2022.11.9

【状況別】「早く!」の代わりに使いたい “魔法の言葉”

編集部
【状況別】「早く!」の代わりに使いたい “魔法の言葉”

時間に追われているときや心に余裕がないとき、マイペースに行動する子どもの姿を見ると、イライラして「早く!」「もっと急いで!」と強めに言ってしまうことはありませんか?

本当は「早く!」なんて急かしたくない、大人の都合で子どもを振り回したくない、わが子のペースを優しく見守ってあげたいのに――。今回は、そんな悩みを抱えるすべての親御さんに向けて、「早く!」を言う前にできること、そして「早く!」の代わりに使いたい声かけ例をいくつかご紹介します。

「早く」という言葉は子どもの自己肯定感を下げる

朝出かける前にノロノロと準備していたり、予定が詰まっているのに寄り道しながらゆっくり歩いたりと、子どものマイペースさにイライラする親御さんは少なくないと思います。そしてつい、「早く早く!」「急いで!」と子どもに言ってしまうのではないでしょうか。

しかし、「早く!」と言いすぎると、子どもの人格形成に影響を及ぼすことがあるようです。発達心理学を専門とする白百合女子大学教授の秦野悦子氏は、『早く!』という言葉がけは、子どもの自己肯定感を下げてやる気を奪うだけと苦言を呈しています。幼児期は「自分でやりたい!」という気持ちが高まりますが、当然ほとんどのことは上手にできません。それなのに、具体的なアドバイスをすることなく、「早くして!」「急いで!」と言い続けてしまうと、子どもの自主性や自己肯定感は育まれないのだそう。

それ以外にも、「自分で考えなくなる」こともデメリットとして挙げられます。家庭教育研究家の田宮由美氏によると、「『早く』『急いで』と言われると子どもは考える余裕を失い、とりあえず親に急かされている行動を終わらせることのみを考えるようになる」のだそう。その結果、勉強なども落ち着いて取り組めなくなり、自分で考えること自体が苦手になってしまいます。

また、「早く!」と言われすぎると「指示待ち族になる」と述べるのは、家族カウンセラーの宮本まき子氏です。「『早く!』のあとは、たいてい『〇〇しなさい!』と親の要求や指示、命令が続く」と宮本氏が指摘するように、結局「早く〇〇してほしい」のは大人の都合。子どもが思い通りに動いてくれないことに、親がいらだちを感じているだけなのです。そして親の指示や命令に従ってばかりいると、子どもはいずれ自分で考えて行動を起こすことが困難になってしまいます。

発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家である加藤俊徳氏は、脳科学の観点から「早く!」の危険性を述べています。加藤氏によると、「『早くしなさい!』という指示は、『いまやっていることを、時間をかけずにやりなさい』ということを意味する」のだそう。これは、「脳をたくさん使わず、ちょこっとだけ使って、いまやっていることをパパッと終わらせなさい」と指示しているのと同じです。つまり、「早く!」と急かせば急かすほど「脳の情報処理が簡略化される」ということ。

加藤氏によると、時間をかけて物事に取り組むことで、情報が長いあいだ脳に留まるため、脳の成長につながるのだそう。考える力や集中力を身につけるには、処理にかかる時間が長くても、丁寧に行動することが大切なのです。加藤氏は、「遅いからといって親が手を出してしまうと、子どもの脳の活動の機会を奪ってしまうことに。焦らず見守ってあげましょう」とアドバイスしています。

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【状況別】「早く!」と言いたくなったときの対処法

日常生活のなかで、「早く!」「急いで!」と言ってしまう場面はたくさんありますよね。そこで、「早くの代わりに言うべき言葉」「早くを言わずにすむ方法」「早くを言いたくなったときの思考の切り替え方」を、シチュエーション別に解説していきます。

■「早く起きなさい!」

睡眠の専門家でもある小児科医・成田奈緒子氏は、朝に無理やり起こされて、子どもが不機嫌になるのは当然だと話します。そんなときは、「子どもが絶対にご機嫌になる大好きなもの」を与えるのがおすすめです。そもそも朝起きられないのは、睡眠時間が足りていないから。寝る時間が遅い子は、その時間まで夢中になる大好きなもの(テレビやゲームなど)があるのではないでしょうか。成田氏は、それを朝にもってくるとよいと言います。「朝起きたら好きな動画を1本観られるよ」「朝食に大好きなバナナを食べようね」など、朝起きる楽しみを用意してあげましょう。

■「早く準備して!」

「あと5分で出発するよ。わかってる?」と子どもに聞けば、「わかってる」と答えるものの、急いで準備する様子が見られない……。教育評論家の親野智可等氏によると、子どもは「5分」という言葉の意味はわかっていても、その5分がどれくらい短いのか、自分はどれくらい急ぐべきなのか、ということまではわかっていないのだそう。そこで、子どもの行動を促す方法として親野氏が提案しているのが「模擬時計」です。卓上のアナログ時計の横に「画用紙に描いた時計の絵」(模擬時計)を並べます。模擬時計には、食べ終わる時間・歯磨きをする時間・着替え終わる時間などを描き、「本物の時計と絵の時計が同じになるまでに食べ終わってね」と声かけをしましょう。時間が可視化されるので、子どもの行動をスムーズに促すことができますよ。

■「早く着替えて!」

「子どもは何をするにも大人の2〜3倍は時間がかかる」と言うのは、東京家政大学子ども学部教授の岩立京子氏。とはいえ、着替えくらいはテキパキしてほしいのに……と親はイライラしますよね。ですが、岩立氏によると、「のんびりした子の多くは、人の顔色を見たり人に左右されたりせずに、落ち着いてマイペースで行動できる」とのこと。まずは、「〇〇ちゃんはお着替えが丁寧にできるんだね」とよさを伝えたうえで、「今日はいつもよりちょっと早く着替えられたね」とほめてあげましょう。目標に応じて行動の仕方を調整できるようになるそうですよ。

■「早く食べて!」

偏食だったり、そもそも食べることに興味がなかったりと、子どもが食事に集中しないのはよくあることだと、保育士で育児アドバイザーのてぃ先生は言います。そんなときは、てぃ先生が提案する “ちょっとした工夫” を試してみてください。たとえば、小さなメモ用紙にその日のメニューを書いて、「今日のご飯のチケットだよ。それを渡すとハンバーグが出てくるよ」とチケット制にしたり、おかずを小さく切り分けてお皿に並べ、「試食どうですか~?」とスーパーの試食ごっこをしたりと、遊びの要素を取り入れてみましょう。すると子どもはおもしろがって、パクパク食べてくれることもあるそうですよ!

■「早く選んで!」

お子さんに「好きなお菓子をひとつ買ってあげるから、自分で選んでね」と伝えたものの、たくさんのお菓子を前にしてなかなか決められない様子にイライラして、「もうこれでいいよね?」と勝手に選んでしまうことはありませんか? 白梅学園大学子ども学部教授の増田修治氏は、子どもの頭が一番働いているのは “悩んで考えているとき” だとし、親は「子どもの考える時間」を保証する必要があると強調します。「自己選択して生きている」という実感をもつことができると、子どもの自己肯定感はぐんぐん育っていくそうですよ。

■「早く宿題しなさい!」

親から「早く宿題しなさい!」という言葉が出る段階で、子どもはするべきことに気持ちが向いていません。それなのに無理やり行動させると、子どもは始める前から「嫌だな」という気持ちになり、しぶしぶ動くくせがついてしまうと言うのは、教育家で見守る子育て研究所所長の小川大介氏です。小川氏によると、子どもは「最初の一歩が一番腰が重くなる」とのこと。そこで、まだ余裕がある段階で「あとどれくらいで始めるの?」と問いかけてみましょう。そして時間が迫ってきたら、「机に向かおうか」など、ひとつの行動を促す声かけをするとよいそうです。

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「早く!」「急いで!」は日常的に使ってしまいがちですが、あまりにも頻繁に子どもに向けて言っていると、今度は子ども自身がお友だちや兄弟に対して待つことができなくなり、相手に急ぐことを要求するようになってしまうと増田氏は言っています。時間や気持ちに余裕がなくなりそうなときこそ、深呼吸して落ち着いて見守ってあげるべきなのかもしれませんね。

(参考)
PHPのびのび子育て 2021年6月特別増刊号, PHP研究所.
all about 暮らし|行動が遅い子どもへの適切な対応法は?「早く」「急いで」の弊害
PHPのびのび子育て 2021年3月特別増刊号, PHP研究所.
加藤俊徳 著,吉野加容子 著(2014),『脳を育てる親の話し方』, 青春出版社.
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「幼児の睡眠問題」を“たった1週間”で解消する方法
東洋経済オンライン|「はやく」と言わず子どもを動かす魔法の時計
PHPのびのび子育て 2020年10月特別増刊号, PHP研究所.
てぃ先生(2020),『子どもに伝わるスゴ技大全 カリスマ保育士てぃ先生の子育てで困ったら、これやってみ!』, ダイヤモンド社.
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもの自己表現力を伸ばし、自己肯定感を高める「親子コミュニケーション」
プレジデントオンライン|「『早くしなさい』と言えば言うほど、遅くなる」子供が急に動き出す“最強のフレーズ”