教育を考える 2021.9.24

“心が折れる” 子どもが増えた? ストレスを回避する「エゴ・レジリエンス」の鍛え方

編集部
“心が折れる” 子どもが増えた? ストレスを回避する「エゴ・レジリエンス」の鍛え方

どんなに前向きな人でも、生きていれば落ち込むこともくじけることもあります。もちろんその感情自体は悪いものではなく、むしろそのような経験をしたからこそ、得られるものもたくさんあるでしょう。

しかし近頃では、頻繁に「へこむ」「くじける」「心が折れる」と口にする若者が増えてきているそう。今回は、子どもが自分の力で気持ちを立て直せるようになるにはどうしたらよいかについて考えていきます。

「心が折れる」と言う若者が増えている

学校心理士スーパーバイザーとして多くの生徒や教師から相談を受けてきた臨床心理士の芳川玲子氏は、友だちとのちょっとしたトラブルに深く傷つく、教師が少し大きい声で注意しただけで萎縮してしまうといったストレス耐性が極端に弱い子どもたちが増加していると指摘しています。

実際に、トラブルへの対処力や問題解決能力の不足が原因で、不登校や引きこもりといった深刻な状況に発展してしまうケースも少なくありません。いま教育業界では、いかに子どもたちに「社会的スキル」を身につけさせるかが切迫した課題となっています。

芳川氏によると、乳幼児期における親の「無関心」「放任」そして「過干渉」が、子どもの心を折れやすくする要因となっているのだそう。乳幼児期に注がれる親からの深い愛情によって、子どもは「自分は大丈夫」「自分には価値がある」と自尊感情を育みます。すると、将来傷ついたりへこんだりすることがあっても、自分の力で乗り越えられるようになるのです。

一方で、幼い頃から親との接触が少なく、愛情が不足した環境で育つと、自尊感情が育たずにちょっとしたことで心が折れ、さらには回復するのに長い時間を要するようになります。親がわが子へ注ぐ愛情は、子どものその後の長い人生に大きな影響を与えるのです。

また、愛情過多であることも危険をはらんでいます。親が子どもの世話を焼きすぎると、子どもが自律的に行動することや、転んでも自分の力で立ち上がるという経験を奪います。その結果、友だちとのトラブルに直面したときや、勉強やスポーツで失敗したときなど、自分で乗り越える方法がわからずに右往左往してしまうようになるのです。

エゴ・レジリエンスの鍛え方02

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「ほめ育て」「叱らない子育て」がもたらすストレス耐性の弱さ

子どもの心が折れやすくなった背景について、もう少し詳しく見ていきましょう。

先に述べた、乳幼児期の「無関心・放任・過干渉」に加えて、一時期話題になった「ほめる子育て」「叱らない子育て」も、折れやすい心をつくる一因になっているのだそう。心理学博士の榎本博明氏は、次のように指摘しています。

わが子の気持ちを傷つけないように言葉づかいに気をつけたり、ひたすらほめてわが子をポジティブな気分にさせるように気をつかう親が増えてきてから、子どもや若者の心はたくましくなっただろうか。嫌なことがあっても、思い通りにならないことがあっても、傷ついたり落ち込んだりせずに、前向きにがんばり続けられるようになっただろうか。むしろ逆に、心が折れやすい子どもや若者が増えたのではないか。

(引用元:Business Journal|「ほめる子育て」「心を傷つけない子育て」が、我が子の将来を不幸にする

わが子を傷つけないようにと配慮しすぎることで、逆に傷つきやすい心が育ってしまうというのは、なんとも皮肉ですね。しかしこれは時代の流れという点で仕方がないのかもしれません。

次のデータを見てください。20歳前後の大学生と30代以上の社会人を対象に榎本氏が独自に実施した調査では、以下の結果が出たそうです。

「小学校時代に先生からよくほめられた」
大学生:53% 30代以上:37%

「父親からよくほめられた」
大学生:34% 30代以上:20%

「母親からよくほめられた」
大学生:61% 30代以上:36%

いずれの質問も数字に大きな差が見られます。このように、いまの若者たちは小さい頃から頻繁にほめられて育ってきているのです。

さらに、指示待ちで自分から動けないという学生たちに、子ども時代のことをたずねたところ、親が先回りして自分が困らないように教えてくれたり手伝ってくれたりした」「親が口うるさくあれこれ指図するのでうっとうしかったが、いつの間にか親を頼るようになっていたというケースが目立ったのだそう。

子どもが幼いうちはそれほど大きな問題にはなりませんが、成長するにしたがって、現実の社会の厳しさに直面するようになります。思い通りにいかなかったり、努力が報われなかったりすることも山ほどあるでしょう。そのたびに深く落ち込み、前を向くことができなくなってしまったら、何事にも対処することはできません。

そこで求められるのは「傷つかないこと」ではなく、「傷ついても気持ちを立て直せる力、いわゆるエゴ・レジリエンスを鍛えることです。

エゴ・レジリエンスの鍛え方03

ストレスを回避する力「エゴ・レジリエンス」

エゴ・レジリエンスは、「状況に応じて柔軟に自我を調整し、日常的ストレスにうまく対処し適応できる力」と定義されています。簡単に言うと、ストレスがあったとき、自分で回避して気持ちを立て直せる力です。米国の心理学者ジャック・ブロック氏が1950年に提唱したこの概念は、目まぐるしく社会の状況が変化する現代において、誰もが身につけておきたい力として注目を集めています。

「エゴ・レジリエンスとは、自己抑制力と自己解放力を調節するスイッチのようなもの」だと説明するのは、目白大学人間学部心理カウンセリング学科教授で心理学博士の小野寺敦子氏です。

人間は、何かストレスがかかるようなとき、自己抑制や我慢をしてなんとか頑張ろうとします。一方で、ストレスを感じない状態のときには、思いきり羽を伸ばして、心からリラックスすることができるでしょう。しかし、常に羽を伸ばしているようでは、日常生活に支障をきたします。反対に、気を張って緊張状態が続いてしまうと、ストレスがさらに高くなります。このような心の状態のバランスをうまくとることで、不安や傷つきやすさが解消されて、「折れにくい心」が鍛えられていくのです。

そこで、ブロック氏が提唱する14項目の「エゴ・レジリエンス尺度」を紹介しましょう。質問に対する答えを以下の4段階で点数化して、合計点数を導き出します。お子さま、親御さん自身のエゴ・レジリエンスを測ってみませんか?

まったく当てはまらない・・・1点
あまり当てはまらない・・・2点
かなり当てはまる・・・3点
非常に当てはまる・・・4点

「エゴ・レジリエンス尺度」チェックテスト
  1. 私は友人に対して寛大である
  2. 私はショックを受けることがあっても、すぐに立ち直るほうだ
  3. 私は慣れていないことにも、楽しみなから取り組むことができる
  4. 私はたいてい、人に好印象を与えることができる
  5. 私はいままで食べたことがない食べ物を試すことが好きだ
  6. 私は人からとてもエネルギッシュな人間だと思われている
  7. 私はよく知っているところへ行くにも、違う道を通っていくのが好きだ
  8. 私は人よりも好奇心が強いと思う
  9. 私のまわりには、感じがよい人が多い
  10. 私は何かするとき、アイデアがたくさん浮かぶほうだ
  11. 私は新しいことをするのが好きだ
  12. 私は日々の生活のなかで、おもしろいと感じることが多い
  13. 私は「打たれ強い」性格だと思う
  14. 私は誰かに腹を立てても、すぐに機嫌が直る

(ブロック&クレメン 1996)

点数をざっくりと区分すると、以下のとおりになるようです。

20点以下 = エゴ・レジリエンスがとても低い
21~26点 = エゴ・レジリエンスがちょっと低い
27~36点 = 普通
37~46点 = エゴ・レジリエンスがかなり高い
47~56点 = エゴ・レジリエンスが非常に高い

いかがでしたか? 「エゴ・レジリエンスがとても低い」という結果になった方もいるかもしれません。でも大丈夫。エゴ・レジリエンスは高めることができるのですから。エゴ・レジリエンスの高め方について、次項で詳しく説明しましょう。

エゴ・レジリエンスの鍛え方04

柔軟性・好奇心・立ち直り力でエゴ・レジリエンスが育つ!

小野寺氏は、エゴ・レジリエンスを鍛えるにあたって、3つのポイントを挙げています。それが「柔軟性」「好奇心」「立ち直り力」です。お子さんのエゴ・レジリエンスを鍛えるために、これら3つの要素を伸ばすことを意識してみましょう。

■「柔軟性」を育てる

「◯◯じゃないとだめ」「○○以外は全部失敗」と、子どものうちから思考が凝り固まってしまわないように、さりげなく違う視点からアドバイスをしてあげましょう。まずは子どもの気持ちを受け止めたうえで、「そうか、○○がいいんだね。でも△△っていう手もあるよ」「別の方法で試してみたらもっと楽しいかもしれないよ」など、そっと背中を押してみてください。また、親が「この子はこうだから」と決めつけないことも大事です。子どもの可能性を信じて、見守ってあげましょう。

■「好奇心」を育てる

精神科医の和田秀樹氏によると、「心が折れにくい人は、緊張をほぐせる『楽しみ』をもっているケースが多い」のだそう。どんなに落ち込んでいても、食べると気分が上がるような食べ物や、時間を忘れて没頭できるゲームなど、自分だけの「楽しみ」をもっていれば、ストレスに負けずに乗り越えられるようになります。お子さんの興味の幅を広げられるように、さまざまな文化に触れさせてあげるといいでしょう。

■「立ち直り力」を育てる

「立ち直る際に大事なのは、考え方のモードを変えること」と小野寺氏が述べるように、ちょっと発想を変えるだけで、折れそうな心がぐんと上向きになることも。ネガティブ思考に陥りがちな子の場合、親の影響を受けているケースもあるので要注意です。たとえば暑い日に、「暑くていやになるね」と愚痴をこぼすより、「暑いけどもうすぐ夏休みだね!」「暑いとアイスがおいしいよね!」と、思考をポジティブモードに切り替えてみましょう。

毎日の親子の会話をほんの少し工夫するだけで、子どものエゴ・レジリエンスは鍛えられます。ぜひ試してみてくださいね。

***
エゴ・レジリエンスという言葉を初めて知った人も多いかもしれません。「自分で立ち直る力」「ストレスに負けない力」「心のバランスをとることができる力」はわが子にぜひ身につけてもらいたいですよね。そのためにも、家庭でできることから始めてみませんか?

(参考)
学びの場.com|芳川 玲子 子どもの折れやすい心を語る。
幻冬舎 GOLD ONLINE|「ほめて育てる」「叱らない子育て」の流行が恐ろしすぎるワケ
幻冬舎 GOLD ONLINE|心理学博士が教える「傷つきやすい心が世に蔓延している理由」
リクナビNEXTジャーナル|ストレスにうまく対処できる自分になる!「エゴ・レジリエンス」の高め方
ガールズ親なび|手をかけずにココロをかけよう 節目の10歳こそ親子の関係を深めるチャンス
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Block‚Jack and Kremen‚Adam M.(1996),“IQ and Ego-Resiliency: Conceptual and Empirical Connections and Separateness,,”Journal of Personality and Social Psychology‚70(2):349-361.
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