教育を考える 2020.1.17

「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは

「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは

(この記事はアフィリエイトを含みます)

「子ども部屋」とはどんな場所でしょうか? 子どもが寝たり、好きな遊びに没頭したり、それから勉強をする場所――。すぐに思い浮かぶのはそんなところかもしれません。しかし、2010年に上梓した著書『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)が高く評価された一級建築士の八納啓創さんは、「子ども部屋には、もっと大きな役割がある」といいます。子どもにとって、子ども部屋にはどんな存在意義があるのかを教えてもらいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)

アメリカの子ども部屋は、自立を促す訓練をする場所

いまでこそ日本の家にもあたりまえのように子ども部屋がありますが、そうなったのは1950年代以降のことです。敗戦後、アメリカのライフスタイルに憧れた日本に、当時最新のアメリカの間取りが入ってきました。それは、リビングとダイニングとキッチンがあって、個室が並んでいるもの。その個室を、アメリカではベッドルームと呼びます。つまり、アメリカでの子ども部屋は、勉強をする部屋などではなく本来的に寝室なのです。

みなさんも、アメリカの映画やドラマのなかで、まだ生まれたばかりの赤ん坊が寝室にひとりで寝かされている描写を見たことがあるでしょう。それは「ピューリタン思想」の影響です。その誕生の地であるヨーロッパでは、ピューリタン思想は迫害されました。そのため、ピューリタン思想を持つ人々がアメリカに渡ったという歴史があります。

ピューリタン思想とはどういうものかというと、「人間は生まれながらにしてひとりの個人として尊重されるべき」という思想です。そのため、アメリカでは生まれたばかりの子どもにもひとつの部屋を与えるわけです。

そして、その個室はただの寝室ではありません。子どもの自立を促すための訓練をする場所なのです。たとえば、その空間を自分で片づけたり掃除をしたりする整理整頓能力や、どこにどの家具を置いてカーテンはどんな色にするかといったインテリア構築能力を鍛える。また、リビングやダイニングで家族と過ごしたあとで個室に戻ると、ひとりでいることの寂しさを体感する。そのようにして、子どもの自立を促すことが、アメリカにおける個室が持つ本質なのです。

子どもの個室が持つ本質的な役割とは2

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日本で偶然生まれた「子ども部屋で勉強する」習慣

ところが、日本にはそういった思想は抜け落ちて個室がある間取りだけが入ってきた。そのため、個室をどう使えばいいのかわからず、当初は夫婦の寝室として使われていただけでした。そのうち、高度経済成長時代になると、「子どもをいい大学に行かせよう」という高学歴至上主義のムーブメントが起きました。

親は子どもにしっかり勉強をさせたい。でも、仕事を終えて帰ってきたお父さんはビールを飲みながらテレビでプロ野球中継を観たい。そんな場所で子どもに勉強をさせるのは忍びないということで、自分たちの寝室を子どもに与えて勉強をさせた。さらに、1950年代後半に日本で学習机が生まれたことも相まって、日本では子どもは子ども部屋で勉強するという習慣が根づいたわけです。

そう考えると、ここ数十年で偶然できあがったような歴史の浅い習慣を疑問視してみることも大切です。リビングやダイニングで勉強することが子どもにさまざまな力を与えてくれることはすでにお話したとおりです(インタビュー第2回参照)。だとしたら、子ども部屋は、やはりアメリカ式の自立を促すための訓練をする場所と認識を改めるのがいいのではないでしょうか。

でも、とくに都市部に住んでいて子どもの数が多いという場合には、子どもそれぞれに個室を与えることができないということもあるでしょう。あるいは、子どもが高校生くらいになってふたり部屋や4人部屋の寮制の学校に行かせるといった場合もあります。そういう部屋では自立を促す訓練ができないのかというと、そうではありません。

複数人で部屋を共有する寮がそうであるように、同じ部屋であっても自分のエリアを持つことができればいいのです。きょうだいのあいだでも、「ここはあなたの場所だよ」と決めてあげて、そのエリアを自分でコントロールできるようにするのです。

子どもの個室が持つ本質的な役割とは3

個室を通じて、自由と責任をセットで教える

もちろん、与えっぱなしではいけません。先に述べたように、個室や自分のエリアは、整理整頓能力とインテリア構築能力といった力を身につけさせるための場所です。でも、とにかくものを出したら出しっぱなし、すぐに散らかしてしまう子どももいるでしょう。そのとき、親が片づけてしまっては、それらの力を構築するチャンスを奪うことになってしまいます。

加えて重要なのは、自由になる空間を手に入れることは、責任が発生することでもあるということ。それを子どもにも認識させてほしいのです。たとえば、親子で話し合ったうえで、「自分の部屋を散らかして3回叱られたら、個室は没収」というふうに子ども本人にルールを決めさせる。自由と責任をセットで与えるわけです。

自由とは、なんでも好き勝手にしていいということではありません。なぜなら、自由には必ず責任が伴うからです。その、社会に出たときにとても大切なルールを、子どもの頃から個室の扱い方を通じて学ばせることが大切です。

子どもの個室が持つ本質的な役割とは4

なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?
八納啓創 著/KADOKAWA(2015)
なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?

■ 一級建築士・八納啓創さん インタビュー記事一覧
第1回:子どもの人格形成への影響力大! リビングとダイニングが極めて重要な場であるわけ
第2回:一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?
第3回:「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは
第4回:子どもが賢く育つ家はどうつくる? 一級建築士がアドバイスする家とインテリアの使い方

【プロフィール】
八納啓創(やのう・けいぞう)
1970年6月15日生まれ、兵庫県出身。一級建築士。株式会社G proportionアーキテクツ代表取締役。「孫の代に誇れる建築環境をつくり続ける」を100年ビジョンに、一般建築ではデザイン性と省エネ性能、快適性を追究。住宅設計では、「笑顔があふれる住環境の提供」をコンセプトに、年齢層は20代から80代、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。また、現在では、これまで携わってきた公共・商業建築設計の経験と住環境ノウハウを生かして、商業建築プロジェクトや建物環境再生による商業施設の活性化プロジェクト等にもかかわっている。著書に『「住んでいる部屋」で運命は決まる! 心も空間も、スッキリさせる方法』(三笠書房)、『住む人が幸せになる家のつくり方』(サンマーク出版)、『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。