からだを動かす/教育を考える/かけっこ/インタビュー/スポーツ/外遊び・中遊び/運動能力 2025.7.11

運動能力とともに「非認知能力」も高まる。運動習慣がない子は、将来メンタル不調におちいりやすい?

運動能力とともに「非認知能力」も高まる。運動習慣がない子は、将来メンタル不調におちいりやすい?

近年、教育分野において広く浸透してきたキーワードのひとつに、「非認知能力」が挙げられます。「非認知能力」には、協調性、粘り強さ、自尊心、自己肯定感といった多岐にわたる資質が含まれており、「社会のなかで豊かにたくましく生き抜く」ための基盤になると捉えられています。そして、この重要な非認知能力を高めるうえで、「運動こそが最適な手段」と提言するのは、全国にスポーツスクールを展開、また部活動支援をはじめとするスポーツを通じた社会貢献をミッションとして活動するリーフラス株式会社の市川雄大さんです。運動が非認知能力の育成に果たす本質的な役割を語ってもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

非認知能力=社会のなかで豊かにたくましく生き抜く力

子どもの運動能力が高まることには多くのメリットが伴います。小学校以降なら体育の成績が向上することは当然として、たとえば、自転車が転倒しそうになったような場合でも、うまくバランスを保つなどして自分の体を危険から守れるといったこともあるでしょう。

また、運動能力は、いわゆる「非認知能力」との関連が強いことも見逃せないポイントです。非認知能力とは、簡単にいえば、「知能検査や学力テストでは測定できない能力」を意味します。

非認知能力の種類は場合によって200以上ともいわれ、協調性、粘り強さ、自尊心、自己肯定感、勤勉性など、挙げればきりがありません。ただ、わたしが所属するリーフラス株式会社では、科学的な解析を経て、子どもにとってとくに重要な非認知能力として、「挨拶・礼儀」「リーダーシップ」「協調性」「自己管理力」「課題解決力」の5つを選定しました。

非認知能力については、「社会のなかで豊かにたくましく生き抜く力」と定義されることもありますが、これら5つはいずれも社会のなかで豊かにたくましく生き抜くために欠かせないものであると思います。

テーマパークで遠くを指さす子ども

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人とのかかわりなくして非認知能力は育たない

非認知能力についての説明が長くなりましたが、運動能力との関係の話に戻しましょう。非認知能力を世界に大きく普及させたひとりが、アメリカの経済学者であるシカゴ大学のジェームズ・ヘックマン教授です。

ヘックマン教授は、非認知能力と社会的成功(学歴や年収)との関係についての研究で知られていますが、非認知能力について、「taught by somebody(誰かに教わるもの)」とも定義しています。非認知能力は、机に向かってひとりで学んで身につけられるようなものではなく、「人とのかかわりのなかでしか身につけられないもの」だというのです。

たしかに、あいさつの習慣や礼儀にせよ、集団のなかで他人との協調を大切にする姿勢や気持ちにせよ、自分以外の人がいないと学べるものではありません。

では、そもそもスポーツとはどのようなものでしょうか? スポーツもさまざまで、団体競技もあれば個人競技もあります。でも、団体競技はもちろんのこと、個人競技をするのでも、そこにはコーチやライバル、応援してくれる家族など、多くの人が必ず関与します。

非認知能力が「人とのかかわりのなかでしか身につけられないもの」であり、スポーツが「多くの人が必ずかかわるもの」だからこそ、スポーツなど運動をすることで、結果として非認知能力とともに運動能力も高まると、私は考えるのです。

一例を示しましょう。ライバルに負ければ、誰だって悔しい。すると、「今度は絶対に勝ちたい!」といった気持ちを抱きます。そうした競争意識が、たとえば「勝つためにはどうすればいいか?」と課題解決力や自己管理力を伸ばしていくということにつながります。

もちろん、スポーツに限らず人とのかかわりのなかで非認知能力は身につきますが、「必ず人がかかわる」という点において、「非認知能力向上にはスポーツが最適だ」とお伝えしているのです。

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運動習慣がない子は、将来メンタル不調におちいりやすい

先に触れた5つの非認知能力を見てもらってもわかりますが、非認知能力は基本的にすべて「心」にかかわる力です。そのため、非認知能力と強い関連がある運動習慣は、メンタルヘルスにも大きく関係してきます。

これまで、幼児スポーツの指導などを通じて多くの子どもたちとかかわってきた私の個人的な考えですが、「運動習慣がなかった子どもはメンタル不調におちいりやすい」ということも言えそうです。

ただ、子どもに運動習慣がないからといって、その子がすぐにメンタル不調におちいるということはありません。なぜなら、幼いあいだは親という保護者が基本的にはすぐ近くにいてくれるため、心理的な安全性がつねに担保されているからです。

問題となるのは、その先の人生です。小学校に入れば、なんらかのスポーツをはじめる子どもも増えてきます。そういった子は、勝ちや負け、それに伴う目標があるなかで、チャレンジする、成功する、失敗する、落ち込む、悔しくて泣く、諦めそうになる、諦めないでまたチャレンジするなど、心の動きを伴う多種多様な経験を積んでいきます。そうしたなかで、スポーツの技術や体とともに心も自ずと鍛えられることは明白です。

一方、そのような経験を一切しないまま大人になったとしたらどうでしょうか? ちょっとした失敗をしただけでも深く落ち込んでしまったり、場合によっては心が折れてしまったりすることも十分に考えられます。将来的にわが子をそうした事態におちいらないためにも、子どもが日頃から運動に親しめるような働きかけをしてほしいと思います。

市川雄大さま

■ リーフラス株式会社・市川雄大さん インタビュー一覧
第1回:子どもの運動能力が飛躍的に伸びる「ゴールデンエイジ」よりも重要な、「プレ・ゴールデンエイジ」の過ごし方
第2回:「好きにやらせる・遊ばせる」が運動能力を育む最短ルート。親が子に「やらせる運動」はメリットなし!
第3回:運動能力とともに「非認知能力」も高まる。運動習慣がない子は、将来メンタル不調におちいりやすい?

【プロフィール】
市川雄大(いちかわ・ゆうだい)
1986年1月17日生まれ、埼玉県出身。リーフラス株式会社マーケティング部課長。中学から大学卒業までイギリスへ留学。筑波大学大学院修士(体育学)。その後、留学時に感じたスポーツのもたらす素晴らしい力を子どもたちに発信すべく、スポーツを通じた教育、指導に携わるために、リーフラス株式会社に入社。入社後、指導者としてサッカーや幼児スポーツを指導し、2014年に指導員個人部門年間最優秀賞を獲得。その後、支店長などの経験を経て、現在、子どもたちの非認知能力を育むための指導メソッド開発や非認知能力測定をする「みらぼ」の開発責任者や上智大学非常勤講師を務める。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。