教育を考える/体験 2019.12.19

子どもから家族にプレゼント? 思いやりの心と読み書きスキルを伸ばす、イギリスのクリスマス

吉野亜矢子
子どもから家族にプレゼント? 思いやりの心と読み書きスキルを伸ばす、イギリスのクリスマス

12月も半ばを過ぎると、日本でもクリスマスが気になり始めるのではないでしょうか。小さな子どもがいる家庭にとっては、大きなイベントですね。

忙しい師走。年末のあれこれに加えて、年越しの準備に、もうひとつ加わるビッグイベントです。親はちょっと大変ですが、子どもの喜ぶ顔を見るために、えい!と頑張りたくなるものです。

今日は、日本とは違うイギリスのクリスマスの風習にふれてみましょう。イギリスのクリスマスは、日本で感じるよりもずっと長く続く、大きなお祭りです。10月31日のハロウィンが終わると、すぐにクリスマスの支度が街に並び始めます。そして、クリスマスツリーは、1月の6日まで飾っておきます。

サンタさんがやってきて家族でご馳走を食べるのは日本と同じですが、日本よりずっと大きなイベントなので、ちょっとびっくりするような違いがあるかもしれません。

思いやりの心と読み書きスキルを伸ばす、イギリスのクリスマス2

子どもから家族にクリスマスプレゼント? 思いやりの心を育む

イギリスではクリスマスに、子どもから家族へプレゼントをあげることがよくあります。子どもが用意するのは、自分で描いた絵や自分で作った工作の品のような、ささやかなものですが、クリスマス前のそわそわした時期に「自分が欲しいもの」だけを考えるのではなく、ほかの人にあげるものを考えるのは良い風習だと思います。

上の子どもが8歳ぐらいの頃、秋口にガーデンセンターに並ぶヒヤシンスの球根を見て「買ってくれる?」とねだられたことがありました。何週間もかかりますが、寒くて暗い場所に入れて調整すればクリスマス頃に花が咲くように栽培できるというのをどこかで聞いてきて、やってみたいと思ったようです。

たしかに冬になると、ヒヤシンスはきれいに飾られて店頭に並びます。店先に並ぶヒヤシンスの鉢植えは、ひとつ8ポンド(約1,100円)前後でしょうか。クリスマスから新年にかけて、室内で咲く数少ない花です。高級な鉢植えと比べて、そのお店で売っていた球根は10個で3ポンド前後(約400円)。子どものお小遣いでも十分に買える金額です。

さっそく購入して、一緒に育て方を調べました。栽培容器を買うお金は彼にはなかったので、トマトソースの空き缶を綺麗に洗って使うことにしました。しばらく冷蔵庫に入れておいたあと、家のあちらこちらを歩き回って寒くて暗い場所を探し、最後に戸外の自転車小屋の隅に決めました。週に一度、芽が出ているかどうか学校に行く前に確認し、芽が出てきたら、暖かい室内の窓辺で光に当てます。

ちょうどつぼみが出てきたくらいの頃が、クリスマスイブでした。空き缶には粗い麻の布をくるっと巻き、細い赤いリボンをかけました。クリスマスの日には、それは祖父母や叔母、父親への彼からのプレゼントになったのです。

思いやりの心と読み書きスキルを伸ばす、イギリスのクリスマス3

その年は思いがけない長丁場になりましたが、毎年、クリスマス前に我が家の子どもたちはいそいそと準備をします。自分たちだけで準備はできませんから、親の私も手伝うことになります。

頼まれて一緒にクッキーを焼いたり、チャリティショップで古本や古いおもちゃを探すのにつきあったり。「これが30ペンスで、これが1ポンド99ペンスで……」と暗算するのも真剣です。植物の成長を観察したり、料理に挑戦したり、買い物に出かけて金額を計算したり

親にとってはちょっと大変ですが、子どもにとってはとてもワクワクする出来事です。他人を思いやる心が育まれ、さまざまな学びの機会も得られるイベントだと言えるでしょう。

思いやりの心と読み書きスキルを伸ばす、イギリスのクリスマス4

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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カード、リスト、感謝状。クリスマスは読み書きを練習する良い機会

誕生日も同様ですが、クリスマスもまた、字を覚え始めた子どもたちにとって、たくさん文章を読んだり書いたりするためのまたとない機会です。

12月に入ると、小学校では小さなクリスマスカードのやり取りが始まります。元旦まで目にすることのない日本の年賀状と違い、イギリスのクリスマスカードは12月に入ったら届き始めてもおかしくないものです。クリスマスに向けて、あちらこちらから届いたカードが何日も、部屋を飾るのです。

また、イギリスでは多くの家庭で、家族とサンタクロース(ファーザー・クリスマスと呼ばれます)の両方からクリスマスプレゼントがもらえます。そして豪華なプレゼントは、サンタクロースではなく、家族からもらえることが多いのです。

サンタさんが持ってくるプレゼントは、英語でストッキングフィラー(stocking filler)と言います。クリスマスの靴下、つまりストッキングに入っている小さなプレゼントのことです。

サンタさんがコンピュータゲームを持ってくるようなことは、イギリスではあまりありません。そういったものはお父さんやお母さんからのプレゼントでやってきます。それでは、サンタさんはいったい何を持ってくるのでしょう。

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サンタさんが靴下の中に入れるのは、コインやみかん、チョコレートに小さな塗り絵、迷路、ジョークの本だったりします。それこそ靴下に入ってもおかしくないような小さなおもちゃ──たとえば、ビー玉や紙飛行機のキットが入っていることもあります。

小さな子どもだと、いい匂いの消しゴムや鉛筆も定番です。年齢が上がると、女の子だったらリップクリームや素敵な匂いのシャンプー、男の子だと初めての髭剃りのセットが入っていた、なんていうこともあります。

入っているのは、必ずしもお店で売っているようなものとは限りません。お菓子やサンドイッチが入っている場合もあります。

クリスマスの朝、大興奮で早く起きてしまった小さな子どもたちは、サンタさんにもらったサンドイッチやみかんを食べながら、お父さんやお母さんが起きてきてクリスマスの忙しい1日が始まるまで、ストッキングの中のおもちゃで遊ぶのです。

流行のおもちゃは両親や祖父母・叔父叔母からもらうこともあり、イギリスの子どもたちは、サンタクロースを信じている時期が日本の子どもよりずっと長いように思います。そして、お金は余計にかかりますが、この2段がさね、じつは思いがけない効果もあります。

思いやりの心と読み書きスキルを伸ばす、イギリスのクリスマス6

そもそも高価な市販のおもちゃはサンタクロースが持ってくるものではないので、クリスマスに本当にほしかったら、お父さんとお母さんときちんと話をする必要があります。「サンタさんに頼んだのに持ってきてくれなかった!」とがっかりすることはありません。

そのため、お父さんやお母さんがいつでも見られるように、クリスマスの前には欲しい物のリストを作るのも、子どもたちの大事な準備のひとつです。もちろん、サンタさんからプレゼントをもらえることに変わりはありません。日本のように、サンタさんに手紙を書く子どももいます。

クリスマスが終わったあとにも、大切な仕事があります。プレゼントをくれた人たちにお礼のカードを書くことです。小さなワクワクはサンタさんが持ってきますが、大興奮するようなプレゼントは家族や親戚からやってくるのです。

両親からのプレゼントには必要ありませんが、おじさんやおばさん、祖父母から来たものにはちゃんとお礼をしなくてはいけません。一生懸命 “Thank you” と書くことになります。

心を込めて家族にプレゼントを用意したり、欲しい物リストを作ったり、サンタさんに手紙を書いたり、親戚に感謝状を書いたり。子どもたちが何日も楽しみに待つクリスマスは、さまざまなアクティビティの宝庫なのです。