「ドリッピング」とは、画用紙に絵の具を垂らすことで作品を制作するアート技法。日本の保育園や小学校では、筆を使わずにストローで息を吹きかけて模様を生み出す「吹き流し」として知られています。
ジャクソン・ポロックが多用したこの技法は、「何を描いていいのかわからない」「子どもはまだ筆を使えなくて……」とためらっている人にもぴったり。大人も子どもも気軽にアートが楽しめる「ドリッピング」のやり方を紹介するので、ぜひご自宅でやってみてください!
芸術技法としてのドリッピングとは
ドリッピング(dripping)とは、その名のとおり、絵の具を「したたらせる」画法です。この芸術技法を多用したことで知られているのは、米国を代表する抽象画家ジャクソン・ポロック(1912~1956)。従来、絵とはイーゼルにキャンバス(紙)を立てかけて横から描くものでしたが、ポロックはキャンバスを床に置き、上から絵の具を垂らして作品を制作しました。筆で描くのではなく、体を使った「アクション」によって画面に絵の具を埋め尽くすポロックの制作手法は「アクション・ペインティング」と呼ばれています。
芸術界に衝撃を与えたポロックの作品は、アートの歴史における金字塔として高値で取引されています。1949年に制作されたドリッピング・アート「Number 32」は2018年5月、3,409万8,000ドル(約39億円)で落札されたほどです。
「Number 32」は79cm×57cmという小さめの作品ですが、画面いっぱいにほとばしる黒いしぶきは迫力たっぷり。油彩・エナメル・アルミニウム塗料による力強い作品です。
保育におけるドリッピング
ドリッピングは前衛芸術の一種ですが、「『デカルコマニー』ってどういう意味? 作品制作の簡単なやり方教えます。」でご紹介した「デカルコマニー」と同様、保育現場での芸術教育においてよく使われています。その理由は、子どもでも簡単に実践でき、芸術表現を楽しめるから。
幼児の造形教育を専門とする若杉雅夫教授(浜松学院大学短期大学部)は、「ドリッピング遊び」の適齢を4~5歳とし、その教育的効果を以下のように述べています。
ねらいとしては、ドリッピングを体験する中で偶然に出来た形や色のバリエーション(混色による)を楽しみ、形や色に関する感受性を高めることと、遊びの中で自然に水彩絵の具に慣れ親しみ、その性質を知ることにある。
造形素材に慣れ親しむことや色や形の美しさを感じることが出来る豊かな感受性を育むことは、具体的な形を描くことを早く覚えさせるより、表現する基本的姿勢や感受性を培うためには最も大切なことと考えている。
(太字による強調は編集部で施した)
(引用元:東海学院大学学術機関リポジトリ|幼児から児童につながる造形活動(遊び)に関する考察 : 「絵あそび」と表現能力の育成に関して)
ドリッピング画法は、一般的な「お絵かき」と異なり、人間や花といった具体的なものを描くのではありません。絵の具が画面上に生み出す、偶発的な結果を味わうのです。
「ていねいに塗らなきゃ」「太陽は赤いクレヨンで描かなきゃ」など、余計なことを考える必要はありません。子どもも大人も、絵の具の形や色の妙を楽しみましょう。「これ、何に見える?」などと話し合うのも面白いですよ。
ドリッピングのやり方
では、実際にドリッピングをやってみましょう!
用意するもの
- 画用紙
- 絵の具
- 筆
- パレット
- ストロー
- 新聞紙もしくはシート
やり方
- ドリッピングは、どうしても周囲を汚してしまう。新聞紙もしくはシートをひき、その上で作業する
- パレットに絵の具を出し、たっぷりの水で溶く。パレットの代わりに使い捨てプラスチック容器でもOK
- 筆に絵の具をつけ、紙の上から垂らす。容器から直接、絵の具をまくのもOK
- これで完成にしてもいいが、手を加えてみる。絵の具が乾く前に、ストローで息を吹きかけたり紙を傾けたりして、絵の具を移動させる
- 完成です! 何に見えるでしょうか?
ドリッピングのやり方~2色を重ねる~
ドリッピングによって生まれる作品は、1色でも充分に美しいもの。ですがここは、もう1色試してみましょう。1色と比べて、どのように印象が変わるでしょうか?
やり方
- 1色目が乾いたら、別の絵の具を紙に垂らす。1色目とは別の場所に置くと、バランスがよくなる
- ストローで息を吹きかけ、絵の具を移動させる
- 完成です! 1色と2色、どちらがお好きですか?
ドリッピングのやり方~2色を混ぜる~
今度は、2色を同時に扱ってみましょう! 2つの絵の具が混ざると、何色になるでしょうか?
やり方
- 2色の絵の具を、紙の別の部分にそれぞれ垂らす
- ストローで息を吹きかけ、絵の具を移動させる。おや、絵の具のぶつかった部分が……
- 完成です! ピンクと青の混ざった部分が、紫色に変わっていますね。1色ずつ乾かして重ねた場合とは、だいぶ趣が異なります。
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単純だけれど、つい夢中になってしまうドロッピング。くれぐれも、吹きすぎによる酸欠にはご注意ください。
(参考)
札幌市立大学学術機関リポジトリ|現代芸術論におけるデザイン学生の授業感想と教員からの通信♯1ダダイズムからポップアートと1960年代の美術までの現代美術
コトバンク|アクション・ペインティング
Sotheby’s|Jackson Pollock NUMBER 32
東海学院大学学術機関リポジトリ|幼児から児童につながる造形活動(遊び)に関する考察 : 「絵あそび」と表現能力の育成に関して