あたまを使う/教育を考える/インタビュー/社会 2025.7.14

有名進学校が欲しがる子の条件|「現代と歴史をつなげる力」は歴史漫画で育ちます

有名進学校が欲しがる子の条件|「現代と歴史をつなげる力」は歴史漫画で育ちます

受験勉強に使われるツールは多数あります。いわゆる「学習漫画」もそのひとつですが、なかでも人気を博すのは『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』(KADOKAWA)です。同シリーズの監修を務めた歴史学者の岡美穂子先生と、 中学受験を志す小学生と保護者をサポートするカリスマ塾講師の馬屋原吉博先生が、家庭での効果的な活用法について意見を交わしました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

進学校は現代的課題と歴史をつなげる力を見る

岡美穂子先生(以下、岡):
『日本の歴史』の活用法の前にお聞きしたいのですが、中学受験において、とくに頻出とされる時代やテーマはありますか?

馬屋原吉博先生(以下、馬屋原):
出題される時代の偏りはほとんどないというのが実情です。ただ、もちろん年によって多少のちがいはあります。たとえば、今年(2025年)は戦後80年ですから、おそらく来年度の入試であれば、戦争の時代についての出題はされることでしょう。

また、去年もそうだったのですが、いまはお米がなにかと話題になっていますから、米騒動関連の出題も予想されます。さらに、資料やグラフの読み取り問題が増加傾向にあることも踏まえれば、江戸時代や大正時代の米価の変動についてのグラフなどを絡めた問題も出題される可能性が高いと見ています。

岡:
私は、いわゆる進学校といわれる中学や高校の先生方と仕事をする機会も多いのですが、そういう学校ほど、単なる歴史好きというよりは、現代的課題につながる歴史を意識している生徒を欲しがっているように感じます。

馬屋原:
実際そうなのだと思います。私立の中高一貫校では、その学校の世界観や理念に基づいて入試問題をつくります。そのなかで、岡先生がおっしゃるように、ただ歴史が好きというのではなく、普段の生活のなかで世のなかの動きをどれだけ歴史とつなげてキャッチアップできているかという力を見ているようです。

岡:
そう考えると、子どもと親が一緒にニュースを見るような習慣があったほうがいいのかもしれません。

岡美穂子先生

馬屋原:
たしかにそうですね。私としては、情報があふれている時代のなかでパンクしそうになっている親御さんに「あれもこれもしたほうがいい」といったことは言いたくないのですが、子どもにニュースを見る習慣をつけさせることは大切です。

そのとき、親の主観を伝えることもポイントだと思います。私自身、授業のときにはあえて「僕はこう思う」と主観を話すようにしています。併せて、「お父さんやお母さんの考えは違うかもしれない」「このことについてはこんなカウンターの考え方もある」と話して、情報に対する解釈にはいろいろあるということを伝えるのです。

なぜなら、最近の中学入試では自分の考えを記述させる問題が徐々に増えているからです。でも、ただ知識をインプットしただけで「自分はこう思う」と考える習慣が身についていない子は、なにも書けないということになりかねません。

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歴史の「流れ」をつかみ、知識を強化する

馬屋原:
もちろん、自分なりの考えをもつためにも、一定の知識があることが前提となります。そこでお聞きしたいのですが、たとえば年代を覚えるのが苦手な子が『日本の歴史』を活用するとしたら、どうするのが効果的だと思いますか?

岡:
実際の入試では、年代そのものを問う問題はほとんどないですよね。でも、短い文章で表されたいくつかの出来事を時代順に並べ替える問題はよく出ます。つまり、多くの学校が、単発の知識ではなく、流れで歴史を理解できているかを重視しているのでしょう。

そういう点でいえば、『日本の歴史』はとても有効なツールです。ストーリー性がとても高いため、活用法などと難しく考えることなくただ読むだけでも歴史の流れがスムーズに頭に入ってきます

馬屋原:
とはいえ、それも子ども次第かもしれません。すべての子にとって、歴史学習はストーリーで流れを知ることから入るのがいいとは言えないはずです。もちろん、それが合う子もいるでしょう。でも、少し乱暴な表現になりますが、逆に知識を先に詰め込んでからあとで流れを知ることで知識が体系化されやすいという子もいます。

たとえば、ある大手学習塾では、まず150ほどの年代を子どもたちに覚えさせます。それだけだったらまさに乱暴な指導ですが、そうして覚えた年代と出来事は、その後の学習のとっかかりになります。そのうえで『日本の歴史』で流れをつかんで知識同士の隙間を埋めるような方法が効果的なのかもしれません。

馬屋原吉博先生

無理やり読ませるのではなく、家に「置いておく」もの

馬屋原:
『日本の歴史』デビューは何歳頃がいいといったお考えはありますか?

岡:
それについては、私も失敗してしまったのです……(苦笑)。娘が小学生になった頃に『日本の歴史』を買い与えたのですが、早いうちにひととおり読んだことで、娘のなかではもう「読み終わった本」になって読み返すことがありませんでした。低学年のうちになんとなく読んで、高学年になったらもっと深く読み込んでほしいと思っていたのですが……。

馬屋原:
なるほど、そんなことがあったのですね。私としては、『日本の歴史』は読ませるものではなく、家に置いておくものだと思っています。もしかしたらそのまま読まれることがないかもしれませんが、「どこかのタイミングで自分からすっと読んでくれたら儲けもの」くらいに考えておくのがいいのではないでしょうか。親自身がたまに読むのもいいかもしれませんね。その姿を見て、子どもが興味をもつことだって考えられます。

岡:
『日本の歴史』ではありませんが、私が子どもの頃は本を頻繁に買ってもらえる家庭ではありませんでしたから、家にあった百科事典を延々と読んでいましたね(笑)。『日本の歴史』も、置いてあるだけでも子ども自身が興味をもてば読むでしょうし、逆に興味もないのに無理に読ませたところで意味はないのかもしれません。

ただ、長期休みで家族旅行に行くようなタイミングは意識的に読ませるチャンスであると思っています。たとえばお城など歴史が絡むスポットに行ったのなら、あとでそのスポットにかかわる部分を読ませることで実体験と知識が結びつき、興味や理解が深まることも考えられます。身近な博物館などに行って、そこで学んだことを話し合うのもいいですね。夏休み中、博物館は自由研究のサポートを提供しているところも多いですし。

馬屋原:
旅行の前に読ませてもいいですよね。ただの知識としてインプットしたものであっても、その実物を目にすると感動しますから、インプットの質も高まるのではないでしょうか。

岡先生と馬屋原先生

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■ 岡美穂子先生・馬屋原吉博先生 インタビュー一覧
第1回:戦後80年で話題沸騰! 中学受験のプロが選ぶ “本当に効果がある” 歴史漫画
第2回:有名進学校が欲しがる子の条件|「現代と歴史をつなげる力」は歴史漫画で育ちます
第3回:暗記は昔から通用しない! 東大准教授が語る「現代を生きる力」を育てる歴史学習法(※近日公開)

【プロフィール】
岡美穂子(おか・みほこ)
1974年生まれ、兵庫県出身。京都大学大学院博士課程修了。博士(人間環境学)。現在、東京大学史料編纂所准教授。専攻は中近世移行期対外関係史、キリシタン史。『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 別巻 まんが人物事典』(KADOKAWA)の監修を務める他、著書に『商人と宣教師 南蛮貿易の世界』(東京大学出版会)、『海域アジア史研究入門』(岩波書店)、『海からみた歴史 シリーズ東アジア海域に漕ぎ出す 第1巻』(東京大学出版会)などがある。

【プロフィール】
馬屋原吉博(うまやはら・よしひろ)
1983年生まれ、北海道出身。東京大学在学中から大手予備校・進学塾で大学受験指導、高校受験指導の経験を積んだのち、中学受験専門のプロ個別指導教室SS‒1副代表として多くの中学受験生の指導にあたった。2024年に独立し、オンライン学習サポート「ハルミナ」を立ち上げる。定期的なオンラインの集団授業に加え、完全1対1のオンライン個別指導も続けている。主な担当科目は国語・社会。『中学入試 塾技100 社会』(文英堂)、『国際社会のキホンが2時間で全部頭に入る』(すばる舎)、『頭がよくなる 謎解き社会ドリル』(かんき出版)、『おもしろくてとんでもなくわかりやすい日本史』(アスコム)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。