「うちの子、運動が苦手かも……」「子どもの運動神経が悪いのは親の遺伝?」と不安に思うことはありませんか? じつは運動神経は適切な関わりで大きく伸ばせるのです! 現代の子どもたちは遊びのスタイルや生活習慣の変化で体を動かす機会が激減していますが、家庭での工夫次第で運動能力は必ず向上します。
本記事では、運動が苦手な子を専門に指導する運動教室を主宰する西薗一也氏と、運動能力研究の第一人者である東京学芸大学教育学部教授の高橋宏文氏を中心に、専門家の視点から、いますぐ実践できる「5つの家庭習慣」を徹底解説。
成功体験の積み重ね方から効果的な声かけまで、専門家だけが知る秘訣をご紹介します。お子さんの隠れた運動能力を開花させるヒントが満載です!
目次
子どもたちの運動能力が低下した要因
オリンピックなど世界の舞台で活躍する若い日本人選手が増えてきている一方、近年子どもたちの運動能力が低下していることについて、多くの専門家が指摘しています。東京学芸大学教育学部教授の高橋宏文氏もそのひとり。高橋氏は、第一の要因として「環境の変化」を挙げています。
環境の変化については、「空間」「時間」「仲間」の「3間(さんま)がない」と表現され、具体的には以下のような意味合いで使われています。
- 「空間」ーー日常的な遊びのなかで体を動かせる場所が減っている
- 「時間」ーー習い事などで遊ぶ時間が激減している
- 「仲間」ーー友だちもみんな忙しいため、一緒に遊ぶ仲間がいない
これら3つの「間」に加えて、遊びの内容が変化していることも、運動能力を低下させる要因となっています。たとえば、子どもたちが公園に集まっていても、それぞれ持ち寄ったポータブルのゲーム機で遊んでいる姿を目にすることも多いのではないでしょうか。
これは、体を動かすよりもゲームの方が楽しいと感じていることも一因ですが、公園内での禁止事項が増えすぎたため、自由に遊べる環境ではなくなってしまったことも大きな要因となっています。
このように、環境の変化によって遊ぶ空間も時間も仲間もどんどん減少していくなかで、子どもたちはどうやって運動能力を伸ばしていけばいいのでしょうか? 次項では各専門家のアドバイスをもとに、家庭でできる「子どもの運動能力を伸ばすコツ」について解説していきます。
家庭習慣1:「運動神経がいい子」には成功体験がある
そもそも「運動神経」という神経は存在しません。「『運動神経がいい、鈍い』の違いは、結局『運動が好きかどうか』である」と持論を展開するのは、運動が苦手な子を対象にした運動教室・スポーツひろば代表の西薗一也氏です。
西薗氏によると、運動自体が好きな子どもは、ほかの子たちと比較して「いつでも全力を出す」姿が見られるのだと言います。
なぜ全力を出せるのかというと、たとえば足が速い子は「一番になって気持ちがよかった」という成功体験をまた味わいたいから全力で走る、というシンプルな動機があるから。一方で、運動による成功体験がない子は、「自分なんてこんなものだろう」とどこかで力を抜きがちに。
こういった意識の差は、結果的にトレーニングの負荷の違いとなって、運動能力の差をさらに広げることにもつながっていくのです。
西薗氏は「運動が苦手だと思いこんでいるような子こそ、運動を通じて自分自身が変わるという体験をしてほしい」と力説します。その成功体験は、他者との比較で得られるものよりも、「先週できなかった逆上がりができた!」「昨日よりも5回多く跳べた」など、過去の自分と比べて成長できた点に着目することで自信につながります。
昔とは違い、現代は遊びを通じて日常的に運動することは困難です。だからこそ、親のリードやサポートは、子どもの運動能力を育むのに重要な役割を果たします。親子のコミュニケーションの一環としても、一緒に体を動かす遊びを取り入れてみませんか?
【運動能力の伸ばし方】
- 運動で得られる「成功体験」を大事にする
- 運動を通じて「自分が変わる」という体験ができるようにサポートする
- 親子で一緒に体を動かす遊びをする
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運動神経は成功体験で伸びる! 運動が「得意な子」と「苦手な子」の違い
家庭習慣2:自然体験で子どもの「身体能力」を伸ばしている
NPO法人国際自然大学校理事長の佐藤初雄氏もまた、「最近の子どもたちはかつてと比べ体格はよくなっている反面、敏捷性やバランス感覚などは徐々に低下している」点を指摘しています。そして、自然のなかで自由に遊ぶ機会が多かった昔の子どもたちは、木登りなどの遊びのなかで身体能力を伸ばしていったのだと言います。
本来なら日常的に自然遊びをするのが理想ですが、都市部では難しい面もあるでしょう。そこでおすすめなのが、長期休暇などに自然体験プログラムに参加すること。
体力強化のための苦しいトレーニングは、大人でも辛いものです。ましてや子どもであれば、運動に対する苦手意識を植え付けることになりかねません。一方で自然のなかでの遊びという形なら、楽しみながら体を鍛えることができます。たとえば平均台をただ渡るよりも、川にかけた丸太を渡る方が緊張感があり、ゲーム感覚でクリアする面白さも味わえるでしょう。
また自然体験は、身体能力を伸ばすだけでなく「心」にもよい影響を及ぼします。過酷な体験をやり切った経験は、その後の人生で出会う困難に立ち向かえる自信と勇気につながります。
さらに、仲間たちと助け合いながら行なうプログラムなら、困っている仲間に声をかけて助けてあげたり、逆に自分が困ったときに素直に助けを求めたりと、コミュニケーション能力も育まれるでしょう。
お子さんの年齢にもよりますが、親子一緒に参加できるプログラムがあれば、親御さんも自然体験に挑戦することをおすすめします。きっとよい思い出づくりと学びの体験になりますよ。
【運動能力の伸ばし方】
- 週末や長期休暇に自然体験プログラムに参加する
- 仲間たちと助け合いながら遊べるプログラムに参加させる
- 親子で一緒に自然体験をする!
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家庭習慣3:運動能力が伸びる子は、日常に「動き」がある
「普段から元気に走り回っている子は、チャレンジ精神旺盛なタイプが多い」と高橋氏が指摘するように、活発な子は何事にも意欲的に取り組んでいる印象があります。これは、運動で脳が活性化したことにより、物事に対する考え方や受け止め方が前向きになる傾向があることも一因となっています。
ほかにも、ストレス軽減や感情の起伏をコントロールできる自制心が育まれるなど、日常的に運動することはメリットだらけ。そう考えると、わが子にはぜひ、スポーツが得意な子に育ってほしいですよね。
そのために大事にしたいのは、起き上がる、座る、寝転ぶなど、日常生活のなかで無意識におこなっている運動=「基本的な動き」です。なかでも重要なのが、「走る」「飛ぶ」「投げる」「回る」「ぶら下がる(握る)」の5つの動き。これら5つに加えて、小さい子どもの運動には「四つんばい」や「高ばい」の動きも重要であると言われています。
「基本的な動き」の積み重ねが、子どもの運動能力を高めるベースになっていることは明らかなので、日常的に体を動かす機会を増やせるようにサポートしてあげましょう。高橋氏によると、「鉄棒やうんていなど、ぶら下がる動きを小さいときからやっていると運動能力アップにつながる」のだそう。
ぶら下がりの運動を中心に、「基本的な動き」をバランスよく鍛えられるアスレチックなどを休日のお出かけ候補に入れてみてもいいですね。
【運動能力の伸ばし方】
- 「基本的な動き」を意識しながら日常の動作を行なう
- 鉄棒やうんていなど、ぶら下がる動きを中心に小さな運動を日常的に積み重ねる
- 休日にアスレチックに連れて行くなど、「基本的な動き」が鍛えられる運動をする
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家庭習慣4:運動能力の高い子は「内観力」をもっている
「『運動神経がいい・運動センスかある』とは、状況に応じて力や体の動きを調整し、タイミングよく体を動かせること」と高橋氏が述べるように、運動センスがある人は、自分の体を意のままに動かすことが上手です。
そのような運動センスを磨くのに効果的な方法として注目されているのが「コーディネーション・トレーニング」です。スポーツをするうえで最も必要な「自分が思うように体を動かせるようになること」を目的としているトレーニングで、自身の感覚をとらえる力や、とらえた感覚を利用する力を鍛えることができるのだそう。
この力は「内観力」といい、運動が得意な人は内観力が優れていると言われています。たとえば、体育の授業で先生のお手本を見ただけで、「あんな感じか」と感覚をつかんですぐにできてしまうなど、他人の動きを見て、イメージと実際の感覚の違いを感じながらできるようになるのは、内観力が影響しています。
内観力を伸ばす方法として、目隠しをした状態でのボールの的当てがおすすめです。具体的な手順は、高橋氏のインタビュー記事をご参照ください。
また内観力を伸ばすには、自分の体と対話することも大事。自分の体の状態を感じる力など、さまざまな感覚を向上させることで内観力が磨かれて、運動能力アップにもつながるでしょう。
【運動能力の伸ばし方】
- 運動をする際に先にお手本を見せて、自分の体の動きをイメージさせてから実際に動かすという練習をする
- 内観力を磨くには「目隠しをしてボールの的当て」がおすすめ
- 普段から自分の体の状態を把握し、さまざまな感覚を研ぎ澄ませるようにする
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家庭習慣5:運動能力が育つ「親の声かけ」をしている
西薗氏は「『うちの子は運動が苦手で……』と相談してくる親は、自分自身も運動を苦手としているケースが多い」としたうえで、「親も子どもと一緒に運動する」ことを提案しています。
本来ならほめて伸ばすのが効果的ですが、運動が苦手な親は子どものどこをほめていいのかわからないので、適切な声かけができないのだそう。親子そろって運動が苦手なら、いっそのこと「できない」ことを共有し、共感してあげるのもひとつの手です。
運動が苦手な子どもは、「失敗したくない」という気持ちが強い傾向があります。ですが、親もできないということがわかれば、「失敗してもいいんだ」と安心感を得られ、何度練習を繰り返してもいいと思えるように。親子そろって運動が苦手なら、ぜひ一緒に楽しみながら学んでいきましょう。
また、親の声かけひとつで子どもの運動能力はぐんと伸びます。コツは、子どもにもわかりやすい言葉を使うこと。「頑張って速く走ろうね!」といった抽象的なアドバイスでは伝わりにくいので、電車好きのお子さんなら「次は特急電車のスピードで走ってみよう!」などが効果的です。
また、長時間の練習は集中力も体力も続かないので、短期集中で全力を出させるのもポイント。練習中はできないことを責めるのではなく、できたことを見つけてほめてあげるのが上達のコツです。
【運動能力の伸ばし方】
- 親も運動が苦手なら、親子で一緒に運動しよう
- 親子で「できない」ことを共有・共感することで、失敗への恐れをなくす
- 声かけのコツは「具体的に」「できないことを責めない」「できたことをほめる」
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どんな運動も“細かく分解”できる。子どもの運動能力を高めるために親ができること
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お子さんの運動能力は、特別なレッスンを受けなくても家庭でも伸ばすことが可能です。本記事で解説したように、日常生活の動きや声かけを少し工夫するだけで、子どもの運動能力の土台は積み上げられていきます。ぜひ親子で一緒に、楽しみながら体を動かす習慣づくりをしてくださいね。
文/野口燈
(参考)
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|脳が活性化し、チャレンジ精神が旺盛になり、自制心が育つ!? 運動がもたらすスゴイ効果
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|運動神経は成功体験で伸びる! 運動が「得意な子」と「苦手な子」の違い
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