教育を考える 2024.9.17

人見知りは才能の証? 科学が明かす内向的な子どもの可能性

長野真弓
人見知りは才能の証? 科学が明かす内向的な子どもの可能性

子どもの人見知りや内向的な性格を心配する親御さんは多いのではないでしょうか。「もっとハキハキ話してほしい!」「もっとお友だちをたくさんつくってほしい!」と親は願うもの。

でも、そんな内気さが、「隠れた才能」の証だとしたら? じつは、人見知りの子や内向的な子たちの内には、豊かな可能性が秘められているのです。今回は、内向的な子どもの才能を伸ばす “戦略” を紹介します。

「内気な性格はよくない」という先入観を捨てましょう!

子どもの人見知りや内気な性格を過度に心配する必要はありません。小児科専門医で東京薬科大学客員教授の山中岳氏によると、「人見知り」は個々の子どもによって大きく異なります。通常は生後8〜12か月頃に始まり、2歳頃には落ち着くことが多いのですが、早い子では生後半年から、遅い子では2歳以降に現れることもあります。

また、その表れ方も子どもによってさまざまです。見知らぬ人に対して激しく泣く子もいれば、誰に対しても平気な子もいます。これらの違いは、子どもの「個性」や「環境」に大きく影響されます。重要なのは、人見知りの程度や時期に正解はなく、それぞれの子どもの発達過程の一部だということを理解することです。

ちなみに、人見知りは、赤ちゃんが「見慣れた人」と「そうでない人」を区別できるようになった証拠で、赤ちゃんの「認知能力」と「感受性」の発達を示していると山中氏は言います。つまり、人見知りは、重要な「成長の段階」なのです。*1

とはいえ、このままずっと人見知りが続いたらどうしよう……? と悩んでいる親御さんもいるでしょう。しかし脳科学者の西剛志氏は、「内気な子どもほど内的なエネルギーに満ちている」、そういう子どもは「目標を見つけたときには、それに向かって力強く進んでいける」と、人見知りっ子の可能性について太鼓判を押します。「『内気なことは良くないこと』という先入観は今すぐに捨てるべき」という親への忠言も心に刺さりますね!*2

こちらを伺う人見知りの子ども

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高学歴親ほど要注意!? 子どもに干渉が過ぎてしまう……

ただし、親の行動が子どもの性格を内向的にしてしまうこともあるので、注意が必要です。特に、高学歴の親御さんは要注意。

高学歴の親は「『子どもに失敗はさせたくない!』という強い思いから」過干渉になりやすいと言うのは、『高学歴親という病』著者で発達脳科学者の成田奈緒子氏です。高学歴の親は自分が優秀であるがゆえに、つい子どものやることに干渉しがち。そして、親の過干渉が過ぎると、子どもの「自分で立ち直る力(レジリエンス)が育ちにくくなる」と成田氏は危惧しています。

たとえば公園でほかの子どもたちが遊んでいる様子を見て、自分の子どもが仲間に加わりたがっているとき、親が先回りして「うちの子も入れてあげて」と声をかけることがあります。親としては、子どもが仲間はずれになったり、さみしい思いをしたりするのを避けたいという気持ちからでしょう。

しかし、このような対応を続けていると、子どもが成長しても自ら「入れて」「一緒に帰ろう」と言えなくなってしまうかもしれません。実際、小学生になっても友人グループに加わる際に自分から声をかけられず、帰宅時に友だちと一緒に帰ることができないために孤立感を感じ、最終的に不登校になってしまったケースも……。*3

このように、親が良かれと思って行動することが、長期的には子どもの社会性の発達に影響を与えてしまいます。心配と期待を込めた親の先回り行動が、子どもを内向的な性格へと導くこともあるようなので、気をつけましょう。

階段で泣いている孤独な男の子

人見知りの子は才能の宝庫。内向性を武器にしよう!

前出の西氏の意見もあるように、人見知りの子や内気な性格であることは、さほど心配する必要はありません。それに、内気な子どもがどんな才能を秘めているかを知れば、きっと「内気な子ってすごい!」と思うはずです。さっそく、人見知りの子の秘める才能を見ていきましょう。

秘める才能1:鋭く深い洞察力

内向的な子どもたちの隠れた才能のひとつに、鋭い洞察力が挙げられます。これには脳の構造が関係しているようです。深い思考や内省、行動抑制、社会的な感情の処理などを司る神経細胞が集まる「灰白質」という部分が、「外向型」と比べて「内向型」の脳のほうが厚くなっているのです。これが鋭い洞察力に関係していると、西氏は説明します。

じっくり観察し、深く考える脳の特性から生まれるこの能力は、周囲の細かな変化や人々の感情を敏感に察知することを可能にします。将来、複雑な問題の解決などが求められる場面で、この洞察力は大きな強みとなるでしょう。ちなみに、以下3名の偉人も子どもの頃は内向的だったのです!*4

  • 革新的な起業家として知られる、イーロン・マスク氏
  • 世界的ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズを生み出した作家、J.K.ローリング氏
  • 術革新の先駆者であるアップル社の共同創設者、スティーブ・ジョブズ氏

秘める才能2:優れた集中力と豊かな創造性

ふたつめの際立つ才能は、優れた集中力と豊かな創造性です。『内向的な子のすごい力』著者で臨床心理士の吉田美智子氏は、内向型の長所として「独自の世界観がある」ことを挙げています。ひとりで静かに時間を過ごすことを好む傾向がある人は、その習慣を通じて深い集中力と創造的な思考力を育みます。

まわりの喧騒に惑わされず、自分の内なる世界に没頭できるため、独自の発想や新しいアイデアを生み出せるのです。与えられた情報を鵜呑みにせず、自分なりの意味づけを行なうことで、個性的で創造的な思考が育まれていきます。*5

秘める才能3:他者の感情を敏感に察知する力

じつは、内向型の子どもには共感力があると考えられています。ひとりを好むのに、不思議だと思われるかもしれませんが、西氏は、内気な子ほど「自分の心を掘り下げられると同時に、他人の気持ちもわかる」と言います。「深く考える」力は、自分の心のみならず、人の気持ちも理解しようとする思考につながるのです。*2

吉田氏も、「人の気持ちがわかる」「思いやりがある」点を長所と捉えています。他人を思いやれる感性は人との関わりにおいてとても大事な力で、重要な素質として将来必ず役立つはずです。*5

内向的な性格に、こんなにもすばらしい力が潜んでいたなんて驚いた人は多いでしょう。そこで次は、家庭で取り組める、内向性な性格を活かすアプローチについてご紹介します。

ダンボールに絵を描く子ども

人見知りの子の「伝える力」を育む方法

深く考える力をもつ人見知りの子や内向的な子が、伝える力を手に入れたら鬼に金棒だと思いませんか? 今回は、内向的な子どもの才能を活かすアプローチとして、伝える力を伸ばす方法を紹介します。ライフコーチのボーク重子氏は、伝える力は内向的・外向的にかかわらず「訓練で上達する」と述べています。そこで、まずは家庭内で自分の意見を伝える習慣をつけましょう。

【STEP1】「今日はどんなことがあったか」を発表

夕食時に「今日はどんなことがあったか」を家族全員が発表します。発表と言っても1~2分でOK。ルールは「いつ、誰が、どこで、なにを、なぜ、どのように」の5W1Hをしっかり盛り込むことのみ。実際にやってみると、想像以上に頭を使うのでびっくりするかもしれません。また、お父さんお母さんも「今日はどんなことがあったか」を発表することで、親子間の情報共有ができます。

【STEP2】月に1回の「3分間スピーチ」

【STEP1】が習慣になってきたら「月に1回の3分間スピーチ」にも挑戦してみましょう。お題は、親に買ってほしいもの、学校で流行っていること、おこずかいUPの交渉……と、なんでもいいのです。とはいえ「話題のチョイスや要点・結論の伝え方、聞き手のイメージを助ける具体例」など、聞く人を引きつける工夫が必要なので、話す力をつけるにはもってこいの訓練です。こちらも子どもだけではなく、ぜひ親御さんもスピーチに挑戦してみてください。

【STEP3】「違う意見」をぶつけ合ってみる

【STEP1】【STEP2】に慣れてきたら、最後は「わたしはそうは思わないけどな」「別の考え方もあるんじゃない?」と、違う意見を言い合いましょう。「グローバル社会では、一人ひとりの考え方や意見がちがうことがスタンダード」ですから、「どんな意見も正解」なんだよ、とお子さんに伝えてください。そうすることで、学校や習い事などの場で異なる意見に触れたときでも、「批判された!」と受け取ったり、相手に否定的な態度をとったりするのではなく、違う考えもあるのだなと建設的な対応ができるようになるでしょう。*6

***
物静かで内向的な子どもの内側では、豊かな力がむくむく育っています。西氏は科学的データをもとに「内向性は強い武器になる」と断言しているほど。才能を育むチャレンジをさっそく今日から始めてみませんか。

(参考)
*1参考・カギカッコ内引用元:ベネッセ教育情報|赤ちゃんが人見知りする時期はいつからいつまで?原因と対処法【医師監修】
*2参考・カギカッコ内引用元:STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|集中力がない 聞き分けがない、内気。子どもの性格の困ったはどうする?
*3参考・カギカッコ内引用元:Benesseたまひよ|高学歴親・高学歴偏重の親にありがちな子どもへの干渉。過干渉がもたらす子どもへのデメリットとは?【小児脳科学者】
*4参考・カギカッコ内引用元:ダイヤモンドオンライン|【性格の新常識】「静かな人」は深い知見を持っている
*5参考・カギカッコ内引用元:東洋経済オンライン|内向的な子に「やってごらん」より大事なこと
*6参考・カギカッコ内引用元:STUDY HACKERこどもまなび☆ラボ|グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれる――全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart2