「がたん ごとん がたん ごとん」「ごぶごぶ ごぼごぼ」「ぷくぷく」。子どもは、同じ音のくり返しが大好きです。幼い子どもに人気の2冊の絵本には、そんな表現がたくさん!
そしてこれは、外国語でも同じこと。英語にも「同じ音のくり返し」はたくさん登場します。親子でマザーグースの歌を歌ったり、手遊びを楽しんだりすることで、英語らしい「音のくり返し」を自然に身につけることができるのです。
幼少期の家庭でのこの一工夫は、お子さんが将来高い英語力を発揮する上で、必ずや大きな力になることでしょう。今回は、遊びを通して英語のリズムを身につけることができるというお話です。
英語の「同じ音のくり返し」に親しむことのメリット
まだ言葉をちゃんと話せない、イギリス人やアメリカ人の幼児でも、同じ音のくり返しにとても興味を示し、自分で何度も口に出して言ってみます。
たとえば、“Sing a song of sixpence” (「6ペンスのうたをうたおう」)という有名な歌には、3回、“s” が出てきます。幼児はそれを面白がって、何度もこの言葉を口に出して表現します。
そして “s” の発音を自分のものにし、この表現を大好きな言葉にしてしまいます。まだ、歌の意味も知らないうちから、音のくり返しにより、この歌に親しみを感じるようになるのです。
耳に心地よい「くり返し」の音のリズム
事実、この “s” のような「子音」のくり返しは、8世紀頃に書かれたイギリスで最も古い英雄の物語詩に使われた技巧です。当時、詩は、吟遊詩人によって語られていましたので、このような同じ子音のくり返しは、耳に心地良く、人々に愛されました。
ここで「子音」というのは、アルファベット26文字のうち、「母音」と呼ばれる “a, i, u, e, o” の5文字を除いた21文字の発音です。ただし、“y” は、子音にも母音にもなります。
この単語の頭の子音のくり返しの技巧は、今日にいたるまで、広く英語の技巧として使われています。日本語では「頭韻(とういん)」と呼ばれる技巧で、これを幼児は、“Sing a song of sixpence” に興味を持って唱えることで、喜んで、手にいれるのです。
歌うだけで、英語の「ライム(韻)」の技巧が自然に身につく
同じ語や同じ音のくり返しの工夫が見事に表現されていて、英語圏の子どもたちの大好きなマザーグース童謡をあげてみましょう。
Rain, Rain, Go Away「あめ あめ あっちいけ」
Never come back again.
子どもたちは外で遊ぶのが好きなので、雨に「降らないで」とお願いする歌です。
二度と もどってくるな。
この歌の冒頭では「レイン、レイン」 と2回、雨に呼びかけています。まず、ここに同じ語のくり返しの工夫が見られます。
雨は自分のいるところには降ってもらいたくないので、「スペインへ行け」と命令します。なぜ、「スペイン」なのでしょうか? 「イタリア」では、だめですか?
答えは「だめ」です。なぜかというと、この「スペイン」という言葉が選ばれたところに、“rhyme” (ライム=「韻」)の工夫があるからです。
「レイン」と「スペイン」。両方とも「エイン」の音が入っていますね。これは、ライム(韻)の技巧の一つです。もし、スペインではなく、イタリアやアメリカだったら、この技巧は成立しません。スペインだからこそ、成立するのです。
そして歌の最後は、「アゲイン」。ここにも「エイン」の音が入っています。これも、ライム(韻)の技巧の一つです。このように、英語の歌では、ライム(韻)が言葉選びに大きく作用しているのです。
学校の英語の教科書にも出てくる「ナーサリーライム」
「韻」を意味するライムですが、「韻を踏むもの」という意味で「詩や歌」をさすこともあります。童謡は、英語では、“nursery rhymes”(「ナーサリーライム」=「子ども部屋の歌」)と呼ばれます。
日本の英語の教科書で、マザーグースをはじめとした英語の童謡が「ナーサリーライム」と紹介されることもあります。この言葉を覚えておくと、お子さんの学校での英語の授業に役立つでしょう。
英語のリズムと手遊びを同時に楽しめるマザーグース童謡
「せっせっせーのよいよいよい」のような手遊び歌としても有名な、英語のリズムを身につけるのに効果的な歌を紹介しましょう。親子で手遊びを楽しみながら、お子さんの英語力の基礎を培うお手伝いをしてあげることができますよ。
“Pat-a-cake, pat-a-cake, baker’s man”
「ぺったん ぺったん ケーキやさん」
Bake me a cake as fast as you can;
Pat it and prick it, and mark it with B,
And put it in the oven for baby and me.
寒い日などに、手を暖めるのに使われた手遊び歌です。
できるだけ はやく ケーキを やいて
たたいて つきさして Bのしるしを つけて
あかちゃんと わたしのために オーブンにいれて。
この歌の冒頭では、“Pat-a-cake, Pat-a-cake”(ぺったんぺったん) と、2回言っています。まず、ここに同じ語のくり返しの工夫が見られます。
そして、Bake(ベイク)と cake(ケイク)。両方とも「エイ」の音が入っていますね。
cake(ケイク)とcan(キャン)には、「ク」の音。Pat(パット)と prick(プリック)には、「プ」の音。man(マン)と can(キャン)には、「アン」の音。B(ビー)と me(ミー)には、「イー」の音。
実はこれらの音のくり返しもすべて、ライム(韻)の技巧なのです。では、音のくり返しを楽しみながら、手遊びに挑戦してみましょう。
お子さんと一緒に手遊びを楽しみつつ、ぜひ英語の音のくり返しの面白さを味わってみてくださいね。
(参考)
安西 水丸(1987),『がたん ごとん がたん ごとん』,福音館書店.
駒形 克己 (1999),『ごぶごぶ ごぼごぼ』,福音館書店.