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日常生活のなかで、子どもに対してどのような言葉をかけることが多いでしょうか? 「○○しなさい!」「駄目でしょ!」といった類のものであるなら要注意。そういう声かけを続けていると……子どもは自分で考えられない人間になってしまうかもしれません。自ら学び、考えられる子どもに育てるための方法や注意点を、発達心理学と認知心理学の専門家である十文字学園女子大学の大宮明子先生が教えてくれました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
本を読むだけでは本当の語彙力は育たない
子どもというのは、なにかを意識的に学ぼうとするのではなく、自分が好きなことを楽しんだ結果として学ぶという習性を持っています(インタビュー第1回参照)。そういう学びを日常的にできるかどうかは、親御さんのしつけのスタイルの影響がとても大きいといっていいでしょう。
以前、2,700人くらいの未就学児とその親御さんを対象にある調査を実施しました。その調査の内容は、子どもには読み書きの力と語彙力の検査、親御さんにはどういうしつけをしているかというアンケートです。
結果として、しつけのスタイルは大きく3つのタイプにわけることができました。ひとつが「共有型」で、これは子どもを主体としたスタイルです。子どもの自主性を大事にして、子どもの気持ちに親が寄り添うかたちでしつけをしていくようなイメージでしょうか。そういう親御さんの場合は、子どもに対する日常の接し方を見ても、子どもを認めたり褒めたりすることがとても多いのです。
2つ目が「強制型」で、共有型とは対照的に親が主体のスタイルです。親の意のままにしつけをして、「○○しなさい!」「駄目でしょ!」といった指示・命令の言葉がすごく多く、子どもはそれに従うだけです。
3つ目が「放任型」。これはただ放任しているというものの他、親御さんが育児不安などで精神的に参ってしまって子どもを放置しているというものも含まれます。
興味深いことに、しつけのスタイルのちがいによって、子どもの語彙力にはっきりとしたちがいが見られました。想像できるかもしれませんが、共有型のしつけをされている家庭の子どもの語彙力は、強制型の家庭の子どものそれを大きく上回っていたのです。
放任型に関しては一定の傾向はありませんでした。語彙力が高い子どももいれば、そうではない子どももいた。親に放置されていたとしても、たとえば本が好きな子どもの場合は語彙力がある程度伸びたということもあるのでしょう。しかし、それには限界があります。というのも、言葉の力はひとりでは育つものではないからです。
なぜ、共有型の家庭の子どもの語彙力が大きく伸びていたのでしょうか。それは、親が子どもに寄り添うことによって、親子間のコミュニケーションが密になっているからです。本を読めば、たしかにある程度の語彙を手に入れることはできるでしょう。でも、言葉ですから、本当の意味で身につけるには、実際にその言葉を使ってやり取りをおこなうことがとても大事になる。かかわってくれる人がいなければ、子どもはせっかく知った言葉を使う練習をすることができないのです。
答えを待つ子どもにしてしまう親の「先回り」
しつけのスタイルは、これからの時代を生きる子どもに必要とされる「自ら学ぶ、考える」姿勢にも影響を与えます。
たとえば、子どもが新聞紙で坂道をつくって、ペットボトルのキャップを転がすという遊びをはじめたとしましょう。子どもはキャップをなんとか真っすぐ転がそうとしますが、新聞紙は柔らかいので、なかなかうまくいかない。そこで、子どもは壁をつくってみるなどいろいろと工夫します。
そういった試行錯誤こそ、子どもが「自ら学ぶ、考える」ということなのです。そして、一生懸命に工夫した結果、キャップが真っすぐ下まで転がったら、「やったー!」と大きな達成感を得ることになる。
でも、お父さんやお母さんが「それじゃ駄目でしょ」「こうしたほうがいいんじゃない?」なんていってしまったらどうでしょうか? もちろん、親が子どもの遊びにかかわることは悪いことではありません。ただ、子どもが考える前から答えを与えてしまっては、子どもの試行錯誤、粘り強く頑張ること、その結果の達成感などをすべて奪い取ってしまうことになるのです。
そんな「先回り」を繰り返していると、子どもに「遊びなさい」といったところで、「ママがやってよ」というようになる。小学校に上がって勉強をはじめる前から、答えを教えてくれることを待つ子どもになってしまうのです。
そういう姿勢で育った人間は、残念ながらこれからの時代では活躍できないかもしれません。あちこちでいわれているように、これからの時代は多くの職業が機械(AI)に取って代わられるようになります。そんな時代に活躍するためには、機械にはできないことをできる人間にならなければなりません。そういう人間に必要なものこそ、「自ら学ぶ、考える」姿勢なのです。
子どもと遊ぶときは「お友だちになったつもり」で
では、子どもの遊びに対して、親はどうかかわればいいのでしょうか。それは、もちろん子どもの気持ちに親が寄り添う共有型の関わりです。
子どもと一緒に遊ぶ際には「大人を捨てる」ということをアドバイスしておきましょう。大人は行動の前につい頭で考えてしまいがちです。でも、子どもは「これをやったらどうなるのか」なんてことを考えず、ぱっと見て「わあ、面白そう!」「なにこれ!?」と感じた途端に動きはじめます。
そういう子どもに寄り添うには、大人を捨てて子どもになればいいのです。子どもの仲良しのお友だちになったつもりで、ときにはわざと失敗する、知っていることも知らないふりをするというようなことをしてみてもいい。
大人として子どもに接すると、子どもは「この人は大人だ」と思って構えてしまいます。とくに親の場合には、ときには叱る人だと思っていますから、なにか失敗したり変なことをいったりすると「怒られちゃうんじゃないか?」とか「おやつをくれないんじゃないか?」と思ったりもする。そう思った結果の子どもの振る舞いは、本来の自然な子どものものではないですよね。
子どもと遊ぶときは、「子どもの仲良しのお友だちになったつもり」で――。そう心がければ、自然と共有型のスタイルで子どもに接することができるはずです。
『幼児期からの論理的思考の発達過程に関する研究』
大宮明子 著/風間書房(2013)
■ 十文字学園女子大学教授・大宮明子先生 インタビュー一覧
第1回:東大・京大・司法試験・医師試験の合格者たちが、幼児期に共通してやっていたこと
第2回:「ママがやって」と言われたら黄色信号。子どもの考える力を奪う親のNGワード
第3回:「親の言葉遣い」に見る、成績優秀な子が育つヒント。語彙力が伸びる会話の特徴
第4回:絵本の目的は学びにあらず。子どもの興味の芽を摘む、読み聞かせ後の「最悪の質問」
【プロフィール】
大宮明子(おおみや・あきこ)
6月5日生まれ、東京都出身。十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科教授。1988年、中央大学法学部法律学科卒業。1997年、お茶の水女子大学教育学部教育学科心理学専攻3年次編入学。2001年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科発達社会科学専攻博士前期課程修了。2008年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達科学専攻博士後期課程修了。人文科学博士。発達心理学、認知心理学、とくに子どもの思考の発達、乳幼児期の親子の関わりを専門研究分野とする。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。