学校から宿題に出されることが多い「日記」。1行日記や絵日記などは、長期休みの宿題の定番ですよね。子どもの書いた日記に親がチェックを入れて返す、そんなプロセスを日課にしている家庭もあるはず。ですが、子どもの書いた日記を一応確認だけはするものの、それっきりになっているケースは多いのではないでしょうか。
実は日記は、家庭学習のツールとしても大いに役立つものだ、ということをご存じですか? 親子で一緒に日記に取り組むことは、親子間のコミュニケーションを促進するだけでなく、子どもにとって良い学習効果をもたらします。
そこでぜひ実践したいのが、親子間で日記を交換し合う「親子日記」。親子日記のメリットと実践のコツを紹介します。
親子日記とは?
親子日記とは、親子間で行なう交換日記のこと。子どもが「きょうは○○ちゃんと××をしてあそんだよ」と日記に書いたら、親がそれに返事をするような形で「○○ちゃんとよくあそんでいるね」「××であそんで、たのしかった?」などと書いて返します。親からの返事を読んだ子どもは、また返事を楽しみにしながら日記を書きます。親子日記では、こうして文章によるコミュニケーションをとっていくのです。
親子日記は、ひらがなを覚え始める未就学児の頃から取り組めます。とはいえ、子どもが未就学児のうちは「うちの子には日記を書くなんてまだ早い」と思う親御さんもいるでしょう。親子日記で書く文章は、はじめはシンプルなことを伝える1行だけで大丈夫です。覚えたてのひらがなを一生懸命使って書くのですから、たくさん書けなくてもかまいません。そのうち徐々に慣れていき、出来事の様子や自分の気持ちなどを少しずつ詳しく書けるようになっていきます。
親子日記で子どもの「書く力」が伸びる
日記は、その日の出来事や感じたこと、考えたことなどを自分の言葉で文章に書き表すもの。子どもが日記を習慣にすると、子どもの「書く力」が養われます。なかでも親子日記は、子どもの書く力をぐんぐん伸ばすパワーを秘めているのです。
教育評論家の親野智可等氏が、親子日記を実践していたある子どものエピソードを紹介しています。
親野氏が小学校の教員をしていた頃に受け持った、小学校1年生の女の子。その子は、幼稚園の年長の頃、仕事で帰りが遅く日頃直接話ができないお父さんと親子日記を始めました。最初は、お母さんに文字を教わりながらたった1行書くだけでしたが、毎日続けるうちにどんどん書けるようになり、1年後には大学ノート1ページ分を楽に書けるほどにまで書く力を伸ばしたのだそう。親野氏は、この子の小学校入学後の様子を次のように述べています。
小学校に入学して私が担任したのですが、彼女の書く力は抜群でした。
日記、作文、感想文など、なんでもぐんぐん書けました。
お話作文という名前でスピーチもやっていましたが、これにおいてもすばらしい表現力を発揮して、みんなを楽しませてくれました。彼女は、それほどの力をつけるために、ものすごくがんばったわけでも、また苦しい目にあったわけでもありません。
ただ、お父さんのお返事がうれしくて毎日楽しみながら書いていただけです。
しかも、お父さんとの心の絆を深めながら。
(引用元:親力講座|親子日記、いつ始めるか? 今でしょ!)
親子日記の文章を書くには、自分の言いたいことを、適切な言葉を使ってうまく表現し、親御さんに伝える必要があります。親子日記には、子どもの文章力、表現力、語彙力を楽しく高める効果が期待できるのです。
親子日記は学力向上にもつながる
親子日記によって伸ばせる「書く力」は、これだけにとどまりません。ベストセラー『東大合格生のノートはかならず美しい』を持ち、東大合格生の子ども時代のノートを多数分析してきた太田あや氏は、親子日記によって子どもの「丁寧に文字を書く力」「ノートを書く力」を伸ばすことができると言います。
太田氏は、ノートを書く力のことを「ノート力」と呼び、次のように説明しています。
良い授業を、教科書の新しい知識を、参考書の解説を、自分が理解しやすい、自分の頭に沿った形に整理して記す。これこそが「ノート力」です。東大合格生は、「自分が覚えやすい形で情報を整理するためにノートを書いている」と、小学生のうちからはっきり目的意識を持っていた人が多かったです。
(引用元:現代ビジネス|『東大合格生が小学生だったときのノート』の著者に教わる、親子で「ノート力」アップする6つの約束)
このように、学力の向上に直結しているノート力。そのノート力の基本を身につけるのは小学生期です。この時期に、丁寧に書くことの大切さや書く楽しさを知り、書くことをいとわない子どもに育てるには、親子で一緒にノートを書くことが大切なのだそう。そこで親子日記が有効に働きます。
親が丁寧な字、正しい文章で、適切に改行も入れながら書いた読みやすい日記。そんな親の日記を見れば、子どもは字や文章を丁寧に正しく書くことの大切さに気づき、親の日記をお手本にしてもっと日記を書きたくなります。
文字を丁寧に書き、学力の礎ともいえるノート力を身につけた子どもに育てる。書くことを楽しみ、書くことをいとわない子どもに育てる。そのために、親子日記は効果的なのです。
親子日記でコミュニケーションがさらに深まる
親子日記は、忙しくて親子の会話があまりできない場合でも有効なコミュニケーションツールであることは、すでに紹介した通りです。そんな親子日記を通じたコミュニケーションをより良いものにするために、ぜひ押さえておきたいことがあります。それは、親子日記で親が子どもにどのような返事を書くかということ。
それを心得るうえで参考になることを、一般社団法人教育デザインラボ代表理事の石田勝紀氏が解説しています。石田氏は、子どもが手帳に日々の「やるべきこと」を書き込み、実践具合を記録しながら子どもの自発的な行動につなげていく「親子手帳」を提唱している人物です。親子手帳では最低でも1週間に1回、親が子どもの取り組みに対しコメントを入れてあげるのですが、石田氏によると親のコメントは次の3つのポイントをおさえると良いのだそう。
- プラスの言葉でコメントする
- 使用する漢字、語彙を徐々に増やす
- 具体的にワンポイントアドバイスをする
2.についてはわかりやすいですね。親子日記も親子手帳と同様、漢字や語彙を増やす良い機会になります。残りの1.と3.については、親子日記に当てはめながら少し解説を加えます。
1. 子どもの日記の中で、子どもがきちんとできていないことを発見した場合には、そのことを指摘するのではなくちゃんとできたことを取り出して、ポジティブな言葉でコメントしてあげましょう。
×「字をもっとていねいにかいたほうがいいんじゃない?」
→◎「『手』のかんじがじょうずにかけたね」
3. 子どもがやるべきことをやらなかったときや、子どもに何かの行動を促したいときは、否定や強制につながるコメントをするのではなく、具体的にどうすればよいかをアドバイスしてあげてください。
×「きょうはなわとびのれんしゅうをしなかったね」
→◎「学校からかえったらすぐになわとびを30かいやろう!」
子どもの行動を見るとついダメ出ししたくなる親御さんは多いでしょう。しかし、否定的な言葉をかけたり書くこと自体を強制したりするのは良くありません。本来は楽しめるはずの親子日記を嫌いになってしまう可能性もあります。そうなればコミュニケーションどころではないですよね。子どもが楽しんで取り組めるよう、日記に書く言葉の選び方には少しだけ気を付けるとよいでしょう。
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ポイントをおさえれば、楽しみながら子どもの書く力を伸ばし、ひいては将来の学力向上までもが期待できる親子日記。親子間のコミュニケーションにもうってつけです。書くのが好きなお子さんに育つ親子日記に、ぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか。
(参考)
NIKKEI STYLE|小学生の学力、伸ばすには 親子日記でノート上手
現代ビジネス|『東大合格生が小学生だったときのノート』の著者に教わる、親子で「ノート力」アップする6つの約束
親力講座|親子日記、いつ始めるか? 今でしょ!
親力講座|親子日記は、書く力を付けるのに効果抜群
東洋経済ONLINE|自発的に動く子に!「親子手帳」という仕掛け