子どもの偏食で悩んでいませんか? 嫌いな食べ物のひとつやふたつは大人にだってあるもの。しかし、「野菜全般がダメ」「炭水化物とお菓子しか食べない」のようにひどい偏食は、ぜひ解決したいと思う人が多いことでしょう。今回は「子供の偏食」をテーマに、偏食がもたらす悪影響や偏食の原因、解決法をお伝えします。
子どもの偏食が及ぼす悪影響
子どもの偏食にメリットはない、ということは想像しやすいと思います。では、デメリットにはどのようなものがあるのでしょう?
まず、体内に取り込む栄養素が偏ってしまうことで、健康上のさまざまな問題が発生します。2002年~2003年に兵庫県の公立中学校6校で行われた調査では、偏食の生徒はそうでない生徒に比べて風邪をひきやすく、疲れやすいうえ、便秘がちであることがわかりました。
調査の対象となったのは、中学3年生1,100人。パン・卵・野菜・魚など21種類の食品の好き嫌いや、生活状況などが尋ねられました。すると、「嫌いな食品数」が4個以上だった生徒は、0個の生徒に比べ、「立ちくらみ」「風邪ひき」「肩こりや目の疲れ」が「よくある」と答えた割合が多いという結果になりました。たとえば「風邪ひき」については、嫌いな食品数が0個だと答えた生徒は「よくある」が5.4%でしたが、嫌いな食品数が4個以上の生徒は20.9%でした。また、「排便回数」について、「3日以上に1回」と答えた生徒の割合は、嫌いな食品数が0個の場合では9.6%でしたが、4個以上の場合では23.1%でした。
栄養バランスは学力にも影響しています。小児科医の藤原寛氏による、地域や学校名を伏せた調査では、米・魚・スナックなど10種類の食品の摂取頻度と、中学校の通知表における評定との関係が明らかになりました。
調査によると、野菜を「毎日食べる」と答えた生徒の評定平均は3.67だった一方、「食べない」と答えた生徒の評定平均は2.96で、なんと0.71もの差がありました。また魚類に関しても、「毎日食べる」生徒の評定平均は3.66、「食べない」生徒は2.97と、0.69の差が確認できました。反対にスナックについては、「毎日食べる」生徒の評定平均は3.26、「食べない」生徒は3.64だったため、スナックを食べない生徒のほうが良い成績を修めているという結果でした。
なお藤原氏によると、調査対象となった全ての食品について「毎日食べる」と答えた生徒の成績が最も良い、という傾向が見られたそうです。この調査結果を考慮すれば、野菜や魚も含めてバランスのよい食事をとることは、学校の成績と大いに関係があるといえますね。子どもの偏食は、成績に悪い影響を及ぼしてしまうのです。
子どもが偏食になる原因
子どもが偏食になってしまう原因とは何なのでしょう? 2005年に静岡市内の公立保育園で行われた偏食に関する調査では、以下のような考察がなされました。
起床時刻や就寝時間が遅い、あるいは決まっていない、着替えや排泄が自分でできない、朝食を欠食する、夕食時刻が決まっていないなど生活習慣が不規則であったり、自立できていない児に偏食が多い。これに加え、親子で食事作りをすることが殆どない、夕食時に主食、主菜、副菜を揃えることにあまり気にかけないなど、保護者の食生活へ関心や実践的な行動が低いことも偏食を助長させている。
離乳食の開始が7ヶ月以降であったり、子どもの口の動きに合わせて硬さや形状を変えること、薄味、食品の種類を増やすことを心がけなかったと回答した保護者の子どもに偏食ありの割合が高い。また、離乳食に市販のベビーフードを利用していた場合も3、4歳児の偏食が高い。(中略)
とりわけ就業形態等により保育・家事にかける時間の制約が大きい場合は、人工乳の割合も高くなり、さらに、離乳食にかける時間的、気分的余裕を十分に持てないことから、離乳の進め方、与える量、食べさせて良い物への不安が強く、離乳食開始時期の遅れやベビーフードの利用につながり、それらが偏食の一因になっているのではないかと推測できる。
(引用元:J-STAGE|幼児の偏食と生活環境との関連)
調査結果によると、「夕食時に主食、主菜、副菜を揃える」という項目について、「あまり気にしない」と答えた親の子どもほど偏食である傾向がありました。具体的にいえば、3、4歳では、「心がける」と答えた親の子どもが偏食である割合が50.6%だった一方、「あまり気にしない」場合は64.1%。子どもが5、6歳の場合も、「心がける」場合の偏食の割合は44.0%、「あまり気にしない」場合は47.8%で、若干の差が確認できました。
また、「親子で食事作りをすること」という項目について、子どもが3、4歳の場合、「ある」と答えた親の子どもが偏食である割合は49.3%、「ほとんどない」だと68.%で、明らかな差が見られました。子どもが5、6歳の場合でも、「ある」と答えた場合の偏食割合が43.2%、「ほとんどない」だと6.9%でした。
離乳食に関する項目では、「口の動きに合わせて、硬さや形状を変えた」について、子どもが3、4歳の場合、「はい」と答えた親の子どもが偏食である割合は50.3%、「いいえ」の場合は61.5%。同様に5、6歳の場合、「はい」だと42.6%、「いいえ」だと51.1%。さらに「薄味に心がけた」「食品の種類を増やすことに心がけた」の項目でも、「はい」と答えた親の子どものほうが、偏食である割合が低い結果となりました。
この調査結果を見ると、親の行動が子どもの偏食に影響していると想像できます。つまり、親の行動を変えれば、子どもの偏食を治せるかもしれません。
子どもが偏食だからってイライラしてない?
読者の皆さんは、子どもが偏食であることにイライラしていませんか? せっかく用意した食事を食べてもらえないと、よい気分になれないのは仕方のないことともいえます。それに、子どもの将来を考えれば、一刻も早く偏食を克服させようと焦ってしまいますよね。
しかし、子どもの味覚は成長に応じて変化していくため、偏食は自然に治るという考えもあります。公益社団法人・千葉県栄養士会によれば、「偏食はいずれ時期がくればなおることもあり、あせらずに長いスパンで見て行くことが大事」だそう。小学校で給食を食べるようになれば、周りの子どもが偏食せず食事している様子を見て、嫌いだったものも食べられるようになるかもしれません。そのため、2歳や3歳といった小さいうちから、子どもの偏食を過剰に心配する必要はないといえます。それでも偏食を改善したかったり、小学生になってもなかなか治らなかったりする場合は、これから紹介する対策を試してみてください。
ただし、子どもが偏食である背景には、虫歯やアレルギー、発達障害などの可能性もあります。不安であれば、病院で相談するのがよいでしょう。歯が生えそろっていないために、食品をかんだり口内ですり潰したりすることがうまくできない、ということも考えられます。調理学を専門にする堤ちはる教授(相模女子大学)によると、豆やトマトのように「皮が口に残るもの」、わかめやレタスのように「ペラペラしたもの」などは、1~2歳児にとって食べにくいそう。これは仕方のないことなので、皮をむいたり細かく刻んだりするなど、親が適切に調理してあげる必要がありますね。子どもの偏食を改善するためには、多少の手間はかかるようです。
子どもの偏食の治し方1:野菜を栽培させる
3歳未満の子どもを対象にした「偏食外来」を設置している、神奈川県立子ども医療センターによれば、「子どもにとって新しい食べ物は、未知のもので、本能的に警戒するもの」。しかし、食べ物をよく知って「友だち」になることで、口に入れやすくなるのだそうです。
野菜が苦手な子どもでも、野菜が育つ過程を毎日眺めたり、自分の手で水をあげたりすれば、親しみがわくでしょう。そこで子ども医療センターが提案しているのが「ミニトマトを苗から育ててみる」こと。多数のガーデニング用品を扱う「ホームセンターバロー」によれば、ミニトマトは「丈夫で失敗しにくい」「栽培期間が短い」という特徴を持ち、「家庭菜園初心者には断然おすすめ」なのだそう。初めて野菜を育てる親にも最適ですね。
ファミリーマートでは、土・種・肥料がセットになった家庭栽培キット「ファミマガーデン」が販売されています。野菜としては、「育てるサラダ ミニトマト 背丈の低いタイプ」(税込498円)と「育てるサラダ ガーデンレタスミックス」(税込498円)の2種類。購入してすぐ栽培を始められるので、圧倒的に手軽です。楽しく野菜を育てて、子どもの偏食改善につなげましょう。
子どもの偏食の治し方2:親子でいっしょに料理する
2005年に静岡市内で行われた上述の調査では、親子でいっしょに料理した経験を持つ子どものほうが、偏食である割合が低いという結果でした。そのため、「たとえ3歳児でも配膳の準備や簡単な皮むきなど子どもにあった手伝いをさせることが必要」と指摘されています。
「StudyHackerこどもまなび☆ラボ」でも、包丁を使わずに親子で作れる料理のレシピを紹介しています(コラム「子どもを成長させる料理体験を! 『夏野菜たっぷりおかずマフィン』【夏休みの自由研究(家庭科)】」)。子どもの偏食を治すため、そして素敵な思い出をつくるため、ぜひチャレンジしてみてください。
子どもの偏食の治し方3:レシピを工夫する
静岡市で行われた調査の結果からは、親が調理方法や食材の種類を工夫しないと、子どもが偏食になりやすいことがわかりました。子どもが野菜や魚類など、苦みや臭みのある食材を嫌っているとしても、調理方法によって味・食感・匂いは大きく変わります。読者の皆さんのなかにも、小さいころ、生のニンジンは食べられなかったけれど、子ども用カレーに入っていた小さくてやわらかいニンジンなら食べられた、という人もいるのではないでしょうか。子どもが喜んで食べてくれるようなレシピを探してみましょう。千葉県栄養士会は、以下のように提案しています。
調理形態が合わなかったり、味付けが濃かったりすることが、食べない原因になることもあります。味付けは薄味にしましょう。また、食品を単品として与えるのではなく、好きな食べ物の中に混ぜたりすると効果的です。
嫌いだからとその食品を遠ざけてしまわず、いろいろな調理法で作った料理を食卓にのせ食べる機会を多くするように心掛けましょう。
(引用元:公益社団法人 千葉県栄養士会|偏食をなくそう)
子ども用の献立を考える際、ぜひおすすめしたいレシピ本が『最新 子どもごはん大百科』(ベネッセコーポレーション、2008年)です。子どもが小学生になるまでのあいだ、年齢に応じた適切な調理法が学べます。341種類ものレシピが掲載されているので、飽きもこなさそう。子どもの偏食改善に一歩近づけそうです。
子どもの偏食の治し方4:家族で楽しく食事する
2010年に実施された、私立学校の小学5・6年生153名を対象とした調査では、「食卓の豊かさ」を感じている子どものほうが、偏食である割合が少ないということがわかりました。
食卓が豊かというのは、家族みんなが一緒に食事をする機会が多くて、食事中テレビが消えていて、手作りの食事が多いことを指している。みんなが一緒に食事をし、母親の手作りの料理やそれを重視するという態度が偏食を少なくさせている。
(引用元:京都女子大学学術情報リポジトリ|食卓の雰囲気と母親の言葉かけの特徴が児童の偏食におよぼす影響)
また、食卓の雰囲気を「楽しい」と感じている子どものほうが、そうでない子どもよりも偏食であることが少なかったそうです。そして、食卓の雰囲気には母親の声かけが影響しているとのこと。食卓の雰囲気が楽しい家庭では、「食べものに感謝して食べようね」「この野菜は今が一番おいしい時期なのよ」といった「感謝」の言葉かけや、「がんばって食べたね、えらいね」「みんなで食べるとおいしいね」など「共感」の言葉かけが多く、「なんで食べないの」「やっと食べたわね」という「拒否」の言葉かけが少なかったそう。
以上の調査から導き出されるのは、家族が楽しく会話しながら食事をすると、子どもはリラックスして食べられ、偏食になりづらくなる、という傾向です。シンプルすぎるかもしれませんが、食卓の雰囲気がピリピリしていると、食事という行為が楽しくなくなり、本当は食べられるものも食べづらくなってしまいます。子どもの偏食にイライラしてしまっているなら、このことを意識して、声かけを変えてみるとよいですね。
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このように、子どもの偏食を防止・改善するにはさまざまなアプローチがあります。読者の皆さんは育児などで忙しい日々を送っていることと思いますが、「食べる楽しみ」を家族で分かち合うことを忘れなければ、道はきっと開けるでしょう。
(参考)
J-STAGE|中学生における偏食と食習慣との関連性
J-STAGE|学業成績と脂質栄養との関連
J-STAGE|幼児の偏食と生活環境との関連
和光堂|Vol.4 幼児の食育を考える ― 子育て支援の視点から ―
公益社団法人 千葉県栄養士会|偏食をなくそう
神奈川県小児保健協会|偏食外来パンフレット
valor-navi|おすすめミニトマト
ファミリーマート|家庭栽培キット「育てる」シリーズ “ファミマガーデン”パッケージ一新 ~初心者にもおすすめ、育て方が簡単にわかる二次元バーコードをデザイン~
京都女子大学学術情報リポジトリ|食卓の雰囲気と母親の言葉かけの特徴が児童の偏食におよぼす影響