2018.8.25

子どもの自主性を尊重し、集中力と柔軟な対応力を育む「モンテッソーリ教育」【愛珠幼稚園園長 天野珠子先生】

子どもの自主性を尊重し、集中力と柔軟な対応力を育む「モンテッソーリ教育」【愛珠幼稚園園長 天野珠子先生】

東京都世田谷区の『愛珠幼稚園園長』である天野珠子先生。特定非営利活動法人東京モンテッソーリ教育研究所の理事長も務めていらっしゃいます。

天野先生のお母様はアメリカで生まれ、日本人が少なく孤独だった少女時代に修道院で子どもの世話を手伝った経験から、帰国後に幼稚園を設立されました。その後、モンテッソーリ生誕100年祭でアメリカの孤児院にあったものと同じ教具に出会い、モンテッソーリ教育を学ぶことを娘である天野先生に薦めたのです。

そして天野先生は短大の保育科で教鞭をとる傍ら、モンテッソーリ教育を愛珠幼稚園で実践してきました。最近メディアで取り上げられることの多い「モンテッソーリ教育」とはどんなものなのかを詳しくお聞きしました。

取材・文/田中祥子 写真/大平晋也

子どもが自ら成長しようとする自主性を尊重し、大人はそれを助ける教育

――モンテッソーリ教育の始まりについて教えて下さい。

天野先生:
モンテッソーリ教育を考案したマリア・モンテッソーリはイタリアで初めて女医になられた方です。昔のヨーロッパの女性蔑視の中で苦労をして医学を学び、当時は脚光の当らない知的障害者の治療に携わりました。ここで成果を挙げ、障害児の治療教育が普通の子どもにも該当すると気づいたことから、幼児教育に転じたのです。

当時のイタリアは非常に貧富の差が激しく、両親ともに働かなくてはいけない貧民の子どもたちは知能が低いという考えがあった時代です。そこにマリアはモンテッソーリ教育を実践する「子どもの家」をつくり、子どもたちの能力を伸ばしていったのです。

――モンテッソーリ教育の特徴とはどのようなものでしょうか。

天野先生:
子どもの自主性を尊重し、それを大人が気づき、手伝うことで子どもの自立につなげていく、ということをモンテッソーリ教育では大切にしています。そのためのひとつの手段として、さまざまな専用の教具を使うことが特徴の一つです。子どもたちは時期に合わせた教具を自由に選び、遊ぶことで、発達と自立をしていきます。

たまに誤解を受けることがありますが、教具で学ぶことだけがモンテッソーリ教育でありません。例えば愛珠幼稚園では、ほかの普通の幼稚園と同じように体育や音楽の時間もあります。ですが、指導方法は決して命令口調ではなく、子どもたちが自発的にやりたくなるような雰囲気をつくることを重視します。つまり、すべての部分にモンテッソーリ教育の精神があることが大切なのですね。

また、自主性を尊重するということは子どもの自由を尊重することですが、自由であるためには約束ごとも必要です。モンテッソーリ園では2つのルールがあります。ひとつは、自分が活動した教具は必ず最初と同じ形にしてもとの場所に戻さなければいけないということ。例えば「野菜切り」の教具を使って、用意されていた人参を使ってしまったら、新しい人参を先生からもらって、かごに入れて戻しておきます。次の人が使えるようにしておくのです。

もうひとつは、ほかの子がやっているものを取り上げてはいけないということです。この2つのルールを守れば、園の中では自分で選んだ教材をいつまで使っても良い決まりになっています。つまり、自分の自由とともに他人の自由も尊重することをルールにしています。日本でのモンテッソーリ教育はほとんどが就学前の教育までです。現在の教育制度の中で、子どもの主体性を尊重する縦割り教育は幼児期だけなのが現状なのです。

自分で考え、答えを出すことで、物事に柔軟に対応できる心と頭が育っていく

――モンテッソーリ教育によって、子どもはどのように育つのでしょうか?

天野先生:
自分で考えて物事に対応できるようになりますね。生きていく中で思わぬアクシデントに出合っても、自分の力で切り抜ける力が備わります。ある卒園生の話ですが、小学校の通学中のバスの中で地震に遭い、バスが停まってしまったことがありました。そのとき、近くにいた大人の人に「親に連絡をしておきたいので携帯電話をかしていただけませんか」とお願いして貸してもらったそうです。そしてお母さんに無事を報告するだけでなく、そのときに一緒にいたお友だちの無事も知らせ、おうちに伝えてあげてねとお願いしたのです。

モンテッソーリ教育では、教師は子どもに何か聞かれたときには、「こうすればいい」と答えをすぐに教えることはせず、「あなたはどうしたいの?」とか「どうすればいいと思う?」と聞き返します。子どもが「こうだと思う」と言ったことが、もしも違っていたとしたら、すぐに間違いを指摘するのではなく、「そうかな?ほかにないかな?」と問いかけてあげるのです。何でも自分で考えさせて、教師はお手伝いをするだけです。自分で考えて、失敗しながらも解決することを繰り返すと、物事に柔軟に対応できるようになりますよ。

――モンテッソーリ教育の考える子どもの学びの過程とはどんなものでしょうか。

天野先生:
子どもというのは、服を自分で着たい、数字を並べたいなど、一人でやりたいことが発達に沿って現れてきます。大人はそれを上手にフォローしてあげることが大切です。モンテッソーリはその時期を「敏感期」と名付け、「運動の敏感期」、「数の敏感期」など、いくつかの分類をして子どもに接していきます。

そして、この敏感期に合わせて、夢中になることを満足するまでやらせてあげるという経験が、子どもの成長には必要なのです。この経験により子どもの欲求が満たされ、心の余裕が生じ、周囲に対して思いやりや温かい関わりができる人へと成長する糧となります。

子どもが何をやりたいのか、どれくらい出来るのかを親がちゃんと見てあげてください。まだ早い、かわいそうだといって、かばうのではなく、挑戦する心を育てて応援することです。一人で出来ることが増えるほど自己肯定感が育つのですから。自己肯定感を獲得すると、他人を思いやること、忍耐すること、決まりを守ることなど社会生活に必要な基本ルールが育つと言われています。

「一人で出来るように手伝ってね」というのがモンテッソーリ教育の基本ですが、これはすべての子育ての基本なのではないでしょうか。子育てとは、子どもが親から自立するように育てていくことです。親に頼らず生きていく方策を経験させ、助けていくことが必要なのです。

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英国王室もウイリアム王子とキャサリン妃の長男ジョージ王子に選んだというモンテッソーリ教育。史上最年少でプロの棋士になった藤井聡太さんも幼児期にモンテッソーリ教育の園で育ちました。類まれな集中力や、追い詰められたときにも冷静に状況を判断し臨機応変に対応する能力は、幼い頃のモンテッソーリ教育が根底にあるのかもしれません。次回は具体的な教育内容に触れていきます。

【プロフィール】
天野珠子(あまの・たまこ)
東京都世田谷区にある学校法人天野学園「愛珠幼稚園」理事長・園長。短大の保育科で「乳幼児心理学」や「幼児教育心理学」の教鞭をとる傍ら、日本で初めてのモンテッソーリ教員養成機関「上智モンテッソーリ教員養成コース」の3期生としてモンテッソーリ教育を学び、その後、お母さまが経営していた「愛珠幼稚園」を引き継ぎ、モンテッソーリ教育を30年以上にわたって実践。
現在、NPO法人東京モンテッソーリ教育研究所理事長、日本モンテッソーリ協会(学会)副理事長。駒沢女子短期大学名誉教授。

■ 「モンテッソーリ教育」天野珠子先生 インタビュー一覧
第1回:子どもの自主性を尊重し、集中力と柔軟な対応力を育む「モンテッソーリ教育」
第2回:子どもたちが自ら育つ力を応援する「モンテッソーリ教育」のメソッド
第3回:自分でできるという自信が学習意欲につながる。「モンテッソーリ教育」成長のためのヒント
第4回:ボキャブラリーが豊富な子どもは思考の展開が早くなる。日常生活にモンテッソーリ的発想を