あたまを使う/英語 2018.8.17

「子どものほうが外国語学習に有利」はホント? 年齢、環境と英語学習の関係

田中茂範
「子どものほうが外国語学習に有利」はホント? 年齢、環境と英語学習の関係

「外国語の学習は早く始めるほうがよい」という考え方が一般に流布しています。英語では、 “The younger、 the better.”(若ければそれだけよい)と表現されることがあります。ここには「年齢」という要因が第二言語学習において決定的に重要であるという前提が含まれています。小学校の段階で英語にふれさせるという考え方の背後には、この前提があるように思われます。

年齢と言語習得との関係に関して、「臨界期仮説」というものがあります。これは、概略、言語習得の可能な(生物学的に決定された)時期というものがあり、それを過ぎると言語の習得が可能でなくなるというものです。

言語の習得可能な時期をいつとするかについては、見解の違いが見られますが、概して、生まれてから思春期までの期間が「臨界期」とみなされます。 この「臨界期仮説」は、いくつかの事例研究でも明らかにされており、第一言語(母語)の習得においては有効なものとされているようです。

年齢と外国語学習の関係

しかし、第二言語習得についてはどうでしょうか。確かに、微妙な筋肉調整を必要とする発音能力においては、ある年齢を過ぎると母語の干渉を完全に克服することは困難なようです。

英国に海洋文学で知られるジョセフ・コンラッド(1857-1924)という作家がいます。英語で数々の作品を残していますが、ポーランドで幼少期を過ごしたコンラッドは、英語を話すと、きわめて強いポーランド語のアクセントがあったといわれています。英文を書くことにおいてはプロの作家も舌を巻くほどの文体を使いこなすものの、発音においては母語の干渉が残ったということです。克服しがたいこの発音問題に言及して「ジョセフ・コンラッド現象」という言い方をする専門家もいるほどです。

しかし、同時に注目したいのは、思春期を過ぎて英語の学習を始めても、「コミュニケーションの手段」としての英語を習得することは十分に可能である、ということです。思春期を過ぎて英語を学びはじめ、高い英語力を身につけた事例が身近にたくさんあります。いわゆる「ジョセフ・コンラッド現象」を克服した人もたくさんいます。連載第2回目でも述べましたが、程度の差こそあれ、「誰でも、いつでも第二言語を学ぶことができる」ということです。

学習環境によって異なる? 年齢と第二言語学習

しかし、 “The younger, the better.”(若ければそれだけよい)という仮説は、誰でも外国語を学ぶことができるかもしれないが、 それでも若いほうが有利である、という主張です。ここでは “the young” (若さ)の一応の定義として「思春期前」とみなすことにします(発音などにおいては5歳以前のほうがよいという研究もありますが、ここでは the young に幅を持たせて話を進めます)。

直観的に、「外国語をやるなら若いほうがよい」という主張に傾く人が多いのは、たしかでしょう。しかし、この主張を無条件に受け入れるわけにはいきません。というのは、学習環境(learning context)が考慮されると、事情が異なる可能性があるからです。

ここでは、英語を日常的に使用する状況で英語を第二言語として学ぶという環境を「INPUT-RICH 環境」、日本で英語を第二言語として学ぶという環境を「INPUT-POOR 環境」と呼び分けることにします。

INPUT-RICH 環境とは、自然に英語を獲得できるような条件が整った環境のことをいいます。一方、INPUT-POOR 環境では、母語(日本語)が生活言語であるため、英語は意識的な学習の対象になるものの、自然な形で英語を獲得することがむずかしい環境のことを指します。

英語圏で英語を学習するなら子どもが有利! 日本ではどうか?

INPUT-RICH 環境では、自然な学習が促進され、学習しているという意識を伴わないまま英語を獲得することが可能となるという条件が整っています。こういう状況では、子どものほうが、より早く、そしてより有利に英語を身につける可能性が高いといってもいいでしょう。

もっとも、文法の学習や語彙の数の増強といった個別の課題でいえば、成人のほうが子どもよりも自覚的に学習するため “The older, the faster.” (大人のほうが早い)ということも考えられます。しかし、総合的な英語力の習得ということからいえば、結局は、“The younger, the faster.” (子どものほうが早い)ということになり、 INPUT-RICH 環境では、“The younger, the better.”(若ければそれだけよい)は経験的に支持される仮説であるということができます。

一方、INPUT-POOR 環境では、どうしても「学習するということ」を意識することになり、しかも自然な言語学習状況というよりも、英語学習のために人工的に設けられた場(教室など)での学習が行われることになります。こういう状況では、子どもは飽きやすく、長続きしない可能性が高いということが考えられます。

逆に、ある程度まで年齢が上がると、目的志向的な学習が可能となり、動機づけを失うことなく、英語を学ぶということが可能となります。そこで、INPUT-POOR 環境では、「若ければそれだけよい」という考え方が有効であるという保証はありません。

それでも外国語学習は若いほうがよい

ここで確認しておきたいことがあります。「若ければそれだけよい」という考え方は無条件に受け入れることはできませんが、それでもその考え方には、すばらしい魅力があるということです。

僕は、モンテッソーリミライキンダーガーテンというところで顧問をしております。モンテッソーリ教育とバイリンガル教育を大切にする幼稚園です。顧問をしているおかげで、2歳から5歳までの幼稚園児が英語の世界でどうやって過ごしているかを観察するチャンスがあり、度々、園を訪れています。そこで学んだことをまとめると、以下になります。

第一に、先生の英語を自然に受け入れ、驚くほど早く先生の意図を理解できるようになります。“Make a group of four.”(4人のグループを作って)や “Move forward.”(前に進んで)といえば、言われた通りに行動しています。

第二に、耳で捉えた音をそのまま作り出すことができます。一言で言えば、音への感受性が高く、音を再生するための筋肉調整も自由だということです。

第三に、体を動かすように英語を身につけていきます。英語を「学ぶ」のではなく、まさに「身につけていく」という表現がピッタリだと思います。

そして第四に、(大人からすれば)慣れない音を楽しんでおり、英語という「外国語」が自我を脅かすことがありません。思春期を過ぎるとどうしても、慣れない音になじめず、自分らしくないということで、わざと日本語的な読みをする生徒がいますが、幼稚園では、一切、そういうことはみられません。むしろ、違いを楽しんでいるかのように思えます。

音への感受性と音の再生能力の高さ、身体知としての学び、違うものを楽しむ心、これらはまさに、英語を学ぶ際の強力な「武器」になるはずです。しかし、上で述べたように、この武器が使えるかどうかは、学習環境の在り方に大きく作用されることを、忘れてはなりません。