あたまを使う/教育を考える/インタビュー/社会 2025.7.16

暗記は昔から通用しない! 東大准教授が語る「現代を生きる力」を育てる歴史学習法

暗記は昔から通用しない! 東大准教授が語る「現代を生きる力」を育てる歴史学習法

受験内容は、時代の流れの影響を大きく受けるもののひとつです。近年では、「思考力」や「表現力」がより重視されるようになっていると言われますが、実際のところはどうなのでしょうか。中学受験の現場をよく知るカリスマ塾講師の馬屋原吉博先生と、『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史』(KADOKAWA)の監修を務めた歴史学者の岡美穂子先生が、思考力・表現力を向上させるための工夫や歴史学習の意義についてじっくり語り合いました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

「理解が伴わない暗記」は、いつの時代の受験にも通用しない

岡美穂子先生(以下、岡):
現代の教育は、かつての「暗記」重視から「思考力」「表現力」重視に大きく変化していると言われます。馬屋原先生は、受験の歴史学習においてこの変化をどのようにとらえているでしょうか。

馬屋原吉博先生(以下、馬屋原):
このことについては、「暗記」の定義をどう認識しているかがポイントです。仮に暗記というものを、ただ言葉だけを覚えてその中身や意味合いはわかっていないことだとするのなら、それが受験で通用していた時代は存在しないというのが私の考えです。「理解が伴っていない暗記」では、かつての受験でも太刀打ちできなかったのです。

ただ、その通用しない度合いというものが、いまはさらに強まったというのはたしかでしょう。中学受験というフィールドでは、大学受験に先んじて、思考力や表現力がより問われるようになってきました。いわゆる偏差値を問わず、そのような入試問題をつくる学校が増えてきたのです。

岡:
そういった問題をクリアするためのコツのようなものはあるのでしょうか。

馬屋原:
こう言うと身も蓋もないかもしれませんが、とにかく問題文や資料を丁寧に読み、なにを問われているかを正確に把握することに尽きます。グラフを読み取る問題なら、そのタイトルや縦軸・横軸をしっかり見ることなく解答しようとすれば、正解から遠ざかるというあたりまえの話でしかないのです。もちろん、前提として、その問題にかかわる知識をインプットしておくことは欠かせません。その知識を深めるためにも、『日本の歴史』は強力な手段のひとつだと思います。

岡:
『日本の歴史』は、歴史を流れで理解させるということを重視していますよね。歴史上の出来事というのは、それ単体で存在するものではありません。あらゆる出来事にはその前後左右につながりのある別の出来事があります。そのつながりを理解するために、ストーリー性が高い『日本の歴史』はとても有効だと思っています。

岡先生

今すぐ「Famm無料撮影会イベント」に行くべき4つの理由。写真で「自立心」や「自己肯定感」がアップする!
PR

親子の対話こそが子どもの思考力と表現力を育てる

馬屋原:
子どもの思考力や表現力を高めるために、家庭ではどのようなことができると思われますか?

岡:
馬屋原先生を前にこういうのはちょっと恐縮ですが……思考力や表現力について、学習塾で対応できる部分は限定的だと思っています。というのも、思考力や表現力を高めるために効果的な方法は、他者との対話だからです。親子での対話なら、子どものお友だちのことでも家のペットのことでも、話題はなんでもかまいません。対話のなかで自分の考えを言語化してアウトプットすることで、思考力や表現力は伸びるのだと思っています。

馬屋原:
まったく同感です。本などを読んで、「これってどういうことだろう?」「なるほど、そういうことか!」というように、書き手との対話でも同じ効果を期待できますが、小さい子どもの場合には、それはまだ難しいでしょう。そうであるなら、岡先生がおっしゃるとおり、親子での何気ない対話の時間を増やすことが、もっとも効果的だと言えそうです。

岡:
一般的にはだいたい小学校の中学年くらいになると、言語能力が大きく伸びる時期ということもあり、多くの子どもがすごくおしゃべりになります。そのとき、「いまは忙しいからあとにして」ではなく、その対話にしっかりつき合ってあげてほしいですね。

子ども自身が言ったことに対して親がなんらかの言葉を返すと、子どもは「お母さん、お父さんはこういう考えなんだ」と理解し、「だったら自分はどうだろう?」と考え、それを言語化します。その繰り返しこそが、思考力と表現力向上のための最適なトレーニングではないでしょうか。

馬屋原先生

人間が人間として生きていくため、社会科こそが最重要教科

馬屋原:
受験からはちょっと離れた話になりますが、歴史を学ぶことで育まれる「人間力」や「生きる力」について岡先生のご意見をお聞かせください。ご自身のお子さんやまわりの子どもたちを見ていて、歴史学習が人格形成に与える影響を感じた場面はありますか?

岡:
私には娘がふたりいます。『日本の歴史』ではなく同じKADOKAWAの『角川まんが学習シリーズ まんが人物伝』というシリーズがあるのですが、やはり女の子なのでたとえばアンネ・フランクなど女性の歴史には興味があるようで、よく読んでいます。

伝記が出版されるような女性はもちろんすばらしい人物ばかりですから、生き方に変化があったとまでいうと大げさかもしれませんが、なんらかの好影響は受けているはずです。

馬屋原:
私は塾業界の人間ですが、歴史を含めた社会科の勉強を小学生からそんなにたくさんやらせるべきなのかという疑問はずっともってきました。でも、有名中学の社会の先生方にその疑問をぶつけると、みなさん「社会科こそが最重要だ」と答えるのです。人間が人間として生きていくために必ず必要な知識だと言うわけです。社会科は、文字どおり社会を理解し、よりよい社会を形成するための資質を育むことを目指す教科ですから、先生たちがそう語るのも当然なのかもしれません。

岡:
現代に起きている出来事には、必ず歴史上にそのルーツがあったり似たような出来事があったりするものです。歴史を知ることで、現代をよりよく生きるための学びを得られるのだと思います。

岡先生と馬屋原先生

『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 全16巻+別巻5冊定番セット』
山本博文・五百旗頭薫・岡美穂子監修/KADOKAWA(2024)
日本の歴史定番セット

【岡先生&馬屋原先生のおすすめ巻】『よくわかる近現代史』第②巻[戦中・戦後の日本]が無料公開中! ※2025年8月15日(金)まで
無料公開バナー

■ 岡美穂子先生・馬屋原吉博先生 インタビュー一覧
第1回:戦後80年で話題沸騰! 中学受験のプロが選ぶ “本当に効果がある” 歴史漫画
第2回:有名進学校が欲しがる子の条件|「現代と歴史をつなげる力」は歴史漫画で育ちます
第3回:暗記は昔から通用しない! 東大准教授が語る「現代を生きる力」を育てる歴史学習法

【プロフィール】
岡美穂子(おか・みほこ)
1974年生まれ、兵庫県出身。京都大学大学院博士課程修了。博士(人間環境学)。現在、東京大学史料編纂所准教授。専攻は中近世移行期対外関係史、キリシタン史。『角川まんが学習シリーズ 日本の歴史 別巻 まんが人物事典』(KADOKAWA)の監修を務める他、著書に『商人と宣教師 南蛮貿易の世界』(東京大学出版会)、『海域アジア史研究入門』(岩波書店)、『海からみた歴史 シリーズ東アジア海域に漕ぎ出す 第1巻』(東京大学出版会)などがある。

【プロフィール】
馬屋原吉博(うまやはら・よしひろ)
1983年生まれ、北海道出身。東京大学在学中から大手予備校・進学塾で大学受験指導、高校受験指導の経験を積んだのち、中学受験専門のプロ個別指導教室SS‒1副代表として多くの中学受験生の指導にあたった。2024年に独立し、オンライン学習サポート「ハルミナ」を立ち上げる。定期的なオンラインの集団授業に加え、完全1対1のオンライン個別指導も続けている。主な担当科目は国語・社会。『中学入試 塾技100 社会』(文英堂)、『国際社会のキホンが2時間で全部頭に入る』(すばる舎)、『頭がよくなる 謎解き社会ドリル』(かんき出版)、『おもしろくてとんでもなくわかりやすい日本史』(アスコム)など著書多数。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。