芸術にふれる/アート 2020.2.5

子どもの表現力には限界がある。だからこそ「本物」のアートに触れてほしい

編集部
子どもの表現力には限界がある。だからこそ「本物」のアートに触れてほしい

インターネットが普及してメディアもどんどん増加したいまの時代、音楽でもアートでも自宅にいながらにして楽しむことができます。でも、「子どもがなるべく小さいうちから、『本物』に触れさせることを意識してほしい」というのは、子ども向けのアート教室を運営する今泉真樹先生。「本物」に触れることの大切さはどこにあるのでしょうか。

インタビュー写真/石塚雅人
アート活動写真/今泉真樹

子どもの表現力には限界がある

「子どもは想像力が豊かだ」と決めつけている大人がとても多いと感じます。たしかに、「雲の上に乗ってみたい」といった空想をする想像力については豊かだといえるでしょう。でも、見たこともない風景を描くのは難しいですし、それを表現する力にも限界があります

子どもは大人と比べて圧倒的に経験が少ないですから、世の中のアートにはどんな表現手法があり、その制作のためにどんな道具を使うのかということを知らないのです。絵を描くにしても、家にある道具や材料しか使うことができません。

そこで、子どもの引き出しを増やしてあげるためにも、やはり「本物」のアートを見せてあげることが大切です。美術館に行けば、いろいろな絵や彫刻などたくさんのアートに触れることができます。そのなかで、子どもそれぞれに気になる作品に出会うでしょう。ゴッホの絵が気に入った子どもがいたとします。その子は、ゴッホの独特のタッチを真似してみたいと思うかもしれません。それなら、ゴッホのタッチを再現できる平筆を買ってあげるとよいでしょう。本物に触れることにより、絵の表現方法がたくさんあることを子どもは理解できるのです。

クレヨンなどの画材を選ぶ際にも、子どもの表現力に限界があることを親が意識しておきましょう。クレヨンを子どもに買い与える場合、多くの人が12色セットくらいのクレヨンを選ぶと思います。クレヨンは色を混ぜることができるとはいえ、12色のクレヨンから子どもの知識や表現力でつくれる色の数はやはり限られています。24〜36色セットなど、最初からたくさんの色数があるクレヨンを選んであげたほうが、子どもの表現の幅を広げることができます

子どもが本物のアートに触れる意義2

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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「本物」が放つエネルギーとオーラ

「百聞は一見にしかず」とむかしからいわれていますが、小さいうちから「本物」にたくさん触れさせてあげることが大切だと考えています。

画集を見るより、美術館という非日常の空間に身を置き、アーティストたちが魂を込めてつくった作品から放たれるオーラを感じるほうが、より深く感覚的に作品をとらえることができます本物に触れる経験を通して、感性が豊かになっていくのです。

大人でも、美術館へ足を運んだり、あるいは舞台鑑賞に出かけたりすれば、生の迫力にあらためて感動するでしょう。美術館という空間や作品の迫力に圧倒されて、感性が刺激されたり、創作意欲が湧いてきたり、とたくさんの効果があります。また、いろいろな画風や技法を観ることによって、今度はこの色を使ってみよう、新しいモチーフに挑戦してみよう、などヒントをもらうことができます。

子どもが本物のアートに触れる意義3
美術館で本物の作品に見入る子どもたち

とっつきやすい展覧会から美術館に親しむ

夏休みや冬休みなどの長期休暇中は、子ども向けの展覧会も増えますから、美術館を訪れるにはおすすめの時期です。以前、「子どもしか入れない部屋」を設けていた面白い展覧会もありました。わたしは息子と行ってきたのですが、息子は「お母さんは入っちゃ駄目だからね!」といってよろこんでいましたよ(笑)。子どもが大人に対して優越感を持ちながらアートに親しめる、素晴らしいアイデアだと思いました。

展覧会を選ぶときは、自分が好きな絵を観るのがいちばんだと思います。あまり美術館になじみがない方や、どの展覧会を鑑賞したらよいかわからない場合は、よく目にする有名な作品を集めているような展覧会に行くのもひとつの手です。「これは観たことのある作品だ!」などと発見するだけで、アートをより身近に感じられると思います。そのようなとっつきやすい展覧会からはじめて、親子一緒に美術館に親しんでみてはいかがでしょうか

日本人は欧米の方に比べてアートに触れる機会が少ないといわれますが、心の栄養を補給するようなイメージで、もっと気軽に美術館に足を運んでほしいですね。

子どもが本物のアートに触れる意義4

アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室

■ アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室 主宰 今泉真樹先生 インタビュー一覧
第1回:「汚してもいいよ」で子どもの好奇心を発揮させる! 未就学児から楽しめるアート活動
第2回:つい言ってしまう「上手だね」。もっとお絵かきが純粋に楽しくなる大人の言葉
第3回:子どもの表現力には限界がある。だからこそ「本物」のアートに触れてほしい
第4回:自己肯定感はアートで高める! 「自ら考え、かたちにする」を繰り返し、自信を持てるようになる

【プロフィール】
今泉真樹(いまいずみ・まき)
東京都出身。アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室 主宰。桑沢デザイン研究所を卒業後、英ローズ・ブルフォード大学を主席で卒業。国内外の有名ブランドや宝塚歌劇団のジュエリーデザインなどを手がける。2012年、アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室を設立。子どもの自由な発想力や思考力を育てることに焦点をあてた絵画・工作・野外アート活動の指導を行う。保育 絵画指導スペシャリスト ライセンス保有。新宿区子ども未来基金助成活動【アートミック】アート講師も務める。