教育を考える 2019.2.4

散らかった部屋は認知能力と集中力を低下させる!? 親子で実践「ドイツ式整理術」

長野真弓
散らかった部屋は認知能力と集中力を低下させる!? 親子で実践「ドイツ式整理術」

2009年にサウジアラビアで放映された『改善』という番組では、日本の学校で子どもたちが自ら校内を掃除する姿が紹介され、「すばらしい!」と大絶賛されました。

日本では当たり前の光景ですが、欧米など海外の学校清掃は清掃員がやるのが普通で、「掃除」が果たす教育効果に改めてスポットが当たったのです。

今回は、子どもの成長に大いに影響を与える掃除や片付けの効果を見直してみましょう。

なぜ子どもは片付けられないのか?

調査によると、家庭での子どもの片付けに対して満足いかない親は約8割、それによるストレスを感じている親は約9割にも上っています(2015年 野村不動産アーバンネット調べ)。そして、その2大理由は「使ったものを元に戻さない」「不要なものを捨てられない」です。

ほかにも「ものを大切にする習慣がない」という理由もありました。どうやら、ただガミガミ「片付けなさい!」というだけでは効果はなく、“なぜ片付けなければいけないのか” を子どもに理解させる必要があるようです。

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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人間の「脳」は秩序を好む!

日本を飛び出し世界的な片付けブームを巻き起こした「こんまり」こと近藤麻理恵さん。現在アメリカをベースに活躍する彼女の片付け術がこれほどまでに受け入れられた一因に、片付けがもたらす心理的効果が認められたことがあります。

掃除や片付けによって、メンタルの問題が解消され、生産性アップや肥満解消までもが達成されるという、いわば自己啓発的セラピー効果が評判を呼んでいるのです。まずは、汚い部屋がもたらす心理的影響を確認しましょう。

(1)脳:人間の脳は秩序を好む

乱雑な環境は人の認知能力と集中力を低下させることを、プリンストン大学(アメリカ)が2011年に研究結果として発表しています。つまり、散らかった部屋で勉強することは、とても効率の悪いことなのです。

(2)身体:無秩序な環境はストレスを生み、身体に悪影響を及ぼす

常に散らかった状況では、コルチゾール(ストレスホルモン)が分泌されることで不安が増長される傾向にあります。そのことが暴飲暴食につながったり、感染症や消化器官にも悪影響を与えたりすることもあるそうです。さらに、良い眠りの妨げになることもわかっています。

(3)時間:頭と心の整理ができず時間が無駄に

元の場所にものを戻さないため、どこに何があるのか把握できず、探し物が見つからずにイライラ。また、散らかっている状況は頭の整理もつきにくく、心理的にも落ち着かなくなるため、作業にも時間がかかってしまいます。
親子で実践「ドイツ式整理術」2

掃除&整理整頓をして「生きる力」を身につけよう

また、日本で学校掃除が実施されているのは、文部科学省が学習指導要領で定める「生きる力」を身につけるための一環。掃除や整理整頓の教育効果は国も認めているのです。

では具体的にどんなメリットがあるのでしょうか。

■責任感・自立心・自主性が生まれる

「自分のことは自分でやる」習慣が大事です。

■思いやりの気持ちを持てる

掃除をすることで、きれいな状態を保つには手間と労力がかかることを知り、感謝の気持ちが芽生えます。

■空間や時間の使い方を学ぶ

きれいな状態を保つことで、時間と空間をより効率よく使えるようになることが体感できます。

きれいな状態が作業効率を上げるのは間違いないですが、その状態を保つ努力を自分自身ですることが、子どものメンタル面の成長をさらに促してくれることがわかりますね。

モノの “住所” を決めて整理整頓を習慣化

ドイツには、「人生の半分は整理整頓である」ということわざがあります。その心は、身の回りが整理されていることが人生に大いに影響するということ。ドイツでは、この精神を子どもの頃からしっかりと教えられるのだそうです。

ドイツ人のお母様を持つ料理研究家の門倉多仁亜さんが推奨されている、“子どもも実践できる整理術” についてご紹介しましょう。

【コツ1】「なぜ整理整頓しなければならないのか」を考える

ただ「片付けなさい!」と叱るのは逆効果。“片付け=嫌なもの”という意識を子どもに植えつけかねません。「どうしてきれいを保たなければいけないのか」、その理由がひいては「自分が楽するため」とわかれば、自然と行動も変わるはずです。ドイツでは、使ったものは元に戻すことを徹底して教え、学校に行くときの持ち物準備も子ども自身の責任。大人が手伝うことはしないそうです。こうして、「自分のものは自分で管理する」クセが身についていくのです。

【コツ2】「モノの住所」を決める

掃除や片付けをするときの手間を省けるように、わかりやすく取り出しやすい収納を心がけることが肝心です。あまり細かく場所を指定しすぎないことも大事。例えば「勉強セット」なら、ボックスを決めてその中に入れることは徹底してやってもらいますが、箱の中はさほど気にしないこと。“ゆるめにざっくり” の余地を残しておくことが継続のコツです。

(1) 一緒に使うものはまとめて収納

「勉強セット」「ゲームセット」など用途ごとにまとめて。

(2) 使う場所に収納

リビングで使うものはリビングに、子ども部屋で使うものは子ども部屋に、が基本。例えば、洗面所の壁にほうきやモップをセットしておき、「汚れたときに、気付いた人が掃除しよう」と家族で共有しておくと、子どももお掃除に参加しやすくなります。

(3) 取り出しやすく収納

使う頻度が高いものほど、手が届きやすい場所に収納しましょう。

【コツ3】「掃除&片付け」を習慣化

いくら片付けを意識して生活したとしても、時間がなくて置きっぱなしになることもよくあるはず。そんなときのために、「片付けタイム」を設けて、まとめて掃除&お片づけを。タイミングは、夕食前や就寝前など毎日の習慣に付随して決めると、習慣化しやすいでしょう。

【コツ4】指示は具体的に

もし、子どもに掃除や片付けの指示をするなら、「本を本棚に戻してね」「テーブルを拭いてね」など具体的にしましょう。「本棚をきれいにしてね」はNGです。「きれいに」では、子どもには抽象的すぎて伝わりませんのでご注意を。その経験の積み重ねが、子どもが片付け上手になる道になります。

【コツ5】成果を褒める

「お片付け上手にできたね」「いつもきれいに拭いてくれてありがとう」など、そのつど必ず声をかけてあげてください。子どもは褒められたら嬉しくて「次もがんばろう!」と思うものです。モチベーションは継続の大きな力になります。

 

親子で実践「ドイツ式整理術」3

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人気メンタリストのDaiGoさんも、著書『人生を思い通りに操る 片付けの心理法則』の中で、片付けによる心理的効果が人生に与える影響について認められています。“捨てるものを決める” “手順を決める” “掃除の仕方を考える” など、「掃除と整理整頓は人生の疑似体験かも!?」と思える部分が多いことに気づきます。

我慢、継続、思いやり、自主性、責任感。お掃除や整理整頓で身につく能力を挙げてみると、自己肯定感にもつながるものばかりです。“きれい好き” は遺伝でも性格でもなく、成長の過程に身につけられるもの。子どもの頃に習慣化しておくことが何より大事なようです。

(参考)
Newsweek|「こんまり」人気の深層—片付けは不眠や不安や肥満さえ癒す
ベネッセ教育情報サイト|「ドイツ式整理術」で片付けができる子に!
ベネッセ|家族で年末の大掃除!子どものやる気を高める効果もアリ
ベネッセ|なかなか片付けてくれない…片付けられない子どもへの接し方
ノムコムwith Kids|子どものお片付けに関するアンケート結果発表
サンキュ!|モノ・コト・時間からの解放。心に響く“フランス式片付け金言集
文部科学省|第6章 特別活動
uncluttere.|Best Desk Organisation Techniques
メンタリストDaiGo著(2017),『人生を思い通りに操る 片付けの心理法則』,学研プラス.