こんにちは。life styleに「絵本の力」を取り入れ、楽に成果を出し、楽しい未来の選択ができるようになる方法をご提案している、絵本スタイリスト®景山聖子です。
こんなことわざがあります。
好きなことであれば、誰に強いられずとも、自ら意欲的に取り組むことができますね。モチベーションを保ちながら努力し続けられるので、自然に上達するものです。
10年以上、絵本スタイリスト®として読み聞かせに深く関わってきた私は、今まで様々なタイプのお母さん方に出逢いました。その中で、私なりに発見したことがあります。
それは「教育効果があるから」という理由で読み聞かせをする親御さんと、「親子で楽しむ幸せな時間だから」という理由で読み聞かせをする親御さんがいること。そして、両者のお子さんの、国語への興味の度合いが、大きく異なること。
親子で絵本を読む習慣は同じなのに、後者の子どものほうが、だんぜん国語好きになります。そのため、受験国語の得点率も高いのです。
もちろん、私の経験から導き出した傾向なので、対象は2000人程度の親子に留まります。しかし深く調べていくと、実はこの違いは、きちんとした心理学的知見を踏まえた結果であるようです。
今回は、過度の教育意識が読み聞かせにおいて「逆効果」となる理由を紐解いていきます。併せて、幼少期からの絵本タイムによって国語が大好きになり、中学受験国語でも高得点を出す子どもたちのお話をします。
絵本によって「国語好き」になったお子さんは、受験でも奇跡を起こすことでしょう。
ある「パーテーション親子」の話
10年以上前、教育熱心な家庭が多いと言われている地域で、お茶をしていたときのこと。隣の席では、地元のママ二人が、おしゃべりに花を咲かせています。
どうやら、小学6年生の男の子のママである様子。
小さな子どもがパーテーションで囲われ、勉強を強制されている光景を想像すると、胸が痛みました。そして、思わず二人の話に聞き耳を立てました。
するとそのご家庭では、3歳の頃から語彙を増やし、読解力をつけるために、絵本や児童書の読み聞かせをしていたようなのです。
職業柄、「読み聞かせ」と聞くと、どうしても気になってしまう私。ますます耳をそばだてると、驚くべきことが判明しました。
なんとそのママは、読み聞かせが終わると、その絵本の語彙を紙に書き出し、子どもがきちんと覚えているか、厳しくテストをしていたのだとか。さらに、絵本に関して何を感じたか、子どもに感想を言わせていたそうです。
子どもに絵本の感想を聞くのはタブー?
この子にとって「文章」とは、感想を常に聞かれることなのです。ますます放っておけなくなります。幼児に絵本の感想を聞くのはタブーです。
子どもは、絵本の読み聞かせを通して「感受性」という心の部分を育てています。そして絵本を閉じた後も、お話をもとに一人で想像して、感受性をさらに高めていきます。
しかし、感想を求められた途端、言語能力を発揮する作業に切り替えなくてはなりません。感受性が豊かにふくらみきる前に、不十分なところで、想像力の広がりに蓋をすることになるのです。
さらに幼児は、まだ言語能力が乏しいもの。そこで、たとえ感じたことがたくさんあったとしても、それをどのような言葉にしてよいのかわかりません。そのため、混乱が生じてしまいます。
その上、緊張感が漂う、語彙の「テスト」。これでは、絵本の時間の本来の楽しさが、自分の力を試されるというプレッシャーで台無しです。想像力を育む機会を奪われているだけでなく、母親からの過度な要求のもと、緊張感の高まりにも対処しなければなりません。
そしてストレスを抱えた結果、集中して文章を読むことができず、気が散ってつい、窓の外に視線をやりがちな子どもになったのでしょう。このように紐解いてゆくと、実は当たり前のことなのです。
こう疑問に思っている親御さんもいるかもしれません。しかし、その「なぜ?」には、実はしっかりとした理由があるのです。
子どもは本来、勉強が好き
おべんきょうが大好きな女の子が、この絵本の主人公。ひらがなの「お」を鏡文字のように書きながらも、「好き」という気持ちを育んでいきます。
このお話のように、もともと子どもは学ぶことが大好き。「知るって嬉しい」「学ぶって楽しい」と思うものなのです。
私自身、多くの子どもに読み聞かせをしていると、お話を読むのも、勉強をするのも、本来は子どもにとってわくわくすることなのだと実感します。
科学絵本を読み聞かせるときも、勉強を意識せず、楽しく、こう伝えています。
すると子どもは、ますます目を輝かせるのです。
教育意識を捨て、知る喜びを味わおう
母親の過度な教育意識と勉強への強制があると、子どもは国語を嫌いになってしまうかもしれません。一方で、教育意識を捨て、純粋に知る「喜び」を子どもと一緒に分かち合うことができれば、その子の学力は大きく伸びていくようです。
今まで、読み聞かせの活動に加え、息子の中学受験を通して、多くのお母さんに出会いました。その中で特に、超難関中学へ進学した子どものお母さんは、国語という「教科」と絵本タイムで感じた「楽しさ」を上手にイコールで結びつけていました。
幼少期からの絵本タイムを、母親からの安心感を感じられる、親子の「幸せな時間」にする。子どもがリラックスしながらも、文章に対して喜びや楽しさを見出す土台を築く。
親御さんがこんな姿勢を貫いたからこそ、文章読解をするとき、落ち着いて長文と向き合える子どもが育ったのです。結果として、難解な受験国語も突破できたのでしょう。
「文章=難しい」「国語=わからない」ではなく、「文章=発見の喜び」「国語=安心感」と結びつけてあげる。そんなふうに子どもを導いてあげるのも、親の大事な役目なのかもしれません。
読み聞かせを楽しみながら、確実に語彙力をつける一工夫
まずは、過度な教育意識を捨てることから始めましょう。そして、親子で読み聞かせを「純粋に」楽しんでみてください。
さらに、読み聞かせ後に語彙をチェックするなら、緊張感が漂う厳しい場にせず、子どもが楽しめる方法で行うことをおすすめします。例えば私の場合は、絵本を読み終えてから、ゲーム形式でやっていました。
息子は台所のサラダボールを手にし、私は新聞紙を丸めて持ちます。不正解なら丸めた新聞紙で、息子の頭を軽くポン! 息子は防御策として、サラダボールで頭を覆います。正解なら、息子の大きなガッツポーズ!
この語彙ゲームが楽しかったようで、「今日はこの絵本」と自分から持ってくるようになりました。
「なんとなく好き」という潜在的親近感のメカニズム
最近テレビでも活躍なさっている、脳研究者の池谷裕二教授。幼い2人のお嬢さんを持ち、絵本の読み聞かせの時間を大切にされているパパの一人です。
著書『パパは脳研究者』の「絵本の記憶」という項目で、このように記しています。
黄色い車のおもちゃを見せる実験です。赤ちゃんがたまたまおもちゃに近寄ったら、甘いミルクを口に含ませます。(中略)これは「快の転移」と呼ばれる現象です。本来、黄色い車そのものに価値はなかったはずですが、ミルクという快信号が引き金となって、黄色い車への好意が生まれます。
(引用:池谷裕二(2017),『パパは脳研究者』,クレヨンハウス.)
快の転移による好意は、「ただなんとなく好き」という潜在的親近性になります。そしてこれは、大人になっても、その人の好みに影響を与えるそうです。
幼い頃にふれる絵本は「潜在的親近性の結晶とも言える」と、池谷教授は記しています。幼少期からの読み聞かせにより、子どもは絵本そのものに対して、潜在的親近性を持つようになります。
そして絵本は、国語のもとである「文章」との、最初の出会いの場です。つまり子どもは、絵本の読み聞かせの楽しい経験によって、文章そのものに対しても、好意を抱くようになるのです。
その結果、こんなふうに感じる子どもたちが育つようです。
- 私、なんとなく国語が好き
- 僕、なんとなく文章読解ができちゃうんだ
子どものそんな「好き」「得意」の根本には、潜在的親近性のメカニズムが隠れていたのですね。
では、もしパーテーションで囲い、子どもに国語の勉強を強制したら、どうなるでしょうか? 皆さん、もう答えはおわかりですね。
「=」で結ぶ先を変えることで得られる幸せな未来
私たち親は、常に我が子の幸せを願っています。子どもを愛しているのです。時にはその愛の強さゆえ、知らぬ間に、子どもを悲しませてしまうこともあるかもしれません。
親の思いとは裏腹に、子どもの幸せを奪ってしまうことは、なんとしても避けたいですよね。そのためには、潜在的親近性のメカニズムを知り、過度な教育意識を変えることが重要です。
「子どもを愛せない」ことに悩み、私の絵本の講座へやってくる母親は、しつけを徹底し、高い教育を施すことが、我が子の幸せにつながると思っていました。
「子ども=母親の私が、正しい方向へ導いてあげなくてはいけない存在」だと考えていたのです。しかし、このように見方を変えたところ、この親子に大きな変化が訪れました。
なんと、今までの悩みが解消し、我が子が愛おしくてたまらなくなったのです。そしてお子さんも、進んで勉強するようになりました。
そしてこの変化は、冒頭でお話しした「パーテーション親子」にも重なります。時々お節介になる私は、絵本の読み聞かせの話が聞き捨てならず、ついには喫茶店で声をかけたのでした。
「親が子どもに我慢させること」と「子どもが自分から我慢すること」には、大きな違いがあります。さらに「子どもが我慢しながらすること」と「子どもが楽しくてすること」には、そのパワーに雲泥の差が生まれます。
パーテーションを外し、親子で楽しむことへと方向性を大きく変えたこのご家庭は、その後大きな変貌を遂げました。親子の幸せな思い出を作りながら、希望する超難関校への受験を突破したのです。
もともと国語もママもどうしても好きになれなかった子でしたが、最後の半年で巻き返し、苦手だった国語の成績が急上昇したのだとか。さらに、合格発表の掲示板の前で「ママ、ありがとう!」と、満面の笑顔で抱きついてきたそうです。
そして現在、この子は大学生。親子で一緒に決めた目標を達成し、海外の大学へと進学しています。
- 国語=読み聞かせの「安心感」
- 文章=絵本の「楽しさ」
このように「=」で結ぶ先を少しだけ変えるだけで、将来大きな違いが生まれます。お子さんが望む結果を出しながら、幸せな親子関係を実現することができるでしょう。
(参考)
池谷裕二(2017),『パパは脳研究者』,クレヨンハウス.
角野栄子 作, 吉田尚令 絵(2017),『わたしべんきょうするの』,文渓堂.