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子育てをしていると、親はさまざまな問題に直面します。なかでも、子どもが幼い場合には、朝にぐずったり、逆に夜はなかなか寝てくれなかったりと、睡眠に関する問題に悩んでいる人も多いかもしれません。そこで、睡眠の専門家である文教大学教育学部教授・成田奈緒子先生にお話を聞いてみました。そもそも、「正しい睡眠」とはどういうもので、なぜ必要なのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
大人も子どもも日本人はほとんどが睡眠不足
わたしは小児科医で、これまでさまざまな問題を抱える子どもたちと出会ってきました。その問題とは本当にさまざま。たとえば、朝にぐずる、寝かしつけが難しいといった睡眠に関することのほか、食欲がない、便秘がひどい、ケガや病気が多くて保育所にまともに預けられない……などなど。もう少し大きい子どもになれば、すぐにキレる、きちんと勉強に取り組めない、あるいは、不登校などもよく見てきた問題です。
それらは、それぞれまったく別の問題のように思えます。ところが、じつはその根本をたどると、睡眠に問題があることが非常に多いのです。逆にいえば、睡眠の問題さえ改善できれば、そういった問題の多くが見事になくなってしまうということ。
では、その睡眠の問題とはどういうものか。まずは睡眠時間が足りていないことが挙げられます。たとえば、5歳の子どもにとっての理想的な睡眠時間はどのくらいだと思いますか? じつは、11時間なのです。小学生の場合は年齢にもよりますが、だいたい10時間。理想的な睡眠時間とは、脳をしっかり休めて発達させるために必要な時間です。みなさんの子どもは、それだけの睡眠時間を取れているでしょうか。
現実的には難しいかもしれません。11時間の睡眠時間を確保しようと思えば、朝7時に起こすのなら20時には寝かせないといけません。かつてならそういう子どももたくさんいましたが、いまは大人も子どももどんどん睡眠時間が減る傾向にあります。その要因は、共働き家庭の増加、スマホやタブレットの普及、習い事や塾に通う子どもの増加など、いくつもあります。それらにより、現在の日本人の平均睡眠時間は、どの世代も理想の睡眠時間からだいたい2時間少なくなっているのです。
とはいっても、いきなり睡眠時間を2時間増やそうとするのは無理があります。そこで、できれば1時間増やすことを目標にしてほしいのです。
レム睡眠とノンレム睡眠の正しい反復で脳が育つ
そして、正しい睡眠を取るには、必要な睡眠時間を確保するだけではなく睡眠の質を上げることも大切です。睡眠の質を上げるとは、いわゆるレム睡眠とノンレム睡眠のきちんとした反復リズムを身につけるということ。
じつは、このリズムは、幼いときには身についていません。だから、赤ちゃんは昼も夜も関係なく寝たり起きたりを繰り返すわけです。でも、成長するにつれてそのリズムが整っていく。そして、8時間の睡眠のうちにレム睡眠とノンレム睡眠の反復を4回繰り返して朝を迎えるようになることが理想です。なぜそれが理想かといえば、そういう睡眠を取れれば、脳がきちんと育っていくからです。人間の脳は、大きく次の3つにわけて考えることができます。
- 体の脳(脳幹、間脳、小脳) 0~5歳に育つ
- おりこうさん脳(大脳新皮質) 1~18歳に育つ
- 心の脳(主に前頭葉) 10歳以降に育つ
体の脳が司るのは、「起きる、寝る、食べる、体を動かす」といった、生きていくために最低限必要な機能。そして、わたしがおりこうさん脳と呼んでいる部分は、「言葉、微細運動、知識、スポーツ」などを司るもの。最後の心の脳は「感情のコントロール、思考、判断」などの機能を司っています。
重要なことは、これらの発達は1~3の順でしか進まないということ。体の脳が育たないとおりこうさん脳が育たないので、勉強やスポーツをきちんとできませんし、体の脳とおりこうさん脳が育たないと心の脳が育たないので、自分の感情をコントロールして社会のなかでうまく生きていくこともできないのです。
つまり、まずなによりも体の脳をきちんとつくることが最重要になります。そして、この体の脳が育つのが、基本的には生まれてから5歳くらいまでのあいだなのです。
「朝は明るく、夜は暗く」で、正しい睡眠のリズムを身につける
そう考えると、子どもにとっては、5歳くらいまでのあいだに睡眠のリズムをしっかり身につけることが大きな目標となります。いくら理想の睡眠時間を確保していたとしても、頻繁に寝言をいったり、夢遊病患者のように歩き回ったり、夜中に何度もトイレに行ったりしていては、睡眠のリズムがきちんと身についていないといえます。
では、どのようにすれば睡眠のリズムを身につけられるのでしょうか。それは、「朝は光を浴びて、夜は真っ暗にする」ということ。文字に書きだすと、とっても単純ですよね。でも、実際にはこれがなかなか難しい……。都市部なら、それこそ深夜でもどこかに光がありますし、スマホやタブレット、テレビなどからもどんどん光が目に入ってくる。つまり、夜になったら意図的に光を排除する必要があるのです。
ここまでを読んで、子どもの年齢が5歳より上だからとがっかりしてしまった人もいるかもしれません。でも、安心してください。じつは、10歳でも20歳でも、正しい刺激を入れ直せば、いつからでも体の脳はきちんと育つようにできています。その刺激とは、やはり「朝は明るく、夜は暗く」ということ。そして、規則正しくご飯を食べてしっかり体を動かすことです。そういった基本の生活習慣が脳を育て、さまざまな問題を解決してくれるのです。
※本記事は2019年12月1日に公開しました。肩書などは当時のものです。
『子どもが幸せになる「正しい睡眠」』
成田奈緒子 上岡勇二 著/産業編集センター(2019)
■ 文教大学教育学部教授・成田奈緒子先生インタビュー一覧
第1回:子どもの脳をきちんと育てる「正しい睡眠」
第2回:親の緊張で子どもは寝つけない? 寝かしつけに必要な「親のリラックス」
第3回:「幼児の睡眠問題」を“たった1週間”で解消する方法
第4回:なにより睡眠が基本! 親の「ブレない」態度が、子どもの脳を育てる
【プロフィール】
成田奈緒子(なりた・なおこ)
宮城県出身。文教大学教育学部特別支援教育専修教授。日本小児科医学会認定小児科専門医。発達脳科学者。子育て科学アクシス代表。1987年に神戸大学医学部卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部リサーチアソシエート、獨協医科大学越谷病院小児科助手、筑波大学基礎医学系講師を歴任し、小児科の臨床と基礎研究に従事する。2005年から文教大学教育学部特別支援教育専修准教授。2009年から同教授となり、茨城県発達障害者支援センターと茨城県土浦児童相談所の嘱託医等を兼任。牛久愛和病院小児科での専門外来も開設しており、小児期のさまざまな精神心理疾患の外来診療にも携わっている。2014年からは、医学・心理・教育・福祉を包括した専門家集団による新たな親支援事業「子育て科学アクシス」を開設し代表に就任。また、文部科学省や東京都教育委員会などで育児、教育への提言・社会活動を行っている。『子どもの脳を発達させるペアレンティング・トレーニング 育てにくい子ほどよく伸びる』(合同出版)、『脳科学からみた男の子の「ちゃんと自立できる脳」の育て方』(PHP研究所)、『睡眠時間を削らず塾にも行かず現役で国立医学部に合格した私の勉強法』(芽ばえ社)、『脳科学からみた8歳までの子どもの脳にやっていいこと悪いこと』(PHP研究所)、『7歳までに決まる! かしこい脳をつくる成長レシピ』(PHP研究所)、『「睡眠第一!」ですべてうまくいく』(双葉社)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。