教育を考える/体験 2019.12.9

縄跳び100回で1ポンド? お金のやりとりで終わらない、イギリスの子どもの募金活動

吉野亜矢子
縄跳び100回で1ポンド? お金のやりとりで終わらない、イギリスの子どもの募金活動

年末が近づいてくると、日本でも寄付を募る声が駅に響くようになりますね。歳末助け合いや赤い羽根募金、災害時の助け合いの募金のように、寄付文化は日本にも強く根付いています。

イギリスの学校でも、年間を通じて寄付金集めは多く行われています。ただ、ほんの少し違うのは、そこに「お金を出す人に何を提供するのか」の意識があることかもしれないなと、子どもたちの様子を見ていて思います。

自分が大事だと思っている問題のためにお金を集めることを、ファンドレイジングと言います。さまざまな病気の研究をするためのお金を集めるチャリティや、自然環境を守るためのチャリティ、世界の貧困や環境保護のチャリティなど、種類も豊富です。

日本だと「募金をおねがいしまーす!」と声をかけられることが多いでしょうか。イギリスの募金活動では、じつは少し様子が変わります。そこに「お金を払う人を楽しませる」「自分の頑張りを見てもらう」といった要素が入ることが多いのです。

お金のやりとりで終わらない、イギリスの子どもの募金活動2

イギリスの子どもの募金活動〜縄跳び100回で1ポンド〜

初めてイギリスの子どもに寄付をお願いされたのは、こちらに引っ越してきてすぐのことでした。週末に遊びに来た当時7歳くらいの甥が、こう言ってきたのです。

僕、子どもの病院のための寄付金を集めているので縄跳びを100回とぶよ。ちゃんと100回とべたら1ポンドくれる?

見守る親戚たちの前で、縄跳びを100回とんだ彼は、みごと私たち全員から1ポンドずつ寄付をもらいました。みんなで一緒に100回数え、最後には大きな拍手で終わり!

コインをもらうと、彼は嬉しそうに、学校から渡された紙に私たちの名前と、金額を記入しました。その頃はまだ小さな子どもでしたが、書き込む表情は真剣だったことを覚えています。

寄付を集めるときには、何のための寄付なのかを説明し、周囲の人に楽しんでもらうために、今の自分が何を提供できるのか考え、お金を集めていきます

7歳の甥はちょうどその頃、縄跳びが大好きでしたから、縄跳びをすれば親戚のおじさんおばさんはお金を出してくれる、と思ったようです。そして、それは大当たりだったわけです。

お金のやりとりで終わらない、イギリスの子どもの募金活動3

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クリスマス音楽やサンタレースでのお茶代が寄付金に

寄付金集めは大人もよくします。この季節になると、そろそろ街角で、地元のバンドがクリスマスの音楽を演奏して、道行く人から寄付を募っています。

みんながサンタの格好をして走るチャリティレースも、あちらこちらで催されます。何百人もの人がサンタの仮装をして走る姿は壮観ですから、見に来る人もたくさんいます。そこを狙って募金を呼びかけるのです。

それも「お願いします」とただ頼むのではなく、原価の安い紅茶を、道端でボランティアが売るなど、「相手がお金を使いたくなりそうなもの」が考えられていることが多いのです。

もちろん、レースの参加費の一部も募金として集められます。春になると自宅の美しい庭をお客様に開放し、その代わり心ばかりの入場料を集めてチャリティに回すオープンガーデンも時々行われます。

お金のやりとりで終わらない、イギリスの子どもの募金活動4

詩の朗読や演奏、お菓子作りに山登りまで!?

大人があの手この手を使って寄付を集める社会ですから、子どももまた、いろいろな知恵を絞って面白いことをします。

詩の朗読をしますから、寄付してください。
音楽を一曲演奏しますから、寄付してください。

このようなささやかなものから、もっと大掛かりなものまで。

年齢の高い子だとケーキを焼いて売ったり、自転車やランニングのレースに参加することで寄付をお願いするケースもあります。

2019年の5月には、6歳の男の子がヨークシャーのスリー・ピークスと呼ばれる山登りを10時間で達成した最年少の子どもとなりました。イングランド北部、リーズの病院のスタッフと両親と一緒に、ファンドレイジングのための挑戦でした。心臓病のチャリティのために、グループ全体で800ポンド(10万円以上)のお金を集めたのだそうです。

確かに、親戚や知り合いの子どもが、そんなことにチャレンジする、と聞いたら、応援も兼ねて、コインの1枚も落としたくなるものです。本当によく考えられています。

お金のやりとりで終わらない、イギリスの子どもの募金活動5

募金活動を単なるお金のやりとりで終わらせない

こうした募金活動のありがたいところは、うまく使うと子どもにとって(大人にとっても)良いモチベーションになるところでしょうか。

たとえば「ランニングで10キロレースに参加します」という建前で寄付金を集めたら、雨が降っていようが寒かろうがトレーニングをサボるわけにはいきません。自分の手元に来るわけではありませんが、誰かが期待してお金を出してくれたのですから、「えいや!」と頑張って部屋を出ることになります。

普段だったら楽器の練習を嫌々やっている子どもも、きれいに曲が弾けたら寄付金を集められる、となると頑張って練習をしたりします。自分の頑張りの結果が、誰かほかの人を助けることになるのかもしれないというのは、どうやら大人にとっても子どもにとっても、とても嬉しいことのようです。

イギリスの慈善団体はもちろんこのことをよくわかっていて、ファンドレイジングのアイデアを集めたアイデアパックをウェブサイトに載せているところも多かったりします。

大きなレースだと、参加申し込みの時点で募金活動のためのウェブサイトを自動で作ってくれる場合もあります。そうなると、訓練の段階から写真やコメントをアップロードして、親戚や友人がみんなで応援することになります。

この時期、よく目にする募金活動。寄付金集めを、ただお金をやり取りするだけに収まらせず、意味のある活動のきっかけにするのは、本当はとても簡単なことなのかもしれません。

(参考)
“Boy aged six walks Yorkshire Three Peaks in 10 hours” Yorkshire Evening Post, 26 May 2019,