も実際に劇中のセリフに挑戦したのだとか。

シェークスピアは、実は罵り言葉の宝庫なのです。私のお気に入りは 『リチャード3世』に出てくる「コブ付き背中の毒蛙!」“Poisonous bunch-backed toad!” ですが、普段は悪い言葉を使わずにお行儀よくしゃべるように言われている子供達にとって、シェークスピア劇の罵り言葉を思いっきり口にしてみる、というワークショップの切り口がよほど面白かったようです。

シェークスピア作品は、教材や出会いも豊富。原典に忠実なものを

総合的な能力を伸ばす演劇教育と “共通通貨” シェークスピア3

さて、どのようにイギリスの子供達がシェークスピアとファーストコンタクトを取るのかについて、簡単にお話をしてきました。実はシェークスピアは、日本でもしばしばポピュラーカルチャーに取り上げられますし、登場もします。世界の様々な文化圏が一体どのようにシェークスピアを受け入れ、取り込んできたのかは、英文学研究の分野の中でも非常に活発な議論が行われている、興味深い分野です。

指摘されているのは、日本でのシェークスピア作品は、場合によっては大きくパロディー化されることがあるということです。これは、「シェークスピア原典に忠実な知識」を子供に与えなくてはならないという要請が、日本の社会には薄いからではないかと私は感じています。

英語圏のシェークスピア派生作品群は、どうしても親や学校、社会からの要請によって「原典に忠実であること」が求められます。そういう意味では、日本の方が自由なアプローチが可能だといえるかもしれません。

たとえば、イギリスの公共放送局・BBCが、7歳から14歳の子供を対象に作成したシェークスピア作品のアニメーションでは、全6本で有名作品を取り扱っています。音楽はラップ、動画はアニメーションが使われ、伝統的なイメージからはかけ離れているものの、有名な台詞 “To be or not to be” が登場し、全体的に物語の筋書きは変わっていません。 *1

また、人気番組 “Horrible Histories” のシェークスピアの回を見てみてもよいでしょう。

シェークスピアが現代のイギリスの学校にやってくる、という非現実的な筋書きながら、シェークスピアの時代には男性が女性の役を演じていたこと、シェークスピアが自分の脚本のアイディアを様々な先行する作品群から得ていたことなどがわかる内容になっています。

机の並び方や教室の様子など、イギリスの小学校の空気がなんとなく伝わってくる動画です。

「共通の教養基盤」としてのシェークスピアは、子供向けに書き直されていても、やはりある程度の正確さを求められているのです。

さて、日本で子供達とシェークスピアにふれるには、やはり一番馴染みやすいのが、チャールズ・ラムとメアリー・ラムの姉弟が19世紀の頭に子供向けに書き直した『シェークスピア物語』ではないかと思います。シェークスピア作品群の中から著名な20作が選ばれており、いくつもの訳が出ている定番のベストセラーです。

訳によって読みやすさが変わりますから、図書館や書店で一度手にとっていただくと良いのですが、自分で読むのであれば小学校の高学年ぐらいからでしょうか。読み聞かせるのであれば、もっと年齢が低くても大丈夫なはずです。

総合的な能力を伸ばす演劇教育と “共通通貨” シェークスピア4 総合的な能力を伸ばす演劇教育と “共通通貨” シェークスピア5

日本語でも英語でも、メジャーである分だけ、少し探すと質の良い出会いがすぐそこにあるシェークスピア。機会があったら尻込みせずに手に取っていただければと思います。

*1残念ながら地域の制限がかかっていてサイト内のすべての動画を日本国内で見ることはできないようですが、以下にご紹介するBBCのサイトはイギリスの小学校中学校でよく補助教材として使われています。参考までにご紹介します。

BBC|Class Clips Video|English KS2 / KS3: Shakespeare in Shorts

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英単語学習の新たな掟! “コアイメージ”で「基本語力」を身につける

たいていの日本人英語学習者は、基本動詞や前置詞は、見れば意味を答えられます。しかし、それを正確に使い分けたり、十分に使いこなしたりすることができるかといえば、必ずしもそうとはいえません。

日本人英語学習者は「基本語力」が弱い?

あなたもきっと、“wear” といえば「衣類を身につけている」という意味だと知っているでしょう。そして、“put on” が「身につける」という「動作」だとすれば、“wear” は「身につけている」という「状態」を表すということも知っているはずです。

しかし、以下の状況で “wear” を使うことができるでしょうか。

ジーンズの膝に穴を開けてしまった。
彼女の不平にはくたびれるよ。

これらはそれぞれ、英語でこのように表現することができます。

I’ve worn a hole in the knees of my jeans.
She has worn me out with all her complaining.

たかが “wear”、されど “wear” です。

また、“run” という動詞にしても、「走る」という意味の理解だけでは十分ではありません。

Blood ran from the boxer’s left eye.
(ボクサーの左目から血が流れた)

My nose has been running for days.
(何日も鼻水が出ている)

Her eyes ran with tears of joy.
(彼女の目は喜びの涙であふれた)

Artistic talent runs in her family.
(彼女の家族には芸術の才能の血が流れている)

Prejudice runs deep in that part of America.
(アメリカのその地域には偏見が根強く残っている)

I feel like I am running around in circles trying to deal with this problem.
(この問題に対処しようとして僕は堂々巡りをしているような気がする)

これらはほんの数例にすぎませんが、自ら英語を話したり書いたりするときに “run” が使えるということは、こうした使い方が自由にできるようになることです。

“コアイメージ”で「基本語力」を身につける2

前回、「受容語彙」と「産出語彙」のお話をしました。受容語彙とは「読んだり、聞いたりする時に理解できる語彙」、産出語彙とは「話したり、書いたりする時に使うことができる語彙」のことでしたね。

そして日本人英語学習者の場合、「産出語彙」の数があまりにも限られているところに、語彙力のなさを感じる一因があるのでした。

本記事冒頭で記した「見れば意味を答えられる」単語は「受容語彙」にあたります。“wear” は「衣類を身につけている」、“run” は「走る」という意味はわかるという段階です。この段階にいる人はたくさんいることでしょう。

一方、上記で紹介した様々な表現をはじめとして多様な意味を知り、正確に使い分けることができる単語は「産出語彙」にあたります。“wear” や “run” を使いこなすには、この段階までステップアップすることが不可欠です。

「コアイメージ」は基本動詞を使いこなすために効果的

では、どうすれば “run” のような基本動詞を使いこなすことができるようになるでしょうか。それぞれの用例を日本語にしていけば、“run” の意味は途方もないものになります。

しかし、このような基本動詞にはたくさんの「意味」があるのではありません。一つの単語が持つ共通のイメージがあり、それをさまざまな状況に投影しているのです。ここでいう共通イメージのことを「コア」とか「コアイメージ」という言い方をします。

基本動詞のコアイメージを想定する背後には「形が同じなら一定の意味がある」という前提があります。すなわち、例えば “run” という動詞が使われる限りにおいて、そこには共通のコアイメージがあるということです。

では、“run” のコアイメージとは何でしょうか。コトバで説明すれば、「一方向に(すらすら)流れるように移動する」あるいは「ある方向に、連続して、なめらかに、動く」となります。これをイメージで表すと、以下のようになります。

“コアイメージ”で「基本語力」を身につける3

ある方向に向かって、途切れることなくスルスルっと流れる感覚があるということです。典型的な使い方の1つである以下の文にしても、一方向に連続的に移動するというイメージがそのまま生かされています。

He’s running along the beach.
(彼は海辺沿いを走っている)

また、“run” は「川の流れ」にも使えます。川も「途切れることなく一方向に連続して」流れていますね。

This river runs east.
(この川は東へ流れている)

道路計画の話をしている時は、こんな使い方もあります。道路が移動するわけではありませんが、話し手の視点を投影した “run” の使い方だといえます。

This new road will run through the beautiful forest.
(新しくできる道路は美しい森を抜けていく)

日本語でも「痛みが走る」という言い方をしますが、英語でも同じように “run” を使って表現できます。

The pain runs from my foot to my knee.
(足の下から膝のあたりまで痛みがある)

さらにこちらは、「長きにわたって途切れることなく上演された」様子を “run” で表現しています。そういえば、“a long run”(ロングラン)という言い方もありますね。

The show ran on Broadway for years.
(そのショーは何年もの間ブロードウェイで上演された)

「途切れることなく順調に展開する(流れる)」ことを “run” で表す、こんな表現もあります。

His business runs well.
(彼の仕事はうまくいっている)

一見したところ多様で複雑に見える “run” の使い方ですが、実はどれも、その根底にある共通のコアイメージが働いているのです。そして、それぞれの日本語の意味は、“run” の意味というよりはむしろ、“run” が使われる状況を描写したものであるといえます。

基本語彙を「コアイメージ」で理解することのメリット

このように基本語彙をコアイメージで理解することで、単語が持つ数多くの多様な意味を、全く別のものとして1つ1つ暗記する必要がなくなります。共通のイメージを知ることで、効率的に英単語を学習することができるようになるのです。

また、基本語力には「使い切り」の側面だけでなく「使い分け」の側面もあります。例えば、同じ「保つ」の意味合いの “hold” と “keep” の使い分けであるとか、同じ「投げる」の意味合いの “throw” と “cast” の使い分けなどがその例です。

実は、この使い分けを可能にしてくれるのもコアイメージです。用例のレベルでみれば、使い分けが判然としないというものも、コアイメージのレベルでみると、それぞれの違いが見えてくるのです。

さらに、違いがわかるだけでなく、それぞれの語の意味の拡がりも、コアイメージを通して理解することができるようになります。

コアイメージによって、英単語学習を効率良く進められるだけではなく、正確な「使い分け」の知識をはじめとして、理解に深みを持たせることが可能になるのです。

子どもでも基本語彙のコアイメージをつかむことができる本

小学生でも英単語のコアイメージをつかめる書籍として『英語の発想と基本語力をイメージで身につける本』(田中茂範&cocone著、コスモピア出版)があります。

英語の発想と基本語力をイメージで身につける本

本書では、基本動詞40と前置詞20を、視覚的に押さえることができます。

例えば、動いているものをパッとつかまえるのが “catch” 、自分のところに取り込むのが “take” 、ものや動きを一時的におさえるのが “hold” というような基本語彙のコアをわかりやすいイラストで示し、詳しい解説を加えています。

ダイナミックな動画イメージを連続する画像として全ページフルカラーの紙面に再現しているので、お子さんも飽きずに眺めてくれることでしょう。ぜひ活用して下さいね。

(参考)
田中茂範, cocone(2011),『英語の発想と基本語力をイメージで身につける本』, コスモピア.

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からだを動かす スポーツ 教育を考える

母から学び我が子に伝える、強い体をつくるバランスのいい食事――パラリンピック金メダリスト・土田和歌子さんインタビューpart3

日本を代表するパラアスリートとして活躍する土田和歌子さん。高校2年生の時に交通事故に遭い、以後の人生を車いすで生活することを余儀なくされますが、天性のポジティブ思考で挫折を乗り越え、パラアスリートとしてトレーニングに励んできました。

アスリートになるためには戦える体をつくることが大切ですが、そこには子どもの頃からのお母さんの教えが役に立っているそうです。体づくりに必要なお母さんの教えとは、どういうものだったのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/田口久美子 写真/榎本壯三(メインカットのみ)

母がつくってくれたバランス最高のごはん

――肉体改造を目指したトレーニング面はご主人の高橋慶樹さんと二人三脚で取り組まれていますが、栄養面も体づくりには重要な要素になってきます。どのような取り組みをされてきたのでしょう。

土田さん:
栄養が体づくりを行ううえでとても大事なのは言うまでもありません。わたしの母はとても健康管理に気を配っていた人で、食事に関しては小さな頃から母親の教えを受けています。その教えは、単にカロリー計算云々というのではなく、人間にとって必要な栄養素を色合いから考える、バランスのよい食事のことでした。緑色のおかずがなければ、冷蔵庫を探して緑黄色野菜を食卓に取り入れるとか、肉・魚のたんぱく質も毎回同じように食べるのではなく、1日おきに魚と肉を入れ替えて食べるといったことです。

食卓に並ぶのは、基本的に和食が中心でしたね。子どものときには若干の好き嫌いこそありましたが、母のおかげでいまではすっかり好き嫌いがなくなりました。昨今は好き嫌いが多い子どもが増えていると聞きます。運動をするという理由に限らず、できるだけ好き嫌いをなくすことは子育てにおいて大事なことですよね。

――ここしばらく、子どもへの食育の重要性が問われています。そういう観点から見ても、土田さんのお母さんが取り入れていた栄養素を色合いから考えていく方法はとてもわかりやすいですね。

土田さん:
子どもの頃に母から受け継いだ知識はとても役に立っています。わたしはスポーツをはじめてから自活していましたので、日常生活のなかでスーパーへの買い物も炊事も当然こなしています。キッチンは車いすでも使いやすいようにつくられていますし、自分で料理をすることは嫌いではありませんよ。とはいえ、競技をするうえで練習もハードになってくるとなかなか完璧な食生活というわけにはいかないという難しさもあります。それでも、母から教えてもらった、バランスのとれた食事を意識しています。

長野パラリンピックのときは専門の栄養士さんのサポートがあり、面談形式でお話する機会が何度もありました。そこでも、「あなたは栄養に関してすごくしっかりしているので大丈夫!」と太鼓判を押されましたからね。子どもの頃から普通のことでしたから、わたし自身が栄養面に関して特別に意識しなくても、問題なくやれていたようです。

ただ問題がひとつだけあって……。じつは、わたしはとても少食なのです。マラソンなどの持久系の種目をやっているとすごく食べそうに思うでしょう?(笑)。2000年から2004年のアテネパラリンピックまで肉体改造をしようと思ったときに、一番ネックになったのが体重を増加させることでした。車いすマラソンでは、体重が軽いと体幹を安定させにくくなりますし、スタミナも不足してしまうのです。

母から学び我が子に伝える、強い体をつくるバランスのいい食事2

子どもには、食べることの楽しさも知ってほしい

――アスリートは減量も大変ですが、ハードなトレーニングを行いながらの増量も大変そうです。

土田さん:
食べることが直接的にエネルギーにつながりますから、食べなければいけません。でも、だんだんと食べることがストレスになっていきました。料理することも嫌いではないですし、食べることにも関心はあるのですが……「食べないといけない」という過剰な意識が出てくると、それがプレッシャーとなり精神的に追い詰められて食べられなくなっていくのです。それをなんとか改善できないかと思ったときに、一食の食べる量を増やすのではなくて、回数を多くして食事を摂るようにしました。それまでの1日3食を1日5食にして、補食を増やしたりするなど工夫し、それでも不足する分はプロテインなどで補っていました。

その結果、シドニーパラリンピックが終わったときの体重は39kg台でしたが、次のアテネパラリンピックでは48kgまで増やすことができました。それまでのトレーニングの成果と食事による肉体改造が、アテネパラリンピックでのメダル獲得に大きく関連したことは間違いありません。

――約10kg増量したのですね。トレーニングを行いながらですから、10kgの増量と言っても筋肉の肥大による増量でしょうね。それですごくパワーがついてメダルがとれたのは、やはりトレーニングと食事のバランスがうまくいったということだと思います。子どもがスポーツをやっている親御さんには、先程のバランスのよい食事の提案の他に食事に関するアドバイスがありますか?

土田さん:
自分の息子に対しては、本人がすごく好きなものをお弁当に入れてあげることを心がけています。栄養バランスはもちろん大事ですが、わたしは食べることの楽しさも子どもに知ってほしいと思っています。「これからご飯だ!」という楽しい気持ちのときに、お弁当が苦手なものばかりでは楽しい気持ちがなくなってしまうじゃないですか。ですからあえて好きなものを入れてあげて、そのなかで必要な栄養素を工夫して入れたりできればベストだと考えているというわけです。もちろん好きなものだけを入れるのはよくありませんから、そこは栄養素とのバランスだと思いますけどね。

わたしは試合のための遠征や練習もありますから、いつも子どもの食事を用意できるわけではありません。そういうとき、息子は留守番をしてくれている夫といる時間のほうが長かったりしますが、わたしが息子と一緒にいられるときは、息子のために食事のことはできる限りのことをしてあげたい。強い体は食事からできているのですから、そこでは手を抜きたくないと思っています。そして、「体は食べ物からできている」というあたりまえのことを忘れずに、子どもの食育もしていきたいですよね。

【土田さんが実践している食生活を参考にしよう!】
実際に農林水産省のHPにも、栄養素の働きからバランスよく摂るために「三色食品群」という方法が推奨されています。栄養の基本をしっかり学んで、子どもの食育に役立てたいですね。

■ パラリンピック金メダリスト・土田和歌子さん インタビュー一覧
第1回:試練を乗り越えるための「ポジティブ・モンスター」という生き方
第2回:挫折を乗り越え夢を叶えた、私のアスリートとしてのトレーニング法
第3回:母から学び我が子に伝える、強い体をつくるバランスのいい食事
第4回:子どもには「経験」から自主性を伸ばしてほしい

【プロフィール】
土田和歌子(つちだ・わかこ)
1974年10月15日、東京都出身。高校2年時に交通事故で脊髄損傷を負い、車いす生活となる。翌年の秋にアイススレッジスピードスケートの講習会に参加し、約3カ月後のリレハンメルパラリンピック(1994年)に出場。4年後の長野大会では、1500メートル、1000メートルで金メダルに輝き、100メートルと500メートルでは銀メダルを獲得した。その後は陸上競技に転向し、2000年シドニー大会では車いすマラソンで銅メダル、2004年アテネ大会では5000メートルで金メダル、マラソンで銀メダルを獲得。2007年にはボストンマラソンで日本人では初めて優勝する。今年4月のボストンマラソンでは5連覇を達成。大分国際車いすマラソン大会では6度の優勝を誇る。現在は、競技を車いすマラソンからトライアスロンに変え、新たなチャレンジをしている。

【ライタープロフィール】
田口久美子(たぐち・くみこ)
1965年、東京都に生まれる。日本体育大学卒業後、横浜YMCAを経て、1989年、スポーツ医科学の専門出版社である(有)ブックハウス・エイチディに入社。『月刊トレーニング・ジャーナル』の編集・営業担当。その後、スポーツ医科学専門誌『月刊スポーツメディスン』の編集に携わる他、『スピードスケート指導教本[滑走技術初級編]』((財)日本スケート連盟スピードスケート強化部)などの競技団体の指導書の編集も行う。2011年10月「編集工房ソシエタス」設立に参加。『月刊スポーツメディスン』および『子どものからだと心白書』(子どものからだと心連絡会議)、『NPBアンチドーピング選手手帳』((一社)日本野球機構)の編集は継続して担当。その後、『スピードスケート育成ハンドブック』((公財)日本スケート連盟)の他、『イラストと写真でわかる武道のスポーツ医学シリーズ[柔道編・剣道編・少林寺拳法編]』(ベースボール・マガジン社)、『日体大ビブリオシリーズ』(全5巻)を編集。現在は、スポーツ医学専門のマルチメディアステーション『MMSSM』にて電子書籍および動画サイトの運営にも携わる。

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五感をつかう 音楽

絶対音感はどう養う? 子どもに身につけさせたい、絶対音感と相対音感のトレーニング法。

「自分は身に付けられなかった絶対音感を、我が子にはぜひ身に付けさせたい!」
「絶対音感は子どものうちにしか身に付けられないと聞いたけど、どうすれば身に付けられる?」

子どもにピアノを習わせていたり、これから楽器を習わせようと考えていたりする親御さんたちにとって気になるのが、「音感」のことではないでしょうか。そもそも音感とは何なのか。音感を身に付けるにはどうしたらいいのか。音感に関する親御さんの疑問にお答えします。

音感とは?

音感とは、音の高さに対する感覚のこと。音の高低を認識できる力のことを音感と言います。

音感は、音の高さの認識の仕方によって、絶対音感相対音感に分類されます。それぞれの意味は次のとおりです。

絶対音感

ある音を聞いて、その音の絶対的な高さを即答できる能力のこと。音を聞くだけで、ピアノの鍵盤の「ドレミ」を言い当てられる力。

相対音感

ある音の高さを、基準の音との比較によって判断できる能力のこと。例えば基準の音として「ド」を聞き、「ド」とどれぐらい離れているかによって、別の音の高さを認識できる力。

絶対音感についてもう少し説明を加えます。絶対音感と呼べるのは、黒鍵を含めたピアノの鍵盤の88個の音すべてを言い当てられる音感。#や♭のつかない白鍵の音だけなら言い当てられるという場合は、厳密には絶対音感とは言わないのだそう。

また、絶対音感がある人は、チャイムやサイレンの音といった日常生活の音の高さを言い当てることができる、などとよく言われますよね。実際はこうした日常音は、ピアノの鍵盤に当てはめられる音ばかりではなく、例えば「ド」と「ド#」の間にあるような音も多いもの。より精度の高い絶対音感を持っている人が、これらの音の高さを厳密に言い当てることができるようです。

それから、絶対音感を持っていれば相対音感も兼ね備えている、というわけではありません。両方持っている場合もあれば、どちらも持っていない場合もあり、片方の音感だけを持っている場合もあります。音感の持ち方は人それぞれだと言えるのです。

子どもに身につけさせたい、絶対音感と相対音感のトレーニング法。2

絶対音感が身につく時期はいつ?

絶対音感を生まれながらにして持っている人は、20万人に1人だと言われています。たいへん稀有な能力だと言えますよね。ですが、適切な時期にトレーニングを行なえば、絶対音感は身に付けることが可能なもの。では、絶対音感を身に付けるためのトレーニングはいつ頃すべきなのでしょうか。

人間の感覚のなかでも早期に成長し完成するのが聴覚。実は、お腹の中にいる赤ちゃんはすでに耳が聞こえています。その聴覚が本格的に発達し始めるのは、言葉を習得し話せるようになる2歳頃から。聴覚の発達は4~5歳で臨界期(*)を迎え、8歳には聴覚が完成。人間の聴覚はとても早い時期に完成してしまいます。「絶対音感は小さいうちにしか身につかない」と言われるのはこのためなのです。

(*臨界期……ある能力を身に付けるための最も適切な時期。その時期を逃すといくら努力してもその能力を身に付けられなくなる限界の時期。)

聴覚は、音の刺激を繰り返し受けることによって発達していきます。子どもに絶対音感を身に付けさせたいなら、聴覚の臨界期にあたる4~5歳の時期に、絶対音感を養う反復トレーニングをさせるのが効果的です。そして一度子どもに絶対音感を身に付けさせたあとは、楽器練習などを継続することによって絶対音感を維持する努力をしなければなりません。その努力なしでは、せっかく習得した絶対音感は失われてしまうのです。

一方の相対音感は、聴覚の臨界期を過ぎた子どもや大人でも、訓練によって身に付けることが可能です。高い音と低い音を聞き「どちらが高いか」と聞かれればほとんどの人が答えられるように、相対音感は多くの人がある程度は備えているもの。この相対音感の精度は、トレーニングを積むことによって高めていくことができます。

子どもに身につけさせたい、絶対音感と相対音感のトレーニング法。3

音感を養うメリットとは?

絶対音感を持っている人はとても希少なため、絶対音感のほうが優れていて相対音感のほうが劣っている、と理解されることがあります。絶対音感を持っていることにメリットがあることは確かですが、相対音感しかないからといって音楽的な才能が劣っているとは言えません。そこでここからは、これらの音感を養うメリットについて紹介しましょう。

■ 絶対音感は脳の発育によい影響を与える

絶対音感を持つ子どもは、そうでない子どもに比べて、IQが10ポイント以上も高いという統計的なデータあるのだそう。また、ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学によって以下のような研究結果も発表されています。幼児期に絶対音感を養うことは、音楽的な力以外にもよい影響をもたらすと言えるでしょう。

職業音楽家と音楽を学んだことのない素人を対象にMRIで左右の脳の状態を比較してみたところ、音楽家の中でも絶対音感を持たない19名の脳は、素人の人たちとほとんど変わらなかったのに対して、絶対音感を持つ11名は、左脳の側頭平面(言語の理解や数学的能力に深く関係していると考えられている箇所)と呼ばれる箇所が、右脳の側頭平面に比べ、2倍近い大きさに発達していることがわかりました。

(引用元:一般社団法人日本こども音楽教育協会|プログラムについて

■ 音感があると楽器習得に役立つ

絶対音感と相対音感のどちらも、楽器の上達には大いに役に立つ能力です。

まず絶対音感を身に付けておくと、楽譜から音を読むだけでなく、耳からも音を認識できるので、楽器の指導者から教えられた内容をより早く理解することができます。聞くことへの集中力が増し、音色の繊細な違いにも気づけるようになるでしょう。特にピアノのような絶対音楽器の習得には有利です。一方相対音感は、絶対音以外の弦楽器や声楽の習得に生きてきます。これらは相対的に音を決めるものであり、自分で音程を探る必要があるためです。

もちろん、弦楽器や声楽を学ぶ場合にも、絶対音感があれば音の正確性が増すことは言うまでもありません。また、絶対音感はあっても相対音感を持っていない場合、音の高さがいつもと違う楽器だとうまく弾けない、という問題が起きてしまうこともあるのだそう。楽器習得には両方の音感を持っていることが有利に働きそうです。

■ 音楽を職業にするうえで役立つ

子どもに音楽をより専門的に学ばせ、将来音楽活動を仕事にする道を用意してあげたいと考えているなら、どちらの音感も身に付けさせるべきでしょう。演奏家として活動するなら、両方の音感が重要であることは言うまでもないこと。作曲家になるにも、心地よい音の組み合わせを作るうえで音感は欠かせません。また歌を職業とする場合にも、音を正確に歌える能力は不可欠です。

ピアノなどの楽器練習を「子どもの習い事」として終わらせるのではなく、将来の可能性をできるだけ広げてあげるためにも、音感を養うことはとても大切なことなのですね。

子どもに身につけさせたい、絶対音感と相対音感のトレーニング法。4

絶対音感、相対音感のトレーニング法

ではここからは、絶対音感と相対音感のトレーニング法についてご紹介します。

■ 絶対音感のトレーニング法

子どもが6歳ぐらいまでの小さいうちは、絶対音感を養う絶好の時期です。この幼少期にピアノを学ぶことで絶対音感を習得できる、と語るのは、日本こども音楽教育協会代表理事の滝澤香織氏。ピアノは絶対音にダイレクトに触れられる楽器なので、幼少期にピアノを学べば自然と絶対音感を身につけられる可能性が高まるのです。

また、絶対音感を養う専門的なトレーニングを受けるのもおすすめです。絶対音感の習得のために開発されたプログラムで、音の聞き取り練習(単音、和音)や歌唱練習などを行なうのです。個人差はあれど、適切なトレーニングによって早い人なら1年足らずで絶対音感は身につくのだそう。音楽教室に通うか専門のプログラムを利用しながら、教室や自宅などで毎日トレーニングを行なうのが良いでしょう。通信教育もあるそうですよ。

■ 相対音感のトレーニング法

絶対音感を身に付けられる年齢を過ぎている場合は、ぜひ相対音感を養うトレーニングを行ないましょう。絶対音感を身に付ける場合と共通して言えるのは、日常的に楽器や音楽に触れることが大事だということ。楽器の練習を通して音程の差をスムーズに把握できるようになれば、次第に相対音感が鍛えられます。絶対音感と同様に、相対音感を養う専用のトレーニングも開発されています。

そのためには、必ず調律された楽器を使うようにしてください。また、楽器が正しく響くことも大切なので、音響に配慮して設計された防音室や練習室でトレーニングができるとなお良いでしょう。もちろんこのことは、絶対音感を養う上でも重要なポイントです。

***
絶対音感も相対音感も、音楽や楽器に日々触れることと、適切な時期にトレーニングを行なうことで身に付けることが可能なもの。ただし、いくら子どもに音感を身に付けさせたいからと言って、無理強いになってしまってはいけません。音楽教育が専門の岡山大学・小川容子教授は次のように述べています。

たとえ専門的な音楽教育であっても、絶対音感を身に付けるために「ド」の音を覚えるのではなく、楽しくレッスンを続けることの方が、意味が大きいと思います。(中略)絶対音感の有無は、音楽を親しむうえではひとつの側面にすぎないということですね。

(引用元:ON-KEN SCOPE|「音感(おんかん)」は測れるのか

大事なのは、子どもの音感習得に親が躍起になることではなく、子どもが音楽を楽しめること。このことを忘れずに、子どもに心から音楽を楽しませながら、可能性を広げてあげたいものですね。

(参考)
一般社団法人日本こども音楽教育協会|プログラムについて
スガナミ楽器|子どもの「音感」を身につける方法とは?
小林音楽教室|絶対音感と相対音感の違いと成長させる方法
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|ピアノを通して育まれる “子どもの能力” とは?
一音会ミュージックスクール|ソルフェージュレッスン
一音会ミュージックスクール|絶対音感トレーニングレッスン
ON-KEN SCOPE|「音感(おんかん)」は測れるのか
まいとプロジェクト|第2回 幼児教育における「臨界期」って何?(後編)

   

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教育を考える 食育

子どもの偏食で困ってる? 改善するための方法4つ

子どもの偏食で悩んでいませんか? 嫌いな食べ物のひとつやふたつは大人にだってあるもの。しかし、「野菜全般がダメ」「炭水化物とお菓子しか食べない」のようにひどい偏食は、ぜひ解決したいと思う人が多いことでしょう。今回は「子供の偏食」をテーマに、偏食がもたらす悪影響や偏食の原因、解決法をお伝えします。

子どもの偏食が及ぼす悪影響

子どもの偏食にメリットはない、ということは想像しやすいと思います。では、デメリットにはどのようなものがあるのでしょう?

まず、体内に取り込む栄養素が偏ってしまうことで、健康上のさまざまな問題が発生します。2002年~2003年に兵庫県の公立中学校6校で行われた調査では、偏食の生徒はそうでない生徒に比べて風邪をひきやすく、疲れやすいうえ、便秘がちであることがわかりました。

調査の対象となったのは、中学3年生1,100人。パン・卵・野菜・魚など21種類の食品の好き嫌いや、生活状況などが尋ねられました。すると、「嫌いな食品数」が4個以上だった生徒は、0個の生徒に比べ、「立ちくらみ」「風邪ひき」「肩こりや目の疲れ」が「よくある」と答えた割合が多いという結果になりました。たとえば「風邪ひき」については、嫌いな食品数が0個だと答えた生徒は「よくある」が5.4%でしたが、嫌いな食品数が4個以上の生徒は20.9%でした。また、「排便回数」について、「3日以上に1回」と答えた生徒の割合は、嫌いな食品数が0個の場合では9.6%でしたが、4個以上の場合では23.1%でした。

栄養バランスは学力にも影響しています。小児科医の藤原寛氏による、地域や学校名を伏せた調査では、米・魚・スナックなど10種類の食品の摂取頻度と、中学校の通知表における評定との関係が明らかになりました。

調査によると、野菜を「毎日食べる」と答えた生徒の評定平均は3.67だった一方、「食べない」と答えた生徒の評定平均は2.96で、なんと0.71もの差がありました。また魚類に関しても、「毎日食べる」生徒の評定平均は3.66、「食べない」生徒は2.97と、0.69の差が確認できました。反対にスナックについては、「毎日食べる」生徒の評定平均は3.26、「食べない」生徒は3.64だったため、スナックを食べない生徒のほうが良い成績を修めているという結果でした。

なお藤原氏によると、調査対象となった全ての食品について「毎日食べる」と答えた生徒の成績が最も良い、という傾向が見られたそうです。この調査結果を考慮すれば、野菜や魚も含めてバランスのよい食事をとることは、学校の成績と大いに関係があるといえますね。子どもの偏食は、成績に悪い影響を及ぼしてしまうのです。

子どもが偏食になる原因

子どもが偏食になってしまう原因とは何なのでしょう? 2005年に静岡市内の公立保育園で行われた偏食に関する調査では、以下のような考察がなされました。

起床時刻や就寝時間が遅い、あるいは決まっていない、着替えや排泄が自分でできない、朝食を欠食する、夕食時刻が決まっていないなど生活習慣が不規則であったり、自立できていない児に偏食が多い。これに加え、親子で食事作りをすることが殆どない、夕食時に主食、主菜、副菜を揃えることにあまり気にかけないなど、保護者の食生活へ関心や実践的な行動が低いことも偏食を助長させている。

離乳食の開始が7ヶ月以降であったり、子どもの口の動きに合わせて硬さや形状を変えること、薄味、食品の種類を増やすことを心がけなかったと回答した保護者の子どもに偏食ありの割合が高い。また、離乳食に市販のベビーフードを利用していた場合も3、4歳児の偏食が高い。(中略)
とりわけ就業形態等により保育・家事にかける時間の制約が大きい場合は、人工乳の割合も高くなり、さらに、離乳食にかける時間的、気分的余裕を十分に持てないことから、離乳の進め方、与える量、食べさせて良い物への不安が強く、離乳食開始時期の遅れやベビーフードの利用につながり、それらが偏食の一因になっているのではないかと推測できる。

(引用元:J-STAGE|幼児の偏食と生活環境との関連

調査結果によると、「夕食時に主食、主菜、副菜を揃える」という項目について、「あまり気にしない」と答えた親の子どもほど偏食である傾向がありました。具体的にいえば、3、4歳では、「心がける」と答えた親の子どもが偏食である割合が50.6%だった一方、「あまり気にしない」場合は64.1%。子どもが5、6歳の場合も、「心がける」場合の偏食の割合は44.0%、「あまり気にしない」場合は47.8%で、若干の差が確認できました。

また、「親子で食事作りをすること」という項目について、子どもが3、4歳の場合、「ある」と答えた親の子どもが偏食である割合は49.3%、「ほとんどない」だと68.%で、明らかな差が見られました。子どもが5、6歳の場合でも、「ある」と答えた場合の偏食割合が43.2%、「ほとんどない」だと6.9%でした。

子どもの偏食で困ってる? 改善するための方法4つ2

離乳食に関する項目では、「口の動きに合わせて、硬さや形状を変えた」について、子どもが3、4歳の場合、「はい」と答えた親の子どもが偏食である割合は50.3%、「いいえ」の場合は61.5%。同様に5、6歳の場合、「はい」だと42.6%、「いいえ」だと51.1%。さらに「薄味に心がけた」「食品の種類を増やすことに心がけた」の項目でも、「はい」と答えた親の子どものほうが、偏食である割合が低い結果となりました。

この調査結果を見ると、親の行動が子どもの偏食に影響していると想像できます。つまり、親の行動を変えれば、子どもの偏食を治せるかもしれません。

子どもが偏食だからってイライラしてない?

読者の皆さんは、子どもが偏食であることにイライラしていませんか? せっかく用意した食事を食べてもらえないと、よい気分になれないのは仕方のないことともいえます。それに、子どもの将来を考えれば、一刻も早く偏食を克服させようと焦ってしまいますよね。

しかし、子どもの味覚は成長に応じて変化していくため、偏食は自然に治るという考えもあります。公益社団法人・千葉県栄養士会によれば、「偏食はいずれ時期がくればなおることもあり、あせらずに長いスパンで見て行くことが大事」だそう。小学校で給食を食べるようになれば、周りの子どもが偏食せず食事している様子を見て、嫌いだったものも食べられるようになるかもしれません。そのため、2歳や3歳といった小さいうちから、子どもの偏食を過剰に心配する必要はないといえます。それでも偏食を改善したかったり、小学生になってもなかなか治らなかったりする場合は、これから紹介する対策を試してみてください。

ただし、子どもが偏食である背景には、虫歯やアレルギー、発達障害などの可能性もあります。不安であれば、病院で相談するのがよいでしょう。歯が生えそろっていないために、食品をかんだり口内ですり潰したりすることがうまくできない、ということも考えられます。調理学を専門にする堤ちはる教授(相模女子大学)によると、豆やトマトのように「皮が口に残るもの」、わかめやレタスのように「ペラペラしたもの」などは、1~2歳児にとって食べにくいそう。これは仕方のないことなので、皮をむいたり細かく刻んだりするなど、親が適切に調理してあげる必要がありますね。子どもの偏食を改善するためには、多少の手間はかかるようです。

子どもの偏食の治し方1:野菜を栽培させる

3歳未満の子どもを対象にした「偏食外来」を設置している、神奈川県立子ども医療センターによれば、「子どもにとって新しい食べ物は、未知のもので、本能的に警戒するもの」。しかし、食べ物をよく知って「友だち」になることで、口に入れやすくなるのだそうです。

野菜が苦手な子どもでも、野菜が育つ過程を毎日眺めたり、自分の手で水をあげたりすれば、親しみがわくでしょう。そこで子ども医療センターが提案しているのが「ミニトマトを苗から育ててみる」こと。多数のガーデニング用品を扱う「ホームセンターバロー」によれば、ミニトマトは「丈夫で失敗しにくい」「栽培期間が短い」という特徴を持ち、「家庭菜園初心者には断然おすすめ」なのだそう。初めて野菜を育てる親にも最適ですね。

ファミリーマートでは、土・種・肥料がセットになった家庭栽培キット「ファミマガーデン」が販売されています。野菜としては、「育てるサラダ ミニトマト 背丈の低いタイプ」(税込498円)と「育てるサラダ ガーデンレタスミックス」(税込498円)の2種類。購入してすぐ栽培を始められるので、圧倒的に手軽です。楽しく野菜を育てて、子どもの偏食改善につなげましょう。

子どもの偏食の治し方2:親子でいっしょに料理する

2005年に静岡市内で行われた上述の調査では、親子でいっしょに料理した経験を持つ子どものほうが、偏食である割合が低いという結果でした。そのため、「たとえ3歳児でも配膳の準備や簡単な皮むきなど子どもにあった手伝いをさせることが必要」と指摘されています。

「StudyHackerこどもまなび☆ラボ」でも、包丁を使わずに親子で作れる料理のレシピを紹介しています(コラム「子どもを成長させる料理体験を! 『夏野菜たっぷりおかずマフィン』【夏休みの自由研究(家庭科)】」)。子どもの偏食を治すため、そして素敵な思い出をつくるため、ぜひチャレンジしてみてください。

子どもの偏食で困ってる? 改善するための方法4つ3

子どもの偏食の治し方3:レシピを工夫する

静岡市で行われた調査の結果からは、親が調理方法や食材の種類を工夫しないと、子どもが偏食になりやすいことがわかりました。子どもが野菜や魚類など、苦みや臭みのある食材を嫌っているとしても、調理方法によって味・食感・匂いは大きく変わります。読者の皆さんのなかにも、小さいころ、生のニンジンは食べられなかったけれど、子ども用カレーに入っていた小さくてやわらかいニンジンなら食べられた、という人もいるのではないでしょうか。子どもが喜んで食べてくれるようなレシピを探してみましょう。千葉県栄養士会は、以下のように提案しています。

調理形態が合わなかったり、味付けが濃かったりすることが、食べない原因になることもあります。味付けは薄味にしましょう。また、食品を単品として与えるのではなく、好きな食べ物の中に混ぜたりすると効果的です。

嫌いだからとその食品を遠ざけてしまわず、いろいろな調理法で作った料理を食卓にのせ食べる機会を多くするように心掛けましょう。

(引用元:公益社団法人 千葉県栄養士会|偏食をなくそう

子ども用の献立を考える際、ぜひおすすめしたいレシピ本が『最新 子どもごはん大百科』(ベネッセコーポレーション、2008年)です。子どもが小学生になるまでのあいだ、年齢に応じた適切な調理法が学べます。341種類ものレシピが掲載されているので、飽きもこなさそう。子どもの偏食改善に一歩近づけそうです。

子どもの偏食の治し方4:家族で楽しく食事する

2010年に実施された、私立学校の小学5・6年生153名を対象とした調査では、「食卓の豊かさ」を感じている子どものほうが、偏食である割合が少ないということがわかりました。

食卓が豊かというのは、家族みんなが一緒に食事をする機会が多くて、食事中テレビが消えていて、手作りの食事が多いことを指している。みんなが一緒に食事をし、母親の手作りの料理やそれを重視するという態度が偏食を少なくさせている。

(引用元:京都女子大学学術情報リポジトリ|食卓の雰囲気と母親の言葉かけの特徴が児童の偏食におよぼす影響

また、食卓の雰囲気を「楽しい」と感じている子どものほうが、そうでない子どもよりも偏食であることが少なかったそうです。そして、食卓の雰囲気には母親の声かけが影響しているとのこと。食卓の雰囲気が楽しい家庭では、「食べものに感謝して食べようね」「この野菜は今が一番おいしい時期なのよ」といった「感謝」の言葉かけや、「がんばって食べたね、えらいね」「みんなで食べるとおいしいね」など「共感」の言葉かけが多く、「なんで食べないの」「やっと食べたわね」という「拒否」の言葉かけが少なかったそう。

以上の調査から導き出されるのは、家族が楽しく会話しながら食事をすると、子どもはリラックスして食べられ、偏食になりづらくなる、という傾向です。シンプルすぎるかもしれませんが、食卓の雰囲気がピリピリしていると、食事という行為が楽しくなくなり、本当は食べられるものも食べづらくなってしまいます。子どもの偏食にイライラしてしまっているなら、このことを意識して、声かけを変えてみるとよいですね。

***
このように、子どもの偏食を防止・改善するにはさまざまなアプローチがあります。読者の皆さんは育児などで忙しい日々を送っていることと思いますが、「食べる楽しみ」を家族で分かち合うことを忘れなければ、道はきっと開けるでしょう。

(参考)
J-STAGE|中学生における偏食と食習慣との関連性
J-STAGE|学業成績と脂質栄養との関連
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あたまを使う 理科

子どもにそろばんを習わせる5つのメリット。リーズナブルだけど脳への効果は抜群!

「子どもにどんな習い事をさせよう……」と悩んでいませんか? スポーツや楽器、プログラミングなど、現代にはさまざまな選択肢があるので、迷ってしまいますね。

日本人にとって習い事の定番ともいえる「そろばん」を検討したことはあるでしょうか。近年は、「電卓があるんだから、そろばんなんて古いよ」「習ったことがあるけど、効果なんてないよ」などと言う人がいるかもしれません。しかし、計算が速くなる、暗算できるようになるなどの直接的な利点だけでなく、そろばんにはほかにも多くのメリットがあるのです。今回は、真剣に取り組めば必ず役に立つそろばんのメリットを、5つご紹介しますね。

そろばんを習うメリット1:脳が刺激される

一般的に、私たちは計算をするとき、計算や論理的思考をつかさどる左脳を主に使います。しかし、NPO法人・国際総合研究機構の副理事長であり脳科学を専門とする河野貴美子氏によると、そろばんの有段者が暗算をしているときには右脳が活発になっているそう。彼らの頭のなかでは、そろばんの珠(たま)が動いており、一般人のように「98かける2は……」と言語を介さず計算するので、イメージをつかさどる右脳が使われているのです。

河野氏によれば、そろばんの有段者には「教科書を暗記する際にページごと頭に入ってくる」人や「年号もさっと憶えられる」人がいるそう。ほかにも、そろばんによって養われた「イメージ力」を活用することが「人間的な思考」「創造力」「ひらめき」につながるのだとか。右脳を活発にさせることで、記憶力や直感力が磨かれるのですね。

また、神経内科学を専門とする依藤史郎氏の話によると、そろばんで指先を多く動かすことも脳の活性化につながります。さらに、珠をはじくリズミカルな音は、左右両側の脳を刺激するのだそうです。

このように、そろばんはさまざまな方向から脳に刺激をもたらす効果があります。よく知られているとおり、刺激を与えることによって脳は成長するもの。子どもがそろばんを習うことで、考えたりひらめいたりする能力が育ちそうですね。

子どもにそろばんを習わせるメリット2

そろばんを習うメリット2:自信が養われる

そろばんメーカー・トモエ算盤株式会社の代表取締役社長である藤本トモエ氏によれば、そろばんを通じて子どもは自信・自己肯定感を得られるのだとか。その理由は、計算にかかった時間と正解数を測るため、過去の自分と比較して成長を客観的に実感しやすいこと。「前より速く解けた」「前よりも多く正解できた」ことがはっきりと認識できるので、練習によって上達したことが分かりやすいのですね。自己肯定感を育むそろばんの効果をさらに詳しく知りたいかたは、「そろばんを通して “自己肯定感” を育んでほしい——『トモエ算盤株式会社』藤本トモエさんインタビュー」をお読みください。

子どもにそろばんを習わせるメリット3

そろばんを習うメリット3:集中力がつく

集中力がつく」ことも、そろばんを習うメリットとしてしばしば挙げられます。トモエ算盤によれば、そろばんを使った計算には精神の集中が必要とされ、無心で打ち込まなければならないため、そろばんには集中力を養う効果があるそう。さらに、忍耐力も培われ、「がんばってやり遂げる態度」が身につくのだとか。

集中力も忍耐力も、学校の勉強だけでなく、大人になって仕事をしながら生きていくためには不可欠な要素といえます。子どものうちからそろばんを習うことで、人生を生き抜くのに必要な力が育つのですね。

子どもにそろばんを習わせるメリット4

そろばんを習うメリット4:費用が安め

スポーツや芸術系の習い事に比べて、そろばんを習うのにあまりお金がかからないことは、親子双方にとってのメリットといえるでしょう。家計を圧迫しづらいため、子どもが希望すれば長く続けられるからです。

日本珠算連盟によると、都内におけるそろばん教室の平均的な月謝は週3回・1回1時間で6,000円。授業回数や地域によっては、4,000円~12,000円の幅があるそうです。

たとえば、段位・1級取得者の数が全国トップクラスだという「そろばん教室USA」(埼玉県)の授業料は、月に9,720円(税込)。授業は週に2~3回で、週に1~3回の特別授業が行われることも。1回の授業は50分程度ですが、希望者は何時間でも練習できるほか、所属教室が休みの日には追加費用なしに別の教室で授業を受けられるため、日曜祝日を除けば実質的に通い放題といえます。授業料以外に必要な費用は、入会金9,720円(税込)、年2回の設備教材費3,240円(税込)、年2回の冷暖房費3,240円(税込)。一方で楽器の個人レッスンの場合、1回30分・月に3回で1万円前後の月謝が多いようです。教室で学べる時間・回数を考慮すると、そろばん教室は「お得」だといえるのではないでしょうか。

自分で用意しなければならない道具がそろばんだけということも、費用の面では有利です。トモエ算盤が「初心者用には最適」として販売している「スタンダード(23桁)」。高級品もあるとはいえ、ひとまずこのような普通のそろばんを1つ買えば習い事を始められます。

そろばん 23桁 A型スタンダード

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参考価格:3,606円

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一方で、ピアノやバイオリンなど楽器を購入するには数万円~数十万円かかるだけでなく、1年に1回程度のメンテナンス費用も発生します。また、スポーツ系の習い事の場合、専用着のほかにサッカーならスパイク、野球ならグローブといった道具も用意し、必要に応じて複数購入したり買い替えたりしなければなりません。親にとっては、汚れたウェアを洗濯する手間も発生します。これらの事情を考慮すると、そろばんは習い事としてコストパフォーマンス(費用対効果)が優れているといえるのではないでしょうか。

子どもにそろばんを習わせるメリット5

そろばんを習うメリット5:資格を取れる

ほかの多くの習い事と異なり、履歴書に書けるような資格を取得できるのも、そろばんの大きなメリットです。日本珠算連盟は日本商工会議所と協力し、珠算能力検定・暗算能力検定などを実施しています。仕事でそろばんを使うわけではなくとも、これらの資格を履歴書に書けば、集中力が高いこと・努力を続けられる人間であることをアピールできます。また受験の際、そろばん関連の検定に合格したことが内申書に記載されれば有利になるかもしれませんね。

子どもにそろばんを習わせるメリット6

そろばんを習うことにデメリット・弊害はある?

ここまで、そろばんが持つ多くのメリットを見てきました。では、そろばんを習うことにデメリットはあるのでしょうか?

日本数学協会理事で、教育心理学を研究する天岩靜子氏によれば、そろばんは「速く正確に計算する」ことを追求するため、そろばんに慣れた人は「計算途中で計算の意味を考えたり、他の計算方法を工夫する」ことをしなくなってしまうそう。

たとえば、「25×16」を暗算しようとすれば、そろばんに慣れている人は頭のなかで珠を動かすかもしれません。一方、そろばん経験のない人は、なんとか工夫する必要があります。そこで、16を「4×4」に分解し、「25×4×4」として考えるのです。すると、「100×4」となり、そろばんがなくても暗算できます。このような「計算の工夫」は、そろばんを習った人だと身につきづらいのかもしれません。

そろばんを習うことによるほかのデメリットとしては、週に2~3回通うことが求められるため、他の習い事と両立しづらいことがあります。とはいえ、ほかの習い事で忙しいからと、そろばんを週1回にしては、ほかの生徒と実力に差がつき、子どものモチベーションが下がりかねません。

また、スポーツや芸術のようなほかの習い事に比べ、そろばんは「勉強」の側面が強いことも事実。よほどそろばんに熱中するのでなければ、子どもは「もっと体を動かしたい」「華やかなことがしたい」と感じるかもしれません。とはいえ、上述の理由から、そろばんとほかの習い事との掛け持ちは難しいため、悩みどころです。

子どもにそろばんを習わせるメリット7

そろばんを何歳から始めるか

さて、多少の困難さがあるとはいえ、子どもの成長に大きく寄与するそろばん。何歳から始めるのが効果的なのでしょうか?

藤本氏によると、そろばんは脳を活性化させるため、脳が発達する5歳~10歳くらいの時期に学ぶと効果が大きいそう。また、「そろばん教室USA」の公式サイト上では、「いつから始めるか」について以下のように述べられています。

個人差がありますが、一般的には小学校1~2年生が最適です。早熟な子は幼稚園からでも可能です。高学年から始めますと、暗算力が身につくのに時間がかかる場合があります。

(引用元:そろばん教室USA|入会案内

早すぎても遅すぎてもよくない様子。子どもが小学生になるタイミングで始めるのが、ちょうどよさそうですね。

子どもにそろばんを習わせるメリット8

そろばんをいつまで続けるか

そろばんをいつまで続けるべきか、と悩んでいる人も多いようです。ひとつの習い事にずっと取り組むことで身につくものがあるとはいえ、子どもが飽きてしまったり、ほかの習い事をやってみたくなったりするかもしれませんよね。

一般的には、中学受験の勉強を始めるか、中学校に進学するタイミングでそろばんをやめる家庭が多いようです。中学受験のためには塾に通って家でも宿題をこなさねばならず、中学校では授業と部活動で忙しくなるため、あまりそろばんに割ける時間がなくなってしまうからでしょう。

とはいえ、何歳まで習い事を続けるかは人それぞれ。子どもにやる気があるのなら、中学生になっても高校生になってもやらせてあげるのがよいでしょう。熱中して取り組め、「これが得意」と言い切れるものを持つことで、子どもの今後の人生が豊かになることは間違いありません。

***
そろばんには、計算が得意になることにとどまらない、多くのメリットがあります。子どもが人生を豊かに生きることに大きく貢献してくれるため、習い事として検討してみてはいかがでしょうか。

(参考)
日本珠算連盟|脳波から見た“そろばん”有段者のイメージ思考
日本珠算連盟|よくある質問(教室編)
日本珠算連盟|珠算学習の波及効果と今後の展望
株式会社雲州堂|そろばんと教育
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|そろばんを通して “自己肯定感” を育んでほしい——『トモエ算盤株式会社』藤本トモエさんインタビュー
Tomoe Soroban|そろばんの豆知識
そろばん教室USA
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|データ時代だからこその「SOROBAN」 藤本トモエ(トモエ算盤代表取締役社長)×石倉洋子【特別対談6】

   

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教育を考える 知育教材・おもちゃ

なぜ子どもは “電池で動く電車” を止めたがる? 発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力

こんにちは、日本知育玩具協会認定講師の中村桃子です。

連載『知育玩具で育てる アタマとココロ』も、いよいよ最終回となりました。最終回は「幼児期・学童期にこそ出合わせたい、能力を育てる “アナログ遊び”」について、おもちゃの先生として親御さまにお伝えしたいことをお話ししたいと思います。

じつは私には、おもちゃの先生として活動していくうえで掲げている、個人的な理念、個人的な思いがあります。それは、「子育て中のすべてのご家庭に、電池の入っていない木の汽車のおもちゃが当たり前にあるようになる」というものです。

なぜ、木の汽車なのでしょう? じつはここには、私に「子どもの発達に合わせたおもちゃを選ぶことの必要性」を気づかせ、おもちゃの先生になろうと思い立ったきっかけにもなった、私の娘とのエピソードがあります。そのことについて少しお話ししましょう。

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発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力2

子どもが「動いている電車」を止める謎

今から数年前のことです。当時、私の実家には、頂き物の「電池で動く電車&レールセット」が山ほどありました。そして、たまに実家に遊びに行くと、“孫のため” と、私の父がせっせと部屋中にレールを組んで待っていてくれるのです。最初の頃はそれをありがたく思っていたのですが、ひとつ大きな問題がありました。

なんと、つながれたプラスチックのレールの上を電池でビュンビュン走る電車を見るや否や、当時2歳間近だった娘が、動いている電車という電車を全て止めに入るのです……! 当時は、私を含めて家族みな、娘のその行動が何を意味しているのか、さっぱりわかりませんでした。

ちょうどそんなとき、(社)日本知育玩具協会のキッズトイ・インストラクター®2級養成講座に参加し、発達心理学に基づいたおもちゃの選び方・与え方を学びました。そこで初めて、私は知ったのです。「なぜ、2歳手前の娘は動く電車を止めたのか?」ということを。

子どもは “心の中で” 汽車に乗る

この時期の子どもたちは、自分自身が汽車そのものになって、想像することを楽しむもの。だから、「自分で動かす」ことがとても大切だったのです。

皆さんも見たことがありませんか? 子どもたちが汽車遊びをするとき、その目線が、汽車と同じ高さになっている光景を。

発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力3

そう、あれは、自分が汽車になって、日常生活で見たものや感じたことを汽車に投影させているのです。時に速く、時にゆっくり、自分のスピードで動かしながら自由に時間を伸び縮みさせ、五感で受け止めた世界を再体験する。この時間が、子どもたちにとって必要不可欠な時間であり、感受性や想像力を豊かに育んでいくのです。

ですから、2歳の娘が、電池で勝手に動く電車を止めるのは当然だったのですね。

そして木の汽車は、時にバスになり、タクシーになり、自由自在にその役割を変えていきます。これがアナログおもちゃのすごいところ。素朴でシンプルなデザインの木の汽車だからこそ、子どもたちのファンタジーの世界は無限に広がっていくのです。

「木のおもちゃは温かみがあって良さそう」もちろん、これも正解です。しかしそれだけでなく、「子どもの発達について学び、おもちゃを与えることで、子どもの満足度は全然違う」ということを、私はキッズトイ・インストラクター®️養成講座で学び得たのです。

誰だって、我が子が遊びに没頭し集中する姿を見るのは嬉しいもの。
だったら、そのように思えるご家庭をこの手で増やしていきたい。

先ほど述べた、私の個人的な理念「子育て中の全てのご家庭に、電池の入っていない木の汽車のおもちゃが当たり前にあるようになる」というのは、どのご家庭でも、幼児期に良いおもちゃでたっぷり遊んで、感受性・想像力を豊かに育む時間を手に入れてほしいということ。これが、おもちゃの先生として、私が皆さんにお伝えしたい根っこの部分なのです。

「遊びながら能力がぐんぐん伸びる」を叶える、発達心理学の学びのすすめ

さて、こうしてみると改めて、「子どもたちがどのタイミングでどんな知育玩具に出合うか」の大切さがおわかりになりますよね。今回は2歳の娘のことを例に挙げましたが、これが5歳だろうと8歳だろうと、同じことが言えるのです。

では、このタイミングを見極めるにはどうしたらよいのでしょうか? その方法として、発達心理学に基づいたおもちゃを選び、与えていくという方法があります。

発達心理学の礎を築いた、ロシアの言語学者ヴィゴツキー。彼は、子どもたちが遊ぶ様子に着目した研究の中で、「遊びとは、子どもたちが自分の能力のちょっと先(=最近接領域)の獲得のために活動するものなのだ」ということを発見しました。

これを言い換えると、子どもたちは次の成長段階に進むとき、「遊び」という方法を使って自ら成長していくということです。

子どもに知育玩具を買ってあげると、私たちは、すぐに上手に使いこなせるようになり、遊び続けてほしいと思うはず。しかし、それには少し注意が必要です。

大人はつい「上手に遊ぶ」という “結果” に目を向けてしまいがち。でも、子どもの楽しみは、上手に遊べるようになるまでの “プロセス” の部分にあるのです。つまり、上手に遊べず試行錯誤している過程が楽しいということ。あたかも急にできるようになったかのように大人の目に映る出来事にも、「試行錯誤の中で小さな小さなステップを踏みながらようやくできるようになった」という過程がひそんでいるのです。

「結果、結果」で見てしまうと、子どもたちが最も楽しんでいる姿を見逃してしまうということを、親御さんは心に留めておくとよいでしょう。

発達に合わせた知育玩具を選び、与えることで、子どもの心は満たされていきます。すると、お父さんもお母さんも、我が子と一緒になって遊べるように変わっていきます。そして最終的に、我が子の心にしっかりと寄り添える親御さんになり、結果お子さまは、自分を信じる強い心を持った子へと成長していくことでしょう。

発達心理学が教えてくれた「アナログ遊び」の魅力4

***
さて、最後になりますが、知育玩具とは「自分の心・体・頭を使って “幸せになる力” を育てるおもちゃ」だということを改めてお伝えしておきます。そのためには、私たち大人が、良い知育玩具を選び、子どもたちに出合わせてあげなくてはなりません。子育て中の皆さんにはぜひ、子どもが五感を総動員させられる良い知育玩具を選べるようになっていただきたいと思います。

たくさんの “アナログの遊び” の経験を積んで、自分を信じる力を持った子どもがたくさん育つことを、心から楽しみにしております。

監修:(社)日本知育玩具協会

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からだを動かす スポーツ 教育を考える

挫折を乗り越え夢を叶えた、私のアスリートとしてのトレーニング法――パラリンピック金メダリスト・土田和歌子さんインタビューpart2

車いすアスリートとして第一線で活躍している土田和歌子さん。高校2年生の時の交通事故が原因で、それからの一生を車いすで生活しなければならなくなりました。そんな誰もが悲嘆に暮れるような状況も持ち前のポジティブ精神で乗り越え、今ではパラアスリートとして日本を牽引するまでに。土田さんが、トレーニングコーチでのちに結婚することになる高橋慶樹氏と共に取り組んできたアスリートとしてのトレーニングとは、どのようなものだったのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/田口久美子 写真/榎本壯三(メインカットのみ)

挫折をバネにパラリンピックメダリストへ

――土田さんは、入院先の病院で障がい者スポーツと出会ったそうですが、最初から車いすマラソンでメダルを目指していたのでしょうか。

土田さん:
退院後は高校にも復学しましたが、同時に医師やリハビリの先生からすすめられ、障がい者スポーツをはじめるために東京都多摩障害者スポーツセンターに通いました。

最初は車いすの陸上競技をやったのですが、種目は車いすマラソンではありませんでした。最初に取り組んだ陸上競技では、1993年の徳島うずしお国体(身体障害者国民体育大会)で100m走とハンドボール投げで優勝。国体優勝後には、子どものときにバスケットボールをやっていたので、またバスケットボールをやりたくて車いすバスケットに転向しました。

そんなときに、座位で行うスピードスケート競技の「アイススレッジスピードレース」の講習会に誘われ、興味半分で参加したのです。わたしはそれまで車いすの陸上競技やバスケットボールをやっていたので、身体の使い方がうまかったのでしょう。アイススレッジにもすぐに馴染むことができ、ノルウェーから来ていたコーチの方からも「身体の使い方が上手だ」と褒められたことを覚えています。しかし、その時点ではまさかアイススレッジをやることになるとは思ってもいなかったのです。

アイススレッジの講習会から約1カ月後、「リレハンメルの冬季パラリンピックにアイススレッジの日本代表選手として出場しないか」と連絡がありました。講習会に参加しただけでいきなりの日本代表選手という話ですから、普通の人であれば不安な気持ちが強くなり、躊躇されるのではないかと思います。でも、わたしは持ち前の好奇心とポジティブ思考があったので、「いまあるチャンスは無駄にしたくない」ととらえアイススレッジの日本代表を受けることにしました。

そこで初めて、ポジティブ思考のわたしでも「これは大変だ!」と現実を知ることになります(笑)。なぜなら、わたしが日本代表として出場することになる1994年リレハンメル冬季パラリンピックの開催まで、たったの3カ月しかなかったのです。

――パラリンピックの3カ月前とは、時間があまりに足りませんね。

土田さん:
そうなんです(苦笑)。お話を頂いてからパラリンピックまでの3カ月間は、どんなトレーニングや練習をすればいいのかすらわたしにはまったくわからなかった。当時のアイススレッジは選手も少なかったし、それこそすべてが手探り状態でした。それでも、東京都多摩障害者スポーツセンターの職員の方にコーチングをしてもらい、陸上競技など他種目からヒントを得てトレーニングし、本番に臨みました。

結果は100m、700m、1000mで入賞はしましたが惨敗……。世界のトップレベル選手たちとのアイススレッジの試合も初めてですし、選手としての体づくりもできていないという準備不足もあったのでしょう。結果も踏まえて、とても後悔が残る大会でした。帰国後は「もう競技をやらなくてもいいかな」と思ったときもありましたが、なにせ私は負けず嫌いの性格。1998年に長野パラリンピックの自国開催が決まっていましたし、長野でリベンジしたいと決意したのです。

――長野パラリンピックでは、1500m、1000mで金メダル、500m、100mで銀メダルを獲得し、見事にリベンジしましたね。

土田さん:
自国開催でしたから、長野パラリンピック本番に向けて本格的に競技普及・強化活動が行われたことも好結果を後押ししてくれました。リレハンメルパラリンピックのときは男女1名ずつの参加だったため練習からずっと孤独な戦いでしたが、長野パラリンピックに向けてアイススレッジ選手も増え、仲間同士で励まし競い合い切磋琢磨しながら強化していくことができました。そういうことがあり、本番で勝つことができたのだと思っています。

挫折を乗り越え夢を叶えた、私のアスリートとしてのトレーニング法2

夢に向かって二人三脚のトレーニング

――その後、アイススレッジを辞めて陸上競技に転向されたわけですね。 2000年シドニーパラリンピックでは車いすマラソンに出場され、銅メダルを獲得しました。

土田さん:
当時は仕事をしながら競技生活を続けていたのですが、海外の選手たちの中には仕事をせずにプロフェッショナルとして活動している選手が多くいました。そんな姿を目の当たりにして、そうした選手たちと同じ環境下に身を置かないとメダルは獲れないと気づいた大会でもありましたね。さらに、わたしは体が小さかったのでパワフルな肉体を手に入れるために肉体改造をする必要もあったのです。

ちょうどシドニーパラリンピックが終わった後、総理官邸主催の祝賀会で橋本聖子さん(アルベールビルオリンピック女子スピードスケート1500m銅メダル)とお話する機会がありました。それがきっかけになってプロに転向する機会を頂き、2000年から4年間はスポーツマネジメントを手がける会社に所属し、海外遠征を含め世界の舞台を中心に活動していくことができたというわけです。

――この頃、のちにご結婚される高橋慶樹さん(元スピードスケート選手)がトレーニングコーチとなっていらっしゃいますが、トレーニングを見てもらうきっかけは?

土田さん:
わたしたちの競技は三輪の車いすを使う陸上競技で、低い低姿勢で乗る三輪の車いすは乗り物としては自転車に非常に近いという特性があります。そして、この競技はスピードトレーニングが非常に大切。トレーニング内容としては、陸上競技場で行うスピードトレーニング、持久力のトレーニングとしてロードトレーニング、それからウェイトトレーニングといった3つで構成されています。それらを組み合わせてトレーニングメニューを作成していたのですが、さらなる肉体改造を実施するにはスピードトレーニングの強化が不可欠。そのためには、自転車競技の選手の協力が必要だと感じていました。

ちょうどその頃、彼(高橋慶樹氏)は橋本聖子さんの事務所に所属しており、コーチとして様々なアスリートを指導していました。彼の指導者としての経験と、元々自身がスピードスケート選手で氷上以外の練習に自転車トレーニングを取り入れていることもありました。自転車の技術を車いすの技術にもつなげられるし、トレーニングの方法にも詳しいのでアドバイスをもらいたいと思い、「練習を見に来てください」とお願いしたのです。しかし、最初はなかなかいい返事をもらえなかったんですよね(苦笑)。でも一度来てもらって、それから毎日練習に来てもらえるようになりました。初めて障害者スポーツを見て、そのスピード感に驚いたのだと思いますよ。それから、彼と一緒に2004年のアテネパラリンピックに向けて、5000mとマラソンの2種目に絞り、持久系のトレーニングを強化していきました。

――アテネパラリンピックは、5000m金メダル、マラソン銀メダルという素晴らしい結果となりましたね。トレーニングに関しては様々な情報がありますが、トレーニングを効率よく行うことが大事だと言われています。効率のよいトレーニングとはどうやればいいのでしょうか? スポーツをやっている子どもたちにアドバイスをお願いします。

土田さん:
いま、わたしは車いすマラソンから競技を転向し、トライアスロンで2020年の東京パラリンピックを目指しているのですが、トレーニングの効率を考えたときに自分の力に見合った運動が必要になります。トライアスロンはスイム(750m)、バイク(20km)、ラン(5km)の計25.75kmを競うわけですが、これらの運動に対して特性に合わせたトレーニングをバランスよく変えていくことでリフレッシュできますし、短い時間のなかで強度の高い練習を単発的に何回か入れることは競技力アップにつながります。しかし、その強度の高いトレーニングは頻繁にはでませんので、強弱をつけたトレーニングを行うようにしています。また、リカバリーとしてスイムトレーニングをやったり、いろいろなかたちでトレーニング効果を考え、総合的に体づくりを行うようにしています。

お子さんがなにか運動をしていて、トレーニングが欠かせないということも多いかと思います。強いトレーニングをただやっても体に負荷がかかりますし、故障の原因にもなるでしょう。やはり、その競技の特性と自分自身の体を考え、総合的にやるべきことを意識し効率よくやっていくことが重要になります。しっかりとコーチやトレーナーの指導を受けて、自分の体に合ったトレーニングを心がけてほしいですね。

もちろん、反復練習も大事なことですよね。いまはトレーニングも科学的に進化し、たくさんの情報やノウハウが溢れています。それでも、基本に忠実に同じことを繰り返すような地道なトレーニングもまた大切だと思っています。わたし自身もそうですが、そうした地道なトレーニングをやることもまた、成果をあげることに直結していると見ているのです。本当にいまはいろいろなトレーニング方法がありますが、その年代にあったやり方を考えないといけませんよね。子どもの頃はウェイトトレーニングに偏るのではなく、いろいろな動きを経験して、体の「使い方」をトレーニングしていくことも重要ではないでしょうか。

■ パラリンピック金メダリスト・土田和歌子さん インタビュー一覧
第1回:試練を乗り越えるための「ポジティブ・モンスター」という生き方
第2回:挫折を乗り越え夢を叶えた、私のアスリートとしてのトレーニング法
第3回:母から学び我が子に伝える、強い体をつくるバランスのいい食事
第4回:子どもには「経験」から自主性を伸ばしてほしい

【プロフィール】
土田和歌子(つちだ・わかこ)
1974年10月15日、東京都出身。高校2年時に交通事故で脊髄損傷を負い、車いす生活となる。翌年の秋にアイススレッジスピードスケートの講習会に参加し、約3カ月後のリレハンメルパラリンピック(1994年)に出場。4年後の長野大会では、1500メートル、1000メートルで金メダルに輝き、100メートルと500メートルでは銀メダルを獲得した。その後は陸上競技に転向し、2000年シドニー大会では車いすマラソンで銅メダル、2004年アテネ大会では5000メートルで金メダル、マラソンで銀メダルを獲得。2007年にはボストンマラソンで日本人では初めて優勝する。今年4月のボストンマラソンでは5連覇を達成。大分国際車いすマラソン大会では6度の優勝を誇る。現在は、競技を車いすマラソンからトライアスロンに変え、新たなチャレンジをしている。

【ライタープロフィール】
田口久美子(たぐち・くみこ)
1965年、東京都に生まれる。日本体育大学卒業後、横浜YMCAを経て、1989年、スポーツ医科学の専門出版社である(有)ブックハウス・エイチディに入社。『月刊トレーニング・ジャーナル』の編集・営業担当。その後、スポーツ医科学専門誌『月刊スポーツメディスン』の編集に携わる他、『スピードスケート指導教本[滑走技術初級編]』((財)日本スケート連盟スピードスケート強化部)などの競技団体の指導書の編集も行う。2011年10月「編集工房ソシエタス」設立に参加。『月刊スポーツメディスン』および『子どものからだと心白書』(子どものからだと心連絡会議)、『NPBアンチドーピング選手手帳』((一社)日本野球機構)の編集は継続して担当。その後、『スピードスケート育成ハンドブック』((公財)日本スケート連盟)の他、『イラストと写真でわかる武道のスポーツ医学シリーズ[柔道編・剣道編・少林寺拳法編]』(ベースボール・マガジン社)、『日体大ビブリオシリーズ』(全5巻)を編集。現在は、スポーツ医学専門のマルチメディアステーション『MMSSM』にて電子書籍および動画サイトの運営にも携わる。

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健康を考える 食育

親子で学ぶ おいしい食育学【第10回】お弁当のルール 編

10回にわたってお送りしました管理栄養士・新生暁子先生による『親子で学ぶ おいしい食育学』。今回はいよいよ最終回です。毎日忙しい親御さんにとって、普段の食事作りとはまた違うお悩みを持つ“お弁当作り”ですが、tokko先生流・お弁当作りのポイントを読めば、気持ちが軽くなるはずです。

また、これまで子どもの「食」についてお悩みの保護者の方に優しく寄り添い、問題解決へと導いてくれたtokko先生。みなさまのご家庭の食事の時間がより楽しく、豊かなものになるきっかけとなったことを期待しつつ、最終回ではtokko先生から読者のみなさまへとっておきのメッセージをいただきました。

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お悩み「お弁当作りが憂鬱」

お悩み:もうすぐ小学校の運動会。子どもの活躍を楽しみにしているものの、お弁当のことを考えると少し憂鬱になってしまいます。卵焼きや唐揚げのような定番のおかずもいいですが、準備が簡単で見た目が華やか、そして何より子どもが喜ぶお弁当のおかずを教えてほしいです。(小5息子ママ)

tokko先生の答え

長い夏休みも終わり、新学期を迎えたお子さんが多いのではないでしょうか? 今年の夏は過酷な暑さだったので、体力的にも大変でしたね。そのうえ、新学期が始まり生活に変化があると、どうしても体調を整えるのが難しくなってしまいます。

そうこうしている間に、秋の遠足や運動会などイベントが目白押し。お子さんにとってはイベントそのものも楽しみだと思いますが、昼食が給食からお弁当になるということも特別感があり嬉しいものです。とくに、このようなイベント時は好きなものをたくさん入れてもらえるので、より一層ワクワクするのではないでしょうか。

親子で学ぶ おいしい食育学【第10回】2

毎日のお弁当では栄養のことやバランスも気になりますが、イベント時のお弁当はハレの日のものです。ですから、このときくらいは、お子さんの好きなもので埋め尽くしてあげてもいいのではないでしょうか? その方がお子さんのモチベーションも上がりますし、「食を意識する」ことにつながります。そしてお子さんにとっては、このときのお弁当が『記憶に残る食』となるのです。このような体験は子どもにとってとても大切です。ぜひぜひ、お子さんのお弁当に入っていたら嬉しい料理を、食事中に聞き出してみてください。

しかし、お弁当にもルールがあります。今回はそのルールと、私のオススメのお弁当のおかずをご紹介しましょう。

覚えておきたいお弁当のルール:

  1. 食中毒など、衛生面には気をつけましょう
  2. 汁気があるものは避けましょう
  3. 酢、梅干しなどを上手に使いましょう
  4. 主食(おにぎり・サンドイッチなど):メイン(肉や魚など):野菜=5:2:3

これらのルールを守ったうえで、お子さんの大好きなお弁当を作ってみましょう。今回おすすめするのは、アレンジが豊富なおかずです。

<オススメおかず>

豚ミンチのミートボール

親子で学ぶ おいしい食育学【第10回】3

ミートボールには、たまねぎ、にんじん、ピーマン、きのこ、コーンなどお子さんの好きな野菜を刻んで入れることができますね。旬の野菜や冷蔵庫に残っている野菜などを入れることができるところもポイントです。

また、そのまま焼けばハンバーグにもなりますし、餃子や焼売の皮に包んで、揚げたり蒸したりとバリエーションが豊富です。ミートボールのあんかけの味つけを変えてみても、また違った味わいが楽しめます。冷凍もできるので、ぜひぜひ、みなさんのご家庭の味で作ってみてはいかがでしょうか?

親子で学ぶ おいしい食育学【第10回】4

さて、全10回にわたってみなさんに「子どもの食」についてお伝えをしてまいりました。いかがだったでしょうか?

みなさんにお伝えするときに心がけていたことは、『難しくないこと』と『実践できそうなこと』でした。私はいつも、未来を担う子どもたちが健康で、心身ともに豊かであればいいなと思っています。だからこそ、毎日の当たり前の食を決して粗末にせず、大切に感じ、考えて欲しいのです。この10回のコラムを通じて、親御さんとお子さんの食を通したつながりが強くなってくださることを切に願っています。

***
tokko先生こと新生暁子先生による連載『親子で学ぶおいしい食育学』、いかがでしたか? 子どもの年齢や性別、性格、夢中になっているスポーツ、食べ物へのこだわり、それぞれの家庭の事情、親御さんの食に対する意識など、さまざまな条件や置かれている環境によって「子どもと食の関係」は大きく変わります。しかし一番大切なことは、親御さん自身が無理をせず、おいしい食事を子どもと一緒に楽しむことだと私たちは考えます。未来を担う子どもの健やかな成長のために、この連載コラムをぜひお役立てくださいね。

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教育を考える 食育

「~~しちゃダメ」よりも「~~してもいいんだよ」と教えたい【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その4】

インタビュー後半では、これまでたくさんの小学校で授業を実施してきたからこそわかる学校ごとの個性、小学生らしいエピソードが盛りだくさんの授業風景など、スナックスクールの裏話をお聞きしました!

さらに、お菓子を作る企業としてカルビー(株)が掲げている信念や、子どもたちの健やかな成長をサポートするために実践していることをおうかがいしました。

それぞれの学校の個性が光る授業風景

ーー授業全体の流れも時間配分も、子どもたちの集中力を切らさない工夫が随所に見られました。とくに班ごとに答えを出すとき、考える時間を「2分」と区切り、モニター上でタイマーを表示するアイデアがいいですね。

森田さん:
あれがないとずーっと考えちゃったり、気が散っておしゃべりし始めちゃったりすることもあるんです。2分は短いように感じますが、真剣に取り組んでいると集中力が発揮されて時間内で答えを出すことは充分可能です。こういった工夫も、スナックスクールを続けていくなかで年々改良されているんですよ。

【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その4】2

ーー今日の子どもたちはとても元気で素直で、反応も良かったですね。いつもこういった雰囲気なのでしょうか?

森田さん:
今日は3年生だったので、比較的素直で子どもらしさがあふれていましたね。5年生くらいになると、ぐっと大人っぽくなる子もいるので、少しクールな反応をされる場合もあります。

金子さん:
学校によっては「静かに手を挙げなさい」って指導しているところもありますし、「手を挙げて指されてからじゃなきゃ発言しちゃダメ」とかもあるので、その学校に行って授業を始めるまではどのような反応が返ってくるかはわかりません。

森田さん:
反応を見てから「あ、この学校はこういう感じなのね」と瞬時に判断して授業を進めていきます。「このクラスのリーダーはこの子だな」とかね(笑)。

山田さん:
そうそう。ちょっとお調子者っぽい子や率先して意見を言う子はやっぱり目につきますよね。そういったリーダータイプの子は、授業を進めていくうえでも助けになってくれることが多いです。

森田さん:
授業が終わってみんなが教室に戻るとき、「あの、お手伝いありますか?」って言ってくれる子もいますよ。

ーーそれは感心ですね! 他にも何かエピソードなどがあれば。

森田さん:
ケンカしちゃって泣き出す子もいますね(笑)。

金子さん:
いますいます。けっこう多いですよ。

山田さん:
こないだもありましたね。ポテトチップスを何グラムって量るとき、班の中でひとりだけ違う数字を答えてしまって。実はその子が正しい数字を言っていたのに、周りの子たちが「違うよ」と責めてしまったことからぶつかり合ってしまったんです。最終的に双方から話を聞いて、先生にも間に入ってもらってなんとか解決しました。他にも授業で使うツールを触らせてもらえなかった、とか、子どもですから些細なことでトラブルに発展してしまう。

森田さん:
女の子が男の子を「ポカッ」てやって「うわーん」って泣かせるのも意外と多いですね(笑)。女の子は強い。

カルビー(株)が一番伝えたいこと

ーーそういったハプニングもあるんですね。一方で、限られた時間で授業を進めなければならないし、臨機応変な対応が求められますね。

森田さん:
突然発生するトラブルもそうですし、たとえば積極的に発言してくれたとしても、考えをまとめきれずにうまく表現できない子もいますよね。でも私たちは、スナックスクールに参加したすべての子どもたちに「悲しかったな」という思いだけはさせたくないんです。少しズレたことを言っていても「発言してくれてありがとう!」という気持ちを大事にしています。「スナックスクール楽しかった!」って、ずっと覚えてくれていたらいいなって思います。

【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その4】3

金子さん:
おやつってやっぱり「楽しいもの」であってほしいので、スナックスクールを通じて楽しさも伝えていきたいんです。

ーー子どもが健やかに成長するために、カルビー(株)がサポートしたいと思うことはなんでしょう?

金子さん:
やはり一番は「自分で判断できるようになってほしい」ということ。自分で量なり時間なりを考えて、判断して、いいか悪いかを考えながら食べられるようになってほしいんです。これから子どもたちが成長するにつれて、親から与えられたものだけを食べ続けることはできませんよね? だからこそ、今のうちから正しい知識を身につけることが大事なんです。そこでカルビー(株)として、「自分で判断して食べてもらう」ということをサポートできればと思います。

ーー子どもはいつか親の手を離れていくもの。いずれ訪れるその時までに、自分で食べるものを選ぶ力「食選力」や、正しい知識をもとに健康を管理する力「自己管理力」が身についていてほしいと願います。では最後に、子どもの「食」や「おやつ」についてお悩みの保護者の方たちに向けて、メッセージをいただけますでしょうか?

金子さん:
そうですね、「おやつは食べてもいいものなんだよ」ということでしょうか。よく「~~しちゃダメ」っていう言い方をしますが、「~~してもいいよ」という言い方に変えるだけで、随分気持ちが軽くなると思います。

「何時に食べちゃダメ」とか「こんなに食べちゃダメ」じゃなくて、「いついつまでだったら食べてもいいんだよ」とか「これくらいだったら食べてもいいんだよ」と言い換えることで、お子さんも親御さんも楽しくおいしくおやつを食べることができますよね。

【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その4】4

ーー確かに、言い方ひとつで随分と印象が変わりますね。おやつにはきちんと役割があり必要だから食べている、という意識を持てば、毎日のおやつの時間が身体と心の栄養を補給する大事な時間へと変化していくような気がします。本日はどうもありがとうございました。

***
取材を終えて、私たち親は、おやつを食べさせることを必要以上に心配したり不安に感じたりすることはないのだと実感しました。むしろ、スナックスクールを受けた子どもたちのキラキラした目や、食に対する意識の変化を目の当たりにし、正しい知識や情報を与えることこそが大人としての義務だと感じました。お菓子メーカーのカルビー(株)だからできること、子どもたちに伝えられること、それらを私たち大人も教えてもらった一日でした。

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インタビュー 教育を考える 教育メソッド

ボキャブラリーが豊富な子どもは思考の展開が速い~日常生活にモンテッソーリ的発想を~【愛珠幼稚園園長 天野珠子先生】

日本では主に幼児期の教育として取り入れられているモンテッソーリ教育。

この教育方法には子どもが小学生になってからも役に立つヒントがありそうです。世田谷区にある愛珠幼稚園の園長であり、特定非営利活動法人東京モンテッソーリ教育研究所の理事長も務める天野珠子先生にアドバイスをいただきました。

取材・文/田中祥子 写真/大平晋也

小学生になっても日常生活にモンテッソーリ的発想を取り入れるコツ

――幼稚園のモンテッソーリ教育の中から、小学校に入って役に立つことはありますか?

天野先生:
これは愛珠幼稚園で行っていることですが、子どもたちには園で制作した絵や作品を綴じたファイルを作らせています。作品ができあがったら、それを自分でファイルに綴じます。そして、綴じるための場所には穴あけパンチと日付のゴム印が置いてあるのです。教材の真ん中にはしるしをつけていますので、それに合わせて穴をあけ、日付印をして綴じます。

最初はうまくできなくても年長になればキレイにできるようになりますよ。小学校に入ると実に多くのプリント教材を持って帰りますが、この方法を小学校に入っても続けていれば自分で整理ができるでしょう。

~日常生活にモンテッソーリ的発想を~2
愛珠幼稚園の園児たちの作品ファイル。B4とB5の2つのサイズがあり、ファイルの色は、年少が赤、年中が黄色、年長が青。卒園時には6冊の作品ファイルができあがる。

また、お泊り保育ではビニールの密封できる袋に「1」「2」「3」「星」の印をつけた4つの袋を作って下さいとお母さんにお願いします。「1」の袋というのは、宿舎に着いたらお風呂に行くときに持っていく袋。パジャマと下着とタオルを入れておき、それだけ持っていけば着替えられるようにしておきます。着替えを出したら、空いた袋に脱いだものを入れればいいのです。

次の日に起きたら「2」の袋、夜は「3」の袋を同じように使います。「星」は非常事態用の予備です。このように整理すれば荷物がごちゃごちゃになりません。小学校やご家族で旅行するときも、応用できるのではないでしょうか。

これらはマニュアルがあったり、モンテッソーリ自身が言ったりしたことではありません。私たちが幼稚園教育の実践の中で工夫したものばかりです。何でも工夫次第で、子どもが一人でできるようになる手助けはたくさんあります。

ボキャブラリーが豊富な子どもは思考の展開が速くなる

――小学生の学びの面で何ができることはありますか?

天野先生:
ボキャブラリーを豊富にしてあげるといいでしょう。ボキャブラリーが豊富な子どもは思考の展開が速くなります。小学4年生くらいになると具体的な言葉だけでなく、抽象的な言葉の世界で考え、大人の考え方のプロセスに成長していきます。

例えば、「野菜と果物の違いは何ですか?」と質問されたとき、野菜ではトマト、果物ではバナナしか思い浮かばない子どもは「色が違います」と言うかもしれません。単体だけしか知らないと、そんなふうな答えしか出てこないのです。ですが、いわゆる「野菜」「果物」という全体を示す概念語を知っていれば、思考はどんどん広がります。

算数で言うならば、2個のリンゴと3個のミカンを合わせたら幾つになるかという問題がありますね。これは数えれば小さな子でも分かります。でも、200と300を足したら幾つとなると、とても数えられません。ここで丸を並べて桁をつくる抽象の数を知っていれば、あっという間に計算できる。数も言葉のひとつですから、抽象語を覚えるのと同じです。

月に行く距離の算定方法が私たちの記憶に入らないのは、そのプロセスの抽象語を知らないからです。シグマとかルートとか、そういう言葉を聞いただけでぱっと原理が浮かぶ人であれば、考えは非常に早く進むでしょうね。ですから、抽象の世界に入るには言葉をたくさん知っている必要があります。

台所で「ママ、なにしてるの?」と子どもが尋ねることがありますね。そのとき、単に「ご飯を作ってるの」だけでなく、「野菜を炒めているの」「しゅうまいを蒸かしているの」と言ってあげて下さい。料理を作るのでも「炊く」「煮る」「焼く」「揚げる」などいろいろな言葉があります。それを聞くことで子どものボキャブラリーは豊富になるのです

また、電話のときに「ちょっと待ってなさい」と言うと、しばらくして電話がまだ終わらないのに子どもが騒ぎ出すことがあります。子どもとしては、すでにもう「ちょっと待った」のだから当たり前です。そんなときは「電話が済むまで待って」と具体的に言えばいいのです。

親は乱暴な言葉で子どもをあやつるのではなく、言葉は易しくても他人に対して言うのと同じように話しかけるべきです。子どもの立場になってみて、きちんと分かるような話しかけをしているのだろうかと考えること。これはものすごく大切なことです

~日常生活にモンテッソーリ的発想を~3

――日常生活にボキャブラリーを伸ばすコツがあるのですね。

天野先生:
もうひとつお願いしたいのは、絵本をたくさん読んであげて下さい。小学校の1~2年生頃までは、子どもが自分で読むより、だれかに読んでほしいものです。字が読めるということと読んで楽しめるということは別です。文字を追うことに一生懸命で内容が把握できないことが多いのです。

本の中には、「お姫様」や「悪魔」など空想の世界のボキャブラリーがたくさんあります。現実の範囲を超えるものでも、絵本の中なら経験できますね。絵本から入り、ストーリーが必要になってくると『三匹のこぶた』や「おおきなかぶ」など繰り返しの多いものが記憶に残ります。

徐々に起承転結のある物語に入り、小学生になると『大きい1年生と小さな2年生』など実体験に結びついた物語を読むようになります。それが楽しくなると、いわゆる名作に、そして次は伝記に入るといわれています。そうして本格的な本好きになっていく。

本好きな子にするにはプロセスがあるのです。ですから、大きくなっていきなり「本を読みなさい」と言われても、プロセスのない子どもには難しいのです。そして、子どもが本を読んでいるあいだ、親も本を読むことも必要です。親に本を読む習慣がないと、子どもは本に親しめません

~日常生活にモンテッソーリ的発想を~4

――この先、子どもたちは行動範囲が広がり、親から自立していきます。

天野先生:
小学校の4~5年生になると「ギャングエイジ」(徒党時代)といわれる時期に入り、親よりも友達関係が大切になってきます。なんでも友達と一緒がいい。そして何かトラブルがあって寂しくなったときに、親の元に戻ってくるのです。もし子どもから友達のことで相談があったとしても、親御さんが前面に出てたり、解決しようとすることはできるだけ控えましょう

「それは悔しかったね」とか「ママも同じようなことがあったよ。あのときは悲しかったな」などと慰めてあげてください。気が休まったころには、また遊びという戦場に出て行けます。小学校高学年から中学生くらいまでは、家庭は子どもの気持ちがほっとする安全基地(オアシス)であるべきです

【プロフィール】
天野珠子(あまの・たまこ)
東京都世田谷区にある学校法人天野学園「愛珠幼稚園」理事長・園長。短大の保育科で「乳幼児心理学」や「幼児教育心理学」の教鞭をとる傍ら、日本で初めてのモンテッソーリ教員養成機関「上智モンテッソーリ教員養成コース」の3期生としてモンテッソーリ教育を学び、その後、お母さまが経営していた「愛珠幼稚園」を引き継ぎ、モンテッソーリ教育を30年以上にわたって実践。
現在、NPO法人東京モンテッソーリ教育研究所理事長、日本モンテッソーリ協会(学会)副理事長。駒沢女子短期大学名誉教授。

***
お話しをお聞きしていたときに、天野先生が「お子さんを育てようと思うなら、子どもとは自分の一部ではなく、別の人間だと思ってほしい」とおっしゃっていたのが印象的でした。

「私の教育は、子どもの人格の尊重から始まる」という言葉をモンテッソーリは残しています。子どもの姿をきちんと見る眼を持つことが、親として一番大切なことなのかもしれません。

※本記事は2018年9月3日に公開しました。肩書などは当時のものです。

■ 「モンテッソーリ教育」天野珠子先生 インタビュー一覧
第1回:子どもの自主性を尊重し、集中力と柔軟な対応力を育む「モンテッソーリ教育」
第2回:子どもたちが自ら育つ力を応援する「モンテッソーリ教育」のメソッド
第3回:自分でできるという自信が学習意欲につながる。「モンテッソーリ教育」成長のためのヒント
第4回:ボキャブラリーが豊富な子どもは思考の展開が速い~日常生活にモンテッソーリ的発想を~

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教育を考える 食育

インタビュー:おやつが育む身体と心について【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その3】

スナックスクールを実施した小学校から移動して、東京・丸の内にあるカルビー(株)本社にやってきました。

今回スナックスクールで講師を務められたカルビー食育チームの森田孝枝さんと山田繁男さん、さらにCS推進部スナックスクールチームの金子利行さんにも加わっていただき、カルビー(株)の食育に対する想いから15年続くスナックスクールの裏話まで、たっぷりとお話をうかがってきました!

【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その3】2

【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その3】3

生活に密着した学びが子どもを輝かせる

ーーよろしくお願いいたします。本日見学させていただいたカルビー・スナックスクールですが、子どもたちだけではなく私たち大人も夢中になるくらい、とても充実した内容でした。

金子さん:
ありがとうございます。90分間は長く感じませんでしたか?

ーー全体的にとてもテンポがよく、ゲームやDVD鑑賞の時間などを盛り込んでいたので、思っていた以上に短く感じました。子どもたちもダレることなく集中して取り組んでいましたね。

金子さん:
15年前に開始した当時から、基本的な授業内容は変わっていません。おやつの食べ方やパッケージ表示の見方を学んでもらい、「自分でおやつを選ぶ力を身につけてほしい」という想いが伝わるように工夫した内容になっています。

森田さん:
何年続けていても子どもたちの反応は同じです。「おやつって“食べ方”があるんだ」「好きな時間に食べちゃダメだったんだ」「これからパッケージ表示見ようかな」とか。これだけ情報があふれている時代ですが、不思議と子どもたちにとってははじめて知ることばかりなんですよね。

ーー確かに今日も新鮮な反応が多く見られましたね。事あるごとに「おお~~!」とか「え~~!?」とか、子どもらしい素直なリアクションが自然と引き出される構成になっていたように感じます。

森田さん:
そうですね。今回もそうですが、スナックスクールの後にすぐ給食があると、さっそく牛乳の裏の表示を見てくれているみたいです(笑)。おやつだけではなく、身近な食品の表示を意識するようになることで、食に対する考え方にも変化が出てくるのではないでしょうか。

ーースナックスクールのコンセプトでもある「自己管理能力」=「食を選ぶ力(食選力)」を培う、ということにもつながりますね。

金子さん:
小学生にもなると、ひとりでお留守番をしたりお小遣いでおやつを買ったりすることもあるでしょう。自分で時間を決めて、自分でどのくらいの量を食べるかを決めなきゃいけない。そんなとき、スナックスクールで学んだ知識を活かしてほしいと思っています。

【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その3】4CS推進部スナックスクールチームの金子利行さん(左)・カルビー食育チームの森田孝枝さん(右)

親子で受けたいカルビー・スナックスクール

ーー今日の授業は2クラス合同で行っていましたが、いつもだいたいこのくらいの規模で実施しているのですか?

金子さん:
いえ、今日は少ない方ですね。

山田さん:
5クラス合同とかありますよ。

金子さん:
保護者も入れて何百人、体育館で、とかね。

山田さん:
レジャーシートを敷いて(笑)。年に何回か300人超え、というのがあるんですよ。一大イベントですね。

ーーとても楽しそうですが、そんなに大人数をまとめるのは難しいのでは?

森田さん:
意外と平気です。先生方もたくさんいらっしゃいますし、お手伝いの保護者の方もいらっしゃいますから。もちろん事前にしっかりと打ち合わせをして授業の流れを確認しますが、子どもたちが集中して聞いてくれるように、学校側も配慮してくれるんです。あと、グループの中にしっかり者の子がひとりいてくれると、きちんとまとめてくれます(笑)。

金子さん:
毎年たくさんの小学校を訪れますが、その学校の雰囲気や生徒たちのキャラクターもそれぞれ個性があって面白いですよ。去年一年間だと保護者と児童含めて約5万5千人、15年間でのべ60万人が参加してくれました。

ーー子どもだけではなく、ぜひ親御さんも一緒に参加してほしい内容ですよね。

森田さん:
先生方は「おうちの方にも聞いてもらいたい話だった」とおっしゃってくれますね。「おやつの量はこれくらいがちょうどいいんだ」とわかれば、日頃子どもに与えるおやつについて悩んでいる親御さんも安心しますよね。

山田さん:
親子で共通の話題にしてほしいんです。ここから家族のコミュニケーションにもつなげていけたらいいな、と思っています。

森田さん:
あとたまに、同居しているおじいちゃんやおばあちゃんにも聞いてほしい、という声もあります。ほら、孫が可愛いくてついついおやつをあげすぎちゃうから(笑)。

【食のまなび探検隊「カルビー(株)」その3】5カルビー食育チームの山田繁男さん

さまざまな味覚に触れることの重要性

ーーおやつに限らず食事や生活習慣など正しい知識と自己管理能力を身につけていれば、健やかな人生を送る基盤となるはずです。親が子に伝えることも大切ですが、世代を超えてあらゆる人が一緒に学べるといいですよね。

金子さん:
世代という話で言うと、以前このようなことがありました。スナックスクールの講師として一緒に組んでいた社員の方が、おじいちゃん世代だったんですが、最近の子どもは「渋い」という味がわからない、と。「昔は渋柿とかをかじって『渋い!』なんて言って自然と覚えたもんだ」と言うわけです。

森田さん:
渋い食べ物って、今の時代は食卓に出てこないですもんね。

金子さん:
そう。だから「渋い」っていう表現がわからないんですよね。以前スナックスクールの授業で、「甘味」「塩味」「酸味」「苦味」「うま味」の5味について教えたことがありましたが、「酸っぱい」と「しょっぱい」の違いがわからない、という子もいましたね。それから「(うま味の)うまい」という表現が理解できなかったり……。

ーー実際に舐めてみると「これが酸っぱいっていう味覚なんだ」と理解はできますが、言葉だけで説明するのは難しいですよね。

金子さん:
授業として行ったのは数年前ですが、その当時でも「苦い味」をあまり経験したことがない子が多かったです。

森田さん:
「苦い味」をしっかりと感じることも大切。人間ってちゃんと反応できるようになっていて、苦味は「毒かもしれない」と危険を察知することに直結するんです。だから苦い味も舌で感じて、理解できるようにならないといけませんね。

ーー苦みや渋みなどを排除することで、現代は口当たりが良く食べやすい味の食べ物ばかりになってしまったように感じます。その結果、今の子どもたちは味覚の幅が狭くなってきているのかもしれませんね。

森田さん:
渋いものを食べてもどうやって表現していいかわからないようです。

金子さん:
「まずい」の一言で終わっちゃう。

森田さん:
そう。「おいしい」か「まずい」。あと「好き」か「嫌い」か。

金子さん:
そう考えると少しもったいない気がしますね。あと何十年経ったらきっと「渋い」なんて忘れられてしまうかもしれない。

森田さん:
本当はもっと余裕があれば、そういったことも子どもたちに教えてあげたいんですけど、実際はなかなか難しいですね。

***
試行錯誤しながらも、子どもたちに大切なことを教え続けていきたい、という熱意が伝わってきました。楽しくおいしいおやつの時間を過ごすために、私たち親ができることはまだまだあるはずです。インタビュー後半では、スナックスクールの裏話や、おやつが大好きな子どもとその親に伝えたいことをお聞きします。

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あたまを使う インタビュー 教育を考える

子どもの教育は「個のちがい」に目を向けることからはじめる――NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータ・飛田基さんインタビューpart4

(この記事はアフィリエイトを含みます)

イスラエルの物理学者・エリヤフ・ゴールドラットが提唱するTOC(制約理論)と呼ばれる科学理論および思考法を用いれば、子どもの「考える力」を劇的に伸ばすことができるとされています。

飛田基さんは、その実践方法を『世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる』(ダイヤモンド社)という1冊の本にまとめ、読者の高い支持を得ました。

著書で取り上げた思考ツールはさまざまなタイプの「考える力」を伸ばすことに効果的だそうですが、その大前提として「子どもの『個のちがい』に目を向けることがもっとも重要」と説きます。その真意とはどんなものでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS)

なにを考えるために頭を使うかによって人間性にちがいが出る

前回までの記事(part2part3)で紹介した「3つの思考ツール」はそれぞれに役割がありながらも、結果的にさまざまなタイプの「考える力」を育てるものです。たとえば「クラウド」は、本来、自分のなかでふたつの選択肢が対立している、あるいは自分と他人の主張が対立している状況を解消するための思考ツール。それが結果的に、自分が置かれている状況や考えを整理し、視野を広げることにつながります。

そして、それは「創造力」という考える力を育てることにもなっていきます。相いれないふたつのものを同時に成立させるにはどうすればいいのか——。その答えを導くのは、創造力以外のなにものでもありません。さらに言えば、対立している相手の意見と自分の意見を両立させたい場面で必要となる他者との「コミュニケーション力」を高めることにもなるでしょう。

正解がないとも言われるこれからの時代、なにかを決めないとならないとなったら、まずは自分で自分なりの正解を導いたうえで、自己納得できるかがとても重要になる。そして、社会のなかで他者と関わりながら生きる以上、「こういう話の筋だったら、みんなが納得できる」というものを提案できることも重要です。

最近では、学校教育の場でもディベートが取り入れられています。ディベートとは、あるテーマについて肯定と否定のふた組にわかれておこなう討論。それぞれが自分の意見の価値を誇示してなんとか対立相手を説得しようとするものです。でも、本当なら両者が納得する方法、誰もが「いいね」と言ってくれる案を見つけるのがベストですよね? なにを、どんなことを考えるために自分の頭を使うかということはすごく大事なことだと思うんです。どうにかして自分の立場を相手に認めさせようとすることに使うのか、それとも、どうすればみんながハッピーになれるかと考えることに使うのか。それによって、成長した後の人間性にもちがいが出るのではないでしょうか。

ただ、どんなに有益な思考ツールとはいっても即座に結果につながるものではありません。ある子どもが周囲とけんかしてしまったときに、これらの思考ツールを使ってけんかをしないための方法を一緒に検討したことがあります。最初は幼稚園に通っていた頃。そして小学校2年生、小学校5年生と計3回おこないました。3回目のときには本人が、「これ、やったことある!」と言うではありませんか(笑)。結局のところ、同じパターンでけんかが起きていたということです。

子どもに限らず大人も持って生まれた思考パターン、習慣を変えるのはそう簡単なことではありません。でも、繰り返し繰り返し思考ツールを使うことで、だんだんと自分の性格や考え方のパターンを把握し、さまざまな問題に対処できるようになるのです。

子どもの教育は「個のちがい」に目を向けることからはじめる2

子どもがアウトプットするものの源泉は知識ではなく「体験」

子どもの教育にもっとも重要なことは、「個のちがいがある」という前提からスタートすることだとわたしは思っています。日本の学校教育には、小学校2年生なら九九ができないといけないなど、それぞれの学年によって習得しておくべきことが定められていますよね。それはつまり、「履くべき靴の大きさ」が決められているとういうことです。

多くの子どもたちを一斉に教育しなければならない学校という場に、そういう基準が設けられるのはある程度仕方がないことでしょう。でも、その基準に親まで振り回されていることも多いと思うのです。「まわりの子はできているのにうちの子は……」なんて嘆いた経験のある親御さんもいるのではありませんか。

でも、学力ではなくて身長だったらどうでしょうか? 他の子とちがいがあるのは仕方ないし、「いまは小さいけれど、そのうち伸びるでしょう」なんて楽観できるはずなんです。なんだったら、身長がそれほど伸びなかったとしても個性ととらえることもできるでしょう。でも、それが学力になった途端にそうはとらえられなくなる親が多いのです。

わたしは学校教育の専門家ではありませんから、あくまでわたしが受けた印象になりますが、これには国によって異なる文化的背景も影響しているように感じています。アメリカに代表されるように、欧米にはさまざまな人種、民族で構成された国が多いですよね。それらの国では子どもたちに多様性があるのが大前提ですから、日本のように「履くべき靴の大きさ」を定めようという発想には至らないのでしょう。

一人ひとりちがってあたりまえ。他人が決めた基準を満たせないからといってなにも心配する必要はありません。いま、親御さんが信じている基準やものさしは、環境が変わればまったく意味を持たなくなるものです。型にはめずに、まずは自分の子どもがどんな子なのかということに目を向ける。それを、教育方法を考える起点にしてもらいたいですね。

そして、できるだけ小さい頃からいろいろな体験をどんどんさせてあげてください。なにかを問いかけたときに子どもがアウトプットするものの源泉は、頭に詰め込んだ知識などではありません。それは、「体験」なのです。あちこちに出かけて、多くの人と会って、思いつく限りの遊びをする。そういった、「体験値」を積ませてあげてほしいですね。

世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる
世界で800万人が実践! 考える力の育て方——ものごとを論理的にとらえ、目標達成できる子になる
飛田基 著/ダイヤモンド社(2017)

■ 飛田基さん インタビュー一覧
第1回:「考える力」を伸ばすことは幸福に近づく近道
第2回:子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(前編)
第3回:子どもの考える力を伸ばす「3つの思考ツール」(後編)
第4回:子どもの教育は「個のちがい」に目を向けることからはじめる

【プロフィール】
飛田基(とびた・もとい)
1974年4月2日生まれ、千葉県出身。早稲田大学理工学部を卒業後、フロリダ大学博士課程を修了。フロリダ大学ポストドクトラルフェロー、日立製作所を経て経営コンサルタントとして独立した後、イスラエルの物理学者・エリヤフ・ゴールドラットが唱えるTOC(制約理論)に出会い、それを多くの人に広めることを決意。現在、NPO法人・教育のためのTOC日本支部マスターリードファシリテータとして、大人と子どものコミュニケーション向上による教育の改善に尽力している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。