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「いちばん下だからしょうがないか」と、親や上のきょうだいからも甘やかされて育つことが多い「末っ子」。甘えん坊であることはたしかに末っ子の特徴でもありますが、その裏には負けん気の強さや思い切りの良さも秘めています。「きょうだい型人間学」を専門とする国際基督教大学の磯崎三喜年先生によれば、「いい面を引き出してあげれば、大化けする可能性を持っている」のが末っ子だそう。では、その「いい面」を引き出す方法を教えてもらいましょう。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
「思い切りの良さ」こそ末っ子の最大の特徴
「一番っ子」が生まれたときには「理想の子育てをするぞ!」と張り切っていた親も、子どもが増えるにつれて、そんな前のめりの姿勢はどんどん緩んできます。間っ子に対してはまだしも、末っ子に対してとなると、「末っ子くらいはいいか」というふうに甘やかすことが多いのです。
すると、自由奔放に育つなかで、末っ子は思い切りの良さを身につけていきます。その思い切りの良さこそが、末っ子の最大の特徴です。社会的価値観を受け入れる一番っ子や、周囲とバランスを取ることを意識する間っ子からすれば、「危なっかしい」と思うようなことにも果敢に挑んでいくというわけです。
しかも、そのチャレンジ精神には、何度失敗しても再び立ち上がってチャレンジするというへこたれない強さもあります。というのも、生まれたときから上のきょうだいがいる末っ子の場合、スポーツにしても勉強にしても負けることがあたりまえだからです。そのなかで、「なにくそ!」という負けん気の強さが磨かれていきます。
そんな負けん気の強さを持っている一方で、人からなにかを教わることに対しても抵抗を示しません。一番っ子の場合、つねに自分が優位に立って育ちますから、人になにかを教わることに抵抗を感じることもあるのですが、末っ子は上のきょうだいに教えてもらうことがあたりまえだからです。
これは、社会人になったあとのことを考えても、末っ子の大きな武器といえます。はじめての仕事に臨むとき、なにかわからないことが出てきたとき、素直に周囲に助けを求められる。これも、社会人として大切なスキルのひとつであるはずです。
トップアスリートとお笑いタレントに多い末っ子
それから、要領の良さも末っ子の特徴です。末っ子は上のきょうだいの振る舞いを見て育ちますから、たとえば親に叱られるきょうだいを見て「ああいうことをやっちゃ駄目なんだな」と思う。上のきょうだいが受験に失敗したようなことがあれば、「あの程度の勉強じゃ受験に受からないんだな」と学習するのです。
その思い切りと要領の良さによって、末っ子のなかには世間的に大物といわれる人物になる、大化けするというようなことが見られます。そのことは、トップアスリートに末っ子が多いことに如実に表れています。たとえば、プロ野球の通算本塁打記録トップテンに名を連ねている選手はほとんどが末っ子です。「世界の王」こと王貞治さんのほか、野村克也さん、門田博光さん、山本浩二さん、落合博満さん、張本勲さん、金本知憲さんらはみんな末っ子。例外は衣笠祥雄さんなどごくわずかです。驚くべき割合ですよね。
野球だけではなくサッカーでも同様です。有名な三浦兄弟でも、世界的な実績を残したのは末っ子である三浦知良さんですし、長く日本代表を牽引した稲本潤一さんや遠藤保仁さん、本田圭佑さん、長谷部誠さんも末っ子です。ほかにも、ゴルフの宮里藍さんやテニスの錦織圭さん、バドミントンの奥原希望さんなど、末っ子のトップアスリートには枚挙にいとまがありません。
また、小さい頃はなにをしても上のきょうだいにかなわない末っ子の場合、親や周囲の注目を集めたいという気持ちが、サービス精神や「おちゃらけ」という側面に出てくることもあります。スポーツや勉強では上のきょうだいにかなわないからこそ、なにか面白いことをいったりやったりして注目を集めようとするのです。そして、そのメンタリティーがそのまま育ち、お笑いタレントを志すということもあります。
末っ子の有名なお笑いタレントとしてはビートたけしさんやタモリさんが挙げられます。それこそ、大化けした例ですよね。そんな大物ではなくとも、関東でも関西でも、お笑い芸人には圧倒的に末っ子が多いのです。
思い切りの良さが悪い方向に出ることだけに要注意
ただ、末っ子の思い切りの良さは、ともすれば向こう見ずになるというリスクをはらんだものでもあります。思い切りの良さがいい方向に出ればいいのですが……一番っ子や間っ子なら避けるようなギャンブルの大勝負に出て、自ら破滅の道に向かうということも考えられるのです。
親としては、末っ子に対して注意すべきところはその点だけではないでしょうか。大きなケガをしそうといった本当に危ないことをやろうとしているだとか、社会的に問題がある行動をしようとしているときだけしっかり親が止めるのです。
負けん気と根性があって、型破りな大物になる可能性を大いに秘めているのですから、「あれは駄目」「これも駄目」というふうに変に抑え込もうとするのではなく、多少ハチャメチャなところがあってもそれを許容して、末っ子ならではの自由な振る舞いを楽しんであげてください。おちゃらけた憎めない末っ子が将来的に大人物になったとしたら……。そう考えるだけでもワクワクしてきますよね。
『きょうだい型人間学: 性格と相性を見ぬく』
磯崎三喜年 著/河出書房新社(2014)
■ 国際基督教大学教養学部名誉教授・磯崎三喜年先生 インタビュー一覧
第1回:きょうだいの有無や生まれ順、子どもの性格形成にどこまで影響する?
第2回:高学歴を得やすい「一番っ子」。でも大きな期待をかけすぎないで――
第3回:優れたバランス感覚や穏やかさを持っている「間っ子」は手がかからない!?
第4回:何度失敗しても再び立ち上がる「末っ子」。大化けする可能性あり!
第5回:末は研究者か芸術家!? きょうだいがいないことで自信を持つ「ひとりっ子」
【プロフィール】
磯崎三喜年(いそざき・みきとし)
1954年2月1日生まれ、茨城県出身。国際基督教大学教養学部社会心理学名誉教授・博士(心理学)。茨城大学卒業後、広島大学大学院で社会心理学を専攻。広島大学助手、愛知教育大学助教授を経て2001年より現職。社会的状況における人間心理、友情ときょうだい関係など、対人関係に潜む心理機制をさまざまな角度から追求・発表している。主な著書に『現代心理学 人間性と行動の科学』、『マインド・スペース 加速する心理学』、『マインド・ファイル 現代心理学はどこまで心の世界に踏み込めたか』(いずれもナカニシヤ出版)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。