「自由研究、何をしよう?」——そんな悩みを抱えている親子におすすめしたいのが、身近な疑問から始める探究型の自由研究です。じつは小学校や中学校でも、そんな「なぜ?」から始まる「探究学習」がいま注目されています。その「なぜ」の積み重ねが、子どもの「自分で考える力」と「問題解決能力」を育み、これからの時代を生きる力となるのです。
本シリーズでは、子どもたちの「なぜ?」を大切にした探究型自由研究のアイデアをお届けしていきます。第3回は、探究学習教室「LOUPE(ルーぺ)」での活動「こどもレストランプロジェクト」を紹介します。
普段は「買う側」の子どもたちが「売る側」を体験することで、お金の流れや仕事の大変さ、お客様への思いなど、普段は見えない「ビジネスの仕組み」を学ぶことができます。ぜひ探究学習のテーマや自由研究の参考にしてくださいね。
監修者プロフィール
探究型学習教室LOUPE運営
小学校教員として教育現場を経験後、ビジネスの世界に飛び込み、IT企業で約10年間コンサルタントとして企業の課題解決に従事。教育と事業、二つの世界での経験や視点を活かし、2023年に埼玉県鴻巣市で子どものための学びの場「LOUPE(ルーペ)」を創設。体験学習と探究型学習を通して、子どもたちが自ら問いを立て、考える力を育む環境づくりに取り組んでいます。
HP: https://loupe-k.com/
目次
探究学習——ビジネス体験で「社会の仕組み」を学ぶ
探究型自由研究では毎日の生活のなかにある「なぜ?」を大切にします。
「将来シェフになりたい! でも、どうやってお店ってつくるの?」「お花屋さんに憧れるけど、実際に何をするの?」「自分でお店をやってみたい!」——こうした子どもらしい憧れや疑問から始まるのが、社会の仕組みを知ることができる「ビジネス体験」です。
子どもたちは普段、商品やサービスの「買う側」にいます。しかし、ある職業になりきり「作る側」「売る側」「サービスする側」になってみると——これまで見えなかった社会の仕組みが見えてきます。そうした体験ができる商業施設やテーマパークでも近年増えてきていますよね。
そんななか、子どもが自らの手で実際にお店を運営する「こどもレストランプロジェクト」という活動をしている教室がありました。今回は、単なる職業体験を超えて、ビジネスの全工程を体験する探究学習教室の取り組みをご紹介します。
探究学習の実践例:「こどもレストランプロジェクト」
探究学習教室「LOUPE(ルーぺ)」は、子どもたちの自然な疑問を大切にし、その答えを子ども自身が見つけていくプロセスを重視した探究型学習教室です。ここでは、教科書の内容を覚えるのではなく、実際に手を動かし、試行錯誤しながら学ぶプロジェクト型の学習を多数実施しています。
そんな「LOUPE」で取り組まれたプロジェクトのひとつが「こどもレストランプロジェクト」。このプロジェクトでは、子どもたちが生産者との関わりから商品開発、販売、接客まで、ビジネスの全工程を数か月かけて体験しました。
1. 馬場農園さんで学んだ、トマトが育つまでの時間
馬場農園さんでの体験活動からこのプロジェクトはスタート。ミニトマトのアイコの栽培過程を見守りながら、3回にわたってお手伝いをさせていただきました。
初回は、ミニトマトの苗を植える「定植」をお手伝いしました。慣れない作業に、「腰が痛くなる!」と声をあげる子どもたち。また、「接ぎ木」という技術を使った工夫をされていることを教えていただき、「丈夫な根っこを借りて、おいしいトマトがたくさんできるんだね」と驚く声があがりました。
第2回では「わき芽取り」を体験。気温はすっかり冬の入口といった寒さでしたが、ハウスのなかはまるで夏のよう。暖房などの設備の工夫を目の当たりにし、冬でもおいしい野菜が食べられる秘密を知ることができました。
そして迎えた第3回。いよいよ収穫です。赤く実ったトマトをひとつひとつ手に取り、「つやつやしてる!」と、その感触を確かめながら収穫を体験させていただきました。じつは、今年は暖房の調子が悪く、ハウスの室温が思ったよりも温まらなかったため、トマトが大きく育ちすぎるという問題もあったそうです。こうした失敗談や苦労話は、日常の消費の場面では、なかなか知ることができません。
ビジネス体験の研究では、商品がどのようにつくられているかを知ることが重要です。実際に農作業を体験することで、普段食べている食材がどれだけの手間をかけて作られているかを実感。「作る側」の苦労や工夫を知ることで、さらに理解が深まります。
2. 「生産者さんの思いを伝えるピザ屋さん」を目指して
その後、子どもたちはレストランの準備に奮闘しました。まず取り組んだのは、レストラン運営に必要な仕事や役割を考えること。ピザを焼く人、注文を受ける人……。それぞれの役割の重要性を考えながら、どんな工夫をすればお店がうまくいくのかを話し合いました。その後、近隣のレストランに視察へ。「メニューの書き方にも工夫があるね」など、新しい発見がいっぱい。
さて、レストランの運営にはたくさんの準備が必要なこともわかってきました。話し合いの結果、店名は「トマピザ」に決定。「馬場農園さんのトマトを使った、おいしいピザ屋さん」を略して、「トマピザ」。店名にも子どもたちの気持ちがこもっています。
ビジネス体験では、準備段階から多くの学びが生まれます。レストラン運営に必要な仕事や役割を考えたり、ほかのお店の視察をしたりすることで、実際のお店がどんな工夫をしているかを知ることができます。
3. メニューと値段が決まらない!?
次の活動では、ピザの試作と原価計算に挑戦しました。ピーマンやツナ、バジルなど、さまざまな味を試しながら、全部で8種類のピザを作りました。
どのピザもとても美味しく、「これは売れる!」と、満面の笑みを浮かべる子どもたち。試作は順調に進み、ワクワク感が高まります。
そんななか、苦戦したのが原価計算でした。材料の価格と1枚のピザに使用する材料の分量から、ピザ1枚にかかる原価を計算するのですが、「割合」という概念を使うため、頭を使うとっても難しい作業なのです。小学校で習った四則演算のすべてをフル出動させる必要があり、5年生が大活躍してくれました。そしてついに算出されたピザの原価を知り、驚く子どもたち。
「1枚のピザをつくるのに、こんなにお金がかかるの?」「これじゃ儲からないじゃん!」普段何気なく見ている値段の意味がわかってきた様子です。最終的に、飲み物をセットにし、具材をシンプルにすることで利益を出せる価格に決定。ピザの種類も、味や見た目だけでなく、調理の工程や材料費などから、2種類に絞られました。
ビジネス体験で重要なのは、材料費や人件費など「見えないお金」の存在を知ることです。原価計算を通じて、普段見ている商品の値段に込められた意味を理解。利益を出すためには価格設定や材料選びが大切であることを体感できます。また、最後は必ず収支の振り返りを行ないましょう。
4. 伝える準備も念入りに
最後に取り組んだのは、発表の準備と接客の練習でした。レストランで提供するピザについて、お客さんにしっかり伝えられるように、トマトが育つまでの過程をまとめることにしました。
パソコンを使って資料を作成し、「どんな写真を入れたら伝わりやすいかな?」「説明の順番はどうする?」と意見を出し合います。発表の練習も繰り返し行ない、生産者さんの思いが伝わるプレゼンテーションが出来上がっていきました。
5. 開店準備も大忙し!
開店を迎えるまで90分。ピザをつくるだけではなく、お客様へのプレゼンテーションも予定されていたため、子どもたちは朝から発表の練習や接客の動線確認、台詞の練習などに大忙し。
ピザの準備では、具材の重さを計る子、ソースを生地に載せる子、お皿の準備をする子…、それぞれが役割を見つけ、手際よく作業を進めていきます。「これお願い!」「次はこっち!」自然と声を掛け合う姿が見られ、一体感が高まっていきました。
6. いよいよ開店! 20名のお客様が来店
そして迎えた開店時間。ご家族で来てくださった方、地域の方々……。総勢20名のお客様が「トマピザ」に来店して下さいました。最初は緊張した様子の子どもたちでしたが、担当のテーブルにつくと、次第に笑顔になっていきました。「トマトの甘みが感じられる、美味しいソースです!」「おかわりのピザはいかがですか?」まるでプロのような接客ぶり。練習の成果がしっかり表れています。
馬場農園さんが育てたトマトを使ったピザも、大盛況。お客様から「おいしい!」の声が上がり、小さなシェフたちが顔を見合わせ、誇らしげに笑う姿が印象的でした。
ビジネス体験の醍醐味は、自分たちが作った商品やサービスでお客様に喜んでもらうことです。「ありがとう」「おいしい」という言葉をもらう体験は、仕事のやりがいや責任感を育みます。また、接客を通じてコミュニケーションの大切さも学べます。
7. 伝えたい、トマトが育つまでの物語
レストランの目的は、ピザを提供することだけではありません。今回、子どもたちには「生産者さんの思いを伝える」という大きなミッションがありました。そこで準備してきたのが、トマトが育つまでの過程を紹介しながら、栽培の工夫や努力を伝えるプレゼンテーション。
当日に向けて、何度も何度も練習を重ねてきた子どもたち。本番では、大きな声で、堂々と、お客様に向けて生産者さんの思いを伝えることができました。接ぎ木や暖房の工夫、大変だったこと、驚いたこと……。自分たちが体験したからこそ出てきた思いを、自分たちの言葉で、まっすぐに伝える姿がキラリと光っていました。
8. ビジネスを丸ごと体験するということ
レストランの仕事は、ピザを作って提供するだけでは終わりません。最後に大切なのが、お金の計算です。ピザを作るのに使った材料を振り返りながら、利益の計算に必要な要素をみんなで考えていきました。
「えっ! こんなにお金がかかるの!?」「もっとピザの値段を高くしたらよかったんじゃない?」
材料費だけでなく、お皿などの備品にもお金がかかっていること。それに加えて、本来は場所代や人件費(今回はないけれど……)がかかること。実際に計算してみると、想像以上にお金がかかっており、残念ながら、結果は…… 赤字。利益は出ませんでしたが、その分、売上だけでなく、原価や経費の大きさが利益に影響するということを、身をもって体感することができたにちがいありません。
ビジネスの仕組みを学ぶことも、この「こどもレストラン」の大きな目的のひとつ。自分たちの手で作ったピザが売れ、その対価としてお金をいただく。その意味を、子どもたちなりにしっかり感じとってくれたようです。
家庭でできるちょっとした「ビジネス体験」
ここまで探究学習教室の取り組みを見てきました。ちょっと大掛かりで大変そうと思ったかもしれませんね。でも、探究型自由研究の魅力は、アイデア次第で様々な展開ができること。家庭でも小さなビジネス体験から学びを得ることができます。
たとえば、「家族向けの〇〇サービスを開催してみよう」「手作りしたアクセサリーをフリーマーケットで売ってみよう」など、身近なところからビジネス体験は始められます。「お小遣いを給料制にして、家事の対価を計算してみよう」といった視点から始めるのも面白いかもしれません。
大切なのは、「商品・サービスを用意する→値段を決める→売る→振り返る」というビジネスの一連の流れを体験することです。子どもが「面白い!」と感じる商品やサービスを選ぶことが成功の秘訣。好きなものなら、よりよくしたいという気持ちが自然に湧いてくるはずです。
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普段は「買う側」の子どもたちが「売る側」「サービスする側」を体験することで、お金の流れや仕事の大変さ、お客様への思いなど、普段は見えない「ビジネスの仕組み」を学ぶことができます。
夏休みの自由研究として、お子さんが興味のある商品やサービスを選んで、小さなビジネス体験に挑戦してみてください。 きっと「お店って大変なんだ!」「でも、お客さんに喜んでもらえるとうれしい!」という新しい発見に出会えるはずです。