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博報堂こそだて家族研究所が発表した調査レポート「子どもの疲れとその理由」(2016年)によると、小学生の子どもをもつ母親の4割が「自分の子どもは疲れている」と答えています。
学校、塾、習い事に加え、ゲームやスマホの長時間利用など、子どもたちの脳は常にフル回転。疲れがたまってしまうのも無理はありません。しかし、発達期の子どもにとって、疲労蓄積はかなり悪影響。なんと、疲れが脳にダメージを与えるらしいのです。
今回は、子どもの「脳疲労」についてじっくり考えてみます。
「脳疲労」とは? 子どもも脳疲労になるの?
脳疲労とは、脳がどんな状態になっていることを意味するのでしょう? 京都御池メディカルクリニック院長・村西寛実氏は、脳疲労について以下のように説明しています。
脳というのは非常に特殊な臓器ではあるので足や腕の筋肉痛のように脳疲労を簡便に説明するのは非常に難しいですが、簡単にかみ砕いて言いますと我々の脳は「理性」、「本能」、「自律神経」を司る大きく3つの部位があってそれぞれがうまく調整し合うことで入ってくる情報を次々と処理をしていますが、それがいわゆるキャパオーバーの状態になってくるとそれぞれが絡み合うカタチで脳の動きが鈍くなってきてしまいます。
(引用元:京都御池メディカルクリニック|あなたの脳疲れていませんか?)
村西氏はこの脳疲労の状態を、「パソコンで一気にいろいろなことをしすぎて、処理量が多すぎて固まってしまい、画面がフリーズしてしまうイメージ」と例えています。
また、『脳と疲労』の著者で、理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター センター長の渡辺恭良氏によると、疲労には「肉体的疲労」と「精神的疲労」の2種類があり、どちらの疲労も脳疲労につながるとのこと。肉体的な疲れがなぜ脳の疲労につながってしまうのか? その理由について渡辺氏は、「肉体を使う場合も、無意識のうちに脳を使っているので脳も疲れます。肉体的疲労と精神的(脳)疲労は密接な関係にあり、脳と肉体の疲労は切り離せないから」と説明しています。
とはいえ、子どもの肉体的疲労は回復が早いため問題ないとのこと。深刻に考えなければいけないのは、精神的な疲労が原因の脳疲労のようです。次項で詳しく見てみます。
子どもの脳疲労の原因は「過度なストレス」「目の使いすぎ」
日本予防医薬株式会社HPによると、脳疲労の原因となるのは「過度なストレス」や「不規則な生活」とのこと。そしてストレスが脳疲労につながるメカニズムを以下のように説明しています。
ストレスは自律神経を刺激し、身体を常に緊張状態にさせます。すると、自律神経をコントロールしている脳に負荷がかかり、脳は大量の血液と酸素を欲し、酸素消費量が増加します。
それに反応して活性酸素が大量に発生し、体内の神経細胞が傷つくのです。
これによりパフォーマンスが低下、これこそがストレスが疲労につながるメカニズムなのです。
(引用元:日本予防医薬株式会社|あなたの知らない「疲労のメカニズムと回復法」)
現代は、大人だけでなく子どももストレスフル。教育臨床心理学が専門の東洋大学名誉教授・中原美恵氏は、子どものストレス原因として次のことを挙げています。
- 学校の勉強がわからない
- 友だち関係で悩んでいる
- 自由な時間がない(習い事や塾があるため)
- 両親との関係(「勉強しろ」と言われる)
また、習い事や塾などで就寝時間が遅くなるなど、不規則な生活をしているお子さんも少なくないでしょう。睡眠不足も、脳疲労の原因のひとつです。そして、睡眠不足とあわせて渡辺氏が問題視しているのが「目の使いすぎ」。目を酷使して脳を情報過多の状態にしてしまうと、脳疲労が起こります。
では、脳疲労が起こると、子どもにどのような不調が現れるのでしょう。
脳疲労が引き起こす子どもの不調
実際に脳疲労が起こった場合、子どもには以下のような不調が現れます。
不調1:学習意欲が低下する
渡辺氏は、「睡眠不足が原因の脳疲労」は学習意欲の低下につながると指摘。睡眠は、起きているあいだに脳に入ってきた情報を整理してくれますが、睡眠が十分でない場合、脳は情報を整理しきれないため、頭がスッキリしません。
また『脳を休める技術』著者で脳神経外科医の奥村歩氏は、スマホやPCなどの電子機器を使いすぎると、脳内が情報過多になり、脳疲労を引き起こすとしています。脳疲労になると脳の情報処理機能が低下してしまうので、「思考力、判断力、集中力、意欲」が落ちてしまうのです。
不調2:キレやすくなる
脳疲労が起こると、「つまらないことに固執する」「イライラする」「キレやすくなる」など、感情コントロールが効きにくくなります。脳生理学者の有田秀穂氏は、その原因が「セロトニン欠乏脳」にあると話します。
理性をつかさどる前頭前野の機能を促進するのが脳内神経伝達物質セロトニンですが、脳疲労が起こるとセロトニン神経の働きが弱ってしまうのです。すると、セロトニンが分泌されにくくなるため、欲望や感情を抑える働きをする前頭前野がうまく働かなくなってしまい、キレやすくなるのだそう。
不調3:休んでも疲れが抜けない
「脳疲労への対処が遅れた場合、脳のダメージにつながる恐れがある」と言うのは渡辺氏です。脳が疲労している状態が続くと、脳がダメージを受け、休んでも疲れが抜けない「慢性的な疲労」となってしまうこともあるのだとか。
そして脳科学者の水野敬氏も、子どもの脳疲労は早めに回復させるべきと主張するひとり。なんと、脳疲労を放置してしまうと、全身の疲労が続く「小児慢性疲労症候群(*)」を引き起こす可能性もあるとのこと。
渡辺氏によると、脳疲労を感じている子どもは「自発的に言葉を発しなくなる」「笑顔がなくなる」などのシグナルを必ず発するのだそう。子どもの脳疲労の症状が悪化する前に正しく対処するのはもちろん重要ですが、日頃から脳疲労の予防にも気を配りたいですね。次項ではその方法について見ていきましょう。
*・・・小児慢性疲労症候群(CCFS)は3か月以上の持続する疲労・倦怠感および睡眠・覚醒リズム障害などの症状が現れる病気であり、不登校児童・生徒に多く発症が見られる。
子どもの脳疲労を回避する3つの方法
脳を疲れにくくさせ、 “スッキリ脳” を手に入れるための、すぐに実践できる方法を3つご紹介します。
脳を疲れにくくする方法1:正しい睡眠習慣をつける
発達脳科学者で睡眠の専門家でもある成田奈緒子氏によると、子どもの理想的な睡眠時間は、5歳児で11時間、小学生で10時間。これは脳をしっかり休ませ、発達させるために必要な時間です。前述したように、睡眠には脳を休ませるだけでなく、情報を整理する役割があります。ですから、しっかりと寝ている子どもの脳は、学習した内容が整理され、学習記憶が定着するのです。
また、子どもの睡眠障害に詳しい小児神経科専門医の三池輝久氏は、「夜ふかし習慣が、小児慢性疲労症候群の引き金になる」と断言しています。睡眠不足は脳疲労を引き起こしやすいーーだからこそ、子どもが小さいうちに「正しい睡眠習慣」をつけることが大切としています。
脳を疲れにくくする方法2:ゲームは20分に1回休憩を入れる
渡辺氏が指摘する「目の使いすぎ」による脳疲労も、日常の習慣を変えることで予防できるはず。人は、情報収集の9割を視覚に依存しているそう。そして得た情報はすべて脳で処理されるため、情報過多は脳疲労を引き起こします。ゲーム・PC・テレビ視聴時間が1時間以上の子どもは要注意です。
疲れていないように見えても、子どもの脳は疲労しています。大好きなことをしているときはドーパミンが出ているので、疲労感が麻痺しているだけなのです。渡辺氏いわく「人が集中できる時間は20分」なので、20分に1回は休憩を入れましょう。しばらく目をつむり、脳への情報を減らすことで、脳疲労が回復するそうですよ。
脳を疲れにくくする方法3:マインドフルネス
多くの脳科学者や精神科医が、脳疲労対策に「マインドフルネス」をすすめています。マインドフルネスとは、「心を “いま” に向け、ただ目の前のことに集中している状態」です。精神科医で禅僧の川野泰周氏も、マインドフルネスを推奨するひとりです。
Googleが社員研修に取り入れたことで、ビジネスパーソンのあいだでマインドフルネスが話題になりましたが、じつは子どもにもマインドフルネスは効果あり。イライラや不安が落ち着き、ストレスが軽減するのです。
欧米ではすでに教育現場に取り入れられていますが、2021年5月、ついに日本でも科学的なアプローチに基づいたマインドフルネスプログラムを提供する株式会社Melonによって、全国複数の小学校で導入が開始されました。プログラムの実践前後の子どもたちのメンタル状態を比較したところ、全体の約71%の子どもに「ストレス反応の改善効果」が確認されたそうなので、効果はあると言えるでしょう。
最後に川野氏が提案する「子どもに最適なマインドフルネスの方法」と、「子ども向けのマインドフルネス書籍」を紹介します。子どもは吸収が早いので、2週間程度で効果が出るそうですよ。
■子ども向けマインドフルネス1:雲を眺める瞑想
形が変わっていく雲をぼーっと眺めながら、「あの雲は猫に似ている」「車の形みたい」などのように、心が赴くままの連想を頭のなかで表現します。川野氏は「できるだけひとつの情報に注力して観察すること」が、脳を休めることになると言っています。お子さまと一緒にひたすら雲を眺めてみてくださいね。
■子ども向けマインドフルネス2:呼吸を感じる瞑想
仰向けになり、お腹の上にぬいぐるみやクッションを載せます(大きめでふわふわしたものが◎)。ぬいぐるみが上下する様子を観察しながら呼吸を繰り返しましょう。お腹がよく見えるように、低めの枕を使うといいそうです。呼吸のみに意識を集中してくださいね。
■『学校と家庭でマインドフルネス!1分からこころの幸せ・安心を育む63のワーク』
EQ(感情の知性)を伸ばす63ものワークが掲載されています。また1分から取り組めるというのも嬉しいかぎり。EQを育てるために、マインドフルネスはとても効果があるのです。ぜひ親子でトライしてみてくださいね。
■『心が落ち着き、集中力がグングン高まる! 子どものためのマインドフルネス』
心と体を上手にコントロールする方法を身につけるためのマインドフルネス書。雲や木になってみたり、クマさんの呼吸をまねしてみたり、いつでもどこでも簡単にできるエクササイズがつまっています。
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川野氏によると、じつは「脳疲労」は正式な医学用語ではないのだそう。しかし、メンタルヘルスの専門家の多くがその存在を想定しているとのこと。脳疲労を甘く見ず、さっそく、生活習慣の見直しから始めてみませんか?
(参考)
博報堂 広報室|こそだて家族の「ママが実感する子どもの疲れとその理由」レポート
ベネッセ教育総合研究所|第57回「ゆとり」がない子どもたちの放課後―多忙な子どもたちの生活時間を考えるー
ROHTO|小学生の4割がお疲れモード 精神的疲労による脳ダメージに要注意?!
チャイルド・リサーチ・ネット|子どもとストレス
理化学研究所|小児慢性疲労症候群は報酬の感受性低下を伴う
日本予防医薬株式会社|あなたの知らない「疲労のメカニズムと回復法」
プレジデントオンライン|キレる人は、なぜキレるのか?
NHK|“スマホ脳疲労”記憶力や意欲が低下!?
大正製薬|脳疲労に要注意!「スマホ脳疲労」は集中力や記憶力にも悪影響!
NIKKEI STYLE|慢性疲労、子供も注意 不登校の原因かも
産経ニュース|「脳の働きすぎ」画像診断で判明
J-STAGE|知っておきたい子どもの睡眠
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|子どもの脳をきちんと育てる「正しい睡眠」
STUDY HACKER|「疲れすぎた脳」が休まる最高の習慣はあるのか? 精神科医の禅僧に聞いてみた。
NHK|慢性疲労、子供も注意 不登校の原因かも
NHK|「マインドフルネス」とは?めい想の方法・効果と「呼吸のめい想」のやり方
MELON|日本初、子供向けマインドフルネスプログラムを全国の小学校に無償提供
戸塚真理奈(2020),『感情の知性(EQ)を伸ばす 学校と家庭でマインドフルネス!1分からこころの幸せ・安心を育む63のワーク』, 学事出版.