「子どもにどんな習い事をさせよう……」と悩んでいませんか? スポーツや楽器、プログラミングなど、現代にはさまざまな選択肢があるので、迷ってしまいますね。
日本人にとって習い事の定番ともいえる「そろばん」を検討したことはあるでしょうか。近年は、「Excelがあるんだから、そろばんなんて古いよ」「習ったことがあるけど、効果なんてないよ」などと言う人がいるかもしれません。しかし、計算が速くなる、暗算できるようになるなどの直接的な利点だけでなく、そろばんにはほかにも多くのメリットがあるのです。今回は、真剣に取り組めば必ず役に立つそろばんのメリットを、5つご紹介しますね。
そろばんを習うメリット1:脳が刺激される
一般的に、私たちは計算をするとき、計算や論理的思考をつかさどる左脳を主に使います。しかし、NPO法人・国際総合研究機構の副理事長であり脳科学を専門とする河野貴美子氏によると、そろばんの有段者が暗算をしているときには右脳が活発になっているそう。彼らの頭のなかでは、そろばんの珠(たま)が動いており、一般人のように「98かける2は……」と言語を介さず計算するので、イメージをつかさどる右脳が使われているのです。
河野氏によれば、そろばんの有段者には「教科書を暗記する際にページごと頭に入ってくる」人や「年号もさっと憶えられる」人がいるそう。ほかにも、そろばんによって養われた「イメージ力」を活用することが「人間的な思考」「創造力」「ひらめき」につながるのだとか。右脳を活発にさせることで、記憶力や直感力が磨かれるのですね。
また、神経内科学を専門とする依藤史郎氏の話によると、そろばんで指先を多く動かすことも脳の活性化につながります。さらに、珠をはじくリズミカルな音は、左右両側の脳を刺激するのだそうです。
このように、そろばんはさまざまな方向から脳に刺激をもたらす効果があります。よく知られているとおり、刺激を与えることによって脳は成長するもの。子どもがそろばんを習うことで、考えたりひらめいたりする能力が育ちそうですね。
そろばんを習うメリット2:自信が養われる
そろばんメーカー・トモエ算盤株式会社の代表取締役社長である藤本トモエ氏によれば、そろばんを通じて子どもは自信・自己肯定感を得られるのだとか。その理由は、計算にかかった時間と正解数を測るため、過去の自分と比較して成長を客観的に実感しやすいこと。「前より速く解けた」「前よりも多く正解できた」ことがはっきりと認識できるので、練習によって上達したことが分かりやすいのですね。自己肯定感を育むそろばんの効果をさらに詳しく知りたいかたは、「そろばんを通して “自己肯定感” を育んでほしい——『トモエ算盤株式会社』藤本トモエさんインタビュー」をお読みください。
そろばんを習うメリット3:集中力がつく
「集中力がつく」ことも、そろばんを習うメリットとしてしばしば挙げられます。トモエ算盤によれば、そろばんを使った計算には精神の集中が必要とされ、無心で打ち込まなければならないため、そろばんには集中力を養う効果があるそう。さらに、忍耐力も培われ、「がんばってやり遂げる態度」が身につくのだとか。
集中力も忍耐力も、学校の勉強だけでなく、大人になって仕事をしながら生きていくためには不可欠な要素といえます。子どものうちからそろばんを習うことで、人生を生き抜くのに必要な力が育つのですね。
そろばんを習うメリット4:費用が安め
スポーツや芸術系の習い事に比べて、そろばんを習うのにあまりお金がかからないことは、親子双方にとってのメリットといえるでしょう。家計を圧迫しづらいため、子どもが希望すれば長く続けられるからです。
日本珠算連盟によると、都内におけるそろばん教室の平均的な月謝は週3回・1回1時間で6,000円。授業回数や地域によっては、4,000円~12,000円の幅があるそうです。
たとえば、段位・1級取得者の数が全国トップクラスだという「そろばん教室USA」(埼玉県)の授業料は、月に9,720円(税込)。授業は週に2~3回で、週に1~3回の特別授業が行われることも。1回の授業は50分程度ですが、希望者は何時間でも練習できるほか、所属教室が休みの日には追加費用なしに別の教室で授業を受けられるため、日曜祝日を除けば実質的に通い放題といえます。授業料以外に必要な費用は、入会金9,720円(税込)、年2回の設備教材費3,240円(税込)、年2回の冷暖房費3,240円(税込)。一方で楽器の個人レッスンの場合、1回30分・月に3回で1万円前後の月謝が多いようです。教室で学べる時間・回数を考慮すると、そろばん教室は「お得」だといえるのではないでしょうか。
自分で用意しなければならない道具がそろばんだけということも、費用の面では有利です。トモエ算盤が「初心者用には最適」として販売している「スタンダード(23桁)」は、4,320円(税込)。高級品もあるとはいえ、ひとまずこのような普通のそろばんを1つ買えば習い事を始められます。
一方で、ピアノやバイオリンなど楽器を購入するには数万円~数十万円かかるだけでなく、1年に1回程度のメンテナンス費用も発生します。また、スポーツ系の習い事の場合、専用着のほかにサッカーならスパイク、野球ならグローブといった道具も用意し、必要に応じて複数購入したり買い替えたりしなければなりません。親にとっては、汚れたウェアを洗濯する手間も発生します。これらの事情を考慮すると、そろばんは習い事としてコストパフォーマンス(費用対効果)が優れているといえるのではないでしょうか。
そろばんを習うメリット5:資格を取れる
ほかの多くの習い事と異なり、履歴書に書けるような資格を取得できるのも、そろばんの大きなメリットです。日本珠算連盟は日本商工会議所と協力し、珠算能力検定・暗算能力検定などを実施しています。仕事でそろばんを使うわけではなくとも、これらの資格を履歴書に書けば、集中力が高いこと・努力を続けられる人間であることをアピールできます。また受験の際、そろばん関連の検定に合格したことが内申書に記載されれば有利になるかもしれませんね。
そろばんを習うことにデメリット・弊害はある?
ここまで、そろばんが持つ多くのメリットを見てきました。では、そろばんを習うことにデメリットはあるのでしょうか?
日本数学協会理事で、教育心理学を研究する天岩靜子氏によれば、そろばんは「速く正確に計算する」ことを追求するため、そろばんに慣れた人は「計算途中で計算の意味を考えたり、他の計算方法を工夫する」ことをしなくなってしまうそう。
たとえば、「25×16」を暗算しようとすれば、そろばんに慣れている人は頭のなかで珠を動かすかもしれません。一方、そろばん経験のない人は、なんとか工夫する必要があります。そこで、16を「4×4」に分解し、「25×4×4」として考えるのです。すると、「100×4」となり、そろばんがなくても暗算できます。このような「計算の工夫」は、そろばんを習った人だと身につきづらいのかもしれません。
そろばんを習うことによるほかのデメリットとしては、週に2~3回通うことが求められるため、他の習い事と両立しづらいことがあります。とはいえ、ほかの習い事で忙しいからと、そろばんを週1回にしては、ほかの生徒と実力に差がつき、子どものモチベーションが下がりかねません。
また、スポーツや芸術のようなほかの習い事に比べ、そろばんは「勉強」の側面が強いことも事実。よほどそろばんに熱中するのでなければ、子どもは「もっと体を動かしたい」「華やかなことがしたい」と感じるかもしれません。とはいえ、上述の理由から、そろばんとほかの習い事との掛け持ちは難しいため、悩みどころです。
そろばんを何歳から始めるか
さて、多少の困難さがあるとはいえ、子どもの成長に大きく寄与するそろばん。何歳から始めるのが効果的なのでしょうか?
藤本氏によると、そろばんは脳を活性化させるため、脳が発達する5歳~10歳くらいの時期に学ぶと効果が大きいそう。また、「そろばん教室USA」の公式サイト上では、「いつから始めるか」について以下のように述べられています。
個人差がありますが、一般的には小学校1~2年生が最適です。早熟な子は幼稚園からでも可能です。高学年から始めますと、暗算力が身につくのに時間がかかる場合があります。
(引用元:そろばん教室USA|入会案内)
早すぎても遅すぎてもよくない様子。子どもが小学生になるタイミングで始めるのが、ちょうどよさそうですね。
そろばんをいつまで続けるか
そろばんをいつまで続けるべきか、と悩んでいる人も多いようです。ひとつの習い事にずっと取り組むことで身につくものがあるとはいえ、子どもが飽きてしまったり、ほかの習い事をやってみたくなったりするかもしれませんよね。
一般的には、中学受験の勉強を始めるか、中学校に進学するタイミングでそろばんをやめる家庭が多いようです。中学受験のためには塾に通って家でも宿題をこなさねばならず、中学校では授業と部活動で忙しくなるため、あまりそろばんに割ける時間がなくなってしまうからでしょう。
とはいえ、何歳まで習い事を続けるかは人それぞれ。子どもにやる気があるのなら、中学生になっても高校生になってもやらせてあげるのがよいでしょう。熱中して取り組め、「これが得意」と言い切れるものを持つことで、子どもの今後の人生が豊かになることは間違いありません。
***
そろばんには、計算が得意になることにとどまらない、多くのメリットがあります。子どもが人生を豊かに生きることに大きく貢献してくれるため、習い事として検討してみてはいかがでしょうか。
(参考)
日本珠算連盟|脳波から見た“そろばん”有段者のイメージ思考
日本珠算連盟|よくある質問(教室編)
日本珠算連盟|珠算学習の波及効果と今後の展望
株式会社雲州堂|そろばんと教育
メットライフ生命|脳を活性化させる良い習慣・悪い習慣
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|そろばんを通して “自己肯定感” を育んでほしい——『トモエ算盤株式会社』藤本トモエさんインタビュー
Tomoe Soroban|そろばんの豆知識
そろばん教室USA
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|データ時代だからこその「SOROBAN」 藤本トモエ(トモエ算盤代表取締役社長)×石倉洋子【特別対談6】