お子さんは、甘いものが大好きですね。今回は、イギリス人に愛されている菓子パンとケーキのマザーグース童謡を、一つずつご紹介しましょう。
これらの童謡を通して、食べ物が英語圏の文化、そしてキリスト教と深く結びついていることが学べます。歴史的な出来事に由来すると考えられている歌もあります。
お子さんと一緒に歌い、英語のリズムを楽しんだあとは、文化や歴史にまで視点を広げ、学びを深めてみてはいかがでしょうか。
1. 菓子パンの歌
“Hot cross buns”「ホット・クロス・バンズ」
最初の歌は、十字の切れ目が入ったパンや、十字の飾りのついた丸いパン(ホットクロスバン)の歌です。
Hot cross buns!
One a penny, two a penny,
Hot cross buns!
If you have no daughters,
Give them to your sons,
One a penny, two a penny,
Hot cross buns!
この歌は、手遊びの歌であり、鬼決めの歌でもあります。もとは、街を行く売り子の呼び声でした。
ホットクロスバン
1こ 1ペニー 2こでも 1ペニー
ホットクロスバン
むすめが いないなら
むすこに あげよ
1こ 1ペニー 2こでも 1ペニー
ホットクロスバン
「1こ 1ペニー 2こでも 1ぺにー」なら、だれでも2こ、もらいますよね。
イギリスの人々は、「聖金曜日」というイエス・キリストが十字架にはりつけになった受難の記念日に、このパンを食べ、この歌を歌います。この日は、イースターの2日前の金曜日にあたります。
鬼決めのやり方を説明しましょう。
皆で一緒に歌いながら、緑色で示した以下の語や音節のところで、右手から一人ずつ手を重ねて行きます。次に左手を重ねます。こうして歌の最後で、一番下に手をおいていた人が鬼になります。
Hot cross buns!
One a penny, two a penny,
Hot cross buns!
If you have no daughters,
Give them to your sons,
One a penny, two a penny,
Hot cross buns!
また、最後に一番上に手をおいていた人がみんなの手をたたく遊びもあります。他の人は、たたかれないように素早く自分の手を引っ込めます。
この歌の特徴としては、“Hot cross buns” が4回くり返されて、強められていることです。また、“One a penny, two a penny” が2回くり返されて、印象を強くしています。色を変えて示していますので、音のくり返しを楽しみながら歌ってください。
YouTube の歌では、歌詞が上のものとは違っていますね。“If you have no daughters” が3回くり返され、強められています。そして次の歌詞が付け加えられています。
Then you must eat them all yourselves
でも こんな ちびっこたちが いないなら
じぶんで みんな たべなさい
このように、こちらも音のくり返しを楽しめる歌詞になっています。
2. クリスマスパイの歌
イエス・キリストの誕生を祝うクリスマスには「クリスマスプディング」と呼ばれる、干しぶどうなどのドライフルーツと牛脂の入ったケーキをディナーの後のデザートに食べます。
食べる直前に、上にブランデーをかけて、火をつけます。薄暗い部屋に、ブランデーが燃える青い炎が美しいです。
このケーキは、植木鉢の形をした容器の中で長い間寝かせた生地を容器ごとお湯のなかに入れて、蒸して作ります。
また「ミンスパイ」とよばれる、細かく刻んだリンゴや干しぶどう、牛脂の入った小さなパイも、クリスマスの頃にはよく売りに出されます。
“Little Jack Horner”「ちびっこ ジャック・ホーナー」
Sat in the corner,
Eating a Christmas pie;
He put in his thumb,
And pulled out a plum,
And said, What a good boy am I, am I!
And said, What a good boy am I!
これは、クリスマスパイを食べるジャック・ホーナー君の歌です。
だんろのそばに すわって
クリスマスパイを たべていた
かれは おやゆびを つっこんで
ほしぶどうを ひとつ とりだした
そしていった ぼくは なんてよいこなんだろう
そしていった ぼくは なんてよいこなんだろう
この歌の「プラム」は「(ケーキなどに入れる)干しぶどう」です。日本で「プラム」というのは「スモモ」のことですね。
この歌の主人公は、「ジャック・ホーナー」です。しかし「ジャック」は「ジョン」の俗称または愛称で、男性の代名詞のように使われ、童謡によく登場します。
この歌の主人公は、実在の人物と考えられています。それは「トマス・ホーナー」という人で、グラストンベリー大聖堂の修道院長に仕えていた執事でした。
イギリス国教を創設したヘンリー8世の修道院解散命令にたいして、この修道院長は、王様の機嫌をとろうと、クリスマスの贈り物をホーナーに持たせて、ロンドンにやりました。それは12の荘園の権利証書の入ったクリスマスパイでした。
ホーナーは、そのパイからメルズの荘園の権利証書(この歌でいうプラム)を抜き取って、自分のものにしたと言われています。
事実、トマス・ホーナーは修道院解散命令後にその土地を入手し、子孫は、現在この荘園に住んでいるそうです。
子孫たちは祖先はこの土地を買ったのだし、その名前もトマスであって、ジャックではないと反論するのですが、男性はだれでも「ジャック」と呼べるので、この歌との関連は否定できないかもしれません。
このように、マザーグース童謡を通して、イギリスの食文化や歴史についても学ぶことができるのです。