動物のことを歌ったマザーグース童謡のなかには、女王様が出てくるものがあります。イギリスでは、現在も、エリザベス2世が女王様として、国民から敬愛されています。彼女は、1926年4月21日に生まれて、1952年2月6日に、25歳で女王に即位されました。現在、92歳でいらっしゃいますが、お元気です。在位は、66年に及び、世界一です。
イギリスには、これまで、メアリー1世、エリザベス1世、メアリー2世、アン、ヴィクトリアの5名の女王様がいて、国を治めました。エリザベス2世は6人目の女王様です。マザーグース童謡を通して、国民と女王様の関係、及びイギリスの王位継承について学べます。
日本でも、昔は、「春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香久山」の和歌で有名な持統天皇のような女性の天皇がいらっしゃいましたね。今回は、動物と女王様の出てくるマザーグース童謡を2つあげましょう。
イギリス式ユーモアを味わえる! 女王様とネコの歌
最初の歌には、ネコが出てきます。ネコは、犬と共に、人気のペットです。特に、女の子には、「ネコ好き」が多いようです。この歌は、ネコと女の子との会話です。
I’ve been up to London to look at the queen.
Pussy cat, pussy cat, what did you do there?
I frightened a little mouse under her chair.
マザーグース童謡では、お話の本のように、登場する動物たちが人間の言葉を話します。
じょうおうさまにあいに ロンドンに いってきたの。
ネコちゃん ネコちゃん そこで なにをしたの?
じょうおうさまのいすのしたの ちっちゃなネズミを びっくりさせたの。
“Pussy” は、「ネコちゃん」という幼児語です。ここでは、「ネコ」の意味の “cat” と2つ重ねて、意味を強めています。また、呼びかけの “pussy cat” を2回くり返すことで、強調しています。
都の「ロンドンに行く」ことを、「東京へ行く」のを「上京する」というように “up” を使って表現しています。
「女王様の椅子の下にネズミがいた」とは、思えませんが、これも、イギリス式ユーモアでしょう。この歌の「女王様」は、普通、「エリザベス1世」と言われますが、ヴィクトリア女王も今のエリザベス2世も、子どもたちから、直接あるいは間接に、この歌に出てくるネコやネズミのことを質問されたそうです。
音のくり返し部分に色をつけてありますので、参考にして歌ってみてくださいね。
イギリスの伝統にふれられる! 女王様と馬の歌
次に女王様と馬が出てくる歌を上げましょう。日本では、昔、女性は馬には乗りませんでした。馬に乗るのは、男性の武士だけでした。日本では、身分の高い女性は、牛が引く牛車に乗りました。
しかし、イギリスでは、貴族など身分の高い女性たちは、乗馬をたしなみました。この歌には、子どもが乗るおもちゃの木馬と白馬にまたがる貴婦人が出てきます。
To see a fine lady upon a white horse;
Rings on her fingers and bells on her toes,
She shall have music wherever she goes.
子どもたちが木馬や棒馬にまたがって歌う歌です。また、幼児を膝に乗せてあやす時にも歌われます。音のくり返し部分に色をつけてあります。
しろいうまにのった きふじんを みに
ゆびには ゆびわをはめて つまさきには すずをつけて
いくところどこでも おんがくを かなでる。
“cock-horse” は「(おもちゃの)木馬」です。昔、日本でも、ほうきやはたきが使われていた頃には、男の子たちは、それらにまたがって、お馬さんごっこをしました。
バンベリー・クロスは、イギリスのオックスフォード州のバンベリ―の市場に昔建っていた大きな十字架です。十字架は17世紀に熱狂的な清教徒たちに破壊されましたが、それは人々の記憶に残ると共に、地名としても残りました。新しいのは、19世紀に建てられました。名所になっています。
「靴のつま先に鈴をつける」のは、15世紀の風習だったそうです。このことからこの歌の起源の古さが推測されます。
この「馬に乗った貴婦人」はエリザベス1世と言われています。マザーグース童謡のある女性研究者は、幼い頃、この歌を歌っている時に、お母さんから「この貴婦人は、エリザベス1世よ」と教えてもらって以来、マザーグース童謡にはモデルがいると考え、多くの古文書を調べて、研究し、立派な本を出版しました。
庶民のなかから生まれたマザーグース童謡では、人々が面と向かって話せない王侯・貴族や権力者などを、歌に歌って、楽しみました。
マザーグースからは英語だけでなく「イギリスの歴史」も学べる
ここで、女王様とイギリスの王位継承について考えてみましょう。
イギリス(当時はイングランド)で初めて女王様になったのは、ヘンリー8世の最初の妻、キャサリンの一人娘、メアリーです。ヘンリー8世には6人の妻がいましたが、3番目の妻だけが、男の子を生みました。
ヘンリー8世が亡くなった時、その子が父の跡をついで、国王になりましたが、若くして死にました。それで、メアリーが女王になりました。
イギリスでは、正式に結婚したカップルの子どもだけが後継ぎになります。日本の将軍家では、側室が生んだ子でも、男の子なら後継ぎになりました。
最近のイギリスでは、男の子でも女の子でも、第1子が後継ぎになります。イギリスは、女王様の時に国が栄えると言われますが、マザーグース童謡を通して、イギリスの女王様についても学ぶことができるのです。