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これからの時代を生きる子どもたちが必要とするのは「情報編集力」と語るのは、2003年に「都内義務教育初の民間校長」となったことでも注目を集めた藤原和博先生。情報編集力とは、直面する問題に対して自分や他者が持つ知識、経験、技術を組み合わせて多くの仮説を立てる力のことです。その力を伸ばすためには「10歳くらいまでのあいだに思い切り遊ぶ経験が必要」だそうですが(第2回インタビュー参照)、親として他にできることはあるのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)
情報編集力とは「上手に疑う力」でもある
子どもの情報編集力を伸ばしてあげたいと思えば、まずは10歳くらいまでのあいだに思い切り遊ばせることが大切です。ただ、子どものすぐそばにいる親には、他にもできることがあります。それは、子どもに「問いかける」ということ。
親子でテレビの情報番組を観ていたとしましょう。コメンテーターの発言に対して、「そのとおりだ」と親が拍手を送っているだけでは、子どもも「そうなんだ」と他人の意見をただ鵜呑みにするようになってしまいます。
情報編集力にはいろいろな側面があり、「上手に疑う力」ということもできます。問題を立てたり解決したりするには、「本当かな?」「これでいいのかな?」と疑うことがとても重要です。そして、子どもにその「上手に疑う力」をつけさせるには、世の中で起きていることに対して疑ってかかるという姿勢を親が見せてあげる必要があるのです。
コメンテーターの意見が素晴らしいと思えるものであっても、角度を変えて見ればそうではない部分もあるかもしれない。「それはちがうんじゃないか?」と親が疑い、自身の考えを言葉にするのです。そして、その延長として子どもにも考えを聞いてみてください。
自分の意見は何度となく聞かれてはじめていえるようになる
もちろん、最初は子どもからまともな意見が出てくるということはないでしょう。それでもいいのです。意見というものは、何度となく聞かれて自分で考えるようになってようやくいえるようになるものです。ただ闇雲に知識をため込んでいけば、コップから水があふれるように意見が出てくるわけではないのです。
そういう意味では、子どもが考える機会を増やすために、テレビを観ている場面だけではなく、あらゆる場面で子どもに問いかけて意見をいわせることが大切。それも、「どっち?」と選択肢を提示するのではなく、「どう思う?」「あなたの考えは?」と問いかけましょう。家族旅行に行くにも、「ハワイ? グアム? どっち?」ではなく、そもそも家族旅行に行きたいのか、どうしたいのかを尋ねるのです。
それで子どもが家族旅行にかかるひとりあたりの費用を使って、「ひとりで屋久島に行ってみたい」なんていったとしたらどうでしょうか。子どもは費用や自分の興味関心、親の気持ち、その他さまざまな要素を踏まえて自分の意見をいったわけです。その費用を使って「ゲームソフトを買いたい」なんていうのなら却下するとしても……そうやって考え抜いた結果の「屋久島に行きたい」という意見なら、親としてなんとしても叶えてあげたくなるのではないでしょうか。
就活の場面で問われるのは「自分の意見を編集し発する力」
そして、この「自分の意見を発する力」というのは、間違いなくこれからの大学入試や就職試験でも問われるようになるものです。いま、世界中の若者が入社したいと考える企業の筆頭であるGoogleやAmazon、あるいは国内でも人気の企業の多くは、あることに対して「あなたはどう考えるか」といった質問を面接で投げかけてきます。それも、就職志望者の「こういう質問にはこう答える」といったありきたりの想定を裏切る内容がほとんど。
わたしが「これはいいな」と思ったのが、ある出版社の面接での質問です。それは、「あなたがフリーマーケットに出店するとしたら、どんな店にしますか」というものでした。この質問に答えようとすると、自分はなにに興味があるのか、なにが得意なのかといった自分のキャラクターを、「出店する」ということを軸に編集していくことが必然的に起きますし、その作業なしには答えられません。
面接で好印象を残そうと「世界に貢献するために」なんて大風呂敷を広げようにも、実際に興味や経験がないこと以外のことは答えようがないのです。その質問に答えるには、これまでどんな経験をしてどんな人間として成長してきたのか、そしてこれまでにどれだけ周囲のあらゆる要素を編集してどれだけ自分の意見をいってきたのか――それが問われるのです。
情報編集力が育っていれば社会に出たあとも成果を出せる
もちろん、情報編集力が力を発揮するのは、自分の意見を発する場面にとどまりません。社会に出たあと、これまでにない商品やサービスを創造したり、既存の商品やサービスを改善したりする場面でも大いに力を発揮します。
近年、ブームとなっているのがかき氷です。夏祭りの露店で買ったかき氷を食べるときには両手がふさがってしまいます。誰もがスマホを手にしているいま、片手で食べられるかき氷があれば大ヒットするでしょう。それでは、どうすればいいのか。自身の知識、経験、技術を組み合わせて考えれば、人それぞれの案が出てくる。そういうブレストを通じて片手で食べられるかき氷をすでに製品化してしまった企業があります。
その企業は赤城乳業。そして、片手で食べられるかき氷とは誰もが知る『ガリガリ君』です。『ガリガリ君』のコンセプトは「遊びに夢中の子どもが片手で食べられるかき氷」。そのコンセプトを実現するために、赤城乳業の社員はそれぞれの情報編集力を総動員し、結果的に年間5億本もの出荷本数を誇るお化け製品を生み出したのです。
子どもに対して、大学入試や就活を勝ち抜き、さらに社会に出てからもしっかり成果を出せる人間になってほしいと思うのならば、やはりしっかり情報編集力を伸ばしてあげることを考えてほしいと思います。
『僕たちは14歳までに何を学んだか 新時代の必須スキルの育み方』
藤原和博 著/SBクリエイティブ(2019)
■ 教育改革実践家・藤原和博先生 インタビュー一覧
第1回:10年後に必要となる力――正解がない問題に多くの仮説を立てる「情報編集力」
第2回:過剰な受験勉強よりも大切な、「10歳までに思い切り遊ぶ」という経験
第3回:我が子はGoogleやAmazonの面接に通用する? 子どもを伸ばす親の「問いかけ」
第4回:判断能力が失われていく……「正解主義」に子どもを向かわせるスマホの危険性
【プロフィール】
藤原和博(ふじはら・かずひろ)
1955年11月27日生まれ、東京都出身。教育改革実践家。1978年、東京大学経済学部卒業後、日本リクルートセンター(現リクルート)に入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任し、メディアファクトリーを立ち上げる。1993年からヨーロッパに駐在し、1996年から同社フェロー。2003年から杉並区立和田中学校校長に就任し、都内では義務教育史上初の民間校長となる。「私立を超えた公立校」を標榜して「45分週32コマ授業」を実践。「地域本部」という保護者と地域ボランティアによる学校支援組織を立ち上げた他、英検協会と提携した「英語アドベンチャーコース」や進学塾と連携した夜間塾「夜スペ」などの取り組みが話題となる。2008年3月に同校校長を退職すると、当時の橋下徹大阪府知事から教育分野の特別顧問を委託され、大阪の小学校から高校までの公立校の活性化と学力アップに注力。その後、2016年から2018年3月まで奈良市立一条高校校長を務める。主な著書に『10年後、君に仕事はあるのか? 未来を生きるための「雇われる力」』(ダイヤモンド社)、『たった一度の人生を変える勉強をしよう』(朝日新聞出版)、『「ビミョーな未来」をどう生きるか』(筑摩書房)、『藤原先生の心に響く授業 キミが勉強する理由』(朝日新聞出版)、『父親になるということ』(日本経済新聞出版社)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。