「もう……なんで泣いているのよ!? 私の何がいけないの?」泣き叫ぶ子どもにどう向き合えばいいのかわからず、私はトイレにドタドタッと逃げ込んだ。心を落ち着かせたい、ひとりになりたい。そう願っていたあの頃、娘はちょうどイヤイヤ期の真っ最中でした。
こんにちは、神原えみです。私はAMI(国際モンテッソーリ協会)認定のモンテッソーリガイド(教師)であり、2児の母です。普段は「ママもこどもと同じくらい自分を大切に」を軸に活動をしています。
本記事は、連載「モンテッソーリ教育ガイド」第3回目。「モンテッソーリ教育の本当の意味」を捉え、私が子どもたちと関わるなかで日々感じていることを、みなさんのご家庭での子育てのなかにどういかしていけるのか丁寧にお伝えしていきます。
今回のテーマは「敏感期(びんかんき)」です。育児で直面する「イヤイヤ期」の乗り越え方についてモンテッソーリ教育の「敏感期」という視点からひも解きます。
ライタープロフィール
AMIモンテッソーリ教師
小学生2児の母。AMIモンテッソーリ教師ディプロマ取得。「ママも子どもと同じくらい自分を大切に」をテーマに活動。代表著書『0~2歳 分かりやすい!モンテッソーリ教育』『幼児教育をはじめる前に読む本』、バイリンガル書籍『ORIGAMI はじめてのおりがみ』シリーズなどを出版。著者名「モンテッソーリガイドえみ」として海外にも発信中。Udemy・ストアカ講師として、子育て中のママが自分らしく過ごすための講座を展開しています。
目次
「イヤイヤ期」は世界共通!?
なぜ子どもが泣くのかわからない……。癇癪がひどい……。お子さんが0歳、1歳であれば、「イヤイヤ期がくるのがこわい」と少し身構えてしまっているかもしれませんね。
じつは、イヤイヤ期は世界共通。「The Terrible Two(魔の2歳)」は、英語圏でよく知られた表現で、「2歳は手がつけられないほど大変な時期」という意味があります。
感情の爆発や強い自己主張が特徴で、この時期の子どもをあらわす際によく使われます。このような言い回しは、ドイツ語やフランス語にも存在します。日本でも、2~3歳頃から「イヤイヤ期」が始まる子どもが多いとされていますよね。世界中のママやパパが同じようにこの時期に悩まされているのです。
モンテッソーリ教育に「イヤイヤ期」はない|「敏感期」という発達段階
じつは、モンテッソーリ教育には「イヤイヤ期」という考え方は存在しません。その代わりに、「敏感期」という重要な発達段階があります。
子どもが、人間らしく生きるために、環境のなかの特定のことにとても敏感になる時期のこと。子どもは敏感期に、人間らしい自分をつくるために日々活動をします。
環境からすべてを吸収する時期が0~6歳までの子どもにあります。この力をモンテッソーリ教育では「吸収精神(きゅうしゅうせいしん)」とよびましたね。この吸収精神をもつ子どもに、大人が「心に余裕をもち、自分を大切にする姿」を見せることは、子どもが「自分を大切にする方法」を身につけることに直結する、と前回お伝えしました。
そして、子どもが特定のことに強く興味を示す時期が「敏感期」です。敏感期と吸収精神は0~6歳の時期に相乗効果を生み出します。
たとえば「言語の敏感期」では、子どもが言葉にスポットライトが当たったように敏感になり、その時期に吸収精神が働くことで言葉を身につけていきます。敏感期が導く興味を、吸収精神が効率的に取り込む——この連携が子どもの成長を支えているのです。
敏感期にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる時期に訪れます。
- 言語の敏感期(生前~6歳以降も続く)
- 運動の洗練の敏感期(10ヵ月頃~4歳過ぎ)
- 秩序の敏感期(10ヵ月~3歳半頃)
- 感覚の洗練の敏感期(生前~4歳半)
- 社会性の敏感期(2歳半~5歳半)
- 小さいものへの敏感期(1歳半~3歳前後)
じつは、よく見られる「イヤイヤ」も、この敏感期と関連しています。子どもの「イヤイヤ」には、必ず理由があります。その理由を知り、寄り添うことで、多くの場合は解決します。
次回の記事から、それぞれの敏感期にある子どもに、どのようなサポートが必要なのかを具体的にご説明しますね。
敏感期の特徴
◆世界中の子どもに共通
敏感期は、国や文化、住んでいる場所や家の経済的な違いに関係なく、すべての子どもに訪れる発達のステップです。これは特別な家庭にだけ起こるものではなく、どの子にも共通してあらわれます。しかも、時代が変わっても変わらない、普遍的な成長のリズムです。過去の子どもたちにも、いま育っているわが子にも、そして未来の子どもたちにも、同じように訪れます。
◆がんばらなくても自然と身につく “学びの時間”
敏感期にいる子どもたちは、何かを「頑張って覚えよう」と意識するわけではありません。ただ、ワクワクする気持ちや好奇心のままに行動しているだけです。それにもかかわらず、驚くほどのスピードで新しいことを吸収していくのです。
たとえば、言葉の敏感期にある子は、周りの会話を聞いているだけでどんどん言葉を覚えていきます。まさに “遊びながら学んでいる” という感覚に近いのかもしれません。
◆いまだけの、限られたタイミング
この敏感期は、ずっと続くわけではありません。ある特定の時期が過ぎると、自然とそのことへの興味が薄れてしまいます。だからこそ、「いましかない大切な瞬間」として環境を整えてあげることが大切です。
たとえば、手先を動かすことに夢中な時期に手を使って遊べる環境、折り紙やブロック、家事やお裁縫ができる環境があると素敵ですね。敏感期は “そのとき” にしか訪れない、一度きりのギフトのような時間。だからこそ、ママやパパが意識をして必要な環境を準備することで、子どもはその力をぐんと伸ばしていけるのです。
敏感期が訪れている子ども達の様子
それでは、それぞれの敏感期が訪れた子どもにはどのような様子が見られるでしょうか。
◆とても強い興味
敏感期に入った子どもは、まるで目の前にスポットライトが当たったかのように、ある特定のことに夢中になります。たとえば、お子さんが、小さな石に心を奪われて、じっと見つめる姿を見たことはありませんか。これは、小さなものへの敏感期が訪れているからです。
◆同じことを何度も繰り返します
この時期の子どもは、飽きることなく同じ遊びや動作を繰り返します。それは、大人から見ると「またやってるの?」と感じるようなことでも、子どもにとっては深い学びの時間です。パズルを何度もはめたり、おなじ言葉をくり返し口にしたり……そのすべてが「できた!」の喜びや自信につながっています。疲れるどころか、楽しそうに何度も挑戦する姿が見られます。
◆じゃまされると、強く反応します
敏感期の子どもは、自分の世界を大切にしています。おもちゃの並べ方や靴の置き方など、そのルールが崩れたとき、泣いたり怒ったりするのは、“ただのわがまま” ではありません。
マリア・モンテッソーリは、こう語っています。
「敏感期の『駄々』は、満たされない欲求が外に出たサインです。間違った状況への警告であり、危機へのサインです」
(引用『幼児の秘密』著者マリア・モンテッソーリ,出版社日本モンテッソーリ教育綜合研究所2004年)
つまり、子どもが泣いているときは、「環境が間違えているよ」「どうしたらいいの?」と助けを求めるメッセージなのです。
筆者のモンテッソーリ教育の “敏感期” を知るまえと知ったあとの子育て
私は、娘が4歳、息子が1歳のときに初めてモンテッソーリ教育に出会いました。それぞれ性格や個性は違いますが、2人の子どもを育てるなか、敏感期の存在を知らなかった頃の育児と、知ったあとの育児を体験しました。正直なところ、上の子どもの時にモンテッソーリ教育を知らなかったことを心から悔やみました。なぜなら、モンテッソーリ教育には、子どもがなぜイヤイヤするのかの理由や対処方法が全て明らかにされていたからです。
娘が2歳の時、トイレに駆け込んで泣いていた私でしたが、息子が2歳の時は穏やかに息子を見守っていました。なぜなら、息子には、いわゆる「イヤイヤ期」と言われるような激しい自己主張や癇癪が、ほとんど見られなかったのです。これは、モンテッソーリ教育の “敏感期” を知り、その時期に応じた適切な関わり方を意識したからです。
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イヤイヤ期を乗り越えて、楽しく育児をするカギは、子どもが “敏感期” という発達段階にあると知ること。
次回は、イヤイヤ期と一番関わりの深い、「秩序の敏感期」について詳しくお伝えします。敏感期を知ることで、イヤイヤ期をスムーズに乗り越えることができます。2度と戻ってはこない「敏感期」にいる子どもを正しい知識とともにサポートすることで、子どもの癇癪や駄々は少なくなり、ママも心穏やかでいられますよ。次回も楽しみにしていてくださいね。