教育を考える 2018.8.4

哲学で子どもの「考える力」を伸ばす(後編)ーー津田塾大学総合政策学部学部長 哲学者・萱野稔人先生インタビューpart2

哲学で子どもの「考える力」を伸ばす(後編)ーー津田塾大学総合政策学部学部長 哲学者・萱野稔人先生インタビューpart2

日本人にとってあまり馴染みがない哲学。しかし、この哲学こそが「考える力を身につけるためにはとても有効な手段」だと、哲学者・萱野稔人先生は語ります。哲学の基本的思考とも共通する「3つの問い」を繰り返すクセをつけさせることで、子どもの考える力を格段に伸ばすことができるのだとか。それはいったい、どんな「問い」なのでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子

考える力とアウトプットする力を伸ばす「思考の3点セット」

これからの時代、日本の教育現場でも子どもたちの「考える力」を伸ばすことが大事だと言われています。ただ、わたしが少し不満を持っているのは、そう言いながらもどうすれば考える力が身につくのかをきちんと示してくれる人があまりいないということ。そもそもの方法論が欠如しているように思います。そこで、わたしなりの方法論をお伝えしましょう。

じつは、考える力を身につけるためには哲学はとても有効な手段です。哲学の基本は「言葉を使って考える」ということ。いわば、ようやく日本の教育が重視しはじめた部分を純粋に学問として取り出すと哲学になるとも言えます。哲学に馴染みが薄い日本人にはイメージしづらい「哲学とはなにか?」という問いのひとつの答えと言ってもいいでしょう。

さて、どうすれば子どもの考える力を伸ばせるのでしょうか。それは3つの問いを繰り返すクセをつけさせることです。わたしはそれらを、「思考の3点セット」というふうに呼んでいます。まずひとつ目は「なぜ?」という問い。なぜ日本には大統領がいないのか、なぜチリという国は細長いのか、なぜ青信号が進めのサインなのか……。小さな子どもであれば、その「なぜ?」の問いは本当になんでもいいのです。周囲の大人が知的好奇心を持って子どもに考える機会を与えてあげる。そして、「なぜ勉強しなければならないのか」という問いに対して、「将来、役立つから」というような簡単な答えで満足しないことも重要です。その先を目指して何度も「なぜ?」と発し続け、掘り下げる習慣をつけるのです。

そしてふたつ目は、「それってそもそもどういうこと?」という問い。しかも、なるべく短い言葉で答えられるように徹底的に考えます。問いの前に、「ひと言で言うと」とつけ加えてもいいかもしれません。簡単に思えるかもしれませんが、これはじつはかなり高度な知的作業です。この問いを繰り返すことで、ものごとの本質や要点を理解する力がどんどん伸びていきます。またこれは、日本人が苦手と言われるアウトプットの力を伸ばすことにもつながりますよね。

最後の問いは、「どうやったらいいの?」です。お父さんもお母さんも忙しい、家事をする時間が足りない、ふたりともお互いを批判している。それに対して子どもは不満を抱きますよね? 「じゃ、どうやったらいいの?」と子どもに解決策を考えさせてみるのです。本来、これは夫婦同士で解決することですが……(笑)。もちろん、過去のことでもいいですよ。運動会のかけっこで負けてしまったとします。「どうしたら勝てたと思う?」というように。これもまた、アウトプットの力を伸ばし、より成熟した大人になるために必要な思考です。

深く考えるにはボキャブラリーも重要な要素

ただし、大人でもこれらの問いにはなかなか簡単には答えられません。日本の教育で考える力の重要性が強く叫ばれはじめたのは最近のことですから、当然と言えば当然ですね。ここ日本では、深く考えるということがあまり習慣化されていないのです。

これからの時代は、ただ学校の勉強ができることというより、やはりこういう思考ができる人間こそが学校教育が終わった後、仕事をするにも伸びていくのだと思います。いまや大学までの偏差値のちがいというのは、単にスタートラインのちがいでしかなくなっています。もちろん、一流大学を卒業して一流企業に就職できれば、ある程度は安泰な人生を送れるかもしれない。でも、さらにその先を目指すには、考え続けるしか道はないのです。一流大学を出ていない、もしくは大学に行っていない人でも、自分なりのフィールドを開拓してポンッと出てくるすごい人がいます。そういう人がなにを持っているかというと、考える力、アウトプットする力でしょう。

子どもの考える力、アウトプットする力を伸ばすため、「思考の3点セット」をぜひ有効活用してみてください。そしてもう少しだけ、わたしからアドバイスをしておきましょう。考えるという行為は、「言葉」を使って行うものです。つまり、深く考えるにはボキャブラリーも重要な要素となってくる。ものごとの本質を説明するには、適切な表現がありますからね。とはいえ、トライ・アンド・エラーが伴わないと身にはつかないので、無理やり単語を暗記するようなことは必要ありません。言いたいことがあるのにうまく表現できなくていろいろ模索しているうちに、「これだ!」という表現に出会った。そうしてはじめて、自分自身のボキャブラリーとして強く定着するのです。

そして、子どもがアウトプットする際には過剰な期待をしないこと。いきなり子どもにアウトプットさせてみても、たいしたものは出てきません。その出てきたものが問題なのではなくて、アウトプットしようとする習慣をつけさせることが重要なのです。仮に変な答えが返ってきたとしても、さらにそこから膨らませられるようなかたちで、大人が勇気づけてあげてください。

前編はこちら→


社会のしくみが手に取るようにわかる哲学入門〜複雑化する社会の答えは哲学の中にある
萱野稔人 著/サイゾー(2018)

【プロフィール】
萱野稔人(かやの・としひと)
1970年9月22日生まれ、愛知県出身。早稲田大学卒業後、1年間のフリーター生活を経て渡仏。2003年、パリ第10大学大学院哲学科博士課程修了。2007年に津田塾大学学芸学部准教授となり、2013年より同教授、2017年より同大学総合政策学部学部長。『PRIME news alpha』(フジテレビ)をはじめ、数多くのメディアで活躍する。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。野球好きが高じてニコニコ生放送『愛甲猛の激ヤバトーク 野良犬の穴』にも出演中。