教育を考える/食育 2018.12.16

TED Prize賞を受賞!『子どもたちに食の教育を』――ジェイミー・オリバー氏の挑戦

編集部
TED Prize賞を受賞!『子どもたちに食の教育を』――ジェイミー・オリバー氏の挑戦

イギリス 食事」で検索すると「まずい」という言葉が続くほど、一般的にイギリスの食文化に対してあまり良いイメージがない人も多いのではないでしょうか。

最近では人々の食への関心が高まり、美味しいレストランも増えてきたようですが、子どもたちが普段食べている食事は以前に比べてどのように変化していったのでしょう。

今回は、現代のイギリスが抱える食の問題、そして急速に高まる食育への意識について詳しくご紹介します。

問題山積だったイギリスの食事情

2001年、イギリスで4~18歳の青少年を対象とした「国民栄養調査」が実施され、この年代の深刻な肥満傾向と、野菜や果物の摂取不足が指摘されました。その結果、教育・保健両省の共同事業として「FiS(Food in Schools)計画」が始まったのです。

その内容は、「5 A DAY」といって、一日に5品目以上の野菜や果物の摂取を推奨したり、「Growing Schools」と呼ばれる農業体験活動を積極的に行ったりと、食への理解を深める取り組みをすすめるものでした。

他にも「クッキング・バス・プログラム(Cooking Bus Program)」では、キッチンを内蔵した「食育バス」がイギリス中の小中学校を訪問し、健康な食生活について学ぶ食育ワークショップを開催しました。

また、2010年にスタートした「フルーツフル・スクール」では、学校とオーガニックの果樹園をつなげる活動を行なっています。この取り組みは、「イギリスという風土がいかに果物に満ちているか」をテーマにした食育授業を行うなど、子どもたちにとって果物をより身近に感じてもらうことを目的としています。

このように、イギリスでは長きにわたって「子どもたちに食事の大切さ」を教える食育活動を行なってきました。

しかしある調査によれば、イギリスの15歳以下の子どものうち約5人に1人が肥満に分類されるという結果も出ています。原因は糖分の過剰摂取加工食品やジャンクフードの食べ過ぎ運動不足であり、さらにNHS(イギリスの国民健康保険制度)によると、過去10年間で4歳以下の子どもの虫歯が25%近くも増加しているといいます。

地道な食育活動を続けてきたはずなのに、どうして状況が改善されるどころか悪化してしまったのでしょうか? このままイギリスの子どもたちは不健康な食生活を送らなければならないのでしょうか?

そこでこの問題の解決に向けて、ある有名シェフが立ち上がったのです。

『子どもたちに食の教育を』2

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理由は「食べ慣れているから」。ファストフードを選ぶ子どもたち

数々のテレビ番組に出演し、ベストセラーのレシピ本を多数出版しているイギリスの若きカリスマシェフ、ジェイミー・オリバー氏は、2005年よりイギリス国内の学校給食改善キャンペーンに取り組み大きな成果をあげています。

その発端となったのが、イギリスの給食改善をテーマにしたドキュメンタリー番組『ジェイミーのスクール・ディナー』です。約20年前に学校給食が民間に委託されて以来、質の低下が問題になっていたイギリスの給食。その現状は想像を超えるものでした。

食堂で出されるメニューはほとんどがフライドチキンやチキンナゲット、ハンバーガーといったファストフードで、調理師は冷凍食品を袋から出して温めるだけ。家から持参してくる子どももいますが、その中身はジャムサンドイッチ、ポテトチップス、チョコバー……驚きを隠せません。あまりの栄養の偏りに「子ども専用の便秘クリニック」があるほどです。

共働きが多いイギリスでは、家での食事も手の込んだ料理より、手軽なファストフードを食べることが多いといいます。そのため、野菜の形や名前すら知らない子どもたちがたくさんいました。そこでジェイミーがヘルシーで美味しい食事を作り、給食として提供したところ、思わぬ展開になったのです。

なんと子どもたちは有名シェフが作った手の込んだ料理より、いつも食べているジャンクフードを選びました。ジェイミーの料理を食べさせようとすると拒絶し、中には泣き出してしまう子も。これは「知らないもの」「いつもと違うもの」に対する抵抗感や恐怖心から、「知らないものはまずいもの」と思い込んでしまったためです。

そこでジェイミーは、子どもたちにはまず「食の教育」をするべきだと決心します。たとえば、いろいろな食べ物をなるべく身近に感じてもらうため、野菜の着ぐるみを着て子どもたちと交流したり、野菜の名前を当てるゲームを取り入れたりと、さまざまな工夫を凝らして「食べ物」に対する抵抗感を払拭します。また、どのようにして食事が作られるか、その工程を知ってもらうために「調理実習」を取り入れました。

さらに調理師たちの意識を変えるため、低価格で栄養価の高いメニューを考案し、子どもたちに美味しく食べてもらうための工夫を伝授しました。子どもたちも調理師たちも、最初は乗り気ではなかったものの、ジェイミーの熱意によって少しずつ食への意識改革が芽生えてきたのです。

『子どもたちに食の教育を』3

小さな食育運動がやがて国を動かすことに

この番組は放送後に大きな反響をもたらし、やがて政府を巻き込んで大規模な「食育キャンペーン」へと発展していきます。ジェイミーは学校給食の改善に賛同する署名27万人分を集め、ブレア首相(当時)に改善の措置を約束させ、次のようなことを着実に実行に移していきました。

  • 給食施設の建設費用を予算化する
  • 調理師たちの賃金アップ
  • 給食内容の充実
  • 調理実習の導入

 
また、それまで学校の自動販売機で購入できていたポテトチップスやチョコレートなどの不健康なスナック菓子が禁止されるようになりました。そしてついに2014年には、小学校での食育を義務とすることを政府が発表し、翌2015年にはさらなる給食改革の基準を設けて以下のことを取り決めたのです。

  • 揚げ物の提供回数の制限(週2日まで)
  • ソフトドリンクの禁止
  • 毎日の献立に最低一種類の野菜かサラダを出す
  • 最低でも3種類の異なる野菜と果物を毎週給食で出す

 
日本の給食では当たり前のようにバランスの良い献立が考えられていますが、当時のイギリスにおいてこのような「給食改革」は非常にセンセーショナルなものでした。この運動が社会全体を動かし、ついにはジャンクフードの広告に関する自主規制を制定するまでに至ったのです。

『子どもたちに食の教育を』4

食生活が整うと学力も上がる!

このように、ここ数年で急速に「子どもの食育」への意識が高まっているイギリス。ジェイミーが行なった食育改革によって、子どもたちにも目に見える変化が現れました。

教師たちからは「生徒たちが落ち着いて勉強するようになった」「喘息の子が吸入器を使わなくなった」といった嬉しい声が続出し、ある大学の研究では、給食を改善した地域の子どもたちの学力が向上したという報告も。

生きていくため、そして身体の成長のためには食べなければなりません。しかし、食の知識に乏しく、栄養バランスの整った食事の重要性を誰からも教えてもらえないと、子どもたちは「食べる楽しみ」や「味わう喜び」を知らないまま大人になってしまうでしょう。

以前のイギリスの給食は、「食の選択肢がないこと」や「周囲の大人の食への意識が低いこと」が原因で粗末なものにならざるを得ませんでした。子どもにとって「知らないもの」は「怖いもの」であり、本能的に避けてしまいます。まずは、世の中にはこんなにたくさんの食材があり、それぞれに身体に必要な栄養が詰まっていると知ることが大切です。

お子さんの好き嫌いで悩んでいる親御さんも多いと思います。そんなときは無理に食べさせるのではなく、スーパーで一緒にその食材を選び、一緒に調理することで、食材自体を身近に感じてもらうといいかもしれませんね。

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ジェイミー・オリバー氏はその活動をアメリカ全土にまで広げ、世界中の子どもたちの健康を守り、育むための活動を続けています。そして2010年には『子どもたちに食の教育を』という講演でTED Prize賞を受賞しています。

今まであまり注目されることがなかった「イギリスの食」ですが、学校給食に対する問題提起がきっかけとなり、世界中で食育意識を高めることに貢献したというのは興味深いですね。

(参考)
国立国会図書館|ISSUE BRIEF NUMBER 450|欧米の食育事情
GRWRS~食と農のアカデミー~|フーディーズ・アカデミー|クッキング・バス~イギリス~
GRWRS~食と農のアカデミー~|フーディーズ・アカデミー|フルーツフル・スクール~イギリス~
veggy ONLINE|Jamie’s Food Revolution イギリス発!ジェイミーオリヴァーの食革命
Grassroots 社会を変える草の根活動|カリスマシェフ、ジェイミーオリバーの給食革命