教育を考える 2025.4.28

【臨床心理士監修】「愛情ホルモン」オキシトシンが子どもの成長を促す!

編集部
【臨床心理士監修】「愛情ホルモン」オキシトシンが子どもの成長を促す!

オキシトシン」という言葉を聞いたことがありますか? これは、家族やパートナーとのスキンシップや信頼関係に深く関わるホルモンです。本来は母乳の分泌を促すために働くものですが、じつは嬉しい、楽しい、気持ちいいと感じた時に脳の視床下部で合成され、脳下垂体後葉から分泌されます。

その働きから「愛情ホルモン」「幸せホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれ、私たちの心と体に様々なよい影響を与えてくれるのです。じつは、親子の触れ合いでも分泌されるこの「オキシトシン」、子どもの心や体、学力にも科学的な効果があることがわかっています。

この記事では、子育てに役立つオキシトシンの効果と、日常生活に取り入れやすいスキンシップの方法をご紹介します。短い時間の触れ合いでも、子どもの心の安定や成長に良い影響を与えることができますよ。

監修者プロフィール


鎌田怜那

鎌田怜那(かまだ・れいな)臨床心理士・公認心理師

子どもの発達・アタッチメントの専門家。子どもの強みを見つけ、親子関係を豊かにするサポートしています。自身も3児の子育て中。専門家であっても、子育てでイライラやモヤモヤは避けられず……母親であることを楽しめるよう、心理学の知識を日常生活に活かすスキルを発見・実践しています。子育ての悩みを「悩める幸せ」として、共に成長しましょう!

 

オキシトシンって何? 脳でつくられる幸せホルモン

■ホルモンのひとつ「オキシトシン」とは?

ホルモンとは、体の働きを常に一定の状態に保つための化学物質です。体の内外の環境変化に応じ、内分泌腺でつくられ、血液に入って全身を巡ります。そうして、脳から各器官への指令を伝える、いわゆるメッセンジャーのような存在です。ホルモンには複数の種類があり、つくられる内分泌腺も役割も異なります。

では、「オキシトシン」とはどんなホルモンなのでしょうか。オキシトシンは視床下部で合成され、脳下垂体後葉から分泌されます。主な役割は「分娩を促すために子宮を収縮させたり、母乳を出させるために乳腺の筋肉を収縮させたりすること」。ギリシャ語で、「早く生まれる」を意味する言葉が語源となっています。

しかし、オキシトシンが分泌されるのは、分娩や授乳のときだけではありません。じつは、親子がスキンシップを図ると、親と子の双方にオキシトシンが分泌されるのです。なんと、それが親子関係や子どもの成長によい影響を与えてくれることがわかっています

ハグする親子

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オキシトシンがもたらす3つの大きな効果

では、オキシトシンが分泌されると、親子関係や、子どもの心や体どんなよい影響があるのでしょうか。研究によって明らかになった主な効果を見ていきましょう。

1. 親子の愛着関係が強まる

オキシトシンは、人との絆を深める作用があることで知られています。触れ合いによって親子双方のオキシトシンが増加し、愛着が形成されます。この愛着関係により、子どもは親を「安全基地」として認識するのです。また、オキシトシンは他者への共感力も高めるため、将来の良好な人間関係の基盤となります。

2. 学習能力と記憶力が高まる

オキシトシンの分泌は、子どもの認知機能によい影響を与えることもわかっています。研究によれば、家族でのスキンシップが多い子どもは知能検査や自尊心のスコアが高い傾向があります。これはオキシトシンが脳をリラックスさせ、集中力と記憶力を向上させるためです。安心感のある環境では、子どもの学習意欲も自然と高まります。

3. ストレスに強くなる

オキシトシンには、ストレスホルモンの分泌を抑制する効果があります。心拍数や血圧を低下させ、不安や恐怖を和らげるため、子どもはストレス状況でも冷静さを保てるようになります。さらに、自律神経のバランスを整え睡眠の質を向上させる効果もあります。これらの作用によって、子どもの心身の健全な発達が促進されます。

ハグする親子の画像

親子のスキンシップでオキシトシンを分泌しよう

オキシトシンは親子の触れ合いを通じて自然に分泌されます。日常生活のなかで簡単に取り入れられる効果的なスキンシップ方法をご紹介します。

1. 「ハートハグ」でオキシトシンUP

子どもの年齢に関わらず、適切なスキンシップはオキシトシンの分泌を促します。お子さんが大きくなるにつれてスキンシップの時間が少なくなりがちですが、短い時間でも心のこもったハグには大きな効果があります

「ハートハグ」
・朝の忙しい時間でも、ギューっと抱きしめる
・帰宅時に「ただいま」と言いながら抱きしめる
・寝るまえに、抱っこをしながら子どものお話を聞く

大切なのは形よりも気持ち。子どもは親の心を敏感に感じ取ります。忙しい毎日のなかでも、その瞬間はお子さんに向き合いましょう。「愛しているよ」「あなたが大切」という思いを込めた愛情たっぷりのハグで、子どもの心に安心と幸せを届けてあげましょう。

2. 「じゃれあい」「タッチ」でオキシトシンUP

抱っこ以外にも、さまざまな方法でオキシトシンを分泌させることができます。体を使った遊びやタッチも効果的です。

「じゃれあい」
・くすぐり遊びやこちょこちょ遊び
・肩車や背中に乗せる遊び
「タッチ」
・頭や背中を優しく撫でる
・手をつなぐ
・髪を梳かしたり、髪を結んであげる

子どもの年齢や性格によって好きなスキンシップは異なります。お子さんが喜ぶ触れ合い方を見つけて、日常のなかに取り入れてみましょう。ちょっとした遊びのなかにある温かな触れ合いが、親子の絆を育み、オキシトシンの分泌を促してくれます

3. 「絵本の読み聞かせ」でオキシトンUP

自然と体が触れ合える「読み聞かせ」もおすすめです。肩が触れ合ったり、寄り添ったりしながら絵本を楽しむ時間は、特別なスキンシップとして意識しなくても自然にオキシトシンを分泌させます。

「絵本の読み聞かせ」
・膝の上に座らせて読み聞かせる
・横に並んで一緒に絵本を見る
・寝るまえの10分間の読み聞かせを習慣にする

絵本の読み聞かせは、スキンシップだけでなく、お子さんの想像力や言語能力の発達にも効果的。物語の世界を一緒に楽しむことで、親子の絆がさらに深まります。忙しい日でも、短い絵本を1冊読むだけでも十分な効果があるので、無理なく続けられる習慣にしてみましょう。
スキンシップのポイント
乳児期→親が積極的にスキンシップをリード
幼児期以降→子どもがスキンシップを求めているときは応える
どの年齢でも→スキンシップは甘やかしではなく、自尊心や信頼感、自立心を育む重要な要素であることを理解する

読み聞かせをする親子の画像

スキンシップは甘やかしではなく「心の栄養」

スキンシップは甘やかしではなく、子どもの「心の栄養」です。乳児期や幼児期に触れ合いが多いほど心が安定し、自尊心や人への信頼感、自立心も育ちます。

子どもの年齢に応じたスキンシップを心がけよう

子どもの成長段階によって、スキンシップのあり方も変わってきます。乳児期は親が積極的にスキンシップをリードすることが大切。この時期の十分な触れ合いが、基本的信頼感の土台を作ります。この基本的信頼感があってこそ、子どもは安心して世界を探索し、自立への一歩を踏み出せるようになります。

幼児期以降になると、子どもがスキンシップを求めているときに応えることが重要になります。特に子どもが不安や寂しさを感じているとき、親に甘えたいときに、温かく受け入れることで、子どもは「自分は大切にされている」という安心感を得られます

親は日々の忙しさやイライラから、子どもが甘えてきたときに「自分でやりなさい!」と突き放してしまうことがあるかもしれません。しかし、子どものタイミングでスキンシップがとれるようになると、その後の情緒の安定に大きく影響します。適切なタイミングで応じることで、子どもは「必要なときには支えてもらえる」という安心感を得て、それを支えに自分で挑戦する勇気をもてるようになります。

スキンシップのポイント
乳児期→親が積極的にスキンシップをリード
幼児期以降→子どもがスキンシップを求めているときは応える
どの年齢でも→スキンシップは甘やかしではなく、自尊心や信頼感、自立心を育む重要な要素であることを理解する
甘える子ども画像

スキンシップの本来の姿 —— 子どもを中心に

健全なスキンシップでは、まず第一に子どもに安心感を与えることが大切です。子どもをハグしたり、優しい言葉をかけたりする目的は、子どもの心を満たすことにあります。このような触れ合いの結果として親自身も幸せな気持ちになれるものですが、その目的と順序が逆転してはいけません

「ママが不安だから」と親が自分の感情を満たすために子どもにハグを求めるような関係は「愛着の逆転」と呼ばれ、避けるべきものです。産後うつやDVの環境では、このように子どもが親の癒し役になってしまうケースが特に見られます。

ベビーマッサージは、子どもを癒しながら親自身も癒される相互効果がありますが、「私が安心するから」と子どもを自分の癒しに使うことは「修正したい親子関係」です。

現代ではSNSでの「映える子育て」ブームの影響もあり、子どもを自分の見栄えや満足のために利用してしまうケースが増えています。まるでかわいいペットのように子どもを扱い、親の自己表現の道具にしてしまうような関わり方は、子どもの健全な心の成長を妨げてしまう恐れがあります。

ベビーメッセージ

スキンシップが苦手……という方へ

スキンシップに苦手意識がある方もいらっしゃるでしょう。無理をする必要はありません。自分にとって自然と感じられる範囲から始めてみましょう
小さなところから始められるスキンシップ例
・横並びに座ってテレビを見る
・肩を軽く抱くか組む
・帰り道に手を繋ぐ
・食事の時に「おいしいね」と言いながら目を合わせる

こうした簡単なスキンシップでも、オキシトシンはしっかり分泌されます。スキンシップは親子それぞれの個性に合わせて、お互いが心地よいと感じる方法を見つけていきましょう。

***
愛情ホルモン「オキシトシン」が分泌されることで、子どもの心身の健全な発達に多角的な効果をもたらします。

スキンシップの目的は常に「子どもの心を満たすこと」。ぜひ毎日の生活のなかで、ほんの少しの時間でも子どもと触れ合う時間を意識してみてください。小さな触れ合いの積み重ねが、子どもの心と体の健やかな成長を支え、未来へのエネルギーとなっていくのです。