あたまを使う/教育を考える/芸術にふれる/アート/国語 2020.4.12

成績至上主義の逆を行け。子どもを伸ばす3つの問いかけ、対話で得られる7つの力

三重野一
成績至上主義の逆を行け。子どもを伸ばす3つの問いかけ、対話で得られる7つの力

国語・算数・理科・社会――各教科の学習と、アート教育、どちらが大切か。そう聞かれたら、あなたはなんと答えますか?

アート教育も大切だとは思いつつ、実際は教科の学習に重きを置いている。そんなご家庭も多いのではないでしょうか。

教科の勉強と芸術教育はまったくの別物だと考えられがちですが、じつはそうではありません。相違点もあれば、共通点もあります。さらに、互いに活用できる要素も多く存在するのです。たとえば、アート教育の手法から各教科の学びに生かせることはたくさんあります。今回は、美術鑑賞教育法として生まれた「対話型鑑賞」を、算国理社4教科の学びに活かす方法をお教えします。

学校がお休みになり、いつもより時間に余裕のある春休み。家庭での親子の対話で、従来の学習では習得が難しい大切な力を磨いてみませんか。

成績至上主義では難しい、「対話」で得られる7つの力

人間の知の基本フレームは、小学生の時期に形成されます。子どもの思考や感性が形成されるこの大切な時期に、あらかじめ定められた解答を単に繰り返すだけの作業や、一問一答式のテスト結果などの目先の成果を優先してしまったら、どうなるでしょう。

子どもたちの、自ら学び創造する力、じっくりと考える力、多様な視点や解釈の可能性を受け入れ、自分とは異なる他者を受容して理解する力を削いでしまうのではないでしょうか。

それを避けるためには、対話による学びが有効です。対話型鑑賞をとおして得られる7つの力は、これからの時代に必要不可欠な能力ばかり。どれも、生きる力につながる大切な能力です。

  • 観察力
  • 推論する力
  • 表現力
  • 再考する力
  • 共感力
  • コミュニケーション能力
  • 主体的に学ぶ力

そして、この7つの力は、特別なことをしなくても、親子の対話をとおして身につけることができるのです。

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「答えは?」「速く!」はNGワード。5つのコツと3つの問いかけ

教科の学びでは、一定の時間内にひとつの正しい答えを求める局面が増えてきます。したがって、いかに「速く」「正解」を導くことができるかが問われるようになります。そんななか、解答に至るまでの思考のプロセスは、なかなか評価してもらえません。これは、テストの成績至上主義の弊害だといえるでしょう。

そこで、家庭では、成績至上主義で見過ごされがちなことを、対話をつうじて積極的に補ってあげてください。親子で対話をするときに気をつけてほしいポイントは、以下の5つです。

1. 子どもの思考のプロセスをたどる

思考力・想像力・メタ認知能力などの大切な力は、思考のプロセスをたどることで培うことができます。ただし、子どもはふだん思考の過程を伝えるのに慣れていないので、最初は親御さんのサポートが必要です。お子さんの発言を丁寧に拾いながら、対話をとおしてひとつひとつ探っていきましょう。

◆気づいたこと、考えたことは?
◆どこでそう気づいたの? なんでそう考えたの?
◆ほかに発見はある?

この3つの問いかけで、子どもの思考のプロセスを引き出すことができます。

2. 思考のプロセスを「見える化」する

思考の過程を言葉にすることに慣れてきたら、お子さんの発言を図示したりメモに残したりして「見える化」することをお勧めします。過去と現在の子どもの思考をつなげたり、振り返って次の思考に役立てたりすることができるでしょう。

手を動かすことが論理的思考を刺激し、表現力を高めることはよく知られています。最終的には、子ども自身でも思考のプロセスを残せるように仕向けられるといいですね。親が手を動かして思考の軌跡を記す姿を見ていると、子どもも自然にまねるようになるものです。

3. 間違いを恐れない

はじめにたどりついた答えが正解ではないことを、恐れないでください。何度つまずいてもいいのです。思考のプロセスに誤りはひとつもありません。つまずきは、新たな思考の飛躍につながる大きなステップ。キラキラ輝く宝物のような存在なのだととらえましょう。

4. 解答スピードを気にしない

一刻も早く正答を見つけなければならないという強迫観念を捨ててください。すぐに正解できなくてもいいのです。どれだけ時間がかかるかは問題ではありません。頭を使って考えた時間そのものが大切な財産となります。

5. 大人が教えない

親が教える立場に立ってはいけません。大人としての権威を示す場面はここではありません。子どもと一緒に試行錯誤しながら、ともに歩んでいく姿勢を保ちましょう。私たちにできるのは、ファシリテーターとして、対話をとおして子どもの考えを引き出すこと。あくまでも主人公は子どもです。親はサポート役に徹しましょう。

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【国語】対話をとおして俳句を味わう

各教科の学習内容に「対話」のエッセンスを入れると、どんな学びになるのでしょう? まずは国語からお話します。定番の「俳句」を使って対話型鑑賞に挑戦してみましょう。
閑さや 岩にしみ入る 蝉の声

短い5・7・5のなかに、さまざまな意味が込められている俳句。そんな俳句は解釈の多様性にあふれています。言葉から喚起されるイメージを、子どもと対話しながらふくらませていってください。親御さんも見慣れた松尾芭蕉の名句なら、気軽に取り組むことができるはずです。

対話のポイントは、定説を押しつけないこと。素朴な疑問からスタートしていいのです。たとえば、このような発問を交えると効果的です。

  • 蝉が鳴いているのになぜ静かなの?
  • 岩にしみ入るってどういうこと?
  • 蝉なのになんで「声」なの?
  • 蝉は何匹いるんだろう?
  • どんな情景が思い浮かぶ?

決して正解はひとつではありません。この俳句なら、「静けさとは心の静寂を表している」という解釈以外にも、「蝉は何万匹もいてその声は耳を圧するほどうるさいが、その一定の大音量のなかにいてフッと意識が遠のく感覚を静けさと表現した」と解釈をすることもできます。お子さんと一緒に、対話をとおして自由な鑑賞を楽しんでみてください。

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対話による韻文の鑑賞で培った力は、長文の読解にも役立ちます。さらに、対話を終えてから、感じたことや考えたことを自由に記述する機会を設けることで、論理的な思考力や表現力を高めることもできます(詳しくは『語彙力と読解力はアート鑑賞で伸びる! 写真と俳句で「国語力」を高める5つのポイント』をご覧ください)。

【算数】三角形の面積の出し方について話し合う

この三角形の面積を答えよ。
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なぜ「底辺×高さ÷2」の計算式で三角形の面積が出せるのか説明せよ。
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たとえば三角形の面積のように、算数では答えがひとつに定まることがほとんどですが、正解に至るまでのプロセスは幾通りもあります。大切にしたいのは、その思考のプロセス。子どもたちは正しい答えを導くまで、さまざまな試行錯誤を繰り返します。その過程でのつまずきを大切にしましょう。

頭で考えるだけではなく、実際に手を動かして図に書いてもらうのも効果的です。子どもの行動の根拠を尋ねながら、一緒にどうすれば答えを導けるか、その足跡を残していきましょう。算数では、「直角は90°であるとする」というように、前提を元に考えられるということを、子どもが自然に気づけるようになるといいですね。

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【理科・社会】対話で図表の見方を深める

理科では、アート作品の鑑賞と同じように、さまざまな写真や図表から、対話をつうじて有意義な学びを得ることができます。動植物、地質、星座や宇宙の仕組みなどについて、写真や図表を見ながら語り合うことで学べることはたくさんあります。また、目に見えない原理を現象から探る電気や力学などの物理学では、目に見えないものを伝達するために、言語化や数式化が必須です。因果関係を推論し、検証する際に、対話の学習が効果を発揮することでしょう。

社会でも、国勢調査や歴史年表など、対話の素材として使える図表はたくさんあります。たとえば、日本・世界各地の写真や歴史資料を見ながら、それぞれの土地や時代の暮らしについて話し合ってもいいでしょう。小学校高学年の子どもであれば、何の資料なのか示さずに、対話をつうじて「この資料が指しているデータは何なのか」を探っていくのもおもしろいはずです。都道府県別の鉄鋼生産量のグラフなどを用意し、何についてのグラフなのか、親子で話し合ってみましょう。今まで習った知識を整理し、知っている情報をもとに推論する力を磨くのに役立ちます。

社会や理科で行なわれる比較や分類は、さまざまな視点から比べ、分けられています。たとえば、地域や時代の比較、動植物の分類など、あげればキリがないほどです。対話の際は、今見ている図表やデータは、どのような視点で比較・分類されたものなのか、子ども自身で考えられるよう、促してあげてください。

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子どもの生きる力を育むために

テストの成績至上主義は、子どもの思考力、非認知能力、メタ認知能力、創造力、他者の立場に立って考えるための多様な視点、ひいては自ら学び判断するという生きる力を削ぐ結果になりかねません。それを避けるためにも、対話をとおして、子どもの思考のプロセスをたどっていきましょう。

人生において、正解はひとつだけではありません。たとえ途中で失敗しても、決して無駄にはなりません。結果だけでなく、過程も大切にする親の姿勢は、必ず子どもにも伝わるはずです。それはきっと、お子さんが学びを深めるうえでも、人生を歩むうえでも、大きな糧になることでしょう。

(参考)
フィリップ ヤノウィン 著, 京都造形芸術大学アートコミュニケーション研究センター 訳(2015),『学力をのばす美術鑑賞』,淡交社.