「子どもが本をあまり読まない」こうした活字離れへの心配は、多くの親や先生が感じていることです。学校や図書館では、みんなで本を読む全校一斉読書の時間を作ったり、図書館を使いやすくしたりする自治体の図書館改革などの取り組みが行われています。
家庭でも、お子さんが活字に触れる習慣をつくりたいもの。しかし、動画は喜んで見るのに、本はあまり読まない子が増えています。変化の激しい今の社会で生きていくには、自分で情報を集められる力が大切です。
この記事では、アンケート結果をもとに、子どもの本離れを防ぐ効果的な方法を紹介します。記事の最後には、私の家庭で実際に試している方法も載せています。「子どもに本を好きになってほしい」「うちの子、全然本を読まなくて心配」という方はぜひ参考にしてください。
子どもの活字離れ対策1:家に本をたくさん置く
子どもに本を好きになってもらいたいなら、まずは家に本をたくさん置いてみましょう。
文部科学省による「親と子の読書活動等に関する調査」(2005年)では、多くの本を置くようにしている家庭のほうが、子ども(小学生~高校生)が読書好きになる傾向がありました。
・家に本をたくさん置いていない家庭→約84%の子どもが「本が好き」
教育について多くの著書をもつ柳沢幸雄氏(北鎌倉女子学園学園長)も、子どもを本好きにするためさまざまな種類の本を買ってあげるようすすめています。
子供が食いつく餌の種類は親でもわかりませんから、いろんな分野の本を買ってまいてみます。(中略)好きそうなものを買っておいておびき寄せて、食いついたら、しめたものです。こうして子供はある日、突然、読書をし始めるのです。
(引用元:「東大生192人頭のいい子の本棚ー「小学生時代の愛読書」ランキング」, プレジデントFamily, 2018秋号, pp.58-59.)
「どんな本を買えばいいか分からない」という方には、「クレヨンハウス」の「絵本の本棚」のような、選りすぐりの本が定期的に届くサービスが便利です。年齢や学年に合わせたコースがあるので、本選びで悩む必要がありません。
子どもの活字離れ対策2:仕掛け絵本を買ってあげる
子どもが一人で楽しめる「仕掛け絵本」も本離れ対策として効果的です。
ケンブリッジ大学で英文学の博士号を取得した吉野亜矢子氏によると、まずは「本の形をしたもの」に慣れてもらうのがいいそう。子どもがひとりで開いて遊べる仕掛け絵本なら、おもちゃのように楽しめます。
たとえば、エリック・カール『はらぺこあおむし』や、ジャン・ピエンコフスキー『おばけやしき』はいかがでしょう? この下にある動画をクリックし、ぜひ見てみてください。
でも仕掛け絵本専門店としては日本初である「メッゲンドルファー」のWebサイトでは、仕掛け絵本の中身をチェックできます。仕掛け絵本の中身を見ることができ、「生き物」「知育」など好きなジャンルから探すことや、そのまま購入することが可能です。
活字離れ対策に、楽しい仕掛け絵本をプレゼントしてあげてくださいね。
子どもの活字離れ対策3:図書館・本屋に連れていく
図書館や本屋に子どもを連れていくことも本離れ対策として効果的です。
その根拠は、文部科学省が実施した「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」(2017年)です。
文部科学省の調査(2017年)では、小学4・5年生の半数以上が「家族が一緒に本を読んだり、図書館や本屋に連れて行ってくれたりすること」が本を読むきっかけになると答えています。
『子どもを読書好きにするために親ができること』(小学館、2020年)などの著書がある国語教師・白坂洋一氏も、子どもが本に親しむために本屋や図書館に連れて行くことを勧めています。
図書館や本屋では、子どもがいろいろな本に触れられるだけでなく、本を読む大人の姿を見て「おもしろそうだな」と思うきっかけにもなります。また、読み聞かせ会などの子ども向けイベントも本に親しむ良い機会です。
子どもの活字離れ対策4:読み聞かせをする
「本好きな子を育てるなら読み聞かせ」というイメージ通り、読み聞かせは非常に効果的な方法です。
文部科学省が委託した、小学5年生~高校3年生対象の「新しい時代における電子メディアと読書に関する調査」(2018年)では、読み聞かせをしていた家庭のほうが、過去1ヶ月に子どもが読書した割合が高いという結果でした。
・幼稚園・保育園の頃に読み聞かせをしていた家庭→約70%の子どもが紙の本を読んだ
・小学校1~3年生の頃に読み聞かせをしていた家庭→約72%の子どもが紙の本を読んだ
・小学校4~6年生の頃に読み聞かせをしていた家庭→約78%の子どもが紙の本を読んだ
前出の白坂氏によると、読み聞かせを始める時期は早ければ早いほどいいそう。活字離れ対策のため、毎晩寝るまえに「お話の時間」をつくり、読み聞かせの習慣をつけるといいでしょう。
子どもの活字離れ対策5:子どもの興味を大切にする
子どもの興味を大切にすることも、活字離れを防ぐ大事な方法です。書評サイト「千夜千冊」の執筆者であり、角川武蔵野ミュージアムの館長を務める松岡正剛氏によると、読書に最も必要なのは「好奇心」だそうです。
本が苦手になる一番の理由は、「本の面白さをまだ知らない」ということ。自分の好きなことと本がつながっていると分かれば、読書に興味が出てくるそうです。
子どもの好奇心を育てるには、親が本の種類を制限せず、好きな本を好きなだけ読ませてあげましょう。同じテーマの本ばかり読んでも、同じ本を何回読み返しても問題ありません。子どもが欲しがる内容の本をたくさん与えてあげれば、その興味が満たされた後、だんだん他のことにも興味が広がっていきます。
子どもの活字離れ対策6:親が本を読む姿を見せる
あなた自身が読書を楽しむことも、子どもの活字離れ対策として効果的な方法です。「親と子の読書活動等に関する調査」によれば、親が本好きかどうかと、子どもが本を読むかどうかには、はっきりとした関係があ流ということです。
・親が「どちらかといえば読書好き」→子どもの87.2%が本を読んだ
・親が「どちらかといえば読書嫌い」→子どもの86.8%が本を読んだ
・親が「読書嫌い」→子どもの84.6%が本を読んだ
前出の松岡氏も、子どもを本好きにしたいのなら、親が本を読むことが何より大切だと語っています。松岡氏によれば、子どもが読んでいる本を親も読み、内容について会話するのがおすすめ。「このシーンが好きだな」「私はこう思った!」など、親子での「共通体験」によって安心感が生まれ、読書が楽しくなるそうです。
家庭でできる活字離れ対策として、まずは親が率先して読書を楽しむ姿を見せてあげましょう。
子どもの活字離れ対策7:文章で会話する
活字離れの原因のひとつは、そもそも「なぜ活字から離れてしまったのか」と「文章を読んで理解することが難しいから」です。
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社、2018年)を著した数学者・新井紀子氏によれば、子どもが文章を理解できないのは「語彙が少ない」ことが原因。知っている言葉が多ければ、文章を読むときの負担が減り、内容を理解しやすくなります。
子どもの言葉を増やすには、家での会話を工夫しましょう。「今日、何?」「カレー」のような短い言葉だけの会話ではなく、「今日の夕ご飯は何かな?」「あなたの好きなカレーライスだよ」のように、文章で話すようにしましょう。こうすることで、いろいろな言葉に慣れ、短い言葉ではなく文章で考える習慣がつきます。
親子での会話をちょっと変えてみることも、立派な活字離れ対策なんです。
子どもの活字離れ対策8:「調べてみよう!」と声をかける
活字離れ対策としては、わからないことを自分で調べる習慣をつけさせるのもおすすめ。教育評論家の石田勝紀氏によると、読書習慣のない子には、まず「調べ習慣」をつけるとよいそうです。
「これってどういう意味?」と子どもに聞かれたら、「調べて教えてくれる?」と返してみましょう。まだ一人で調べられない場合は、一緒に調べてあげましょう。
気になったことをインターネットで調べる程度なら、子どもも面倒だとは思わないでしょう。検索結果の記事を読むことで、自然と文字に親しめます。記事の内容に興味を持ったようなら、図書館や本屋に行って関連する本を探してみるのもいいですね。
活字離れの対策として、わからないことは自分で調べる習慣をつけてあげてくださいね。
子どもの活字離れ対策9:リビングでニュースを見る
ちょっとユニークな活字離れ対策として、リビングでニュース番組を見ること。教育について多数の著書がある高橋公英氏は、このように話しています。
かつては自分は見たくなくても、父親がニュースを見ている傍らで一緒に見るから、子どもも世の中の事について知識を得ていたものです。
(引用元:All About|本が好きな子供が育つ習慣や家庭環境とは?)
居間やリビングで家族がテレビをつけていれば、目や耳に自然と情報が入ってきます。大人がニュース番組を見ることで、子どもの知識や言葉の数が自然と増えていきます。
ただ、ニュース番組では幼い子にとって刺激の強い映像が流れることもあるため、注意が必要です。そのような場合は、一時的にテレビを消すか、チャンネルを変えましょう。
「疲れすぎて、本なんて読めない……」という方にもおすすめな、手軽にできる活字離れ対策です。
子どもの活字離れ対策10:新聞を見えるところに置く
簡単な本離れ対策として、新聞を広げて子どもの目に入るように置いておくのも効果的です。特に子ども向け新聞はふりがな付きで読みやすく、怖いニュースやゴシップは載っていないので安心です。
筆者の家庭では、子どもがいろいろな言葉に出会え、自然に視野を広げられる便利なツールとして、「読売KODOMO新聞」を定期購読しています。読売KODOMO新聞を選んだのは、以下のような理由です。
- 時事問題が豊富で親も楽しめる
- 社会の「旬の言葉」に触れられるツールとしてコストパフォーマンスがよい
実際、子どもの語彙を増やすため、新聞を読ませたいと考えている方が多いようです。保護者向けインターネットサービスを手がけるアクトインディ株式会社は2018年、12歳以下の子どもがいる保護者を対象に、「新聞に関するアンケート」を実施しました。その結果は……
子どもに新聞を読んでほしいと思わない:20%
なんと、7割近い保護者が、子どもに新聞を読ませたいと考えているのです。その一方、実際に紙の新聞を定期購読していると答えたのは、わずか37%でした。新聞に教育効果を期待する保護者は多いものの、実践している人は少ないのですね。
言葉に触れるだけならテレビやネットでもできますが、小さな子どもが一人でも安全に、興味のあるものを自由に読める点が新聞のよいところです。まだ文章を読むのが難しい子どもには、膝の上に座らせて新聞の文字を読みながら指でなぞり、文字の音と形を一緒に楽しむこともできます。
***
お子さんの活字離れが心配な方に向け、就学前でもできる対策を10個ご紹介しました。「これならできそう!」というものが見つかりましたか? 簡単そうなものから試してみてくださいね。
文/上川万葉
(参考)
白坂洋一(2020),『子どもを読書好きにするために親ができること』, 小学館.
新井紀子(2018), 『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』, 東洋経済新報社.
「東大生192人頭のいい子の本棚ー「小学生時代の愛読書」ランキング」, プレジデントFamily, 2018秋号, pp.58-59.
プレジデントオンライン|松岡正剛さんがアドバイス「子供のための本選び」
All About|本が好きな子供が育つ習慣や家庭環境とは?
東洋経済オンライン|子どもを「本好き」に変える、ただ1つの方法
文部科学省|親と子の読書活動等に関する調査
文部科学省|平成28年度 子供の読書活動の推進等に関する調査研究-概要版-
文部科学省|平成30年度 子供の読書活動の推進等に関する調査研究-概要版-
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|参加型の読み聞かせで本好きな子に! 親子の対話を引き出す、インタラクティブな絵本たち。
文部科学省|(資料4)子供の読書活動に関する現状と論点
ダイヤモンド・オンライン|「語彙の豊かな子」の親がしている5つの習慣
東北大学|親子で過ごす時間が子どもの言語理解と関連脳領域に影響
いこーよ|新聞週間を前に全国の子育て層に調査
※本記事は2021年7月27日に公開しました。肩書などは当時のものです。