はじめまして。一般社団法人日本こども音楽教育協会 代表理事の滝澤香織(たきざわ・かおり)と申します。
弊会は「未来ある子どもたちの将来を音楽教育を通じて明るいものにしていきたい」という理念のもと、全国の指導者のみなさんを対象とした絶対音感指導士養成講座を展開しています。また私自身、音楽教室『Atelier de Soleil アトリエ・ド・ソレイユ』で、1歳児から成人の方までのピアノ教育にも携わっています。
このたびの連載では、『子どもを伸ばす ピアノのチカラ』というタイトルのもと、「なぜピアノが子どもの習い事として優れているのか?」「ピアノを習わせることで、お子さまの成長にどのような良い影響があるのか?」について詳しくお伝えしていきます。
「リズム感」や「拍子感」は幼児期に育つもの
皆さんのお子さまが今よりもまだ小さかったころ、音楽に合わせて手拍子をしたり、全身を使って音楽にのっている様子を目にしたことはありませんでしたか?
楽しそうな音楽を聴いて、自然に身体が動いてしまう……。これらは、特に1~3歳の時期に多く見られる行動です。泣いたり笑ったり、自分の日常的な感情を身体で表現し始めるのです。
この時期から徐々に育まれていく「リズム感」や「拍子感」。ぜひ音楽のお稽古を通じて身につけさせてあげませんか?
リズム感や拍子感は、音楽を学ぶうえでは根底になくてはならない大切な力です。さらに日常生活においても、「器用」であるかどうかは、このリズム感や拍子感が身体の中にあるかどうかで決まってくる面があります。
たとえばスポーツの世界では、多くの場面で「間合い」を測れるかどうかがカギとなってきます。ここでリズム感や拍子感がきちんと備わっていれば、身体を変幻自在に動かして、必要な動作をとることができるのです。
でも、小さなころには自然とできていた「全身で何かを表現する」という行動は、大きくなって羞恥心が芽生えていくとしぼんでいってしまいます。つまり、心からのびのびと入りこむ姿勢(心理学上では “フロー状態” と呼ばれます)が見られなくなってしまうのです。
幼児教育の理想の形は「伸びる時期に伸びる力を伸ばす」こと。リズム感や拍子感は、まさにこの時期に育ててあげるべき力なのです。
脳の発育をうながす「絶対音感」
モーツァルトやベートーヴェン等の音楽家だけでなく、相対性理論で有名なアインシュタインや、医師であり数学・天文学・物理学の分野でも名高いレオナルド・ダ・ヴィンチもまた絶対音感保持者だったと言われています。
アメリカの科学誌サイエンスに、こんな研究結果が掲載されています。ドイツのハインリッヒ・ハイネ大学デュッセルドルフ校神経学科のゴットフリート・シュラウク博士らの研究グループが、職業音楽家と音楽を学んだことがない素人30人を対象に、MRIで左右の脳の状態を比較しました。すると、音楽家の中でも絶対音感を持たない19人の脳は素人の人たちの脳とほとんど変わらなかったのに対し、絶対音楽を持つ11人の脳は、左脳の側頭平面(言語の理解や数学的能力に深く関係していると考えられている箇所)が、右脳の側頭平面に比べて2倍近い大きさに発達していたというのです。
また、絶対音感を身につけた子どものIQは、そうでない子どもに比べて10ポイント以上も高いというデータも統計的に報告されています。
脳の発育から見ても、非常に大きなメリットがある絶対音感。実は、幼少期のピアノ体験を通して身につけられる能力なのです。
「絶対音感」はピアノで習得できる
この世に生を受けてから、子どもたちはすばらしいスピードでさまざまなことを吸収し成長していきます。
視覚・聴覚・嗅覚・味覚などの感覚神経が育ち、臨界期を迎えるのも幼児期のうちです。それぞれの感覚神経が発達する時期は同まちまちですが、特に聴覚神経に限って言えば、発達し始めるのは言語を習得していく2歳ごろから。そして4、5歳で臨界期を迎え、8歳には完成すると言われています。
聴覚神経は反復的な刺激によって発達していきます。そして、どこの国の人も母国語をお話しになれるように、この時期に音楽的な反復トレーニングを経験させてあげれば、絶対音感は誰でも身につけられるのです。
でも、この時期を過ぎてしまうと、音を聴いて「ド」や「レ」などと音の高さを即答できる絶対音感ではなくなってしまいます。基準の音をもらって、そこからの幅で音の高さを探る「相対音感」になっていくのです。
弦楽器や声楽など、自分で声の高さを探る必要がある楽器においては、相対音感の能力が生きてきます。ただ、相対的に音の高さを決める楽器においても、絶対音感を持っていればさらに正確性は増しますし、ピアノのような絶対音楽器を学ぶ場合は、ダイレクトに音を理解できるので、音楽を楽しむ可能性も広がります。
絶対音を反復的に耳にさせてあげれば、絶対音感という永続的な力が定着します。絶対音感を身につけるうえでも、ピアノは非常に有効な楽器なのです。
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幼児のうちだからこそ伸びる力はたくさんあります。ぜひこの時期にピアノのお稽古を始められることで、お子さまの可能性を花開かせてあげてください。
(参考)
Schlaug G, Jäncke L, Huang Y, Steinmetz H (1995), “In vivo evidence of structural brain asymmetry in musicians.”, Science, 267(5198):699-701.
リチャード・ポー 著, ウィン・ウェンガー 著, 田中孝顕 翻訳,『アインシュタイン・ファクター』, きこ書房.