英語圏の童謡として、大きな影響力を持つ「マザーグース」。日本でも英語の教科書で取り上げられたり、子ども向け英語DVDや英会話教室で使われたり、子どもが英語を学ぶ上でなくてはならない存在です。
でも、そもそもなぜ「マザーグース」と呼ばれるのか、知っていますか?
今回は、いつものように楽しい手遊びのご紹介と共に、古くから伝わるマザーグースの童謡集に見るイギリスの乳母からのメッセージをお届けします。現代の教育にも通じる「教え」ばかりですよ。
なぜ「マザーグース」と呼ばれるのか
「マザーグース」は、「マザー(mother)=おばあさん」と「グース(goose)=ガチョウ」がひとつになってできた愛称で、「ガチョウ番のおばあさん」のことです。ヨーロッパの村では、どこでも、昔から、ガチョウの世話をするおばあさんがいて、「マザーグース」として、親しまれてきました。
ガチョウの羽毛は、ダウンとして、ジャケットや布団になり、少し大きい羽根は、枕に使われ、もっと大きい羽根は、羽ペンに使われました。肉も卵も、食用として重宝されましたので、ガチョウはどこでも飼われていました。
女性は昔、若い頃は、子守やお針子や乳しぼりの仕事をしていましたが、年を取ると、それらができなくなり、ガチョウにえさをやったり、よそへ行かないように世話をする「ガチョウ番のおばあさん」として働きました。
マザーグースの名前のついた本はフランスから
『赤ずきんちゃん』や『長靴をはいた猫』というお話は、誰にでもなじみのあるものですね。
フランスの作家、シャルル・ペローは、昔から語り継がれたこれらの8つの民間説話を「マザーグース」(ガチョウ番のおばあさん)に語らせ、『マザーグースのお話』として出版しました。これが評判になり、イギリスでも英語に翻訳されました。
イギリスの乳母による子どもへの歌をまとめた一冊
『マザーグースのお話』を出版したロンドンの印刷屋は、1780年末に童謡の本である『マザーグースのメロディ』を出版しました。そして昔からイギリスの乳母たちによって歌われてきた、子供たちを楽しませる有名な歌や子守唄を入れました。
手の平に乗るくらいの小さな本ですが、各歌の下部には、必ず、格言や短いコメントがつけられ、赤ちゃんや幼児に、歌を読んだり、歌ってやる乳母や父母などへの教育的配慮がされています。乳母や父母は、童謡を歌い聞かせると同時に、「人生について」や「人としての道」について学びます。
また、この歌の本の「序文」には、先輩の乳母からの手紙の形で、歌を歌い聞かせることの重要性が語られています。
この本は、イギリスとアメリカでよく売れ、よく読まれましたので、マザーグースと童謡の結びつきを強くしました。そして「マザーグース」といえば、「歌い継がれてきた童謡」と解釈されるようになりました。
現代の教育にも通用する、伝統的なマザーグースの教え
『マザーグースのメロディ』で初めて活字になった有名な歌の遊び方と、教育的配慮や人としての道が示されている格言をご紹介しましょう。
“Pease-porridge hot”「熱い豆がゆ」
Pease porridge cold
Pease porridge in the pot
Nine days old
一緒に歌をだんだん速くなるように歌いながら、併せて手の動作もだんだん速くしていきます。そしてどちらかが間違うか、疲れてやめるまで続けます。親子で楽しめる手遊び歌です。
つめたい まめがゆ
おなべのなかで
9日かんたった まめがゆ
そして、この歌にはこんな教訓が示されています。
“Jack and Jill”「ジャックとジル」
To fetch a pail of water;
Jack fell down and broke his crown,
And Jill came tumbling after.
男の子と女の子が一緒に水くみに行く歌です。子どもでも口ずさみやすい一曲で、英語の童謡のCDにもよく収録されています。メロディーを聞いたことがある方もいることでしょう。
おけ一杯の みずをくみに
ジャックはこけて あたまのてっぺんを けがした
ジルも あとから ころがった。
この歌からは、こんな教訓が読み取れます。
“Ding dong bell”「ディング ドング 鐘の音」
Pussy’s in the well.
Who put her in?
Little Tommy Green,
Who pulled her out?
Little Tommy Stout.
What a naughty boy was that,
To drown poor pussy cat,
Who never did any harm
But killed all the mice in his father’s barn.
猫を井戸に落とした悪い子の歌です。
ネコちゃんは いどの なか。
だれが おとしたの?
ちいさい トミー グリーン
だれが たすけたの?
ちいさい トミー スタウト。
なんて いたずらっこ なんでしょう
かわいそうに ネコちゃんを おぼれさすなんて
ネコちゃんは なにも わるいことはしないで
おとうさんの なやのネズミを みんな ころしたのに。
この歌からは、こんな教訓を得られます。
このように、英語の歌や手遊びを楽しみながら、子どもが社会を生き抜くのに必要な「教訓」を学ぶことができるのです。これはマザーグースの長所の一つだと言えるでしょう。
18世紀のイギリスの乳母たちは教育者のお手本
『マザーグースのメロディ』の歌や子守歌を子どもたちに歌う習慣は大昔からありました。イギリスのある王様は、ゆりかごのなかで揺すられて、眠気を誘うマザーグースの歌で、眠りました。
マザーグースの歌には「わけの分からない歌詞」が含まれることもよくあります。学校で「わけの分からない歌」を作る習慣は、古いイギリスの乳母たちの間で行われていたことから取り入れられた可能性が大です。
イギリスの乳母たちは、本当に、イギリスの若者たちの最初の教師です。イギリス人の趣味や学習の基本は、彼女たちに由来します。誰にもこの古くからの母たちについて不遜な物言いはさせてはいけません。彼女たちは、科学や知識を持った偉大なおばあさんたちと考えられますから。