こんにちは。文章力養成コーチの松嶋有香です。
夏休みをどのようにお過ごしでしょうか。読書感想文の宿題にそろそろ取りかかる人もいるかと思います。ぜひ、この連載の第1回から読んでみてくださいね。
さて、今回は、第7回。ここまで来ると、自分の書いたものに、一種の責任感のようなものを持つようになっているはずです。自分の作品です。がんばって仕上げましょう。
まずは、全体の位置を確認します。
——————————————–
0. 計画を立てる
1. 本を選ぶ
2. 心が動いた文やシーンがあるページに付箋を貼る
3. 質問シートを作る。答える。
4. 近い内容をまとめて文にする
5. 4を組み立てる
6. 書いてみる
7. 時間を置いて、見直す
8. 書き直す
——————————————–
6まで終わっています。今日は7と8です。さあ! 仕上げましょう。
自分では自分の誤りに気がつきにくい
前回は、添削の方法についてお伝えしました。すべては結論の為に、最高の構成を作ること、いらない文を捨てる勇気を持つことの大切さについてお話ししました。
今回は、その添削、そして推敲をする時に、どのようにしたら自分の文章の誤りに気づけるかということをお話しします。
例えば、自分が書いた文章を読んで、自力で誤字を発見することはとても難しいです。なぜならば、誤字などないということを前提に書いているからです。ところが他人がそれを読んで、その人に「ここの字、違っているよ」と注意されると、自信を持って書いていれば書いているほど、まるでその瞬間から誤字が存在し始めたのでは? と思うような衝撃です。
私は以前、農作物の「収穫」という字を「収獲」と書いたことがあり、自分の誤字を指摘され心底驚いたことがあります。「穫」と「獲」はのぎへんとけものへんだという違いからも分かる通り、植物の場合は収穫、獣や魚の場合は収獲を使います。「収穫祭」はのぎへん、「漁獲高」はけものへんといった具合です。
語順の並び替えも、人に伝わりにくくて気がつくことがありますよね。「え? どういうこと?」と聞き返されるような語順もあります。
前回の
「ゆかちゃんがね、痛いって、泣いちゃったの。滑り台でね。大変なの。ぶつかって、血が出ちゃったの。ううん、鼻血じゃなくておでこから。ぶつかったのはお友だちじゃないの。木なの。滑り台の下の。うん、落ちたの。」
などもそうです。
お母さんに「落ち着いて。ゆかちゃんがどうしたの?」と正しい語順で話すように言われるまで、本人はこの伝え方がベストではないことに気がつきません。
他人の目を持つ、耳を持つ
ここまで述べたことで、気がついたことがあるでしょう。そう「ミスは自分では気がつかない」ということです。では、どうしたら気がつくようになるでしょう。それは「他人の目や耳を持つ」ことです。
他人の目を持つ。
まず、時間を置くことが大事です。時間が許すならば、一晩置いてみましょう。ぐっすり寝て、朝ごはんをしっかり食べて、その頭で自分の書いた文を読んでみましょう。随分冷静になって読めるはずです。熱中していた時には気づかなかったことにも気づきます。誤字脱字、語順だけでなく、表現を工夫したら良いところ、もっと強調したらいいところなどが浮かぶようになります。
他人の耳を持つ。
もっと良い方法が、他人の耳を持つことです。そのために役立つのが音読。この方法は、大人にも有効です。メールを出す時や、会社に提出する資料を作る時などに試してみてください。びっくりするほどの発見があるはずです。私は大人にも文章を指導していますが、この点に関しては、確実にみなさん、同意します。
音読をする口は自分の口、それを聴き取るの耳は自分の耳なのですが、なぜか、音読というプロセスを通ると、客観的に聞こえるのです。
Typoglycemiaという現象があります。 多少綴りが違っていても、人間は言葉が読めるというもの。
2003年9月12日、David Harris’ Science & Literaruteというサイトで、「Aoccdrnig」で始まる英文が紹介されました。その全文が以下の通りです。
この日本語版のようなものが、2チャンネルから始まり、TwitterやFacebookでも話題になったので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。都市伝説だという説もありますが、日本語でもそれが大いに立証されていると感じます。百聞は一見にしかず。まずは黙読、目だけで読んでみてください。
では、大きな声で音読してみましょう。どうですか? 黙読の時とは違いませんか?
こういうレベルの間違いですら黙読では気づきにくいのです。ですから、自分が書いた文章では、例えば次のようなポイントに気をつけると、音読では必ず気づきます。
「の」は連続していないか?
例えば、言葉を工夫することで直します。
(例)私のお父さんの会社の人の家では、毎年旅行に行くそうです。
→ お父さんの友だちは、毎年家族旅行に行くそうです。
主語が二つ以上ないか?
例えば、文を分けることで直します。
(例)僕の好きなサッカー選手は、乾貴士が、今回のワールドカップで“驚きの活躍をした5人”として日本代表から乾貴士が選ばれました。
→ 僕の好きなサッカー選手は、乾貴士選手です。乾貴士選手は、今回のワールドカップで“驚きの活躍をした5人”として日本代表から選ばれました。
文章がねじれていないか?
こちらも、文を分けることでたいてい解決できます。
(例)私は、いとこのゆかちゃんと遠くに出かけた時に、ゆかちゃんは道に迷って、怒ったことを後悔している。
→ いとこのゆかちゃんと遠くに出かけた時に、ゆかちゃんは道に迷った。私はその時にゆかちゃんを怒ったのだが、私は今でもそのことを後悔している。
さて、昨日書いた作文を読んでみます。声に出して読んでみましょう。
声に出して読んでみて、気づくことがあれば、赤ペンで書いていきます。
- こっちの文が先に来た方がいい
- この文はもう少し強調しよう
- この文はやっぱりいらない
そういう気づきはどんどん書き込みます。
音読すると、不思議と、書き入れたい言葉や、書き直したい言葉が出てきます。
また、ここまでの段階では文が箇条書きになっているのですが、文と文のあいだに入れたい言葉も自然に出てくるはずです。
こんな手も! スマートフォンの読み上げ機能
最近のスマートフォンは、画面を読み上げる機能が付いています。これは、目の不自由な人の為の機能ですが、私はこの方法でkindleの読書をしていますし、長いメールや、自分で書いた原稿の下書きも読み上げてもらっています。
iPhone、Androidそれぞれの設定方法はこちら。
スマートフォンに読み上げてもらうのは、なかなか斬新な方法なので、お子さんも面白がるかもしれません。
俯瞰して見る
さて、様々な工夫が見つかり、今、原稿は赤ペンの書込みでいっぱいになっているはずです。そこで、その工夫に基づいて書き直していくわけですが、気をつけたいことが1つだけあります。それは、段落、プロットは崩さないということです。
例えば「やはりこの言葉は一番先に持ってこよう!」そう感じたとします。その場合は、できるだけその文だけを単独で動かすようなことはしないようにします。動かすとしたら、段落ごとです。
例えば、次の桃太郎の簡単な要約を見てください。こちらは、感想文ではなく、要約文なのですが、段落の動かし方に関して分かりやすいので、この例で説明しますね。
- 桃から生まれた桃太郎
- 大きくなってお殿様から鬼退治を依頼されます
- 犬猿雉の仲間を連れ、鬼ヶ島へ
- 桃太郎たちは勇敢に鬼を退治します
- 宝を取り返し、めでたしめでたし
絵本によくある、時系列パターンです。
これをダイナミックに、感動した結論部分、鬼退治の場面から書くことにした場合、段落4の中の一部分を移動するのではなく、4の段落ごと前に持ってくるのです。
- 桃太郎たちは勇敢に鬼を退治しました
- この桃太郎、実はなんと桃から生まれたのです
- 大きくなってお殿様から鬼退治を依頼されました
- 犬猿雉の仲間を連れ、鬼ヶ島へ。それが冒頭の場面です
- 宝を取り返し、めでたしめでたし
お子さんが「このせりふを前に持っていきたい」そう思ったとしたら、そのアイデア自体は尊重してあげてください。その場合に、その文だけを移動するのではなく、段落、プロットごと移動させて、そのあと微調整をします。
文章全体を「俯瞰して見る」ことが求められます。低学年のお子さんの場合は、少しとらえ方が難しいかも知れませんね。その場合は、実際に段落の中で1文動かしてみて、1箇所だけ移動させるとバランスが崩れてしまうのだという感覚を味わうだけでも良いと思います。
清書する
段落を動かさないということに気をつけて、自分でチェックした赤ペンの部分を書き直したら、下書きは完成です。それらの組み立てを確認したら、順番に書いていきます。そうです、ここでやっと清書です。
つまり、清書にも準備が必要だということ。このあたりも、大人でも知らない人が多いので、小手先にあっちをちょこちょこ、こっちをちょこちょこ直し、改めて読み直してみたら、何が言いたいのか分からない文章になってしまったので、もう一度頭から見直し……というような実に遠回りな作業を繰り返している人をよく見かけます。
「書くのに時間がかかるんです」という人はほとんどこのパターンです。
下書きにしろ、清書にしろ、とにかく準備をしっかりすれば、何回も書き直すようなことにはならないはずです。しっかり計画を立てると、かえって無駄がない、その経験は、文章に限らず、すべてのことに言えます。もちろん情熱が削がれるまで、計画に時間をかけすぎてはいけませんが、無計画に書き出すと遠回りになるという感覚は、教育の面からも指導したい点です。
完成! まずは、子どもと自分を褒めちぎること
さあ、完成しました。まずは子どもと自分を褒めちぎってください。この暑い中、お子さんは自分と向き合い、本当に頑張ったと思います。
保護者の方も、余計な口出しをせず、してしまったとしても、今までの頻度とは比べものにならないくらい少なかったはず。
子どもを信じて、本当によくやった! と自分を褒めちぎってください。
お子さんに対しては、完成した文を話題に、食事の度に「よくがんばったよね」と褒めてあげてください。「もういいよ」と子どもが照れるまで「僕って天才?」と調子に乗るまで、頑張ったことを称えてあげてください。
脳科学の本にも書いてありますが、人間、嬉しかった記憶とセットになったことは、好んで繰り返すようになります。大人でもそうですよね。肯定され、認められたことは、もう一度やってみよう! という気になります。
本当にお疲れ様でした!
次回予告【最終回】
第8回『ようこそ内省の世界へ』
・読書感想文で得られた3つのこと
(参考)
University of Cambridge|Aoccdrnig to a rscheearch at Cmabrigde Uinervtisy, it deosn’t mttaer in waht oredr the ltteers in a wrod are, the olny iprmoetnt tihng is taht the frist and lsat ltteer be at the rghit pclae. The rset can be a toatl mses and you can sitll raed it wouthit porbelm. Tihs is bcuseae the huamn mnid deos not raed ervey lteter by istlef, but the wrod as a wlohe.
My Softbank|見るより聴くが早い? スマホにテキストを読み上げてもらう方法