強いストレスを感じたとき、みなさんはどうしているでしょうか。友だちを誘って食事に行く、あるいは好きな映画やドラマを観る、休みの日に小旅行をする。それぞれにストレスの対処法があるはずです。でも、子どもの場合はそういうことを自由にできません。子どもがストレスを感じているとき、親はどうしてあげたらいいのでしょうか。日本ストレスマネジメント学会事務局長である桜美林大学の小関俊祐先生に、アドバイスをお願いしました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
大きくふたつにわけられるストレスへの対処法
みなさんが「ストレスを感じる」というと、どういうシーンをイメージしますか? 仕事をしている人なら、たとえば「嫌味ったらしいことをいってくる上司にストレスを感じる」、そういう上司に対して「イライラしてストレスを感じる」というふうなことかもしれません。
でも、これらは厳密にいえば別のものでもあります。「嫌味ったらしいことをいってくる上司」はストレスの原因であり、心理学においては「ストレッサー」と呼びます。そして、ストレッサーによって生じる「イライラする」という心身の変化は「ストレス反応」と呼ばれます。
こうしてわけて考えると、あるメリットが生まれます。それはストレスへの対処法が明白になるということ。ストレスを軽減するためにできることとしては、まずはそもそもの原因であるストレッサーをなくせないか、あるいは減らせないかと考えることがひとつの方法です。そして、すでにストレスを感じている場合なら、ストレス反応を抑えることを考えるというわけです。
「〜しちゃ駄目」ではなく「こうしたら?」で導く
では、ストレス反応にはどういうものがあるのでしょうか。ストレス反応は大きく4つにわけられます。ひとつ目は気持ちが落ち込んだり不安になったりするという「抑うつ・不安」。それから、頭が痛くなる、お腹が痛くなったり緩くなったりするという「身体的反応」。3つ目がやる気がなくなったり、本当なら楽しいことも楽しめなくなったりするという「無気力」。最後が、イライラしてしまうという「不機嫌・怒り」です。
これらのストレス反応には大人と子どもに大きなちがいはありません。ただ、子どもに特徴的なことでいえば、「粗暴になる」ということが挙げられるでしょうか。たとえば、友だちにものを取られた瞬間に手が出てしまうというようなことです。ただ、その子どもも暴力を振るいたいというわけではありません。単に言葉がまだ出なかったり、語彙が足りなかったりするだけのことなのです。
大人の場合、なにか嫌なことをされたらきちんと言葉でその気持ちを伝えることができます。でも、言葉が出なかったり、語彙が足りなかったりする子どもはそうすることができません。だからこそ、そういうときにはどうすべきかを大人が教えてあげる必要があるのです。友だちのおもちゃが欲しくて手を伸ばしたら「駄目!」といわれ、どうしていいのかわからず友だちをたたいてしまった。子どもがそんなことをしたのなら、「そういうときは、ちゃんと『貸して』っていうのよ」と何度も何度も教えてあげましょう。
子どもがまわりの友だちに暴力を振るうと、親としては本当に心配になるはずです。そうすると、つい「たたいちゃ駄目」という「〜しちゃ駄目」といういい方になりがちです。でも、「〜しちゃ駄目」に力を入れると、どうしても強く叱るかたちになる。子どもに限らず強く叱る相手を好きになる人間はいません。親というもっとも身近な大人を嫌いになるというのは、子どもにとってすごく不幸なことですし、もちろん親にとっても不幸です。
でも「こうしたらいいんだよ」とガイドすれば、教えたことがちょっとでもできたときに「そうそう、その調子!」「ちゃんとできたね!」と褒めることができますよね。そうすると、子どもは親を好きになれる。そういう好循環をうまくつくってあげることが大切です。
子どもがストレスへの対処法を「自覚」することが重要
こういう大人のガイドが大切だということには、子どもは自分自身でストレス反応に対処しにくいということが挙げられます。たとえば、お金にしても時間にしても、大人は子どもに比べれば自由に使えます。仕事でイライラするようなことがあれば、友だちを誘って飲みに行くこともできる。おいしいものを食べたり買い物をしたりしてストレスを発散することもできます。
でも、子どもの場合はそうはできません。お小遣いを使うといっても、100円、200円ではやれることは限られています。大人のように夜更かしをして映画を観たりカラオケをしたりすることもできません。だからこそ、もし子どもがストレスを感じているようであれば、いちばん近くにいる大人である親が「こういうことをしてみれば?」というふうにガイドしてあげないとならないのです。
そうして、中学生になる頃までに、子どもに「僕ってイライラしているときはこうすると楽になるんだ」という自覚が出てくるとより好ましいですね。なぜなら、そういう習慣が身につくことで自分自身が意図してストレスを減らすということができるからです。逆にその自覚が生まれずに自分でストレスに対処することができないまま大人になったとしたら、その人生が苦しいものになることは明らかです。
充実した人生を歩むには、ストレスも含め、人間関係、時間の使い方など、さまざまなことを自分自身で制御する「セルフコントロール」のすべを身につけなければなりません。子どもがその力をしっかり身につけられるよう、親はガイドしてあげる必要があるのです。
※本記事は2019年9月11日に公開しました。肩書などは当時のものです。
■日本ストレスマネジメント学会事務局長・小関俊祐さん インタビュー一覧
第1回:ストレスと無縁の人生を送ることは不可能。教えるべきは「転んだときの起き上がり方」
第2回:高学年までに身につけさせたい、ストレスに対抗する“セルフコントロール”の力
第3回:子どものストレスを軽減させる“ストレスコーピング”。選択肢は多ければ多いほどいい
第4回:子どもの「レジリエンス」を高めるのは、親子の会話。結果ではなく“挑戦”を褒める!
【プロフィール】
小関俊祐(こせき・しゅんすけ)
1982年1月9日生まれ、山形県出身。博士(学校教育学)。日本ストレスマネジメント学会常任理事、事務局長。桜美林大学心理・教育学系講師。他に、日本認知・行動療法学会公認心理師対策委員及び倫理委員、一般社団法人公認心理師の会運営委員及び教育・特別支援部会長も務める。子どもを対象とした認知行動療法を中心として、主に学校、家庭、地域における臨床実践・研究を推進している。小学校?高校における学級集団を対象としたストレスマネジメントや学校における特別支援教育の支援方法の検討、発達障害のある子どもとその保護者に対する支援を中心に研究と臨床を行う。また、東日本大震災以降、被災地での心理的支援も継続して実施している。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。