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みなさんは自分が住んでいる「家」が好きでしょうか。とくに社宅に住んでいるなど「いまの家は仮住まい」というふうに考えている人なら、「好きかどうか、考えたこともない」という人もいるかもしれません。でも、2010年に上梓した著書『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)が高く評価された一級建築士の八納啓創さんは、「親が家のことを好きかどうかが、子どもの社会性の成長を大きく左右する」と語ります。いったいどういうことなのでしょうか。家が子どもに与える大きな影響について教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)
社会とのかかわり方を学ぶリビングとダイニング
人類の歴史を考えたとき、「家」というものは本来的にどういう場所だったかというと、「命を守る」場所です。人類は家を持ってはじめて外敵から身を守ったり健康を維持したりすることができるようになりました。そのため、家という環境が整って以降、人類の寿命は飛躍的に伸びたのです。
そして、家に住むことがあたりまえになったいまでは、家は別の働きを持つようにもなりました。その働きとは、「習慣をかたちづくる」ということ。たとえば、「テレビを観る」という行為も、ひとつの要因から生まれるものではありません。ひとつは、「テレビがついていないと寂しい」などと思って能動的にテレビを観るケース。もうひとつは、空間のつくりとしてテレビとリモコンがすぐそばにあるために無意識にテレビのスイッチを入れるケースです。前者は人の意図による行為であり、後者は空間が人に働きかけた結果の行為です。それらが総合的に作用して、その家に住む人間の習慣がつくられていきます。
そう考えると、家が子どもの人格形成に与える影響も非常に大きい。なかでも、リビングとダイニングの使い方による影響はとくに大きいと考えています。家族とは、社会の最小単位です。その家族とのかかわり方は、将来、社会に出たときに出会う上司や先輩、後輩などとのかかわり方の相似形といえます。子どもにとって、社会とのかかわり方の習慣をかたちづくる場が、リビングでありダイニングなのです。
社会に出た子どもがストレスフリーで過ごせるために
リビングで普段から会話が多い家庭で育った子どもは、自然にコミュニケーション能力を伸ばしていきます。そういう子は、大人になったときにも周囲といい人間関係を築けますし、ディベートやプレゼンテーションなどでも力を発揮していけるでしょう。リビングは、社会のなかでの他者との関係の築き方を育む重要な場なのです。
また、ダイニングも同様に重要です。大人になれば、周囲の人と一緒に食事やお茶をするということが頻繁にあります。食事というものは、互いの心をオープンにして、より親密な関係を築いていくための重要なツールです。その方法を、子どもはダイニングでの家族との食事を通じて学んでいくのです。
そうして、リビングとダイニングでしっかりとコミュニケーション能力や社会性を育んだ子どもなら、社会に出たあともストレスフリーで過ごしていくことができる。逆に、リビングとダイニングでの家族のコミュニケーションがあまりにも不足している場合、子どもは社会との接し方がわからないまま育ってしまうおそれがあります。実際、そうした家庭で育った子どもが、20代になったいまニートになっている例を耳にしたことがあります。リビングとダイニングは、それだけ重要な場所なのです。
いま、中年になった子どもの面倒を高齢の親が見る「8050問題」が取りざたされますが、そのひとつの要因として、リビングやダイニングでの家族との交流を通じて大人として必要な能力を得られないまま子どもが育ったということも挙げられるでしょう。
まずは家を親がリラックスできる場所にする
とはいえ、ただ子どもをリビングやダイニングで過ごさせればいいというわけではありません。なにより、家がリラックスできる空間であることが大前提になります。そうでなければ、家族と楽しく会話を交わし、大人になったときに必要とされる社会性を伸ばしていけるわけもありません。
では、どんな家がリラックスできるのでしょうか? それについては、決まった答えはありません。あえていうなら、「家庭それぞれ」ということになるでしょう。そもそも、みなさんは自分の家が好きでしょうか? この問いに対して、「好きではない」、あるいは「好きかどうか、考えたことがない」という人が本当に多いのです。そんな場所ではリラックスできるはずもありませんよね。
では、大好きなお父さんやお母さんがリラックスできない場所で子どもはリラックスできるでしょうか? 親がリラックスしてはじめて子どもも心からリラックスできるのですから、みなさんが自分の家を好きになれるように努力してみてください。
まず、家のなかに好きな場所をつくっていくことを考えましょう。「キッチンのこの一角はわたしの聖域だ」と決めてもいいし、玄関でもお風呂でもどこでもいい。とにかく家のなかで好きな場所をつくりましょう。そうすれば、その親の背中を見て子どもも家のことを好きになっていく。その先にリラックスがあり、ひいてはリビングやダイニングでの過ごし方を通じて、子どもは大人になったときに重要となる社会性を獲得していくのです。
『なぜ一流の人は自分の部屋にこだわるのか?』
八納啓創 著/KADOKAWA(2015)
■ 一級建築士・八納啓創さん インタビュー記事一覧
第1回:子どもの人格形成への影響力大! リビングとダイニングが極めて重要な場であるわけ
第2回:一級建築士が語るリビング学習のメリット。「子ども部屋で勉強」ではなぜいけないの?
第3回:「日本の子ども部屋」に欠けている大事な思想。子どもの個室が持つ本質的な役割とは
第4回:子どもが賢く育つ家はどうつくる? 一級建築士がアドバイスする家とインテリアの使い方
【プロフィール】
八納啓創(やのう・けいぞう)
1970年6月15日生まれ、兵庫県出身。一級建築士。株式会社G proportionアーキテクツ代表取締役。「孫の代に誇れる建築環境をつくり続ける」を100年ビジョンに、一般建築ではデザイン性と省エネ性能、快適性を追究。住宅設計では、「笑顔があふれる住環境の提供」をコンセプトに、年齢層は20代から80代、会社員から経営者、作家など幅広い層の住宅や施設設計に携わる。また、現在では、これまで携わってきた公共・商業建築設計の経験と住環境ノウハウを生かして、商業建築プロジェクトや建物環境再生による商業施設の活性化プロジェクト等にもかかわっている。著書に『「住んでいる部屋」で運命は決まる! 心も空間も、スッキリさせる方法』(三笠書房)、『住む人が幸せになる家のつくり方』(サンマーク出版)、『わが子を天才に育てる家』(PHP研究所)がある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。